第224話 味覚狩り?

「も~ユータ、心配したんだから!」

「お前ってホント時々突っ走るよなー!そういうとこもポンコツなんだよ」

ずーん…。学校に戻ったら戻ったで二人からもお説教をくらって、オレは朝から日陰を背負っている。ほったらかしにしていたムゥちゃんからも、怒りの葉っぱ攻撃を受けてしまった。ちゃんとムゥちゃん用にお水置いていたのに~。


「「…で、どうだったの?!」」

ずずいっと身を乗り出す二人。瞳はきらきら、鼻息は荒く……あー二人とも冒険に置いて行かれたみたいで怒っているのもあるんだな。ちょっとため息をついて考える…どこまで話していいものやら…。

でも、きっと二人が聞きたいのはカロルス様たちの戦いだろう。あれはすごかったもん…思い出したらオレだって興奮してくる迫力!身振り手振りを交えて吟遊詩人のように語ってみる。

「はあ~~やっぱすげーな、俺もいつか……」

ほう…と、恋するオトメの表情で遠くを見るタクト。

「うーん、やっぱりどんな依頼でも何が起こるかわからないね~これから依頼受けるときは、何でも甘く見ないで気を引き締めないと…」

ラキは今後のパーティでの活動と絡めて、真剣に考えてくれているようだ。小さな依頼から丁寧に…か。

力があっても使えなかったら意味が無い。小さな事から、経験を積んでいかないとなぁ…。

オレは、黙ってムゥちゃんのおでこをつついた。

「よーし!ユータも帰ってきたし、じゃあ今日は…」

「今日はさ~ちょっとゆっくりしようよ」

「なんでだよ?!」

「だって…ねえ?」

「ん……まあしゃーないか」

今日も授業の後、依頼を受けるのだと思っていたら、どうやらゆっくりする日になったみたいだ。なんとなく、依頼は気乗りしなかったのでホッとした。


「君たちももうすぐ2年生だねっ!みんなすっごい優秀で先生は嬉しいです!いやもうホントに!!…優秀すぎて魔法の授業、次何しよっかなーとか思わなくもないけど…。でもでも、1年生でほとんどの子が仮登録してるなんてないことだよ!2年生では冒険者として動ける時間も増えるから、みんなも本登録に向けて頑張ろうね!でも命を大切にね!」

メリーメリー先生はいつも元気だな。うっきうっきしながら話す様子は見ていて楽しい。森人ってみんなこんな感じなのかな?そういえば海人…ナギさんの所にも行くって約束してたな。

2年生になったら、冒険者登録する子や、学費のために働く子が増えるのに対応して、必要な授業の数はぐっと減る。長期のお休みをとることもできるし、どこか遠くに旅行なんていいかもしれない…。

「ユータ、行こう~?」

先生の弾む声をぼんやり聞いていたら、いつの間にかぞろぞろとみんな教室から出て行くところだった。

「あ…う、うん!」

えっと…次は教室移動だっけ?!慌てて立ち上がったら、ラキがじっとオレを見て言った。

「ねえ、今日は依頼お休みするでしょ?授業終わったら何して遊ぶ~?」

「うーん…みんなは街で何して遊んでるの?」

「僕たちぐらいになったら、何かとお手伝いする子が多いからね~あんまり遊ぶ時間はないんだけど…街の林で木の実拾いとか~川遊びかな~?どれも食べ物探しのついでなんだけどね」

