閑話 星の子

※本編に関係の無いお遊び閑話です。





「ゆーた!たすけて~」「つれてきたの」「かわいそう~」

ロクサレン家で試作のお料理を作っていたら、妖精トリオがやってきた。助けてって…何かあったの?!

「えっと、このこがたいへん」「たすけてあげて?」「とじこもっちゃったの」

妖精たちが抱えて来たのは、ほのかに発光する親指大の…石。

「…助けるって…??石を?」

「ちがうの!いしじゃないの」「ほしなの」「ほしのこ!」

ほし…?あ、星?この石は星の子って言うのかな?きれいに光る石だからかな?

「それで、このい…星の子がどうしたの?」

とりあえず重そうなので受け取って眺める。ほのかに透けるように発光する石は、とてもきれいだけど、それだけだ。

「ゆーたのまりょく、そそいで!」「じぶんでとじこもったの」「でてこないの」

「うーんと、よく分からないけど、魔力を注げば良いの?」

首をひねりながら、そっと石に魔力を注ぐ。石はさらに輝きを増して…

「わっ?!」

突然ぶわっと光ったかと思うと、手のひらから石の重みが消えた。

「あったかい…だあれ?私、もう一人にしてほしいの…」

そこにふわふわと浮いていたのは、妖精さんたちより少し大きいフクロウサイズの女の子。女の子と言っても見た目は13歳前後、かな?オレよりずっと年上のお姉さんだ。

『…かわいい女の子の精霊を見て、どうしてあなたはフクロウを思い浮かべるの…?』

呆れたモモの声に、目をぱちくりする。

「精霊さん?石の精霊さんなの?」

「ちがうよーほしのこ!」「きょう、ほしのたいせつなひ!」「しっぱいしたのー」

星の子は悲しい顔でオレを見た。泣きはらした赤い目が痛々しい。

「……ええ、失敗したの。私、もう会えないの。今日、やっと会えるはずだったのに…」

ポロポロと零れ出す小さな涙。切なげに泣く星の子に、オレはおろおろしてしまう。

「えっと…良かったら話を聞くよ?お話するだけでも楽になったりするから…ね?甘い物もあるよ、ちょっと元気が出るかも知れないよ」

キラン!と妖精トリオの目が光り、ピクッと星の子の肩が震える。

「ゆーたのおかし!」「あまいの!おいしいー!」「たべる!たべるー!」

大喜びする妖精トリオをおさえつつ、妖精さんやラピスたちサイズに焼いてあるクッキーを取り出すと、生命魔法入りのお水を沿えて並べる。


「おいしい…」

星の子はしばらく夢中でクッキーを貪り、お水を飲んでホッと一息ついた。どうやら気分も少し上向きになったようだ。

「それで、どうしたの?オレが力になれることがあったら教えてくれる?」

「ううん…これで十分。あのね―」

星の子は、寂しげな表情で話し出した。


地上で生まれた星の子が、本来の住処へ帰り、運命の相手に会いに行ける日、それが今日…。この子も他の星の子と共に、いっせいに空へ飛び立ったのだそう。はるか空の彼方にある、星の子の住まう場所へ。

「星の子はみんな、地上でいっぱいに光を貯めて…きれいな星になってお空へ帰るの。そしたら、私たちの世界で運命の相手に会えるの…私の運命の人は、もう向こうにいるって感じるのに…」

喜び勇んで帰ろうとした時、雨が降りだした。それでも、皆が懸命に乗り越えようとした時…

「魔物の群れが来たの。精霊の力を食べちゃうアヴォードって怖い魔物。みんな一斉に光の雲に隠れたんだけど…。雷が…。私、雷に打たれちゃった…貯めた光、全部吹き飛んじゃって…」

それで地上に落っこちて、絶望して引きこもっていたらしい。空はまだ曇天…アヴォードもまだ上空にいるらしい。

「でも…星の子たちはいつもどうやってアヴォードを越えていくの?」

「いつもは、そんなに来ないから、光の雲に隠れながら行くって教えられるの。でも…あんなにいっぱい…取り囲まれてるから、逃げられないと思う。みんなが一斉に飛び出せば、何人かは行けるんじゃないかな。…でも、私は行くこともできない…例え行けてもあの群れじゃあ…」

星の子は膝を抱えてしくしくと泣いた。うーん…助けてあげたいけど…そんなはるかお空の上じゃあ…どうしたらいいんだろう。


―めそめそしないの!!簡単なの!強くなってみんなを助けに行けばいいの!精霊は、エネルギーなの!輝きがないのはこの子が意思を失ってるからなの!

どん!と効果音が現れそうな勢いで、テーブルに前肢をついたのは…ラピス。実際は、たし!って感じだけど。

「む…無茶言わないで!私、なんの力もないのよ?戦ったこともないし、ただ光るだけ。」

―その手は、足は、飾りか?!なの!思いひとつで輝けるのが、星の子なの!!1年間、貯めるのは「思い」なの!!星の子、名前!

