第211話 オレにできること

「え…こども?」

「助けに来たんじゃ…ないの…?」

オレの姿を見て戸惑う3人。この木箱、普通に開けられるつくりになっていない…子どもを閉じ込めて運ぶなんて…もしや、オレの時みたいな人攫い…?!この街の闇ギルドは解体されたハズなのに。ひとまず、彼らを安全な所まで案内しなくては。

「オレは子どもだけど、冒険者だよ。街まで送ってあげられるけど…どうしてこんな所に?」

「こんなところって、どこ?ここ、どこ??こわいのは、もういない?」

「大丈夫だよ~もう何も怖いのはいないよ~!」

ひょいとラキも顔を覗かせる。子どもしかいないことで警戒を解いたらしい3人が、そろそろと箱から出てきた。しかし、出てみればほとんど全壊状態の馬車に、周囲は木々に囲まれた森…子どもたちはガクガクと震え出した。

「お、おとなのひとは…?もり…もりだよ…食べられちゃうよ!!」

「ばしゃが…ない…かえれない…」

「ウォウ!」

『大丈夫だよ、シロが乗せてあげるし、守ってあげるよ!』

「ひいっ!?」

しっぽを振って近づく巨大なフェンリルに、子どもたちが腰を抜かした。

『へい!大丈夫だぜ!俺様がついてる!このフェ…シロは大人しいから、乗せてやるって言ってんだぞ!』

『ほーら柔らかおねえさんよ!触ってもいいのよ!こっちへいらっしゃい!』

ぴょんと飛び出したチュー助とモモが、シロの頭に乗った。子どもの相手はこの二人が一番だ。ただ…モモの言葉は他人に聞こえないからいいけど…なんかその台詞はちょっと…。

『うん、ぼく大人しいよ!大丈夫だよ!』

スライムとねずみを頭に乗せて、しっぽを振りつつ、ぺたんと伏せたシロに、こどもたちも少し表情を和らげた。

「さあ乗って!森を出ようね。歩きながらお話聞かせてね?」


オレの召喚獣だと説明して、なんとかなだめてシロに3人乗ってもらったら、静かに森を抜けて街道へ。壊れた馬車の付近に怪しいヤツが戻ってこないか、ラピス部隊に見張りを頼んでおく。

「それで、お前らなんであんなとこにいたんだ?」

ゴブリンを一人でやっつけて、ご満悦のタクトが尋ねる。

「わかんない…。街にいたの…」

「ぼく、怖い人においかけられて、つかまったの。」

「まっくらな中で、まわりですごい音がして、こわい声がして…急にごろごろ転がったの。」

やっぱり、街で人攫いにあったようだ…バレないように森を抜けようとして、ティガーグリズリーに遭遇したってところか。子どもたちを置いて逃げるなんて…!シロが気付かなければ、ティガーグリズリーの餌食になっているところだ…。これは、ギルドにも調査してもらわなければ。

街道へ出ると、子どもたちはほっと表情を和らげた。

「もりから…でられた…」

「わんちゃん、ありがとう…」

「よかった…ううっ…こわかった、よ…」

泣き出す子にはモモが寄り添い、オレたちはテクテクと街道を歩いて街へ向かった。


「ん?んん??お前たち、増えてないか!?なんでそんな子どもばっかりの集団で外にいるんだ?!」

「ただいま!あのね、森でこどもたちを見つけたの。」

「人攫いにあったみたいだから、ギルドに報告してくるね~!」

「なんだって?!それで…君たちだけで森に?!」

色々と面倒そうだったので、驚く門番さんを置いて、ささっと街へ駆け込んだ。

「みんな、自分のおうちは分かる?おうちまで送るから、ちょっと報告する間待っててね。」

キィ…

ギルドに入ると、子どもばかりぞろぞろと連なって何事かと、注目を浴びてしまった。オレたちを代表して、ラキが受付けさんに事情を説明する。

「また人攫い…闇ギルドの関与がなくなって、減ったハズだったのに。最近また増えてるわ…。あなたたちも十分注意するのよ?こちらでも領主様に報告しておくわ。」

「あと、その壊れた馬車の所へ案内っていりますか~?僕たち、場所を覚えてます。」

「そうなの?!それは偉いわね…でもあなたたちを連れて行くのはどうかしら…ちょっと待っててね。」

二階のギルドマスターの所へ行こうとする受付さんに声をかけ、先に子どもたちを送らせてもらう許可を得た。一応、子どもたちの名前はギルドが控えてあるし、家に案内すればオレが住所を覚えている。怖い目にあった子達を早く安心させてあげたいからね。

ところが、順番に家を回って子どもたちを送り届けようとしたけど、どの家も留守…。

「…なあ、もしかしてみんな街を探し回ってんじゃねえの?」

タクトの言葉にハッとする。そうか、人攫いにあったなんて知らないから…。今度はシロの鼻頼りだ、家まで行って大体の匂いを覚えたら、一直線に街中を駆け抜けて家族の元へ。

