第252話 クールサス料理

「ええー!!もう?!もう狩ってきたの?!どうやって?!おっと…それは冒険者に聞いちゃいけないんだよね?いやぁ…助かるけど…すごいね?!」

「へへっ!だろ!俺らけっこう凄いんだぜ!!」

「それで、思ったよりたくさんになったんですけど~、できたら依頼料で食べられる分、僕たちの分もお料理作ってもらえないかな~って」

「ははっ!何ケチくさいこと言ってんのさ!構わないよ、腹いっぱい食っていきな!!その代わり、試作品の感想を聞かせとくれよ!」

「えっ?本当?!わーい!!じゃあ、いっぱい獲って来ちゃったけど良かったよね?」

「おや、2羽狩れたの?本当に君たち凄腕じゃないか!多い方が助かるよ」

いそいそと店の奥に案内されると、お風呂場みたいな場所があった。どうやらここで解体をするみたい。

「じゃあ、ここに全部出します!」

「うん、お願いね。……全部?」

ドサドサ!と積み上がったクールサスに、プレリィさんがぽかんとした。馬みたいなサイズの鳥が4羽、なかなかの迫力だ。

「これは…すごいな。前に言っていた『いい収納袋』ってこれのことか…今狩ったみたいな鮮度じゃないか。首以外に傷はゼロ…品質は超1級品だ」

プレリィさんのゆるゆるな顔がぐっと引き締まり、周囲そっちのけでクールサスに夢中になっている。どうやらお眼鏡に適ったようで一安心。胴の部分を使うから、可能な限り傷を少なく、火魔法や雷撃なんかを使わないでほしいって言われていたんだ。依頼によって、どんな状態で納品がいいのかって違うんだなって勉強になったよ。


「素晴らしい…君たち、本当になりたて冒険者?これから危険の少ない依頼は君たちに任せようかな。文句なし、満点の出来だよ!!これだけあれば本番の分にも使える…だけど鮮度が…」

プレリィさんが、ちらっとオレを見た。

「その、相談なんだけど…君の収納袋、とても保管に優れているんだろう?保管料を払うから、預かっておいてもらうことはできないかな…?」

『主ぃ!ここはふっかけるとこだぞ!』

チュー助!そういうこと大声で言わない!慌てて口を押えたけど、ばっちり聞かれたプレリィさんが苦笑いしている。

「ちゃっかりしたネズミ君だなぁ。冒険者の大事な商売道具を使わせてもらうんだから、ある程度覚悟はしてるよ、でも…店がこんな感じだから…あんまりいじめないでくれると助かるよ」

「う、ううんっ!まだいっぱい入るから大丈夫!お料理食べさせてくれるんでしょう?お金はいらないよ!」

二人は驚いた顔で眉尻を下げた。お客さん、来てないもんね…きっと経営厳しいよね。

「あんた、さすがにそりゃあ…あたしらとしては助かるけど…」

「はは、気を使ってくれてありがとう。情けない話、本当に助かるんだけど、さすがにタダってわけには…」

オレの収納はどこまでも入りそうだし、使うことに何の問題もないのだけど…二人は気を使っちゃうよね…

うーんと考えたオレは、パッと顔を上げた。

「じゃあさ!これからいつでもオレが保管庫になるから、その代わりオレたちが持ってきた食材でお料理作ってほしい!それで、もし良ければ…オレもそれ教えてもらえたら……ダメ?保管庫、使い放題で…」

言ってみたものの、あのお料理の技術料と保管庫代がはたして釣り合うだろうか…勢いよく飛び出した台詞は、徐々に尻すぼみになった。

「高性能の収納…」

「使い放題……」

虚空を見つめて呟いた二人の目が、ぎらりと光った。

ガシィッ!!

