第442話 俺たちの目的
先頭で勇ましく剣を振るうタクトを眺めつつ、オレたちはのんびりと歩いている。出てくる魔物はほぼゴブリン。あとホーンマウスにメクラトカゲ等々ゴブリンより小さな魔物ばかりだ。
タクトが嬉々として前へ出るので、もう戦闘は任せていいかなと思っている。そうこうする間にもまた1体、横の通路から飛び出したケイブスパイダーを切り捨てていた。
マジですげえ、と呟いた隣の少年が、ふとオレを見下ろして言った。
「――そう言えば俺たちは目当ての薬草が見つかったら帰るけど、ユータたちはどうしてここへ? どこまで行くんだ?」
「どこまで? えーっと……」
別に何か目的があって来たわけじゃないんだよね。行ってみたかったから! なんてさすがに言いづらい。
「どうしてってダンジョンあったら普通行くだろ! 行けるとこまで行くに決まってるぜ!」
タクトは振り返って拳を振り上げて見せた。やめて! オレたちまですごくお馬鹿な人っぽくなるから!
「あはは~、僕たちちょっと遠くから来たからね~。街の側にダンジョンなんてなかったんだよ~。せっかくの機会だから初級のダンジョンで経験を積もうと思ったんだ~」
「そ、そう! 経験! だから行ける所までは行くってこと!」
勢い込んで同意したオレの頭を軽く撫で、少女がにっこりと微笑んだ。
「偉いわね~。こんなに強いのに、ちゃんと頑張ってるんだ。――ううん、強いのは頑張ってるからなのかな」
純粋に褒められて、にこっと見上げた。
――嬉しい、けど。
強いって認めてくれているのに、ナデナデなのかぁ……。
実力がついたらもっと周囲の扱いが変わると思っていたんだけど、案外そうでもないのかな。
オレが少し複雑な思いで撫でられていると、ラキがくいっとオレの腕を引く。
「なあに?」
「ちょっとね~」
そのまま大きな歩幅で前を歩くタクトに追いつくと、タクトの腕も取った。
「なんだよ?」
オレたちはナイショ話をするように顔を寄せ合った。
「目的なんてなしに来たけど~、僕たちにちょうどいい目的があるな~と思って」
「え? 何かあるの?」
「ダンジョン踏破か?」
ううん、と首を振ったラキがちらっとオレを見て笑った。
「魔物が増えてるんでしょ~? ナニカのせいで。ここは低ランクの魔物ばっかりで僕たちでも通用するからさ~」
「お、なるほど! 責任持って間引こうってことか」
タクトがにやっと笑った。そっか、単純に魔物を倒す人が減って増えてるだけだもの、対策だって単純に討伐すればいいだけだ。魔物の数が減って危険度が下がれば、低ランクの冒険者もダンジョンに戻って……きてくれるかなぁ。
「絶対戻ってくるよ~みんな稼げる場所がなくなって困ってると思うし~」
「じゃあ、頑張ってたくさん倒せばいいんだね!」
「それなら任せろ!」
オレたちはにんまり笑うと両手でハイタッチした。
ん……? でも責任って……これ、オレの責任?! 確かに申し訳ない気分にはなってるけど! お祭りを開催しただけなのに……。
オレはなんとなく納得しがたい気分でむくれた。
「あはは、今はゴブリンばっかりだけど、もう少し下りたらユータが率先して狩りたい魔物が増えるんじゃないかな~?」
「ユータが? じゃあ美味い物?」
「正解~!」
喜ぶタクトを横目に、少しホッとする。美味しく頂けるものか。それならまるきり無駄にはならないかな。
ダンジョンから溢れてしまえば、ヒトの領域にも脅威が及んでしまう。いずれにせよ討伐が必要になってはくるのだけど……。でも、オレたちが勝手に魔物の領域に踏み込んでいるわけで、間引く、なんて表現が相応しいのか分からない。
『主は魔物が好きなのか?』
少し悶々としてしまうオレに、チュー助が不思議そうな顔をした。
「魔物が好きなわけじゃないけど……」
まだ時々顔を覗かせる、平和な国で育ったオレの心。
『主は甘ちゃんだな~! 魔物とヒトは引っ張りあいっこだぞ! 気を抜いたら一気に引っ張り込まれるんだぞ』
チュー助が偉そうにオレの頬をぺしぺしと叩いた。
引っ張りあいっこ。そっか、綱引きみたいにお互いに全力で引っ張り合っているからこその均衡もあるんだろう。全力でやるからこそ綱は動かない。