「えっ…え?あの…その、シャナナ…」

―シャナナ!お前の思いはその程度か!なの!1年間、偲んだ思いはその程度でなくなるものだったの?!その程度なら地上でずっと暮らせばいいの!

「?!い、いやよ!会いたい…会いたいのよ!!ずっとずっと待ってたんだから!でも…でも諦めなきゃいけないって…そう思って…」

シャナナは泣きながら立ち上がった。

「会いたいよ!いるんでしょ?そこに…!会いたい!会いたいのよ!!どうして邪魔するのよ!!」

「わっ…?!」

ぶわっと圧力を伴った光がほとばしって、思わず手をかざした。

―そう、それでいいの!それでこそ星の子なの!

「これ…私の光?こんなに強く…」

そこには、バチバチといかづちを伴って燦然さんぜんときらめくシャナナがいた。

『すげー!カッコイイ!主ぃ!武器を作ってよ!かっこいいの!俺様のときみたいにイメージして!』

そうか、オレの魔力を流してある精霊だから…うまくいけばチュー助みたいに武器を具現化できるかも?戦いを知らない子でも使える、強力でかっこいい武器…

「あっ…ちょっと待って待って…」

つい浮かんでしまったイメージに慌てたけど、後の祭り。

『うおー!主ぃ!俺様もこれほしい!ほしい!!』

「こ、これは…??」

―ラピスが鍛えてあげるの。期限は今日の午後まで!死ぬ気でついてこいなの!!



「どうしよう…アヴォードが全然減らない…今日行けなかったら扉が閉じちゃう…」

「行くしかないよ…もう、間に合わなくなっちゃうよ…」

光の雲の中で、絶望に沈む星の子たち。取り巻くアヴォードは一向に諦める気配もなく、星の子達が意を決して顔を上げた…その時。

ダララララララ!!!

すさまじい音と共に、アヴォードの群れの一画が爆発した。

「な、なに?!」

包囲を破って突入し、光の雲を背にアヴォードに向き直ったのは…

「シャナ……ナ??」

その輝きは、まるで太陽のよう。溢れる光と、ほとばしるいかづちに、星の子たちは目を剥いた。シャナナは、こうだったろうか?

大人しく控えめだった彼女は、光の雲を振り返った。強い、強い瞳に、星の子たちが息を呑む。

その時、格好の獲物に向かって、アヴォードが一斉に動き出した。

「あ、あぶない!早く、中に!」

「みんな!運命の人に会いに行くんでしょ?!絶対に、帰るのよ!!しょぼくれてんじゃ、ないわよ!!」

ジャキ!両手に構えるは、2丁のサブマシンガン。

「邪魔よー!!」

再び響いた激しい連続音。圧倒的な弾幕は、アヴォードの群れを押しとどめ、面白いように撃墜していく。瞬く間に相当数を減らされて、たまらず後退していく群れに、シャナナは素早く両腰にマシンガンをしまい、背中へ手をまわした。

「私は!」

ジャキン!!背負っていたのは…ロケットランチャー。

「絶対!」

ぐっと腰を落として両手で構えると、群れのど真ん中に照準を合わせ、引き金を引いた。

「会いに行くんだから!!」

ド、シュウウー…

一瞬の間を置いて、広がった紅蓮の炎。

ドガアアアァン!!


「…さあ、帰りましょう!」

爆炎を背に、目を飛びださんばかりにした星の子たちに向かって、シャナナはにっこりと微笑んだ。



「ねえ、ラピス。あの子、ちゃんと帰れたよね」

―当然なの!ラピスが鍛えたの。星の子の途切れない思いがあれば、ユータの強い武器が存分に使えるの。絶対負けないの。

得意げな顔をするラピスを、そっと撫でる。

「…思い出したの?」

ピクリと震えた小さな身体。きゅ、と鳴くと、そうっとオレの顔を仰ぎ見た。

―……辛かったの。ラピスはあそこで、消えていくと思ったの。どうしたって帰れなかったの。…帰る力があるのに、諦めるのは…許せなかったの。

「うん、きっと感謝してると思うよ」

ちょっと耳を垂らしたラピスを、わしわしとなで回す。

あの森で彷徨ったまま、生涯を終えるはずだったラピス。それがどれほどの辛さだったのか、オレには分からない……でもその分、今を幸せに生きてほしいな。

ころころと転がって、嬉しそうにオレの手に絡むラピスを見つめ、オレは思いを込めて微笑んだ。






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七夕SSでした!閑話でできることが本編でできるわけではないのであしからず…。あくまでもふしら題材を使った違うお話と思っていただければ。

ちなみに銃のこととか全然知らないので雰囲気でお願いします!ユータも映画で見た雰囲気で具現化してます。引き金を引いたらこんな風に弾が出る武器!みたいな(笑)

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