「ままー!」

「!!」

ずっと探し続けていたのだろう…どの家族も憔悴しきった顔で、幼子を抱きしめて泣き崩れた。

良かった…。少し…以前のカロルス様を思い出して、胸が痛んだ。あんな思いをさせる人を増やしてはいけない。何か、オレにできることはないだろうか…。


「おう、お前か!お前……人攫いに関わって、大丈夫なのか…?」

どうやらギルドマスターはオレのことを覚えていたようだ。心配するごつい男に、にっこりと笑ってみせる。

「オレ、強くなったよ、大丈夫!だからね、子どもを攫うひとが許せないの。何かお手伝いできる?」

瞳に力を込めて見つめると、マスターは少し驚いた顔をした。

「いっちょ前のこと言いやがって…。そうだな、今は何も情報がない。ひとまず馬車の所まで…案内できるか?もちろん安全は保証するぜ!」

「俺たちだけでも行ってたんだぜ!大丈夫!」

「分かりました~!どなたと行きますか~?」

「途中までギルドの馬車を出す。あいつがついていくから心配いら……まあ、ひとまず魔物と悪人の心配はいらん。」

すいっと視線を逸らしたマスター。

「はーい!シルヴィアちゃんは準備万端よぉー!!行きましょうっ!」

ばーんと扉を開けて、くるくる回りながら入って来たのは…ジョージさん。シルヴィアって誰…。タクトが売られる子牛のような目をしてマスターを見た…マスターは決して視線を合わせない…。

オレはシャッと伸びた手にハッとして、反射的に避け…タクトが捕まった。

「んん~!タクトくんはきっと将来男前になるわぁ~!やだもう、ほっぺすべすべじゃなーい!」

生け贄となったタクトをそのままに、オレたちとジョージさん、他数名の職員でギルド用の馬車に乗り込んだ。

森の側まで馬車で行ったら、そこからは徒歩だ。やっと解放されたタクトは、魂が半分抜けたような有様だ…大人しくてちょうどいいかもしれない。森の中で、油断なく周囲を警戒するジョージさんは、ちょっと格好良くて、いつもこうならいいのに…って思わずにいられなかった。

「ここです!」

ラピス部隊にお礼を言って、そっと解散してもらう。どうやらここに来た者はいなかったようだ。

「本当ね…ほぼ全壊、襲ったのはティガーグリズリー、だったわね。自分たちが逃げ切るために子どもを置いていったか…外道め。」

ジョージさんがぐっと眉をしかめた。そうだね…あの熊、すごく足が速かったもの…。以前遭遇した時のことを思い出して、オレは少し身震いした。

「散開してちょうだい。何かあれば笛を吹いて。合図で集合よ。」

ジョージさんたちギルド職員は、何か手掛かりになるものがないか調査を始めた。そうなるとオレたちは馬車の中で退屈するしかない。

「これさ、俺らもう案内したんだし帰っていいんじゃねえ?」

「そう言えばそうだね~。交渉してみようか~。」

ジョージさんは子どもだけで帰ることに難色を示したけど、さっきもオレたちは子どもを護衛しながら帰ったわけだし、冒険者なんだから!ってことでなんとか納得してもらった。その代わり、ギルドに顔を出してから帰るようにと。


「なんか手掛かり見つかるといいな!」

「そうだね~僕たちも気をつけないといけないね。」

「人攫い…オレたちにできることって他にないかな?」

「もうできることはやったんじゃない?手掛かりが全くないと、街で痕跡を探すって言っても無理だし…攫われるのが子どもだからね~大人だったら、実力のある人がおと…あ…。」

「なんだよ?何か思いついた?」

「う、ううん!なんでもない。」

ラキはちらっとオレをみて、慌てて首を振った。



「タクト!!起きて~!どうしよう~!!」

「へぁっ?なんだなんだ?!…ラキか。おはよう、こっちの部屋に来るの珍しいな。」

ふああ、と大あくびするタクトに、ラキは泣きそうな目をして縋り付いた。

「ユータが、ユータがいない~!」

「なんだよ…ユータはよくいなくなるじゃん。どっか行ってんだろ。」

「でもっ!でも…僕が昨日余計なことを言ったから!」

「なんか言ったっけ?」

「言いそうになったの~!でも、ユータがやりそうだと思って言わなかったのに!きっと気付かれたんだよ!」

タクトは盛大に寝癖のついた頭で首を傾げる。

「だから…なにを?」

「囮だよ~!大人が対象の犯罪だったら、実力のある人が囮になって罠にかけることがあるから…でも子どもを狙うなら囮はできないもんねって!そう言おうとしたんだよ!」

「そりゃそうだ……ってまさか?!」

タクトががばりと立ち上がって、天井に頭をぶつけた。


「そうだよ!ユータだもん~!きっと…きっと囮になりに行ったよ!!」




―――――――――


昨日はなろうさんの方で閑話も投稿しています!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る