第209話 討伐はおあずけ

「みなさーん!ウチのクラスから、ついに本登録した生徒が出ましたよ!うふふ…知りたい?知りたいよね?!」

朝から元気なメリーメリー先生は、オレたちの報告を飛び上がって喜んでくれた。同時に、かなりの心配もされた。もう少し大きくなるまで、街から離れる時は大人の人と行動するように…とも。見た目も中身も子どもみたいな先生だけど、その気遣う瞳は、成熟と経験を感じさせた。

……そう思っていたんだけど。

「ユータのとこでしょ。」

「ユータの班しかないじゃん!」

「ええっ!どうして分かっちゃうの…!みんなをビックリさせようと思ったのに-…」

目論見が外れて悔しがる様は、やっぱり子どもみたい。

「ユータ、おめでとう!絶対お前が最初だと思ったけど、早いな~!」

「タクトとラキも本登録?スゲーな!!」

「私も頑張らなきゃ-!」

わっとオレたちの所へ集まった生徒たち。みんな最初はオレだと思っていたみたい…こんな幼児が先に本登録しちゃって嫌がられるかと思っていただけに、その好意的な反応が嬉しくて、オレの頬は自然とほころんだ。



「おめでとーっ!ユータもラキも凄いじゃん!」

「おめでとう、まさか私たちより早いとはな。」

部屋では先輩二人が待ち構えて、オレたちを胴上げ…という名の高い高いをしてくれた。二人は既にEランク、この歳でいっぱしの冒険者であるEランクはなかなかのものだ。ちなみにDまで行けば『草原の牙』レベルで、そこそこ安心して任せることのできる冒険者だ。

「最初は嬉しくなって外に行ってしまうものだが、気をつけるんだぞ…必ず他の人の目がある場所にいるようにするんだ。でも、危ない時にその人達が助けてくれるとは限らないぞ。」

「そうそう、ギルドに駆け込んで助けを呼んでくれたらいい方だね!常に逃げることを考えて。戦う前に、まず逃げ道!命を持って帰れたらそれが勝利!これ基本だから!!」

なるほど…さすが先輩たちの言うことは実感がこもっている。魔物との戦闘中に隙をうかがって、倒した瞬間に不意打ちしてくる悪質な盗賊なんかもいるようだ。そうか、人だからって安全ではないんだな…。


「そんな先輩のオススメの依頼は~?」

「おっ!そうだな…やっぱ討伐に行きたいって思うじゃん?でもあんまり門から離れない、狭い範囲で討伐対象探すのは難しいからさ、採取なんかのついでに魔物見つけたら討伐、ってのがいいと思うよ!それなら失敗にならないし、依頼料はないけど素材の代金は入るからさ!」

「なるほど~!僕は討伐じゃなくていいんだけど~タクトがきっと討伐って言うから…」

「絶対言うね…むしろそのためにランクアップしたんだもん。」

「そうだろうなあ。大概は討伐に行きたがるもんだぞ?お前達は落ち着いてるな…」

「うーん…だって小物相手なら、実地訓練で十分戦闘してると思うんだ~。」

確かに…オレたちの認識では小物イズ食糧だもんね。そう考えたら結構経験あるって言えるのかな?明日はきっと外に行くし、きっとみんな唐揚げって言うから、ちゃんと油が残っていたか確認しとかなきゃ!調味料の残りにも気をつけないと…これから頻繁に外に行くんだもんね!

「今、絶対ユータはズレたこと考えてる気がする~。」

失礼な!冒険に出る時に食糧のことを考えるのは基本中の基本だよ?授業でも食糧と水の確保が重要って習ったもん!