オレたちと魔物の立場に差なんてないもの。守らなきゃなくなっていきそうだった自然とは違う。
地球では、生態系からはじき出された存在みたいな気がしていたけど、ここにいるとオレたちもその一部だとつくづく感じる。
「――よーし! 微々たる力だけど思いっきり引っ張るからね!!」
『その意気だぜ主ぃ!』
『微々、でもない』
『ほどほどでいいのよ、あなたは』
チュー助とオレの気合いに、蘇芳とモモがやれやれと肩(?)をすくめた。
「ダンジョンって結構広いんだな」
「そうだね~ずっと建物の中って変な感じだね~」
順調に3階層まで下りてきたオレたちは、ほとんど変わらない景色にちょっとガッカリしていた。事前情報で知ってはいるのだけど、ここまで変化がないとは。ただ、少し、ほんの少し周囲に崩れた部分が多くなってきた気はする。しっかりとした造りの遺跡から、廃墟へと変わっていくようだ。
「下りていくと段々土がむき出しの部分が多くなってきてね、色々な薬草が生えてるのよ」
少女が得意そうに言った。こんな薄暗い所で草が生えるなんて不思議だ。どうやら魔法植物と同じで魔素をエネルギーにして育っているらしい。水もほとんどいらないなんて、省エネな植物だ。
3階層はゴブリンが少し減って、代わりにでっかい芋虫や蜘蛛、犬ほどの大きさの巨大ネズミなんかが増えてきた。
素材が欲しいらしく、時々先頭を交代して少年たちも戦闘に加わるようになった。ただ、その分疲労も大きそうだ。
しばらく進んだ所で、少年たちが足を止めた。
「この先に俺達が野営に使ってる場所があるんだ。俺たちは休憩がてらここで野営の準備するけど、お前達はどうする?」
オレたちは顔を見合わせて頷いた。
「じゃあ、もう少しこの階を回ってから戻ってくるよ~」
「魔物減らしておいてやるぜ!」
「帰ってからごはんにしよう~!」
時刻はおそらく夕方より早いくらいだもの、まだ疲れてないしオレたちの目的を果たそう。
彼らが心配なのでモモを派遣して、オレたちは一気に通路を駆けだした。
「げ、元気だな……俺達のペースに合わせてくれてたのか」
「せめて薬草を見つけて渡さなきゃ。頑張って探すわよ!」
おお、と気合いの入る少年たちを見やって、モモはまふまふと上下した。
『まあ、薬草見つけるのだったらウチには優秀な植物探知機さんがいるのよね~』
彼らがしょんぼりしないよう、ユータとティアに言って聞かせておこうかしら。少しくらい出来ることを残しておいてあげないと、自信をなくしかねない。
モモは密かに根回ししておくことを決め、ひとりため息を吐いた。
「腹減った! なあ、今日の飯は何にするんだ?」
振り返って言うタクトに、うーんと頭を悩ませた。
オレたちは駆け足で通路を巡りつつ、出会う魔物を全て倒している。他の魔物もいるとは言え、やっぱりゴブリンが目立った。ということはつまり、食べられる魔物があまりいないってことだ。
「できれば持ってきた食糧は節約したいよね。ホーンマウスはあんまり数がないし……」
だから唐揚げは却下だね。きっとみんな一緒に食べるから、とても数が足りない。
「持ってきた食糧は節約ってお前……収納に1年分ぐらい入ってねえ? 腐らねえんだろ、その収納」
オレ、タクトたちには収納袋って言ってたように思うんだけど。人前ではちゃんと袋から取り出すように装っていたと思うんだけど。当然のように魔法を知られている気がする。
「で、でも何かあった時とか万が一ってこともあるでしょ?」
節約するに越したことはない。あ、でもイモは大量にあるから使ってしまおう。彼らもイモなら気を使わず食べられるだろうし。
天井から振ってきた枕サイズの蜘蛛を切り捨てつつ、オレは本日のメニューについて思いを巡らせ始めた。
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更新遅れてすみません!
本日12月23日はコミカライズ版更新日ですよ!とても可愛いです!ぜひお楽しみください〜!
そしてTwitterの方で管狐プレゼント企画開催中(12/24 23時まで)なのでご興味ある方はぜひ~!
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