第226話 お買い物

「「「かんぱーい!」」」

ゴッゴッゴ……ぷはーっ!!

オレたちは真昼の喫茶店でジョッキを飲み干すと、重たいそれをゴトン!と置いた。

「なんかさ、こういうのっていいよな!冒険者って感じする!」

「そうだね~!大人っぽいよね~!僕たち、2年生になったんだね~」

「お酒が飲めるようになるまで、ちょっと遠いけどねー」

もちろん飲んでいるのはノンアルコール…ジュース。それでも…そう、それでも!こんな風に乾杯して、こんな風に飲む!それが大事なんだ!!例え大人椅子に座った足が、床に届かなくったって!!

お店のあんまり冷たくないジュースは、オレとラキでキンキンに冷やしてある。冷たい液体が喉を通り抜ける、それだけで「くーっ!」ってなるんだから、お酒なんか呑めなくても、もうそれで十分だ…十分だとも。

今日2年生になったオレたちは、ちょっと大人になったつもりで、えへへ、と締まり無く笑い合った。


「それでさ、ウチちょっと厳しいし、これからは本格的に冒険者として動きたいんだけど…二人はどう?」

「ウチも厳しいぜ~、オレの稼ぎで学校の分と父ちゃんのつまみ代ぐらい渡せたらいいんだけどな-!俺は元々冒険者になるつもりだからな!いつでも本格的に動くぜ!」

「オレも!あのね、オレ、あんまりこの国のことも知らないし、ほとんどロクサレン地方のことしか知らないから、お休みがとれるならあちこち行ってみたいなって思ったんだ」

「いいね!あちこち渡り歩くなんて歴戦の冒険者っぽい!修行の旅だな!」

「見聞を広げるってやつだね。特にユータにはいいと思うよ~!それにユータ、勉強もできるじゃない?試験さえ通れば授業は免除されるよ?僕はちょっとそこまで無理だけど、ユータはそれでかなり自由に動けるんじゃない~?」

そっか!それはいいこと聞いた!さすがに小学生の試験くらいなら大丈夫。こっちの世界のことはしらないけど、それでも小学校低学年レベルのことなら、教科書さえ読めばそう苦労することはない。

「本格的に動くならさ、俺達もそろそろ野営の準備とかしとかねえ?それでさ、近場で練習しようぜ!」

「わあ~やろうやろう!薬草の依頼でもいいよ、お外でお泊まりしよう!!」

「そうだね~絶対に今後必要になってくるもんね~!パーティ資金も大分貯まったし、色々揃えていくのもありかもしれないね~!」

「「賛成!!」」


善は急げと、さっそく街へ繰り出したオレたち。

「道具って何がいるかな~?」

「お鍋とかボウルとか…そうそう、おたまもいるよね!耐熱のお皿も欲しいな」

「それ冒険の道具じゃないじゃん…ほら、アレ欲しい!多機能テントだってよ!カッコイイじゃん!」

ひとまず冒険者御用達の大きな道具屋に来たものの…あれもこれも欲しくて目移りしちゃうな。

お鍋や器類は土魔法でつくれるけど、道具としてあった方がなんだか様になるしカッコイイ気がする!自分たち専用のコップとかお皿なんていいじゃないか。カトラリー類やキッチンツールも絶対ほしい!オレが作ると不格好だし、ラキが作ると凝り出すから時間がかかるんだよ。

「…おや?黒い髪の子ども…?」

店の奥で何やら忙しそうにしていた、恰幅のいい商人さんが、ふとオレに目を留めた。なんだろう、と首を傾げると、重そうなお腹を揺らしてこちらへやってくる。

「ユータ、知り合い~?」

「ううん…知らないと思うけど…こんにちは?」

「はいはい、こんにちは。きちんと挨拶できるいい子だね。ちょっと尋ねたいんだが…君はマウロを知っているかな?」

「マウロ…?しりません。」

「そうか…いや、ありがとう。もしやと思ったんだけどね。黒髪の男の子に借りがあるって言ってたもんだから…商人たるもの貸し借りはキチンと精算せねばね」

―ユータ、あの人じゃないの?馬車に乗ってて、一人で逃げた人。

さすが大きなお店の商人さんは違うなぁと感心していたら、ラピスからそう言われて思い出した。確か、ウミワジの時、馬車に乗ってた商人さんがいたなぁ。ハイカリクの大店の主人に何か渡してくれって言われたんだっけ…?

