第329話 へんしんできるかな

「見て見て~!すごい?サイア爺にはすごいって言ってもらったんだ!本当は身体強化したかったんだけどね」

頑張ってもできないなら仕方ない……でも、もっとすごいことができたんだと、自分を慰めることにしたんだ。絶対褒めてくれると思って回復強化してみせると、オレの周りにふわふわと3つの小さな光が漂った。


『きれいー』『きらきら!すごいねー』『とってもきもちいいね~』


秘密基地に来ていた妖精さんたちが、くるくるとオレの周囲を舞って嬉しそうに笑った。思った通り素直に褒めてくれる妖精トリオに、首をすくめてえへへとはにかむ。

『時に、サイア爺とは誰じゃ?随分と知識豊富な御仁とみえるの。ワシも回復強化なんぞ見たことないからのう』

チル爺が興味深げにオレを眺めて言った。そっか、最近チル爺に会ってなかったもんね。

「あのね、でっかいお魚の神獣さんで……」

『あーーーーーっ!………なんじゃって?はて、聞こえんかったのう。年は取りたくないものじゃ。さて!それ以外に何かあったかのう?それ以外で』

それ以外?それなら……。


「ここで登場!俺様!」

「と、あえはー!!」

シャシャキーン!

タイミングをはかっていたらしいチュー助とアゲハが、見事に左右対称のシャキーンをして登場した。ちなみにアゲハは短剣に入れないので、オレのポケットやカバンの中に入っていることが多い。

『下級精霊のねずみ……と、それはなんじゃ?精霊……ではないの?管狐殿とも違うようじゃが……』

「うーん、ちょっとややこしいんだけど……」


オレのざっくりとした説明に、チル爺が頭を抱えた。その横では妖精たちとアゲハが楽しそうにぴょんぴょんしている。

『そんなことが可能なのかのぅ……いやしかし実際にこうして……いやはや、天狐様のお力は偉大じゃと、そういうことじゃ、そういうことにしておこうかの』

チル爺はいつものようにちょっと疲れた顔でヒゲを撫でた。

「それがね、アゲハは精霊で管狐なのに飛べないし、精霊としても管狐としても力がない感じなんだ。普通の動物みたいなの」

チュー助と同じく与えた魔力を吸収できるから、多分精霊に近いんだろうと思う。好き嫌いが多いけど、食事も普通にとれる。

――アゲハは管狐じゃないの、見た目だけなの。もっと精霊っぽいことができるはずなの。

ラピスがそう言うなら少なくとも管狐ではないんだろう。チル爺なら何か分かるかも知れないと、オレたちの視線が自然とチル爺に集まった。


『ご、ごほん。そうじゃの……時にユータや、魔力は与えておるかの?』

「うん、チュー助と同じ時に少しだけど」

『おそらく、それじゃの』

えっ?魔力渡したらダメだった?ビックリしてチル爺を見つめると、ふるふると首を振った。

『別に悪いわけではないとも。ただ、そやつは火の精霊で、まだ自分で魔力を生み出すほどに成長しておらんのじゃろう。じゃから、渡す魔力を火に寄らせてみてはどうじゃ?ただし、生命の魔力も切らしてはいかんぞ』

な、なるほど!!でも、火の魔力か……火の魔素を集めたらいいかな?

