第254話 お披露目

「…………」

「……かわいい、でしょう?」

執務机に座って深い深いため息をついたカロルス様。

蘇芳を召喚できたのが嬉しくって、ひとまずロクサレン家のみんなにお披露目しようと帰ってきたんだけど…やっぱり珍しい生き物だからか、カロルス様の視線はじっとりしている。

「もう今さらだがなぁ…召喚獣で良かったな」

「そうですね…これは召喚獣だと積極的に話しておいた方がいいですね」

「うん、珍しいから狙われるんだね?」

「そうだよ、見た目で分かるからね。でもホント、かわいいね!」

セデス兄さんはにこにこして、天井付近を逃げ惑う蘇芳を眺めた。


「きゃーー!こっちに来て!蘇芳ちゃーん!かわいいっ!」

「蘇芳さん!下りてきてくれないと私が行っちゃいますよ!少しだけ!すこーしだけ抱っこするだけですから!」

『スオー、いや!ゆーた!』

どうやら初めての人達に抱っこされるのはイヤらしい。蘇芳はオレの腕の中に飛び込んで、ぎゅっとしがみついた。

「ああー!それも!それもいいです!!満たされてゆく…」

「はあ~~かわいさのアッパーカットぉ…」

マリーさんとエリーシャ様は相変わらずだ…崩れ落ちた二人に、蘇芳がとても不審げな目を向けている。だ、大丈夫…その、悪い人達じゃないんだよ…ちょっと、変わってるけど…。

「僕、カーバンクルって初めて見たよ。かわいいね~本当に宝玉が嵌まってるんだね」

オレの腕の中なら触れられても大丈夫らしい。ぴとっとオレにくっついてはいるけど、蘇芳は大人しくセデス兄さんが撫でるに任せている。

ちなみに…セデス兄さんの後ろにはエリーシャ様とマリーさんが音もなく並んでいた。



「そうだ、蘇芳にも何か目印があった方がいいね。何がいいかな?」

ごろんとベッドへ寝転がると、シロも飛び乗ってベッドはぎしりと傾いた。いつまでたっても蘇芳から離れない二人から、今は一旦自室へ避難している。

物珍しそうにお布団を両前肢でぽふぽふしていた蘇芳が、何のこと?と首を傾げた。

『大きな耳だから、イヤリングなんて似合いそうね…でも額の宝玉があるから、何をつけても見劣りしそうだわ…でも小ぶりの赤で揃えて…うん、それならネックレスなんかもいいわね。イヤリングならシンプルな方がきっといいわ』

