第208話 Fランク
「じゃあ…とりあえず召喚獣を見せてもらおうか…。あ、さっき魔法使ったけど魔力は大丈夫かな?」
そんなちょびっとで魔力切れてたら冒険に出られないよ!オレは頷くと、懐から紙に書いた召喚の魔方陣を取り出した。その紙をなるべく身体に近い所で持って…
「召喚!」
『了解っ!ってちょっと、シロ!あなたはまだよっ!!』
『わーい!』
今か今かとスタンバイしていた2匹が、賑やかに飛び出してきた!えっ…2匹?!…シロ…君は2回目の召喚の時って言ったのに…。
「えっ??なんで2体同時…??」
ですよね…ほら、職員さんが困惑してるじゃないか!
「えーと…たまに2体出てくるの……でも、ちゃんと召喚できたでしょ?」
そんな馬鹿な…と首を傾げる職員さん。でも召喚はきちんとされているのだから問題ないだろう。
「……ゴ、ゴホン……じゃ、じゃあ…回復の方を見てみようか…」
「どうやって見るの?」
まさかわざと怪我をするわけにもいかないだろう。そう思っていると、職員さんは入学の時に使った魔力紙みたいなものを取り出した。
「適性があるかどうかはこれで分かるんだ。」
へえ…どうやらそれぞれ特定の魔力との相性をはかる紙もあるみたい。チル爺みたいに魔法で調べたりしないんだ…。言われるままに紙の端をくわえることしばし。
「おっ!?おおー!!君、すごい適正だ!A判定だよ!もう回復術師でいいんじゃないか?!」
なんでも回復術師の適性はABC判定で、あとは反応ゼロの適正なし、らしい。回復術師は需要の割に多くはないらしいから、職員さんはしきりとメインをこっちにしたらって勧めてくるのだけど…オレは召喚士なの!でも回復術師の方はこれで登録OKらしいので助かった。ただ、回復術師の場合、能力に偽りがあれば命に関わるため、積極的にギルド内の依頼を受けるよう言われた。
「ギルド内の回復って…?オレ見たことないけど。」
「そうなんだよ…地味な割にキツイから…みんなやりたがらなくて。でも、実力を見るために1回はやってくれよ?」
うーむ…これは早急に回復の本を買って勉強しなくては。A判定をもらったんだから、無詠唱やら何やらはもう気にしなくてもいい、かな?
「お疲れ~どうだった?」
ほどなくしてラキが帰ってくる。タクトは向こうでまだ剣戟の音が聞こえるので頑張っているのだろう。
「うん、問題……あんまりなかったよ。ラキはどう?」
「僕は一般人だもの~問題ないよ~」
「一般人…あんなすごい腕前で一般人…。」
なんだかラキについていた職員さんが衝撃を受けているけど?
「ぶはーっ疲れた!!全身痛ぇ~ユータ、頼む~!」
ヨロヨロしながら帰ってきたタクトが、ぱたりと倒れてオレに手を伸ばす。全くもう…オレが回復するのも考え物かもしれない…ちゃんと限界を見極めて戦うんだよ?
「わはは!なかなか見所があるじゃないか!その根性もいい!君、たゆまず訓練すれば、きっともっと強くなるよ!」
なんだかマッチョな人がやってきた。タクト、こんな人と打ち合ってたんだ…すごいな!
「すごいってお前…お前の方がよっぽどやりにくいぜ!なんせ当たんねえもん。手応えなさすぎんだよ!」
「ほう…君は召喚士…いや回復術師??いずれにせよ後衛なんだろう?」
タクト~余計なこと言うからマッチョさんが興味を示してるじゃないか!
