第253話 ちっぽけでかよわくても
強くなりたかった。
守りたかった。
…でも、あるのはこんなちっぽけな身体…。
戦うことも、守ることも、助け出すことも、出来ない。
柔らかで温かな暗闇の中、確かな繋がりを感じる…
きっと、喚んでくれる。
でも、このままじゃ会えない。
ちっぽけで弱い生き物はダメ。
どうしたらいい?どうしたら役に立つ?
みんな役にたつのに、一人だけ役立たず…それはダメ。
頑張って考えて、考えて…少しでもマシな姿に…。
ちょっとでいい、役にたつ姿になる。
そう…あれがいい。あれなら役に立つ。
次こそは、役に立つから。
だから、もがいてもがいて。でも、届かない。
悔しい…悔しい…
それでも、届かない。もう少しなのに、届かない……
あの姿、あの姿になりたい。
力が、足りない…
あの子に会えない…
* * * * *
「あ…れ?…これ、いっぱいになった?!見て!ほらほら、これで満タンだよ!」
その日、いつものようにうつらうつらしながら保管庫に魔力を注ぎ…その手応えが変わったことに気がついた。
ドキドキする胸を押さえ、もう一度注いでみるけれど、魔力保管庫はほのかに発光し、いくら注いでも魔力が溢れて出てくる。
間違いない…これで満タンだ!これで次の召喚ができる!
『わ、ホントだ!ゆーた、がんばったね!』
保管庫を抱えてわーいと宙返りすると、シロも器用に宙返りして喜んでくれた。
『魔力保管庫は満タンになったけど…あなたは大丈夫なの?負担が大きいでしょう?次にって言ってたのは…あの子ね?』
「うん!オレも前より魔法使うのにも慣れたし、小谷さんは小さいからそんなに魔力使わないんじゃない?」
『そうは言うけど…あの子、結構こだわりが強いわよ?きっと普通には来ない気がするわ』
「そう?小谷さん、いつもきょとんとしてて、そんなにこだわりが強いの知らなかったな」
『意外とプライドも高いのよ……あの時、何もできなかったこと、きっと悔やんでるわ』
「うん……みんな、きっとそうだよね。オレだってそうだもん」
オレはすいっと身体を寄せたシロに身体を預け、そっとモモを撫でた。
待っててね、もうすぐ…こっちに喚ぶからね。
* * * * *
ずっとずっと、もがいてた。
会いたい、会いたい。だから、諦めたくない…
『ねえ…こっちに、来てくれる?』
その時突然聞こえた、懐かしい声。大好きな優しい声。
あの子が、喚んでる…!!
* * * * *
「ふぅーー」
応えてくれた!きっと…そうだと思う。
オレは、前回と同じように湖のほとりで、ゆっくり息を吐きながら魔方陣に魔力を注ぎ続ける。
大丈夫、今回は余裕がありそうだ。特殊なスライムでもフェンリルなんて大それたものでもなければ、あれほど湯水のように魔力を使わないはず。
どんな兆候も見逃すまいと、針の先のように集中していく。
「う、わっ?!」
『ゆーた?!』
『どうしたのっ?!』
「わ…かんない…急に魔力が……」
突然ぐいっ!と強く引っ張られるような感覚と共に、一気に魔力が引っこ抜かれていく。
なんだろう…何か、強い意志に触れたような気がした。
突然魔方陣の底が抜けたように、大量の魔力が消費されていく。
一体、何があったの…?!とにかく、オレに出来るのはめいっぱい魔力を注ぐことだけ!
―ゆーた…がんばるの!
「ピッ!」
ラピスがふわふわの身体をオレに押しつけ、ティアがサポートは任せろと力強く鳴いた。
「…ありがとう」
召喚も3回目だもん、大丈夫…乗り切れるよ!オレはちょっと微笑んで流れる汗を拭うと、気合いを入れ直す。
大丈夫、任せて。絶対召喚してみせる!
徐々に、徐々に強くなった光がぐっと凝縮されたかと思うと、カッ!!と魔方陣が輝いた。
魔方陣の中央でぺたんとお尻をついているのは、見たことのない生き物。
『…あ………届い…た……?』
呆然とした声に、オレは安堵の息をついて微笑むと、疲労した身体にむち打って立ち上がった。
「…いらっしゃい。ああ…無事で良かった…随分姿が変わったね?」
精一杯の微笑みを浮かべて歩きだそうとしたところで、ぽふんぽふんと弾むモモに追い抜かれ、モモは少し叱るような口調で、召喚したばかりの不思議な生き物へ話しかけていた。
『もう…あなた、無茶したんでしょう!ゆうたにも負担がかかるんだから…』
『ごめん…』
「えっ…無茶したの?大丈夫だった?」
駆け寄ってひょいと抱き上げたのは、ねずみと子猫の間くらいの大きさの生き物。お顔はねずみとうさぎとお猿さんを混ぜたような感じだろうか…?大きなお耳、大きな目、そして額に紅い宝石みたいなものがあった。
シロが大喜びでオレの周りをぐるぐると駆け回る。
『小谷さん!ひさしぶり!ねずみさんじゃなくなったの?その姿もかわいいね!』
『ねずみ違う、ハムスター。でも、そう、これになりたかった。……届いた…』
「なりたかった姿になれたんだね、良かった…!前の小谷さんも、今の小谷さんも、とってもかわいいよ!」
ふわふわとした身体に頬ずりすると、小谷さんも小さなお手々でオレの頭を撫でてくれた。
大きな瞳がじっとオレを見つめて、口数少ない小谷さんの、万感の思いが伝わるようだった。
『ゆーたも、かわいい。……また…会えた…』
「うん……!会えたね!!」
オレはじわっと浮かんだ涙を隠すように、もう一度、小さな身体をぎゅうっとした。
―ゆーた、その子のお名前は?
