第255話 探し物は何ですか
「とりゃあっ…わふっ?!」
『ダメだよ~ゆーた、まだ寝てるからね。しーっだよ』
「ガードが堅いぜ…」
いつものようにシロに包まれて眠っていると、何やら騒がしい…。
「う~ん…タクト、早いね…おはよう~」
「ラキおはよ!お前らが遅いんだよ!よし、ユータはガードが堅いから次から標的はラキにしよう!」
「やめてってば~…僕にはこの間やったじゃない~」
どうやら、朝から元気なタクトが遊びに来たらしい。心地良いシロの毛皮にすりすりしてから、うーんと伸びをして目を開けた。
「ふぁ~おは……よう?」
「よっ!おはよ!」
『ゆーた、おはよう』
ショボショボしていた目がぱっちりと開いた。
「…タクト、何やってるの?」
『タクトがね~ユータの上に飛ぼうとするから受け止めたの』
シロの頭の上にタクトが乗っかってオレを覗き込んでいる。タクト…オレの上にダイブしようとしたの?!それ無理だから!潰れちゃうよ…朝から大惨事になっちゃうよ…。
「オレはダメ!潰れちゃうから!!ラキにして」
「ちょっとユータ!あれ本当に口から内臓出そうになるんだから~!」
「だってラキは大きいから大丈夫でしょ」
「そんなこと言って~体重はタクトの方があるから~!」
成長期真っ只中の少年二人は目に見えて成長著しい。ラキは3人の中で一番背が高いし、タクトはしっかりと男らしい体つきになってきている。オレは……オレは、大きく男らしくなるにはもうちょっとかかるみたい。
「へへっ鍛えてるからな!ユータはちっこいもんな!お前なら俺の上に飛び乗ってもへっちゃらだぜ?」
む…むきー!ちょっと先に成長したからって…!オレだって…オレだって鍛えてるもの!
オレは、今度は早起きしてタクトの上に思いっきりダイブしてやろうと心に決めた。
「それで~?朝からどうしたの?今日は何の依頼を見つけたの~?」
大あくびしながらラキが尋ねると、タクトはラキのベッドにごろりと横になった。
「なーんにも!ちぇ、全然いいのないんだもんな。ニースさんたちも見当たらないし。せっかくの休みなのにさ!」
「それで僕たちで憂さ晴らししないでほしいな~」
全くだ。タクトは早起きが得意なので、いつも朝からギルドの押しくらまんじゅうに参加して依頼を見に行っているのだけど、オレたちのレベルで選べる依頼にそうそう面白いものなんてない。
ブツブツ言いながら着替えるラキに、オレもベッドから飛び降りて支度をすませた。
「じゃあ…とりあえずピクニック?」
「おう!美味いもん食いたい!なあなあ、ちょっと遠くまで行こうぜ!俺この間結構森の奥まで入ったんだけどさ、魔物の種類も変わって面白かったぞ!」
ちなみにピクニックって言うのはオレたちの間で、依頼を受けずに草原や森を探索して、お外で獲物を食べることを指している…。タクトは積極的に空いた時間でソロとして他パーティに入れて貰っているから、結構このあたりのことに詳しくなってきた。まだ若いのにたいした腕前だって評判も上々なんだよ。
「ふうん…素材も普段と違う物が集まりそうだね~でも、レベル的にはどうなの~?僕たち…えーっと僕とタクトでも大丈夫そう~?」
「おう!大丈夫だと思うぞ」
「どうしてオレが入ってないの?!」
「「ユータは大丈夫でしょ」」
二人はむくれたオレのほっぺをつついて笑った。
* * * * *
「そうだ、これ試作品なんだけど…感想を聞かせてくれる~?」
森の中を歩きながら、思い出したように差し出されたのは指輪と幅広のブレスレット。指輪はシンプルだけど、ブレスレットは色とりどりの魔石が嵌まっていて、なかなか派手かもしれない。
「ブレスレットはタクト用、指輪はユータ用だよ。サイズははめてから調整するよ」
「すげー!すげーけど…派手だな!!」
「分かってるよ~!欲しいのはその感想じゃなくて付与魔法の効果を知りたいの~!タクトは魔法剣使うでしょ~?だからそれぞれの魔法が増幅できるように各魔石を入れたんだよ…増幅って言ってもちょっとだけどね~」
「ラキすごーい!この指輪は?」
「あ、ユータのは普通の杖代わりだけど…そもそもカモフラージュ用だよ」
おお、執事さんが使ってるやつだ!指輪型だと手も自由に使えるし携帯するのも便利だよね!でもどうしてカモフラージュなんだろ?