「よっし!行くぜっ!討伐!!」

「「ちょーっと待ったぁ~!」」

案の定なタクトに、二人でストップをかける。昨日聞いたことを説明したけれど、やっぱり不満そうだ。

「依頼失敗になったらイヤでしょ?」

「うっ…確かに」

失敗が重なれば降格もあり得るし、降格なんてした冒険者は信頼回復までかなりの時間を要してしまう。渋々納得したようだ。

「でもさー、それだといつもの実地訓練と大差ないじゃん」

うん…それも確かに。でも、決められたルートを歩かなくてもいいし、出てきた魔物は積極的に倒しちゃっていいんだよ?実地訓練の場所は生徒用学校で管理されているから、そうそうイレギュラーな魔物が出てきたりしないけど、これからオレたちが行くのは管理されていない草原。いきなり強い魔物が出てくることだって、ゴブリンが大量発生していることだってある。

「そっか…そうだよな!先生たちもいないし、自由に楽しめるもんな!ゴッブリ~ン出って来ぉないっかな~」

るんるんと楽しそうにスキップし出したタクト。あらかじめ依頼を受けないならギルドに向かう理由もなく、直接門へ向かった。

「…うっ…あの時の…。あれは本当に幻だったのか?!く…頭が……」

おや、いつぞやの門番さん…具合が悪そうだ。お近づきの印に『点滴』しておいてあげよう。

「「「いってきまーす!」」」

「ウォウッ!」

「あ…ああ、やはりあれは幻だったんだ…。はは、元気なちびっ子見てると癒されるぜ…」

少し元気になった門番さんも手を振ってくれる。

『今日はちゃんと、普通に帰ってあげましょうね…かわいそうよ…。』

モモがどこか気の毒そうに言った。


「さーて!獲物はどこだ?!」

「まずはお昼ご飯を確保しなきゃね!」

「いつも通りだね~。」

オレは極力、獲物を見つけるのは最小限にしている。オレがいないと獲物が捕れないでは、二人が今後困るだろう。最低限自分の分の獲物を確保するだけで、後は任せるようにしている。

「んー見当たらねえ…ユータはあんな簡単そうに見つけるのに…。なあエビビ、獲物どこにいると思う?」

ピチピチ!

エビビのコンパクト水槽からの返事(?)…なんて言ってるか分からないけど……きっと、知るわけないって言ってるんだろうね。

「タクト、闇雲に動いてもダメだよ~ちゃんと見極めて動かないと~!草が不自然に揺れてないかとか~、土の盛り上がりとか木の根元なんかも狙い目だよ~!」

「ほほう!なるほどね。ふーーーむ、そこだっ!発動っ!俺の野生の勘っ!!」

タクト…話聞いてた…?

「よっしゃゲーット!!俺の唐揚げ~!」

「「ええ~?!」」

野生の勘でいけちゃうんだ…ああ、そっかカロルス様たちが気配をなんとなく察知するのと同じなのかな?タクトは野生の勘で唐揚げの気配を感じることができると…!それって結構見所があるってことじゃない?…でも危険な魔物もちゃんと察知してね…??

「よし!僕も1匹目!薬草系も結構集まったよ~!」

「あっ?!いつの間に?!」

「さすがはラキだね!採取しながら獲物を探してるんだ!効率良いね!」

「そうでしょ~!でもさすがに実地訓練の場所ほど食用植物が多いってわけにもいかないね~。」

実地訓練の場所では豊富な食用植物が自生しているので、獲物が捕れないチームもひとまず草は食べられるって寸法だ。オレのクラスはみんな優秀だったから、獲物がゼロってところはなかったと思うけど。


見通しのいい場所で、しばらく各自で採取兼獲物探しをしていると、タクトの声が上がった。

「ラキ!こいつ何?切っても大丈夫系?」

駆けつけると、タクトが小さめの魔物を牽制している。

「あっ!ダメ!切ったらダメ~!ユータ、頭だけ切り落とせる?頭だけだよ~!」

「えっ?うん…」

オレたちの前にいるのは、魔物としては小さい、虫としては巨大な、ハンドボール大の甲虫だった。動きが遅いのであまり脅威は感じない。

「わっ!」

そんなことを考えていたからだろうか…甲虫が、カパッと鈍い銀色の背中を開いたかと思うと、ブウン…と耳障りな音をたてて素早く飛び上がった。あんな重そうだったのに飛べるの?!

「あ、あ、あ~逃げちゃう!ユータ!早く!」

逃げるならいいかと思っていたら、ダメなようだ…オレは素早く虫を追って飛び上がると、地面に展開したシールドを蹴ってさらに飛び上がった。

「食べられそうにはないけど…ごめんね!」

『俺様の出番っ!』

シャキーン!

ラキがあんなに欲しがるなんて、きっと素材がらみだ。念のために切れ味抜群のチュー助で、綺麗に首を落とした。

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