「その言葉っ!信じていいんだねっ?!二言はないねっ?!」

「あんたっ!それでいいのかいっ!?いいんだねっ?!」

目の色を変えてつかみかかった二人の勢いに、オレの足が宙に浮いている。わさわさと人形のように揺さぶられて、目がグルグルした。

「ちょ、ユータがボロボロになるって!」

「ユータはそれでいいの~?」

タクトがオレを奪い返して、ラキがぼさぼさになった髪をなでつけてくれた。ホッと一息ついた所で、随分興奮した二人と、いいの?と首を傾げるラキにきょとんとしてしまう。

「オレはいいけど…だって、オレ預かるだけだよ?それってそんなにすごいこと?」

「そうだね~普通は鮮度を保って保管できないし、大きなものを保管できる収納袋ってだけで、相当な高値になるんだよ~?それが、使い放題…破格だと思うよ~?」

そうか…そうだね、高性能の収納袋を買えない料理人さんからすると、何よりも価値があるのかもしれない。

「そっか。でも、まだ余裕あるし大丈夫。オレはそれでいいよ?」

固唾を呑んでオレを見つめていた二人が、歓声をあげた。



「さ、たーんと食べていきな!」

「「「わあ~!」」」

テーブルにずらりと並べられたのは、見た目も美しい大量のクールサス料理。

「食べたことないんだよね?まずはクールサスの味を確かめてみて」

勧められたのは、一口大のステーキ。見た目が明らかに鳥肉じゃない…色が薄めの牛肉って感じだ。

ぱくり、と口に入れて驚いた。

「おいしい…こんなに柔らかいの?!」

「そう、これがクールサスの特徴なんだ。脂肪分が少ないのにとろけるような柔らかさ!不思議だろう?頑丈な羽毛と外皮に守られて、お肉はこんなに柔らかくジューシーになるんだよ」

そう言えばワニも外皮は硬かったけど中は柔らかかった…それにちょっと似てるかもしれない。でも、ワニよりずっと繊細な味がする。


「うめえ!あれもそれも全部美味い!」

「本当だね~!僕このお肉柔らかくて好き~!」

「なんだい、もうちょっと参考になる感想を出しちゃくれないかい?」

何を食べても美味い!しか言わない二人に、キルフェさんはそんなことを言いつつ嬉しそうに水をついでいる。

よーし、オレはちゃんと感想を言おう!

たくさん食べられるよう、少量ずつ盛られた試作品に向き合うと、まずは匂いから…そして一つ食べるごとにお水でお口をリセットしつつ、真剣に味を確かめていく。

本当、どれもすごく美味しい!特にムニエルは表面がカリッとして中が崩れるほどに柔らかく、形が残るぎりぎりに煮込まれたスープ煮は、ハーブの爽やかな風味と相まって身体の調子が良くなりそうな気さえする。茹でて冷水で締めた角切りのクールサスは、少し弾力が加わって面白い食感で、カラフルな酸っぱいソースが良く合っていた。

ひとしきり丁寧に味わったら、ふう…と一息ついてフォークを置いた。

「…………」

「……ごちそうさまでした。どれも、美味しかったです」

じいっとオレを見つめていたプレリィさんが、ホッと肩の力を抜いたのが分かる。

「えっと、参考になるか分からないけど、せっかく試食ってことだから…。すごーく美味しいんだけど、これだけだとちょっと物足りない人もいるかも?脂っ気が少ないから…でもそこがいい所だから、子どもやお年寄りにはすごくいいと思う!バターたっぷりのムニエルは油も補えていいなって思ったよ」

「ふんふん…そうか、僕たちはあっさり目を好むから…確かにニースたちみたいな若い子は濃い味の油たっぷりが好きだもんね」

「うん!あと、シャッキリ固めの素材が少し入ってたりすると、柔らかさが強調されていいかも…」

「ははあ!なるほどね。柔らかさを出すことばかり考えていたね、いけないいけない」


「………なんだいあの子…宮廷料理人か何かだってのかい」

「ユータはお料理好きなんだ~」

「ちょっと変だから気にしないでくれよ!」

タクト、聞こえてるよ!ちょっとお料理が好きな幼児がいてもいいじゃないか…。

あと、これだけはプレリィさんに聞いておかねば!

「あのね、オレのいた国もあっさりしたお料理が多いんだけど、こういう…おだしとか、プレリィさんは使う?」

よいしょっと収納から昆布(?)だしとかつお(?)だしの壺を出してきて、味見してもらう。

「おお…いいね!このだし、気に入ったよ。僕たちの好みにも合ってる!!これどうやって手に入れたんだい?」

「自分でだしをとったんだよ!このだしとクールサスも相性良さそうでしょう?お肉では普通作らないけど、このお肉なら…えびしんじょみたいにおだんごにしてお吸い物にしてもいけるかも!タタキなんかも…んーちょっと怖いから火は通さないといけないか…」

「ほう…このスープは油が浮かないね!冷やしてもいけそうだ…うん、蒸して薄くスライスして…」



「あーあ、また料理バカに研究材料与えちまって…困ったもんだよ」

大盛り上がりのオレたちの横で、頬杖をついたキルフェさんが、やれやれとため息をついた。


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