第251話 きっとおいしい依頼だから

「あっ…ねえねえ、これ見て!」

3人でギルドの依頼を物色中、ひとつの目新しい依頼が目にとまった。どうやら依頼料が安いので、早朝の争奪戦では手に取られなかったようだ。

「ん?…クールサス肉か…えー安くねえ?」

「ホントだ~普通より安いんだね~」

クールサスは大きな飛ばない鳥さんで、俊敏な大型ダチョウみたいなやつなんだ。魔物じゃないので強くはないけど、気配に敏感で走るのが速いので、捕まえるのが難しい。

遠距離攻撃で仕留めるのが一般的なんだけど、障害物だらけの森の中にいる上、なかなかどうして頑丈な鳥さんで、魔法や弓の一撃なんかでは倒れてくれないそう。低ランク冒険者パーティでは難しい方の依頼なので、依頼料は高めのはずなんだ。

「そうなんだけど…依頼者のとこ!」

「あっ…鍋底亭!」

「プレリィさんだ~!」

そう、依頼者はこの間美味しい料理をごちそうになった、鍋底亭の店主プレリィさんになっている。

さっ!と3対の瞳が見つめ合う…

「…ってことは…!」

「この肉を持っていけば~?」

「「「美味しいものが食べられる(かも)!!」」」

オレたちは、ガシッと握手を交わした。



「こんにちは~!」

「はいよ!…おや?こないだのぼうや達じゃないか、どうしたんだい?」

依頼の詳細を聞きに鍋底亭を訪ねると、元気に顔を出してくれたのはキルフェさん。

「あのね、依頼を受けたんだよ!詳細は直接って書かれてあったから、来ました!」

「依頼?どれ…ああ、プレリィー!!」

間近で響いた大音量に、お耳がキーンとした。

「はいはい…近くにいるんだからそんな大声で…おや?君は…冒険者だって言ってた子だね。人族っぽいけど違うんだっけ?」

プレリィさん!間違って覚えてるから!

「ちがうよ!!オレは人族の、5歳って言ったよ!」

「ああ、そうだっけ!冒険者ってのが冗談なんだったかな?」

「ちがう~!人族の5歳で、冒険者なの!!」

「で、すげー強いんだぜ!……って話もしてたぞ!」

プレリィさん…お料理以外はやっぱり残念なオーラが漂ってるよ…。

まあまあお入りよ!と背中を押されて店内に入ると、幾分以前より散らかったような印象だ。

「悪いね、今取り込んでるとこでさ」

「森人の仲間から頼まれてね~おもてなしのお料理を研究中なんだよ。それで?今日は何を食べたいんだい?」

ふわっと微笑んだプレリィさん。思わずあの美味しいお料理を思い出して、よだれが滴りそうになるのを押しとどめ、オレたちは用件を伝えた。


「え?君たちが依頼を受けてくれたの?…うーん…でも、危ないよ?森にはクールサス以外の魔物もたくさん出るんだから…」

「俺たち、普通に森の依頼も受けてるぞ!」

「この子達、この間の依頼でもブルーホーン倒したって言ってたじゃないか」

「そうだったかな…?僕は料理のために欲しいだけだからね、無理はしてほしくないんだ。何かの依頼の片手間にでも達成できる人がいればと思って、値段設定も下げてあるんだよ…」

「ま、それ以上出す余裕がないってのもあるけどね!」

はっはっはと豪快に笑うキルフェさん…笑ってる場合じゃないよ~こんな美味しいお店がなくなったら嫌だよ?!

「無理はしません…って依頼者さんに言っちゃうのもどうかと思うけど~それでもいいですか~?」

「俺たち結構慎重派だからさ!任せてくれよ。美味い飯食いてえし!!」

慌ててタクトの口を押えたけど、時既に遅し…

「あははっ!僕の料理に釣られて来てくれたのかい?それは嬉しいね!じゃあ、もし依頼達成できたら美味しいものを作らなきゃね!…うん、無理しないならいいよ。忘れないでね、お料理のために怪我してまで獲物を持ってくる必要はないってこと」

