閑話 水遊び
*もふしら閑話は、基本的に本編と関わりないお話です。
本編から逸れたくない方はご注意下さい。
「今日は暑いね~カロルス様も、どうぞ」
「お、ありがとうな」
差し出した陶器っぽいコップには、キンと冷えたミントティー。今日は随分と暑くて、カロルス様は鬱陶しそうに汗を拭うと、冷えたコップににんまりと笑った。
「お前がいるといいな!グレイはなかなかサービスしてくれねえからな」
今日のカロルス様は、伸びた髪を無造作に後ろでまとめている。はだけた胸元がどうにもセクシーで腹が立つ…。暑いけど、それほど蒸し暑くないこの気候、日本の高温多湿に慣れたオレにはどうってことない。魔法を使えば涼しいかも知れないけど、この程度なら暑さを楽しみたいとも思う。
元々山暮らしだもの、こういう気温の変化を感じるのも好きだ。ヤブ蚊だけは辟易するんだけどね…。
コップを額に当てて、あー、なんて言ってるカロルス様にくすりと笑って、オレもほてった頬にコップを当てた。あーホント、気持ちいい…頬を寄せたコップの中で、たっぷり入れた氷がカラリと音をたてた。
「あら、ユータちゃん。セデスが探してたわよ」
カロルス様とミントティーで涼んでいたら、エリーシャ様が入って来た。
「わあ、エリーシャ様、お姫様みたい!」
「えっ?そ、そう?!まあまあまあ~!」
ほっぺに手を当てたエリーシャ様が、すごく嬉しそうに顔を赤らめた。普段は下ろすか束ねるかしている髪が、今日は編み上げられてスッキリとうなじを出している。上気した頬も相まって、清楚ながらとても艶めいて見えた。このままイブニングドレスなんて着たら、さぞ美しいだろうな。
「…あなたも褒めていいのよ?」
「あ?…あぁ……えー…ちょっと細く見えるぞ?」
「な・ん・で・すっ・て?」
ワンモアプリーズ?怒りマークを浮かべてにっこり笑うエリーシャ様。つかつかっと歩み寄ると、わしっ!とカロルス様の額を掴んだ。繊細な白魚のような指が…
「いででで…!!んだよ!褒めただろ!」
ぎりぎりと万力のように締め付ける。カロルス様はデリカシーないからなぁ…でも、オレは知っている。エリーシャ様が入って来た時、ちょっぴり照れくさそうに目をそらしたのを。
素直にきれいだとか美しいって言えばいいものを…。
「セデス兄さんが呼んでたの?行ってくるね!」
なんだかんだと仲良い二人と一緒にいたら、こっちまで暑くなっちゃうよ。くすくす笑ったオレは、救いを求めるカロルス様の目を見なかったことにして、さっさと執務室を出た。
もう少し…もう少し…気配を殺して息を潜めて…オレはラピスの「気付かれにくくする魔法」全開で忍び寄る。階段の上から階下を眺めて、気分は樹上のジャガー、かな?
今だっ!
オレは何も知らずに階段の下を通り過ぎようとする
「?!っとぉ!」
もうちょっとで目標に到達!という所で、腰を落として素早く振り返ったセデス兄さんにキャッチされる。
「もう!ユータ、危ないでしょ?お外で僕が剣持ってる時にやっちゃダメだよ?」
「うん!セデス兄さん!オレにご用事?」
不意打ちならず…オレはにこにこしてセデス兄さんを見上げた。大丈夫!セデス兄さんが剣持ってる時はオレもシールド張ってやるから!
「用事でもないんだけど、村の方に出かけるから、一緒に行くかなと思って。砂浜なら水遊びしてていいよ」
「行くー!!」
わあーい!暑い時の水遊びほど楽しいことはないよね!!小躍りして喜ぶオレに、セデス兄さんもふわっと笑った。
「まあユータなら魔物が来ても大丈夫だと思うけど、他の人はビックリするからね?沖の方に行っちゃダメだよ?じゃあ、僕は用事をすませてくるからね?」
「はーい!」
セデス兄さんは、気をつけるんだよ?とオレの頭を撫でてから立ち去った。
「海ー!!」
ざぶざぶざぶ!!
きゃーっと波打ち際に突進すると、膝まで水が来た所でぼてっとつんのめった。
「しょっぱ!!」
頭から海に突っ込んで大笑いだ。鼻が痛い!塩辛い~!
『あなた…普通砂浜で水遊びって足をつけるぐらいのことを言うのよ?』
いきなりずぶ濡れになったオレに、モモが呆れた顔をする。水面にぷかぷか浮いて漂うスライム…ピンクのクラゲにしか見えない…。言ったら怒りそうだと、オレはそっと口をつぐんだ。
『楽しいー!ゆーた、楽しいね!!海、楽しいねー!!』
シロは沖に行っても魔物の方が逃げるだけなので、爆速犬かきで泳ぎ回っている。
『おうっ!シロ行けー!突き進めー!海は俺様のものだー!』
チュー助は水に入りたくないのか、もっぱらシロを船代わりに遊んでいるようだ。
「ピピッ!」
ティアは、海よりも砂浜がお好きな様子。はしゃぐみんなを横目に、あったかい砂でばふばふっと砂浴びして満足そうな顔をしている。なんだかこどもを遊ばせて温泉でくつろぐおじさんみたいだよ…。
―水上での展開っ!そうなの!水しぶきを味方につけるの!
「「「「きゅうっ!」」」」」
―次は水中での戦法っ!かこくな環境でこそ、せいえいが活きるのっ!!
「「「「「きゅーっ!!」」」」」
………うん、みんな楽しそうで良かった。
『ゆーたー!ゆーたも乗ってー!』
「えっ?乗っても大丈夫なの?」
『俺様が船長だ!キャプテ~ン忠介!!乗船を許可する!』
シャキーンのポーズでシロの頭に乗ったチュー助。…錆びないよね?
「わ~!シロすごーい!」
『ぼくすごい?!海、しょっぱいけど気持ちいいねー!すごく楽しいー!』
シロにまたがって海を突き進む!水に浸った足が、シャババババ!と海を泡立てて白い道を作っていく。
塩辛い水しぶきがざばざばかかるのも忘れて、きゃあきゃあと笑った。
―あっ…ユータこっち来ちゃダメなの!
「えっ?」
どぱーーーん!!
「わーーっ!?」
『わあーい!!』
『ぎゃーー!死ぬぅー』
『ちょっと!水しぶきがかかるじゃない!』
「ピピッ?!ピピィッ!」
砂浜で寛いでいたティアが慌てて退避する。ラピス部隊の演習に巻き込まれ、砂浜へ吹っ飛ばされるオレたち。
『あー楽しかったねぇ!わ、しょっぱーい』
くるっ、スタッ!と何事もなく着地したシロが、ぱくっとチュー助をキャッチしたものの、海水をたっぷり含んだチュー助が塩辛かったらしい。ぺっ!されたチュー助が砂まみれで横たわった。
『……』
無言でしくしくするチュー助が哀れだ。
そして吹っ飛ばされたオレはというと…
「…何がどうなったら海から吹っ飛んでくるわけ?」
セデス兄さん、ナイスキャッチ!
「もう~びしょびしょじゃないか。ほら、そっちで着替えよう。楽しかったかい?」
「うん!とっても!!」
きらきらと水滴をまとって、オレは弾けんばかりの笑顔を浮かべた。
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