「そう!オレは後衛だから剣術は登録してないの。」
「なんで登録しないんだよ、勿体ねえ。」
タクトが口をとがらせる。目立ちたいタクトには、オレの目立ちたくない思いは理解しがたいものなんだよね。
「よしっ!少年、一度手合わせ願おうか!」
職員さんは、にかっとマッチョな笑顔を浮かべて、木剣片手にずるずるとオレを引っ張っていく。慌てて助けを求めようとしたけど、達観した瞳で手を振るラキと、にやにやするタクトしかいない。職員さん二人は、結果はカウンターに聞きに来てね~と、とっくに室内に入ってしまった。
「ようし、剣術も登録できるかどうか、見てあげよう!」
「あの、いいんです!オレ登録はしないでおこうって思ったんです!」
「はっは!遠慮するな、技術が足らんなら磨けばいいのだ!さあ、武器を構えて!」
くそう…ちっとも取り合ってくれないマッチョさんに、諦めて鞘つきの短剣を構える。こんなマッチョマッチョな人だと、きっと攻撃は重いんだろうな。受け流す練習にはいいかもしれない。
「お。雰囲気が変わったな。両手の短剣とは珍しい…だが、そのナリには相応しい武器だ!さあ、はじめよう!」
言いながら突進してくるマッチョさん。わわ?!こういうのって普通、先手は譲ってくれるものじゃないの?!これでもきっと加減してくれているのだろう、動きは全体的にオーバーでゆっくりしていた。
迫る巨体の迫力に、知らず鼓動を早くしながらも、冷静に攻撃を見極める。
ぶうんと唸りをあげる上段からの攻撃!クロスさせた短剣で、その衝撃を受けいれつつ、スルッとスライディング!伝わる攻撃の勢いを利用して、高速で股下を抜けた。
「うおっ?!」
足をもつれさせたマッチョさんが、どうっと尻餅をついた。すごーく加減してくれていたのは分かるけど、一応…これで終了でいいよね?試合じゃないんだし。
「しょ、少年…その技術、その身体さばきは一体どこで…?」
「ロクサレンの、カロルス様のところで!」
身体さばきは、どちらかというとラピスかもしれないけど。
「なるほどなぁ…!!いや、お見それしたよ、やるじゃないか!」
マッチョさんは、顔いっぱいの笑顔でバンバンとオレの背中を叩いて、肩に担ぎ上げた。
カロルス様みたい…ふと、そう思うとなんだか急に寂しくなってきた。
「…どうした?珍しいな。」
「なんでもないよ…気にしないでお仕事して」
困惑気味のカロルス様は、わしわしとオレをなでると、一度ぎゅうっと包み込んでから再び机に向かった。オレは、その膝の上でべったりしがみついて、すっかり4歳の甘えん坊になっている。もうすぐ2年生になるっていうのに…。そう思いはするものの、オレの幼児の心が無性に甘えたくなっているのだから仕方ない。固い体にぎゅっと顔を押しつけて、そのぬくもりと鼓動を感じると、とてつもなく安心する。
「……よし、これで一区切りだ。起きてるか?」
「…起きてるよ!」
カロルス様の気配に包まれて、これ以上無い安心感の中、ぼうっとしていたらしい。ハッとして顔を上げると、少し心配そうな顔をしている。
「何かあったか?」
「ううん!何も嫌なことはないよ!あのね、今日ギルドで本登録してきたんだ!オレ、Fランクの冒険者だよ!!」
慌てて言うと、カロルス様はそうか!と破顔した。オレは嬉しくなって、にこにこしながら話す…登録した職業で驚かれたこと、タクトとラキも一緒に本登録できたこと、ジョージさんが辛そうだったこと、そして、マッチョな職員さんが、カロルス様みたいだと思ったこと。
「それはお前…どうなんだ。俺はそんな暑苦しくないし横に大きくないだろう。見ろ、全然違うだろう?俺の方がずっと格好良いだろう?」
うん、全然違う。どこか不満そうに、不安そうに尋ねるカロルス様がおかしくて、オレはくすくす笑った。
「ユータ様っ!お帰りになっていたのなら言ってくださればよろしいのに!」
ばぁん!と扉を開けたのは言わずと知れたマリーさん。やっぱりばれちゃったね。
「うん、さっき帰ってきたの。ただいま!」
「ユータちゃん!おかえり!」
「ユータ、帰ってたの~?」
ズザッと現われたエリーシャ様、続いて騒ぎを聞きつけたセデス兄さんも現われた。
オレは顔がほころぶのを感じる。そんなに久しぶりなわけでもないのに、みんなオレが帰ってきただけで歓迎してくれる。
「さあ、皆様応接室の方へどうぞ。紅茶の用意ができましたよ」
執事さんに
あとは、残る皆を召喚すること、ちゃんとみんなを養って守れるだけの力をつけること。そして、オレを守ってくれる、あたたかな人達を守れるようになること。
オレは、向けられる愛情をいっぱいに吸い込んで、ふわりと微笑んだ。
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