「「「はーい!」」」


オレたちは調理用ってことで諸々の注意点を聞いてから、森へ向けて出発した。

「さて、いきなり来たものの…みんな、作戦あるのか?」

「もう…タクトはないんでしょ~?」

「えーと、見つけさえすれば仕留められると思うけど…」

速さ自慢ならシロもいるし、オレの魔法は威力が高いらしいので、多分仕留められるだろう。

「俺たちが食う分もいるからさ、できればいっぱい捕まえたいな!」

「そりゃそうだけど~」

『美味しいお肉の匂い、探す?鳥さんっぽいのを探せばいいんだよね?』

「今回は闇雲に歩いても見つけられそうにないし…ユータ、シロに頼ってもいいかな~?」

「うん!お料理のために必要なんだもん、オレたちの索敵を磨くのはまた今度にしよう」

索敵で危険度の低い鳥さんを探すのは、難易度が高すぎる…オレのレーダーならある程度分かるけど…ここはシロが適任だね。

真剣な顔であちこちを嗅ぎまわったシロが、やがて空中で鼻をひくひくとさせた。

『うーん、これかなぁ…違うかもしれないけど、行ってみよう?』

カサリとも物音をたてずに進む白銀のフェンリルを追って、オレたちは必死に気配を消して走った。


『もう声を出しちゃダメだよ?ほら、あそこ…』

「!!」

いた…!!それも、2羽!実際に目にすると、想像以上に大きいんだな…これ、蹴られたら普通に致命傷な気がするけど…。

どうする?と目と目で見つめ合う。

『ユータに1羽任せて、ラキとタクトで1羽担当するって、ラキが言ってるよ』

おお、ラキ賢い!ラキは念話できないから、極小ボイスでシロに拾って貰っているようだ。

オッケー!と大きくマルを作って返事したものの…オレ、いつも一人じゃない?パーティ連携とは…。

『ユータは一人パーティだからいいんだって!』

オレの考えはラキにはお見通しらしい…。

『じゃあ、ぼくがせーのって言ったら攻撃ね。いくよ~、せーーのっ!』

「―――ウォールっ!」

「はあっ!!」

「アイスソード!」

オレが放ったのは、アイスランスの極太バージョン、クールサスの細い首なら一撃必殺だ。

一方ラキ&タクトチーム、ラキが選んだ魔法は土魔法のウォール。突如としてクールサスの周囲3方向を阻む、土の壁が出現した。脱出経路を塞がれたクールサスが戸惑った瞬間を逃さず、一気に間合いを詰めたタクトが剣を振り抜いた。

「っしゃあ!」

どう、と倒れた2羽の巨鳥に、タクトが拳を突き上げる。

タクト、また強くなったんじゃない?細いとは言え、頑丈な骨もあるのに…見事に分断されたクールサスの首に、オレは少し驚いた。

「へへっ!どんなもんだよ!俺ら、もう一人前じゃねえ?すげーよな!」

「一気に2羽手に入ったのは大きいね~!これだけ大きいと十分なんじゃない~?」

「よっしゃ!帰ろうぜ!飯作ってもらう時間がいるもんな」

普段なら中々帰ろうとしないタクトがいそいそと帰ろうとするので、オレたちは声を上げて笑った。


どんなお料理になるんだろう…そもそもクールサスはどんな味なのかな。

ワクワクしながら森を抜けようとした時、ガサッと目の前にシロが走り出てきた。

「シロ、お散歩はもういいの?」

『うん!これ、ぼくたちの分!』

にこーっと嬉しそうな顔で示したのは、宙に浮かぶクールサス2羽。どうやらシロの分には足りないと思ったらしい…あくまで依頼で、できたお料理を味見させてもらうだけなんだよ…これだと普通に注文しなきゃいけないね。

「お、さすがシロ!これなら腹一杯食えるな!」

「さすがにそれは~…でもいいか、依頼料で支払って作ってもらうのもいいかもね~」

シロは嬉しそうにぶんぶんと尻尾を振った。



「えっ…?もう達成したの?今朝依頼出たところでしょう?本当に?それでクールサスはどこに?」

「えーと、収納袋に入れてあるのでここでは…」

さすがに4羽のクールサスをかついで行ったら目立つことこの上ないので、解体専用の広場でこそっと出させてもらった。

「…本当だわ。どうやって…ううん、依頼達成おめでとう。鮮度のいいうちにプレリィさんに持っていってあげて」

受付さんは、にっこり笑って頭を撫でてくれた。

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