「イヤリング、落っことしそうじゃない?痛そうだし…今度シーリアさんのところで何か見繕って貰おうか」

きっと何のことか分かっていない蘇芳は、きょとんとした顔でこくりと頷いた。


「いたー!」「ひさしぶりー?」「きょうはいたね~」

「あー!久しぶり!!」

薄暗くなる窓の外から飛び込んで来たのは、妖精トリオ!なかなかタイミングが合わないのか、最近全然会えてなかったんだよ。

「ひさしぶり、であってる?」「あってたよ!」「そうなの?」

「合ってるよ!随分会えてなかったでしょう?」

「そう?」「なかなかいなかったー」「たぶん、ひさしぶり!」

相変わらず、まだ幼い妖精さんたちにはオレたちの時間感覚は分かりづらいようだ。

「チル爺も来てるの?」

「くるよ!」「きたきた!」「おそいの-!」

「やれやれ…お主らに付き合うのも骨が折れるわ…ほほ、久しぶりじゃが今回は何も事件は起きとらん……」

どっこいしょと窓枠に腰掛けたチル爺が、からかい口調でのほほんとオレを視界に収め…

「……起きとったようじゃの」

蘇芳を見てため息をついた。

「ふわふわー」「かわいいー」「きれいね~」

『スオー。よろしく』

妖精さんたちは蘇芳より小さいせいか、ちょっと得意そうな顔でもふもふされているのが微笑ましい。

「カーバンクルか…フェンリルよりはマシじゃが…せめてもうちいっと見た目の厳つい怖そうな召喚獣を喚びだしてはどうじゃ?それなら不届き者も減るであろうに」

「そんなこと言ったって…オレが選んでるわけじゃないもの…」

この分だと、残りの子も普通には来てくれないんだろうか…魔力保管庫にはまだ魔力が残っているけど、やっぱり満タンで臨む方が良さそうだ。


「ねえチル爺、カーバンクルって本当に運が良くなるの?」

「そうさのう…そう言われてはおるがの…そんなもん計測できんからのぅ…そうかもしれんしそうじゃないかもしれん」

「でも、きょうあえたー!」「よかった~」「すおーのおかげ?」

「ふふっ!そうだね、きっと蘇芳のおかげだね!」

蘇芳はちょっと照れて、両前肢でお顔をぐしぐしとこすった。


「そう言えばね、街でとっても美味しい料理屋さんを教えてもらったんだよ!森人のお店でね、本当に美味しいから、みんなもつれて行きたいなぁ…街へは行ったらダメなの?」

「ダメなことはないんじゃが…こやつらをつれて行けばトラブルになる気しかせんわい。魔力視ができる者もおるじゃろうしの」

「あ、そう言えばキルフェさんは魔力視できるかも…。やっぱり見られたら良くない?」

「森人じゃろう?それなら問題ないわい。その店だけなら…あるいは…」

チル爺は美味しいお料理に心がぐらついているようだ。どうやら森人は魔力視できる人がちょくちょくいるらしく、妖精とも仲が良い種族なので大丈夫だそう。あの二人なら妖精さんたちをつれて行ってもきっと大丈夫、今度聞いてみようかな。

「オレたちの秘密基地なら他の人は来ないし、秘密基地とそのお店なら安全なんじゃない?今度プレリィさんに聞いてみる!」

「やったー!」「いきたーい!」「わーいわーい」

「ふむ…森人なら良い酒も……」

ふふ、チル爺はお酒だね、了解!今度美味しいお酒がないか聞いてみよう。チル爺にはお世話になってるし、妖精さんたちの飲み食いする量ならオレも無理なく支払えるだろうから、ご馳走作ってもらおう。

チル爺たちはいつも近くの転移ポイントに転移してから、ここまで飛んで来ているらしい。だから、秘密基地にも転移ポイントを作ってもらえたらいつでも会えるよね!これからは街の方でも妖精さんたちと会えるようになったら嬉しいな。



「本当はルーにも来て欲しいんだけどな…」

賑やかな妖精トリオが帰った後、暗くなった部屋で灯りをつけると、ぽつりと呟いた。せっかく人の姿になれるのに…一緒にごはん食べに行ったりできたら楽しいのに。それでね、きっと兄弟と間違われるんだ。

『どうして来ないんだろうね?楽しいのにね』

シロはオレの膝に頭を乗せると、心底不思議そうに首を傾げた。

―行きたがってるのに来ないの、おかしいの。ルーって変なの。

「ルーは神獣さんだし、色々しちゃいけないこととかあるのかもね」

―ラピスはしちゃいけないことがあっても、ユータの所に行くの。

それはそれで…嬉しいけども…どうなんだろうか。胸を張って言い放ったラピスに苦笑すると、小さな身体をそっと撫でる。

―ユータ、お手々大きくなったの。

きゅきゅっと嬉しそうに鳴いたラピスが、ちょんと手のひらに乗ると、計測するようにとんとんとんとオレの手のひらの上を歩いた。

「ピピッ!」

ティアも、サイズを見てごらん?と言いたげに手のひらにぽふんと座った。本当だ…前はお椀にした両手のひらいっぱいだったティアなのに、少し余裕が出てる…気がする!

「そう?大きくなったかなぁ?」

『こどもの成長は早いのよ、随分大きくなってるわよ』

「本当?嬉しいな!まだまだちっちゃいけど…そうだね、タクトたちだって随分逞しくて大きくなったもん、オレも逞しく大きくなってるよね!」

ううん、逞しくはなってないけど…。モモの小さな返答は気のせいだと思うことにした。

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