第454話 マリーさんとデート?
まだかかるんだろうか……。
オレはちょっぴりため息を吐いて窓の外を眺めた。ちゃんと予約の時間に間に合うよね?
先日カロルス様と出かけた人気のスイーツ店、今日ならマリーさんの都合がつくらしい。昼過ぎの予約時間になっているけれど、もうすぐお日様がてっぺんになってしまいそう。
女性の支度は時間がかかるって言うからね、着る物だって多いしお化粧や髪を整えたり、それはもう大変だろう。それは仕方ない。そう、それは仕方ないんだ。
「……だけど、オレの支度に時間かかるのはどうしてなの……?」
そりゃあ、高級店だもの、冒険者の服で行くわけにはいかない。マリーさんに恥をかかせるような格好もダメだと分かる。だけど、めかし込む必要はないと思うんだ! そりゃあ、デートみたいだなって思ったけど、それにしたってやりすぎは逆に失礼にならないだろうか……。
「ねえ、もうそろそろいいんじゃないかな?」
「いえいえ、やっぱりこっちの方が……ああ、でもこちらも捨てがたいわ」
「あら、それならアクセはこっちの方が良さそうじゃない?」
ひとつ変えればあっちもこっちも変更になってしまい、これは延々と続くんじゃないだろうかと思えてきた。
「ユータ、そろそろ出発した方がいいんじゃない?」
セデス兄さんがひょいと顔を覗かせて苦笑した。
「まるでこの部屋で、街中の子どもが着替えでもしたみたいだよ」
見回せば、いろんな衣装や装飾品が一面に広がっている。
「あらまあ、つい夢中に……すみません」
ちょっぴり頬を染めたメイドさんたちは、ようやくオレの飾り付けを終了してくれたようだ。
「セデス兄さん、ありがとう!」
「どういたしまして! ――うん、いいね。よく似合っていて素敵だと思うよ!」
少し身を退いてオレを眺め、セデス兄さんはにっこりとオーケーサインを出してくれた。
別々に支度をして門の前へ集合の手はずだったので、慌てて門へと急ぐ。集合時刻にはまだ余裕があるけれど、デートはやっぱり早めに到着した方がいいよね!
――そう思ったのだけど、門の前には既に一人の女性が佇んでいた。
華奢な背中で揺れる髪がふわっと舞い上がり、その人はオレの方へと振り返った。
「ゆ、ユータ様ぁ……素敵……! 本当にかわ――格好いいです!!」
あ……いつものマリーさんだ。
だけど、黙って立っていればまるで違う人みたい! 普段きっちりとまとめられている栗色の髪は、肩下まで伸びて艶やかに整えられ、まるで甘く香るようだった。常にメイド服を着ていたので、そもそもマリーさんの普段着なんて初めてだ。柔らかな色彩と飾るための衣服は、ちらりとのぞく手首やうなじをいっそう華奢で儚く見せているようだ。
「ちょっとマリー! 泣いてはダメよ、お化粧が崩れちゃう!」
……ただ、残念なことに。そう、とても残念なことに、そのお顔は溶け崩れていた。仕上げたメイクを崩すまいと、左右のメイドさんが神速で涙を拭っている。
「マリーさん、ごめんね、待たせちゃった。えっと、すっごく素敵だよ!」
「い、いいえ! マリーは楽しみすぎて前日から待つつもりでしたから!」
どうやら他のメイドさんが全力で止めてくれたらしい。ありがとう……影の功労者たち。
スッと手のひらを差し出すと、マリーさんがさらに崩れた。
おずおずと乗せられた手に微笑むと、優雅に……短い足を一生懸命運んで馬車まで案内した。
「さ、どうぞ!」
到着するやいなや、オレはマリーさんに先を越されないよう、慌てて馬車から飛び降りて手を差し出した。
「うふふふ……素敵な紳士です! さすがユータ様です!」
ちょ、ちょっと背丈が足りなかったかな……めいっぱい腰を屈めたマリーさんに申し訳なく思う。
だけど、こういうのは堂々としてなきゃいけない。オレはきりっと顔を引き締め、お店のドアを大きく開けた。優雅な微笑みと目礼でエスコートを受けるマリーさんこそ、さすがだ。
目配せでウエイターを呼び、注文を終えたところでホッと息を吐いた。よし、次は何だっけ?