「ユータ杖使わないでしょ~?他の人に変に思われるから、これがあったら便利だと思って~。僕も、ほら~!」
ラキの指にも指輪が光っていた…ただし、ぎっしりといろんな石がはめ込まれている。きっといろんな効果を試してみたいんだろうな…。オレの指輪には石がひとつ…だけどもしかして、これ生命魔法の魔石?珍しい魔石だから入れないようにと思ってたのに、うっかり混ざってたんだね。
「ユータがくれた魔石の中に、珍しい魔石がひとつあったんだ~!これ、小さいけどすごく価値があるやつだよ!確か回復なんかと相性が良くって、ユータっぽい気もしたんだ。だからユータのはそれにしたんだよ~」
「そうなの?ありがとう!」
オレの魔力の結晶みたいなものだもんね、そりゃあオレっぽいのかもしれない。指輪もとてもしっくりとオレに馴染んで心地良く、魔力を通すときらきらと朝露のように煌めいた。
「あ、二人ともいいな~。ラキ、俺にも指輪作って!」
「え?いいけど~タクト魔力操作下手でしょ?だからブレスレットにしたんだけど~?指輪の方が操作難しいよ~?」
「う…じゃあ飾りでいいからオレも指輪ほしい!なんかいいじゃん、パーティの証みたいなやつ」
最終的にはパーティでお揃いの何かを作ろうねって言ってたんだけど、この分だと指輪になりそうかな?
道すがら採取と狩りをしつつ森の奥へ向かうと、なるほど魔物の種類が変わってきた。森の辺縁部では小型でこちらから逃げていく魔物が多かったけれど、徐々に襲いかかってくるタイプが増えてきた。
「向こうから来てくれると楽だな!」
タクトはまだ余裕のようだ。途中、ブレスレットの効果を試したいタクトが無駄に炎の剣を使って、せっかくの獲物を焼き払ったりしたけど、特にトラブルもなく順調だ。そろそろ遠方や少し難易度が上がる所へも行くべきかもしれないね。
「あ、人がいるから気をつけてね」
どうやらソロの冒険者らしい。何かを探しながら歩いているようだ。
ガササ、ガサ…
「こんにち……あれ?シーリアさん?どうしたの?」
藪をかき分け現れたのは、ベージュのポニーテールに日焼けした肌…幻獣店の店長シーリアさんだ。肩にルルは乗っているけど、森の中で一人って危なくないんだろうか?
「お、シロ達の主人だな!君こそどうした?」
シーリアさん…オレの名前覚えてないでしょ…召喚獣の名前で覚えてるでしょ…。
「オレたちは冒険者だから探索してるんだよ!シーリアさんは?」
「私はもちろん素材集めさぁ!言ったろ?ちょっとしたアクセなんかは作れるって」
『素材!なにが必要?あのね、今度はシロがプレゼントする!』
オレの中でシロの声が響く。前にシロ用のブレスレットを買うとき、プレゼントだって半額にしてくれたもんね。
「シーリアさんは何の素材を集めてるの?シロが前のお礼に素材をとってくるって言ってるよ?」
「おや、本当かい?シロの鼻があったら助かるなあ!」
シーリアさんは、嬉しそうににかっと笑った。
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