第210話 ひっくり返った箱
「うわあ~ユータ、ありがとう!」
『あれ…これだけ?俺様の出番、もう終わり?』
落ちてきた銀色甲虫に、頬ずりせんばかりに喜ぶラキ。タクトがドン引いてるよ…。
「いいけど、それ何に使うの?」
「これはね~とても加工に向いた甲殻を持つ、魔物なんだよ~!加工は容易く、加工後は丈夫っていう素敵素材なんだ~!これなら僕でもそこそこ自由に加工できると思うし、これでみんなのアクセサリー作ろうよ~!」
ちなみにこの虫、討伐の難易度は低いけど、数が少なくて見つけにくいし、飛んで逃げられることから、依頼はよく出るけれど依頼失敗になりやすい、冒険者泣かせの虫らしい。あと、きちんと首を落として倒さないと、質が悪くなるそうな…それでラキはあんなに必死だったのか。
「リングがいいかな~?でもお揃いのリングってなんだか恋人みたいだし…ネックレス?ブレス?イヤーカフなんてのもカッコイイかも~」
うふ、うふふ…
ラキがすっかり加工師モードに入ってしまった…うっとりとシルバーバグを見つめて笑う様は、なかなかに不気味だ。
「ラキまでおかしくなったら…俺たちのパーティーヤバいじゃねえか!」
うん?なんだねタクトくん、その、まともなのは俺だけじゃん?!って顔は。
『ラキ、どうしたの?ラキは虫が好きー?』
シロの嬉しそうな問いかけに、ラキがハッと我に返った!シロ、グッジョブ!
「ち、違うよっ!虫が好きなんじゃないの~!僕が好きなのは、角とかキレイな石みたいに、加工できる素材~!秘密基地で色々作ってるでしょう?ああいうのに使えるものが嬉しいんだ~!」
『そうなの!じゃあ僕も見つけたら持ってきてあげるー!』
「う、うん…小さいものなら~」
ラキ、欲望に負けたね…シロはきっと手当たり次第持っていくだろうに…普通の虫の死骸とか山積みになっても知らないよ…。
「で、今日の昼飯はどうする?」
どこ食いに行く?みたいなノリで聞くタクト。
「やっぱり唐揚げ?お肉はそんなに多くないから、ミンチにしてそぼろ丼も美味しそうだね!」
「「そぼろ丼??それがいい!」」
聞いたことのない料理ならオレの故郷の料理だろうってことになるらしい。そして、オレの故郷の料理=美味いっていう図式ができているそうな。地球料理はよその世界でも大人気だね!
メニューが決まったら、さっそく人目につかなくて居心地の良さそうな場所を探して、みんなでお料理開始!
いつものようにキッチン台とテーブルセットを出して、オレがキッチンを占領している間に、ラキとタクトが野草を洗ってサラダを作っている。
「ラピスっ!」
「きゅっ!」
ドシュッ!!
放り投げたお肉がミンチになって下の皿へ。
『ひぃい……』
チュー助が怯えて短剣の中に引っ込んでしまった。…そっか、今のホーンマウスのお肉だもんね…ちょっと…生々しかったかな…?
熱したフライパンで、ミンチをそぼろ状にしながら、お子様向けに甘めの味付けをする。作りおいている温泉卵があるから…それを乗っけようかな。
余ったミンチはお団子にしてスープに入れよう。
「できたよー!」
「こっちもできたぜ!!」
「わあ~美味しそう~!」
本日のメニューは温玉そぼろ丼と、肉団子スープ、野草のサラダ。テーブルに並べられたメニューは大小様々な器に盛り付けられて、ラピスたちの分もちゃんとある。
「「「いっただきまーす!」」」
がつがつと貪るシロとタクト、負けじと頬ばるラキとチュー助、すました顔で器ごと取り込んで誰より早食いなモモ。小さな小さな器で、一生懸命食べるラピスとティア。みんな夢中になっているところをみると、どぼろ丼も好評だったみたいだね!