「アゲハ、おいで~」

『なあにー?』

とことこやってきたアゲハに、いつものように生命の魔力少しと、火の魔素を集めて渡そうと試みる。

『おいしー』

チュー助は魔力をおいしいなんて言わないけど、アゲハは魔力もおいしいらしい。でも、吸収したのは生命の魔力だけ。

「あれ?こっちもどうぞ」

『いやない!』

プイと顔をそむけたアゲハに困って眉を下げた。

『主ー、それ主の魔力じゃないもん、アゲハ吸収できないぞ!』

ええー魔素のままだと無理なの?一旦オレが取り込んで渡す……と。

『こえ、おいしー』

どうやらお気に召したようだ。たっぷりと火の魔力も取り込んだところで、固唾を呑んで見守った。


『……んー別にこれといった変化はないわね』

そうだね……何か起こるかと期待したんだけど。

『アゲハ!火の精霊モードだ!ほら、へーんしん!』

『へーんしん?』

チュー助のポーズだけ真似してみても、当然変化なし。

『アゲハ、精霊に変身できたら俺様と一緒に入れるぞー』

諦めきれないチュー助が、ひょいと短剣に飛び込んだ。

『あえはも!いく!』

短剣に向かって突進したアゲハが、突如、ぼっ!と炎に包まれた。

「あ、アゲハ?!」

慌てて火を消そうとした時、フッとその姿がかき消えた。


『アゲハー!!できたじゃないか!さすが俺様の子分!』

『できた?へーんしん?』

短剣からほのぼのした会話が聞こえてホッと胸をなで下ろす。良かった……ひとまず短剣に出入りするくらいはできるようになったようだ。

『できたねー!』『がんばったよ~』『あげはちゃんすごーい』

妖精達がお祝いするようにきらきらと輝いた。少しずつ練習して精霊らしくなれば、日常生活でひやひやすることも減るだろうか。





「たまには、こういうのもいいと思うんだ」

『あなたは昔から地味なことが好きよね……』

地味……地味かなぁ。これも冒険者らしいと思うんだけど。

チル爺たちと別れたあと、オレは外の平原でのんびりと草むしりならぬ薬草採りに精を出していた。黙々とできる作業って、無心になれて好きなんだけどな。

「最近物騒なことが多かったから、こうしてゆっくり薬草採取もいいものでしょう?」

『うん!とってもいいよ!ぼくお外好きだよ』

『スオー薬草はいらない』

シロは嬉しそうに跳ね回り、のびのび体が動かせることがとても楽しそうだ。蘇芳が口の周りを緑にしているところを見ると、薬草を食べたんだね……そりゃあ苦かっただろうな。

「ふう、ちょっと休憩、たくさん採れたね~」

むしろ採りすぎかな。これは全部いっぺんに出したらビックリされるやつだ。ちょっと苦笑して、ぺたりと足を投げ出して座った。ほっぺにチクチク当たる草がこそばゆくてごしごし顔をこすると、プンと土の香りがした。小さなお手々はいつの間にやら緑と黒に染まって、少しじんじんとしている。

「ムゥ!」

よじよじと専用ポケットから出てきたムゥちゃんが、自らの頭の葉っぱを取って、オレの手をぺんぺんと叩いた。

「ありがと、楽になったよ」

些細な痛みが和らいで、優しいムゥちゃんににこっと笑う。にこっと微笑み返したムゥちゃんは、はにかんでそそくさとポケットに戻ってしまった。


しゃらしゃらと耳元で鳴る草の音と、遠くからざあっと響く風の音。少し肌寒いけれど、こんな広い空間を独り占めしているなんて贅沢だなぁ。ぱたりと上体を倒すと、すっかり草の中に埋もれてしまって、オレの視界は空と草だけになった。

「……尾形さん、来てくれるかな」

こうしていると思い出す。そろそろ魔力も溜まるだろう、みんなちゃんと来てくれたから、きっと尾形さんも来てくれるはず。そうは思うものの、ちょっとつかみ所のない人(?)だからなぁ。

『大丈夫、会いたいと思ってる』

とん、と胸の上に座ったスオーがオレの目を見つめて言った。尾形さんが会いたいだなんて、なんだか想像しづらくてくすっと笑った。

きっと、気に入ると思うんだ。広くてのびのび過ごせるこの世界。

「よし!もうちょっと頑張るかな!」

『多すぎるんじゃなかったの……?』

張り切って飛び起きたオレに、モモが釘を刺す。え、えーと、じゃあ食糧になる植物を探そうかな!

うずうずと逸る気分に、何かしていないと落ち着かない。ぱんぱんと手を払ったら、カラカラになった土がパラパラと風に舞った。




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投稿したつもりで……その……


お昼にもう一つ投稿します…


そして今日はコミカライズ版更新日ですよ!!楽しみー!あのドヤ顔をぜひ!!

コミカライズ単行本は3/23発売です!


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