第229話 冒険者仲間

「ふわぁ~…よく寝……てたらダメじゃん!!」

テントの中で、ガバっと起き上がったオレ。あれっ?!明るいよ?見張りは??交代は?!

ぐっすり寝たオレは、明るくなった周囲に慌てて飛び出した。

「ごめんね!交代……」

『ゆーた、おはよう!みんなよく寝てるよ~』

『見張りは大失敗ね』

―異常なしなの!

すっかり火の消えたたき火の側で、シロに包まれてぐっすりおやすみになっているのは、先に見張りをすると言った二人…と、チュー助。

『きっと気付けば魔物のお腹の中ね』

モモがくすくす笑いながら、起きない二人の頭の上で飛び跳ねる。

…オレたち……ちゃんとした冒険者になれるのかなぁ…。



「ん、んんー!あふぁ…いい匂いがする…」

「ふぁ…あ、あれ…??」

『…ハッ!いい香り!!主~今日のごはんなに?』

寝ぼけまなこをこすりながら伸びをするタクトに、今ひとつ状況を掴めていないラキ。そして匂いにつられてがばっと起きたチュー助。

「二人とも、おはよう!もうすぐごはんできるよ!」

朝ごはんはごくシンプルに、パンとハムエッグ、サラダにスープだ。みんなよりちょっと早起きだったから、スープは少し手間をかけて、かぼちゃっぽい野菜のポタージュにした。じっくり炒めたタマネギの甘みが美味しい、あえて裏ごししないとろとろポタージュだ。朝にいただく、こっくりとしたポタージュって、しみじみと優しくて、とっても美味しいと思うんだ。

「ぼ…僕寝ちゃってたの…?!うわーいつの間に…ごめんね~!」

「あれっ?そういや俺見張りだったわ!悪い悪い!!シロに寄っかかってると気持ちよくてダメだな…安心するしなぁ…」

『二人とも途中まで頑張って起きてたよ!チュー助はすぐ寝てたけど』

『えーっ!俺様も頑張ってたぞ!目を閉じてるように見えてだな、集中力を高めていただけだ!』

『え~そう?ぷ~すぴ~って言ってたよ?』

『うっ…それはその…』

「ほら、チュー助も顔洗ってごはんにしよう。みんなお疲れ様、ありがとう!おかげで無事に過ごせたよ!朝ごはん食べたらゆっくり寝てね?」

返事をするのが早いか食いつくのが早いか…既に朝ご飯に夢中になるシロたち。見張りだった二人も申し訳なさそうに席に着いた。

「ユータ、ごめんね~朝ご飯任せちゃった~」

「サンキューな!美味そう~!」

「ううん!俺も寝ちゃってたもん」

まだ少し肌寒い早朝の空気の中、大きいスープカップを抱えてふうふうやる。木のさじにひとすくい、ぱくりとやれば、濃厚な甘みに思わず頬がほころぶ。

「あぁ~美味い」

「あちち…ホッとするね~」


飲み干したスープカップの底までパンで拭って、ぴかぴかに食べ終えると、名残惜しいけどテントの片付けだ。

「う~…今後どうしよう…寝ちゃってたですまないよ~」

「眠くならない魔道具とかねえかな…」

「子どもの冒険者は野宿しないのかな…みんなどうしてるんだろう?ギルドで今度聞いてみる?」

子どもの身体はなかなか思うように言うことを聞いてくれない…それでも緊張していれば違うだろうけど、どうしてもシロたちがいるっていう安心感をもってしまうんだろうね…。

「ユータはさ、いいんじゃねえ?だってユータの召喚獣たちなんだし、代わりに見張りできるなら何の問題もないじゃん」

「そうだね、ユータは召喚獣と離れることはないだろうし、いいと思うよ。問題は僕たち…他のパーティに入れてもらってもこれじゃあね…。ユータに甘えてる所も多いし、僕たちこそ積極的に他のパーティと過ごさないと、冒険者としてやっていけなくなりそうだよ~」

楽しかったけど、初めての野宿は大きな反省点を残して、オレたちは少ししょんぼりとギルドへ向かった。普段よりは大分早めの時間なので、ギルドの依頼に目を通しておくんだ。


……爽やかな朝をかき消す、熱気溢れる依頼掲示板前。うだつの上がらなさそうな男たちが、押し合いへし合いして依頼を吟味していた。下のランクの冒険者は数が多いので、どうしてもこうなってしまうけど、もっと上のランクになると、この押しくらまんじゅうに参加することはなくなるそうだ…澄ました顔で高ランクの依頼をサッと取っていく…いいな、かっこいい!