ラキは苦笑した。そっか…みんな大なり小なり働いているんだね。まだまだ小さいのに偉いなぁ…。

昔は栗拾いとか、ギンナン拾いやったなぁ…だんだん夢中になっちゃって、気付けば崖の縁まで行ってしまったり。楽しかったな…たまにアケビとか見つけると嬉しくて。

「木の実拾いか…楽しそうだね」

「そう~?うーん、自分のおやつになる分を拾うのは楽しいかもね~?じゃあ、今日は街の林に行ってみる?」

「いいの?行ってみたいな」

生前の山を思い出して、少し笑ったオレに、ラキもにっこりと笑った。



「よーし!全力で集めるぞ!ユータ、集めた実でなんか作って!」

「う、うん…でもオレ…これ食べたことないの。甘いの?どうやって食べるの?」

「食べたことない~?おいしいよ!」

ラキはそう言って、足下の固そうな実を拾うと、えいっと半分に割った。ピスタチオみたいな固い殻の中には、黄色い干しぶどうっぽい実が入っていた。

全く未知の木の実に、首を傾げて見つめる。これを…どうやって食べるの?小さな黄色い実をつまんだラキに、あーんと差し出されるままにぱくっとお口に入れる。

「!わあ…おいしい!ちっちゃいけど美味しいね!」

黄色い干しぶどうは、柑橘系のドライフルーツみたい…爽やかで甘酸っぱくて、ごくほんのりとした苦みがあった。

「美味いだろ?これ集めてもってくとさ、エリの母ちゃんはおやつにしてくれたんだ!」

「そうなんだ!クッキーでもケーキでも美味しそうだもんね!うん、何か作れると思うよ」

「「わ~い!」」

そうと決まれば頑張って集めるぞー!天気は快晴!とはいかなかったけど、曇天の中にあってもオレたちのやる気は十分だ。

このミカナンの実は、美味しいけど剥くのが面倒で実が小さいので、庶民のおやつ向けらしい。今日は他に拾いに来ている人もいないようで、あっちもこっちも取り放題だ!

街の中にある林や川は、街で籠城戦になった時にある程度耐えられるように、少しだけ手を入れられた天然の食料庫だ。ミカナン以外にも食べられるものがそこここにあるらしい。

せっせと拾う間にも、小さな木の実は上からぽろぽろと落ちてくる。いいなあこの木…将来おうちを建てたりするなら、庭にはミカナンの木を植えて…

「へへっ!どうだよ!薬草は採れねえけど、こっちは得意なんだぜ!」

「わっ…タクトすごいね!もうそんなに集めたの!?」

「どうやって拾ってるの~?!」

楽しく将来設計(?)なんて考えながら拾っていたら、得意げなタクトのカゴは、既にいっぱいになりつつある。

「すげーだろ!あと2杯分は集めてやるぜっ!」

「集めたらタクトも殻剥きするんだよ~?」

分かってるってー!そんな声を残して走り去ったタクト。よーし、オレたちも…!対抗心を燃やしたオレたちは、狩り尽くす勢いでミカナンを集め始めた。


「あー腰いてぇ」

「採りすぎたよね~」

「あはは、たくさん採れたね!」

足を投げ出して座るオレたち。簡易テーブルの上には、ミカナンが小山のようになっている。

これ、集めるのはともかく、確かに殻を剥くのが大変だ…。

「うー…集めるのは楽しいんだけどなぁ…コレ全部剥くのかぁ…手が痛くなるぜ…」

「ある程度にしておいて、ユータの収納袋に入れておいてもらおうか~」

『皆さんお困りですかっ!そんな所へ!俺様参上!!』

シャキーン!

何してるの…?チュー助は得意気にミカナンの山でポーズをとっている。

「えっと…なあに?チュー助も手伝ってくれるの?」

『そうとも!主がちょっぴり俺様に魔力をくれたら…』

ね?ね?と上目遣いでもじもじとオレを窺うチュー助…仕方ないなぁ…。

『うおー!みなぎるパワー!はい、主、それ投げて!』

「え?これ?」

ミカナンを投げろと言われ、言われるままにチュー助に投げ渡す。と、いつの間にやら自分を模した短剣を手に握り、シャッと一閃。

「お、チュー助すごいじゃん!上手に切ってんな!」

『当然!俺様はお前の師匠だぞ!』

ふんぞり返って得意満面のチュー助がどんどん投げろというので、ポイポイとミカナンを投げるオレたち、どんどん処理するチュー助。うん、これは便利かも知れない。

『あ…主ぃ魔力~!』

ほどなくしてぴたっと止まったチュー助が、テテッと駆け寄ってきて、きゅっとオレの胸に貼り付く。

『主ぃ~はい、補給~!』

えー燃費悪いな~これ、オレも疲れるんですけど?!

なんとなく嬉しそうなチュー助に、困ったやつだなぁと思いつつ、適宜魔力を補給してあげるのだった。


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