「あ…そうだね、どうしようか?ねえ、ルーこの子ってなんていう種族なの?」
それまで黙って見守っていたルーに声をかけると、ルーはどこか呆れたような視線を向けた。
「てめーは…毎度毎度…もう少し普通なものを喚べねーのか……カーバンクル、だ」
「カーバンクル!聞いたことある…気がするよ!」
『良かったな主ぃ!カーバンクルって幸運を運ぶらしいって!珍しくて、特に船乗りにすげー人気なんだぞ!…って俺様聞いたことある!』
『ゆーた、良かったね!運が悪いもんね!』
ぐさっ!シロの無邪気な発言が突き刺さる。そうだよね…オレって結構運が悪いかもしれない。でも、ここぞって時の悪運は強いかも知れないけど。
『……そう…だから無茶したのね』
小谷さんは、ふよん…と揺れたモモを見つめてコクリと頷いた。
『…強くなれなかった。でも、これなら…』
モモは、お馬鹿さん、と呟いて小谷さんのおでこに柔らかアタックした。
きょとん、としたその表情はとても懐かしくて、嬉しかった。
「新しいお名前…。んーと…モモ、シロ…なんだか色の名前になっちゃったね!じゃあ…今度は何色かな?いろんな色があるねえ…」
ふわっと浮かんだ小谷さんを改めてじっくりと眺めてみる。淡いグリーンの体毛に紫の瞳……そして…
『何言ってるの!こんな美しい特徴があるでしょう!?これ以外の色を使ったらおかしいわよ!』
そう、額の深い紅色の宝玉。モモの強い主張で赤にまつわる名前に決定のようだ。ただ、そうは言っても…ルビーだとウミワジの時のルビーお姉さんと同じになっちゃうし、赤ちゃんだとさすがにおかしいし…。
「赤…えーっと…紅、スピネル、ガーネット、ざくろ、くれない、
大きなお耳がピクピクッと動いた。
「朱色?」
『ちがう』
「えーと、蘇芳?」
『それがいい。スオー』
なんだか見た目に反して随分カッコよさげな名前になっちゃうけど、本人がそれがいいって言うんだからいいか。
『スオーは、離れない』
サッとオレに飛び込んだ蘇芳は、またしてもみんなと同様、オレに魂を預けることを選んだようだ。
せっかく自由に生きられるのに…眉尻を下げたオレの頭を、蘇芳の小さな手がよしよしと撫でた。
『いいじゃん、主ぃ~俺様だってフツーのねずみだったら一緒にあちこち行けないけどさ、この姿だから一緒に行けるし!街中だってレストランだって入り放題!』
『うん!ぼく大きいから、ゆーたの中にいなかったら、ずっと一緒にいられないと思う。だから、良かった!』
そうだね…ずうっと一緒にいられるのは召喚獣だからこそ、だもんね。チュー助はそもそもねずみじゃないけどね?
『それにね、召喚獣なら何だって食べられるじゃない?ほら、シロだってタマネギも平気だし』
『そっか!ぼく全部食べられるようになってる!』
そうなの?召喚獣だから大丈夫なの?フェンリルだから何でも大丈夫なんだと思ってた。モモは元々スライムだから何でも食べられるし…。
どうやら召喚獣や精霊みたいに実体をはっきり持たないからこその特技みたいだ。ラピスやティアが何でも食べるのはまた別のお話らしい…。
『スオー、美味しいもの食べる!』
オレの周囲をふよふよしていた蘇芳が、くいくいと髪を引っ張って主張した。
うん、みんなで一緒にいられて、美味しいものが食べられる。それって、すごく幸せだね。にっこりと満面の笑みを浮かべると、期待に満ちた視線でこちらを見るもふもふたちに声をかけた。
「みんなでおやつにしよっか!ルー、おやつだよ、こっちに来て~!」
「…………」
おやつの引力に負けたルーがのそっと立ち上がり、優雅な足取りでテーブルの側へ近づくと、大きな頭をテーブルへ載せて、ぐてっと再び横になった。
「ルー、仲間が増えたよ。蘇芳って言うの、よろしくね」
「スオー、よろしく」
「さっきから見てただろうが…知ってる」
金の瞳がちらっと蘇芳を見て、尻尾をゆらゆらと振った。
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