押しくらまんじゅうの人達に人気がありそうなのは、やっぱり討伐系みたいだ。それが報酬高めで一番手っ取り早いんだろうね。

「うーん、護衛とかやってみたいけどまだまだランクが低いもんね~見た目が子どもだし、ランクだけでも上げないと何もさせてもらえないよ~」

「だな…とりあえず、まだまだランクを上げねえと話にならないってことだよな…よし、各自ランクアップに励もうぜ!」

相変わらず、一番ランクを上げにくそうなタクトが一番張り切っている。他パーティに入れてもらって経験を積むのが一番ランクアップに効果的だと思うけど、剣士はかなり多いから…フリー枠登録していても声がかかりにくいんだ。魔法剣士だとまた違うのかな…。



「…あ。ユータ?」

「お、どうしたんだ?ここで会うのは初めてじゃねえ?」

「あらら?!ユータくんおはようー!!」

聞き覚えのある声に振り返ると、『草原の牙』の面々が揃っていた。元気なルッコにニース、リリアナの目はやっぱり半分だったけど、一応オレを見つけてくれたようだ。

「おはよう!あのね、依頼を見に来たんだよ!オレたちFランクになったんだ!」

ずざっと後ずさる3人…相変わらず見事なシンクロ率だ。

「ひいぃ…早い…早いよぉ…」

「狼狽えるな!俺たちだってもうすぐCランクになれる!きっとなれる!」

「…Cでも追いつかれたり…」

戦々恐々とする3人は、どうやらしばらくはハイカリク拠点でCランクを目指すらしく、まさに渡りに船だ。


「あのね、オレたちもランク上げたくてフリー枠登録もするの。…それでね、もし都合のいい時があったら、一緒に行ったりすること…できる?」

「そりゃ願ってもないな!ユータならいつでも大歓迎だ!!索敵できるやつなんてどこも引っ張りだこだろう?他の子はどうなんだ?この間会ったっきりだからな、何ができるか知らねえけど…でも本登録できたんだろ?それなら大丈夫じゃねえ?経験もいるもんなぁ!」

「ありがとう!ラキはね、魔法使いで加工師なんだよ。すごく器用だし魔法も色々使えるよ!タクトは、魔法剣士なんだ。戦力が必要なときに、一緒に連れて行ってくれたら嬉しいな…結構強くなったんだよ!」

「お、おう!その、頑張るんで…先輩、良かったら指名もらえたら嬉しいっす!」

「ユータの知り合いなら安心~!ラキです、もし良かったらお願いします~」

二人は少し緊張の面持ちで、ぺこりと挨拶する。

「やーんカワイイじゃない!いいともいいとも!お姉さんに任せなさい!ちゃんと教えたげる!」

「おう、ユータの友達だしな!先輩として頑張らなきゃな!」

「有望株、大歓迎」

先輩と呼ばれて嬉しそうな3人。どうやら歓迎してくれるようで一安心…この3人なら絶対悪いようにはされないだろう。

「じゃあさ、今度ゴブリン討伐とか受けてみよっか?どのくらいできるか見てみないと危ないしね!」

「討伐!やった!!」

ルッコの提案に、タクトは飛び上がってガッツポーズだ。良かったね…念願の討伐依頼を受けられるようになるね。

…でも、討伐ってあんまり楽しい物じゃないと思うけど…。タクトはあれの何が楽しいんだろうな…。

しかも、ゴブリンって食べられもしないのに…。ゴブリンの村での討伐を思い出して、オレはちょっと憂鬱になった。


でも、何はともあれ、ランクアップに向け、オレたちには頼もしい仲間ができたようだ。




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ついに「もふしら」書籍の発売が開始されました!!

戸部先生の描かれるイラストが、もう…とーってもかわいいので、ぜひご覧下さい!

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