第333話 お手伝い

「おー! 来た来た!」

ギルドに入った途端、元気な大声が響いてビクッとなった。

「ひっさしぶりー!」

ひょいっとオレを抱え上げてくるくるまわるのは、赤いショートカットの元気な女性。

「わあ、ルッコだ! 久しぶりだね」

「ちょっと、大きくなった……?」

すとんと下ろして貰ったら、リリアナがオレの頭に手を置いた。うーん、まだリリアナより大分小さいけれど、すぐに追い抜くからね! 『草原の牙』メンバーは、ギルドでどうやらオレを待っていてくれたみたい。

「どうしたの? これから依頼?」

「そう、その依頼のことで相談だ! ……お前たち、一緒に依頼受けねえ?」

ニースがここぞとばかりに声を潜めて耳打ちした。

「受けるー!」

「「「即答?!」」」

満面の笑みで答えると、ニースたちがカクンとなった。そりゃあ即答だよね?!一緒に依頼を受けるなんて、すごく楽しそうだもの。ラキたちだってきっと喜ぶよ。


「いやお前さ、せめて内容聞いてから答えろよ……おにーさん心配になるぜ」

「でも、ニースたちだもん。大丈夫でしょう?」

にっこり微笑んだ信頼を込めた瞳に、3人がうっと呻いた。

「お、おうとも……何も、何もやましいとこなんか……」

「ああ……あたしの中の不浄が消えていく……」

「ルッコ、気を確かに。それが消えたらルッコがいなくなる」

いつも通り、ルッコとリリアナが言い争うのを放置して、ニースをじいぃっと見つめた。さりげなく視線を逸らしたニースが、だらだらと汗を流している。

「……あああ! もう! な、何も悪いこと企んでるワケじゃねーよ?! そ、そのさ……ランクアップに受けた依頼なんだけど……お前がいると確実かなーってさ。ちょっとさ、期限が………頼むよ~!!」

ニースが情けない顔でオレに縋り付いた。



「それで一緒に受けることになったんだ~うん、僕は歓迎だよ~」

「もちろん大歓迎! やったぜー! ちなみにどんな依頼なんだ?」

期限内に3人で合わせられる日があって良かった。ギルドに向かいながら、聞いた話を伝えておく。

ニースたちが受けたのは、なんてことはない依頼だったのだけど……。


「それが全っ然! 見つからねーーの!! 本当かよって感じでさ」

大きな拳が力なくテーブルを叩いた。

「もう依頼自体、嘘かも」

3人は、半ば諦めムードでため息をついた。ランクアップには、色々な種類の依頼を受ける必要があるのだけど、ニースのパーティには探索に向く人がいなくて、そういう依頼を最も苦手とするみたい。

「だから、つい後回しになっちゃってね……やっと手を着けてみたはいいんだけど、お手上げ~」

依頼内容を確認すると、ここから馬車で半日ほどの場所に、ワースガーズって魔物が出たんだって。近隣の村からはそこそこ距離があるので、それ自体では問題がないのだけど、ワースガーズっていうのが本来単独で出る魔物じゃないらしい。なので、群れがいるんじゃないかと不安に思った、近隣の村人からの調査要請だ。

「ふうん、難しくなさそうじゃねえ?」

「うーん、これは厳しいかもね~」

タクトとラキが、真逆のことを言った。

「え?群れを探すのって難しくないんじゃないの?」

『草原の牙』面々も、そうじゃないの?!と不安顔でラキを見つめた。

「うん、群れを見つけるのはそう難しくないと思うんだけど~」

「じゃ、じゃあなんで?!」

ニースがガタッと立ち上がった。

「群れがいたら、難しくないよ~。でも、いなかったら~? どうやって証明するの~?」

「「「あっ……」」」

「情報がね~少なすぎるよ~。ワースガーズは『単独で』見つかったんでしょ~? ちらほら見かけるならともかく、たった1匹しかいなかったら……もう他の魔物に食べられちゃってるかもだよ~」

「「「ああああ~!!」」」

3人がテーブルに突っ伏した。そ、そっか……そういう落とし穴もあるんだ……。だから本来、こういう依頼はある程度の達成条件をつけるのが普通らしい。数日間連続で探索して見かけないこととか、特有の痕跡がないとか。建物の中ならともかく、広い土地で、いないことの証明はとても難しいからね。