収納をごそごそしたら、やっぱりあった!

「あのね、マウロってこれくれた人?」

「うん?……おお!やっぱりそうだったか。黒髪の子なんて初めて見たから、そうじゃないかと思ったんだよ。君だろう?不肖の弟子に活を入れてくれたみたいで、私も感謝していたんだ。ほら、これを見せれば、私の店での買い物は値札より安くしてあげよう」

オレ、活を入れた覚えなんてないけど…。商人さん…もといここのオーナーさん?は、オレに割引券らしい木札を渡してくれた。

「えっと…オレ、なにもしてないけどもらっちゃっていいの?」

バカ!もらっとけ!なんて小突くタクトは気にしないことにして…。

「もちろんだとも。君たちもこれから冒険者になるんだろう?気に入ったものがあれば、宣伝してくれるとなおいいよ!」

ほっほっほ、と笑う商人さん…さすが大店のご主人!太っ腹~!


「ユータ、やったね!!買い物すませる前で良かった~!」

「ラッキー!!これで色々買えるな!」

ほくほく顔の二人。ちょっと気が引けるけど、多少の割引をするぐらい、あの主人には痛くもかゆくもないのだろう。その代わり、ちゃんとここで買ったって宣伝するからね!

「まずはデカイものからいっとくか?後で金が足りなくなっても困るしな!」

「ってことはテントだね~?」

「テント!さっきタクトが見てたやつ、あれがいいな~多機能テント!」

「カッコイイよな?!補助シールドシステムとかさ、小型魔物迎撃システムもあるんだぜ!」

「二人とも値段も見てね~?」

テントを選ぶのってわくわくするよね!この中で夜を明かすって考えたら、楽しみで仕方ない。防水機能はいるよね!できたら床が分厚いのがいいな!迎撃システムは…見た目がカッコイイからいるよね!!

「…僕思ったんだけど、これ設置するとして……。ねえユータ、冒険に行ってこれを設置するって想像してみて?はい、もうすぐ夜なので、ここらで野宿することにしました!まずは…?」

「?うん…まずは…」

テントを張るなら平らな所じゃないとね。虫も上がって来にくいように、少し高さを上げて平らな地面を作るかな。それでテントを張るでしょ?あとは…雨が降ったら困るから屋根を作って、魔物が来たら危ないから周りを囲んで……

「やっぱり~。」

「…それ、テントいるか?」

ふうーっとため息をついたラキ、呆れ顔のタクト。気付けば想像の中で、森をさまよっていた時のような簡易ホームを作っていた。簡易ホームの中にテント…確かにいらない…。

「で、でも!テント欲しいよ!テントの中にお布団敷いて、ランプをつけてさ、みんなでお話しようよ!おやつをつまみながら夜更かしするの!」

「いやいや、テントに入るのは交代制だぞ?見張りがいるだろ?そんでテントに入ったらすぐ寝ろ!」

「どこの冒険者が布団持って歩くの~」

ええー…オレの理想の冒険生活が…しょんぼりだ。

『ゆーた、ぼくが見張りしてあげるよ?だから、みんなテントでお話してていいよ?』

「シロ~!」

どこまでも優しいシロに、ぎゅっと抱きついてさらさらの毛並みをすりすりする。

「あーそうだな、ユータは召喚士だもんな…シロたちが交代で見張りしてくれたらすげー助かるけど…」

「きゅ!」

―ラピスたちもいるの!警備と巡回は任せるの!

「ラピス!ありがとう~!」

『お、俺様だって!主、俺様も見張りできる!安心して任されよ!』

「「「えーっと…それは遠慮しようかな…」」」

『どうしてぇー!?』

わぁん!とシロにすがって泣くチュー助。ご、ごめんって…で、でも…さすがに任せられないっていうか…。

『チュー助はぼくといっしょに見張りしよう!ね?』

『う、うん…シロぉ…お前はいいヤツだ~!』

べろりん!と足から頭の先までまとめて涙を拭われたチュー助。いつの間にか二人、仲良いよね。


「…で、とりあえず他人の目があるところで使うこともあるだろうし、テントひとつは必要だとして…安いのでいいね~?」

「「…はーい…」」

多機能テント…格好良かったけどなぁ…。


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