「ふふっ、ユータ様、とても紳士的でスムーズなエスコートをありがとうございます。ですが、そんなに気を使われなくてもいいのですよ? おやつは楽しく食べましょう」
「そう? じゃあちょっと楽にしてもいい?」
「もちろんです!」
ふわっと微笑んだマリーさんにつられて、オレも表情をくつろげた。
ごめんね、大人になる頃にはもっと格好良くエスコートできるようになるからね!
「――美味しかったね!」
前回とは違ったスイーツを頼んだけれど、これもまた有名店の名に恥じないものだった。マリーさんが頼んだスイーツはとにかく見た目が可愛らしくて、それに中々スプーンを入れられないマリーさんもとても可愛らしかった。
「ええ、本当に! それに、ユータ様とご一緒出来たことが何よりマリーの喜びです!」
マリーさんが心底嬉しそうに言うものだから、そうなのかな、なんてオレもくすぐったくなった。
オレたちはマリーさんの提案で、ゆったりと白の街を歩いている。メイド服と違って動きにくそうな服だから、馬車の方がいいんじゃないかと思ったけれど。
「マリーさん、大丈夫? 疲れてない?」
「うふふっ! そんなことを言ってくださるのはユータ様くらいですね! 大丈夫ですよ。マリーは今なら高ランクダンジョンだって駆け抜けられます!」
そうだった……こんな儚げな姿を見ていたらつい心配になってしまうけど、泣く子も黙るAランク冒険者なんだった。
ふわふわした笑顔できゅっと拳を握った姿は、羽虫一匹殺せないお姫様みたいなのに。
あはは、と乾いた笑みを返したとき、ついっと進行方向を遮るように男性が現れた。あんまり強くはなさそうだけど、そこそこ整った顔の人だ。
「ねえ、き――?!」
なんだろう、もしかしてマリーさんに一目惚れかな? なんてそわそわして見上げたと同時、男性が言葉を発するか発しないかの瞬間、彼は既に放物線すら描かず地面と平行に飛んでいった。
「ま、マリーさん?!」
オレは路地から響く派手な音を聞きながら、右フックの拳を解いた可憐な女性を見上げた。
砂糖菓子みたいな雰囲気から一転。柔らかな髪の隙間から、ギン! と鋭い瞳が周囲を睥睨する。途端に周囲の目つきの悪い人たちが、ビクリと跳ねて離れていった。
「……ユータ様、先制攻撃はいつだって有効なんですよ?」
砂糖菓子に戻ったマリーさんが、人差し指を唇に当ててぱちんとウインクした。愛らしい仕草に、そっかぁなんて納得しそうになって首を振る。
違うよね?! 今の場合100歩譲って後攻で十分だよね?! ちゃんとお話聞いてからにしよう?!
『まあ、今のは明らかにナンパだな! 俺様みたいに一流になると分かる! ガラの悪いのもいたから敵でいいと思う!』
『誰であってもゆうたとの時間を邪魔されるなら、敵認定が下りちゃうんじゃないかしら』
チュー助は一体何の一流なの。ほら、アゲハが意味も分からず尊敬の目で見ているから!
「ユータ様に何かあっては大変ですから」
それも違うよ? あの人の用事はきっとマリーさんだからね。うふっと微笑む淑女は、精霊の皮を被った戦神かもしれない。
ああ、館までが遠い……この先も(他の人が)無事にやり過ごせるだろうか。どうすれば被害を防げるだろう。そうだ、オレを抱っこすれば乱暴なことは……ああ、ダメだ蹴りがある。
オレは、やっぱり馬車で帰った方が良かったろうかと少しばかり後悔したのだった。
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本当は閑話の方(なろうさんのもふしら閑話Ver.)で更新しようと思ってたんですが、間違って本編で投稿してしまい…消し方が分からなかったのでもうこのまま本編にしました…ので、カクヨムさんでも本編に入れて投稿します。
Twitterのキャラへのチョコでエリーシャ様とマリーさんだと今のところマリーさんが優勢なのでマリーさんを書きました!
閑話のつもりだったので…本編になったらエリーシャ様だけ仲間はずれになってしまう…かといってエリーシャ様も書いたらしつこい…
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