「美味かったー!」
「僕、これ好き~!上の卵がとろーんとしてて、まぜこぜにして食べるのがすっごく美味しい~!」
「オレも温泉卵好き!何かと合うよね!」
『私も好きよ!とろとろがたまんないのよね!』
これはまた作りおいておかなきゃ!卵は栄養も豊富だし、獲物がない時なんかでも温泉卵があれば大分違うよね。
「よっし腹ごしらえが終わったら、また獲物探しに行こうぜ!」
「え?でも晩ご飯は街か学校で食べるよね?」
「ユータ、違うから!冒険者として持って帰る獲物を取るんだよ!オレたち別に草原で自給自足してるわけじゃないからね!?」
そっか…確かに!持って帰って買い取ってもらってはじめて冒険者って感じするよね!じゃあ、血抜きしやすいように考えて切るんじゃなくて、素材のことを考えて切らなきゃダメだね。
『ねえユータ、お友達がいるよ!』
「お友達?」
『うん、あっちの森!ユータぐらいの子どもが何人かいるよ!そういう匂いがするから、きっといるよ!』
森の中にオレと同じくらいの子ども…それも何人も?
「どういうこと…?ユータと同じくらいの子どもが森の中に何人もいるって、すごく変な話だけどね~」
「じゃあ見に行ってみようぜ!子どもなんだから、そんな森の深い所にいないだろ?」
『うん、道の近くだよ!』
「うーん、森の中は結構危険だから…僕たちは行かない方がいいと思う…」
『じゃあ、シロが見に行ってくるね!』
言うが早いか風のように走って行ったシロ。
「僕たち以外にも1年生の冒険者がいるのかな~?」
「むっ…もう追いつかれたのか?もっと差を広げとかなきゃな!」
そんなことを言っている間に、もうシロが駆け戻ってきた。
『ラキ~!これは?いい素材?』
その口に巨大な熊を咥えて引きずりながら…。
「し、シロ!?それ何っ!?ぺっして!ぺっ!!」
『ぺっ』
「うーん、これ見覚えあるなぁ…ティガーグリズリーってやつでしょ?」
「そ…そうだね…。シロにとっちゃねずみもティガーグリズリーも大差ないんだね…。これは加工にはあまり使わないけど、毛皮は買い取ってもらえるよ!」
黄色みがかった体毛にうっすら斑模様の巨大な熊。
巨体の割に速いし、立ち上がった時の迫力はすごいものがある…でも、さすがにフェンリルさんには通用しなかったようだ。シロが盛大に引きずってきたから、毛皮の価値は下がっちゃうと思うけど、それでも少なくない額になるだろう。問題は解体できないって所か。
『それでね、ユータと同じくらいの人達、箱に入って出てこないんだ…』
「「「箱??」」」
……うーんどうやら、状況把握のために、どうしてもオレたちも行かなきゃいけないみたいだ。シロ曰く、森の中で馬車がひっくり返っていて、その近くに転がった大きな箱に人がいるってことらしい。
シロが駆けつけた時には、ティガーグリズリーがしきりと嗅ぎ回って箱を叩いたり、馬車をたたき壊したりしていたらしい。
もしかして馬車が襲われて、乗客が閉じ込められてるんじゃ…ティガーグリズリーはシロがやっつけてくれたけど、その人達は大丈夫なのか…オレたちはシロに3人乗りして、急ぎ駆けつけた。
「うわちゃー完全にひっくり返っちゃってんな!」
「箱…ってあれかな~?」
ラキが指した場所には、オレの背丈よりも大きな木箱が転がっていた。…確かにその中から3人の気配。でも隅の方にかたまって出てくる様子はない。
「そりゃあこんな目に合ったら怖いよね…オレはこの子?たちを箱から出すね!」
「あっ…この!俺が警戒してるから、その箱開けてやってくれ」
おこぼれがないかとうろちょろしていたゴブリンを1体見つけ、タクトが斬りかかっていった。真剣な顔を取り繕うとしつつ、喜んでいるのがバレバレだ。
コンコン!
「こんにちはー!オレたち冒険者です。どうしたの?そこから出してあげるからちょっと待ってね?」
とりあえず木箱をノックして話しかけると、明らかに箱の中がざわついた。
「だれ…」
「たすけにきた…?」
どうやら中にいるのは本当に子どもみたいだ。怖がらせないように慎重に木箱を一部カットして中を覗き込んだら、眩しげに目を細めた3人の子どもが立っていた。
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