「だから、この依頼は~『スライム焼き』だね~」

ラキの言葉に、3人が今度こそ暗く沈んだ。『スライム焼き』っていうのは、簡単そうに見えて難しい依頼、もしくは、受けるだけ無駄って意味らしい。スライムを焼いたら何も残らないように……。

「だ、だから残ってたのか……」

「だってぇ~普段探索系なんて受けないんだもん~知らないわよ~」

「手痛い事実……」


「で、でもさっ! もしかしたらいるかもしれねーんだろ?! いる方に賭けてみようぜ!」

タクトの励ましに、3人の目に少し光が戻った。でもね、魔物は本来いない方がいいと思うよ……?

「あとは、いなかったとしても、これだけ探しましたって事実を伝えて~、依頼者さんが納得してくれたらいいんじゃない~? 多分、依頼者さんも慣れていないだけじゃないかな~?」

「そ、そうか……依頼者はギルドじゃねえもんな、ただの村人だ。誠心誠意、真心込めて……!」

完全に光を取り戻した3人が、ぐっと拳を握って立ち上がった。

「よし! それじゃあお前たち、サポートしてくれるか?!」

「「「おー!」」」

よく落ち込むけれど、立ち直りも早いのがこの人たちの長所なのかもしれない。さっそくギルドを出ようとした所で、ふと気になったことを尋ねた。

「ところで、期限って言ってたけど、いつまでなの?」

扉を出ようとした3人の足が、ぴたりと止まった。

「……………あさって……」

……今はお昼前。そして目的の場所まで半日、つまり往復で1日必要として……。

「「「えええぇーー!!」」」

ギルド内には、オレたちの甲高い悲鳴が響きわたった。


「間に合うかなぁ……」

「普通に考えたら間に合わないよ~」

「でも、ユータがいるしな!」

探索の範囲は、そんなに狭い場所じゃない。ゴツゴツとした岩場が多いので、森なんかよりはずっと難易度が低いけれど、起伏に富んで見通しは全く利かない。まあ、見通しが利くならそもそも依頼なんて出ないだろうけども。

風に髪をなびかせ、後ろで響く悲鳴を聞きながら、オレたちは深いため息をついた。

「俺が悪かったアァ~~~止めてくれえーー!!」

「ぎゃああああー!」

「………」

素晴らしい速度で疾走するのは、馬車じゃない。少しでも時間を稼ぐためのとっておきだ。

『どうしてそんなに大声出すの~? 怖い? でも急ぐんだよね?』

困った顔でシロが振り返った。

「うん、急いでるから気にしないで! シロは速いね、助かるよ!」

スピードを緩めた方がいいのかと気にするシロに、まふっと抱きついて首元を撫でた。こてんと頭をもたせかけると、サラサラとなびいた毛並みが頬に触れて心地良い。


ひょい、とシロが段差を飛び越えて、後ろのソリが跳ね上がった。一際大きな悲鳴があがったけど、曲がりなりにもDランク冒険者だもの、大丈夫。

「もう少し時間あったら、乗り心地にもこだわれたのにね~」

「こんなスピードで走ったら、丸太に乗ってたって一緒じゃねえ?」

シロの背中はオレたち3人でいっぱいだ。オトナたちは、大急ぎでラキが作ったソリに乗ってもらった。時間がないので、土魔法で作った重いソリだけど、シロはこれだけの人数を乗せてなお、軽々と走ってくれた。

「ごめんね、重いよね」

『ぜーんぜん! 僕、いっぱい走れてとっても楽しいよ!』

嬉しげに駆けるシロは、本当に楽しそうだ。力強い四肢の躍動がダイレクトにオレに伝わって、生き生きと溢れる生命力を感じさせた。召喚獣になっても、シロは眩しい生命そのものみたいだ。

「そっか、うん、本当だね! 楽しいね!」

オレは顔を上げて、まともに風を浴びた。

「ねえタクト、ちょっと支えていて?」

「あ? おう……ってユータっ!!」

ごうごうと唸る風に、思い切って両手を離した。タクトが大慌ててオレの腰を支え、挙げた両腕が旗のように振られた。仰のくと、髪の毛まで風に持って行かれそうで、きゃっきゃと笑った。




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世間の騒動が早く収まるといいですね…

こんな時こそもふしらの世界を旅してもいいんじゃないかなと思います!

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