第204話 お掃除デー
「た~の~む~!!一緒にやってくれー!」
ギルドの中でオレにすがりついて頼み込んでいるのは、中々依頼をこなしていけない仮登録者さん…その名もタクト。
「それはいいけど…一緒にやった方がポイント稼ぐ効率は落ちると思うけど…」
「それでも俺一人よりはずーーっと効率いいんだよ!!」
オレは街中のお仕事なら大体なんでもこなせるし、白犬の配達屋さんが大人気なので、ランクアップは既に目前だ。あとはやっていない種類の依頼をこなしていけばいい。ラキも、加工師としての依頼があるから、そっちで数をこなせている。持ち帰って都合のいい時間に仕事できるし、丁寧な仕事っぷりで中々注目を浴びているみたい。
で、問題のタクトはと言うと…。
「だってよ、俺には加工師の才能ないし、お前みたいに便利な乗り物も従魔もいないし…俺はいたって普通の人間なんだよ!!そんなぽんぽん依頼こなせねーよ!!頼む!俺だけ置いていかないで~!剣術頑張るからぁ-!」
うん、こんな感じだ。確かにオレはシロやラピス部隊がいるから、ズルしてるようなもんだもんね。ラキに言わせたら、召喚術師や従魔術師なんだから自分の能力の一部だってことになるらしいけど。
「うーん、タクトは効率よくランクアップできる依頼選ばないといけないよね~。受付さんに相談してみる~?」
「はーいはいはいっ!なーに?今相談って言ったかしら?言ったわよね??」
3人はきれいに揃ってぶんぶんと首を振った。
「うふっ!そんな遠慮しなくっていいのよぉ!」
ジョージさんはちっとも取り合わない。しまったな…ジョージさん今日は受付に下りてきてたんだ…。
不用意な発言をしたラキに、二人の恨めしげな視線が刺さる。でも案外ラキはジョージさん平気なんだよ…。
「ジョージさん、あのね~タクトがなかなかポイント稼げないから、効率よくランクアップするための依頼、選んでほしくって~!」
「まあ!ラキ君ってばしっかり者ねえ!さすがギルド期待の加工師ね。んー、タクト君も十分頑張ってると思うのだけど…」
「そ、そうだろ?!俺けっこう頑張って…」
「…でもユータちゃん達が規格外のスピードで点数稼いでるからね~!確かに今のままじゃ二人が先にランクアップしちゃうわね。」
ガクリ…一番ランクアップしたがっているのがタクトなだけに、その落胆は推して知るべし。
「オレたちもお手伝いするから、ランクアップのために効率いい依頼を組んでもらったりできるの?」
「うふふっ!ユータちゃんは受付の正しい使い方を知ってるわね!もちろんよ!私たち専門家に任せなさいっ!…ただ、パーティで受けたらユータちゃんたちにもポイントが入るんだから、どっちにしても差は開くわよ?」
「ぐはっっ?!」
すっかり崩れ落ちてしまったタクト…哀れな…。
「でも、ランクアップの本登録には試験があるでしょう?ジョージさんが組んでくれた依頼なら、きっと早くポイントが貯まるだろうし、タクトが追いつくまで待ってるよ」
「うん、別に僕は本登録を急いでるわけじゃないしね~。タクトさえ追いついたら目標達成できそうだし~タクトが追いつかないなら、僕たちだけ先にランクアップしようかな!」
哀れなタクトは捨てられた子犬のような瞳をしている…。
『タクト、大丈夫!ぼくと一緒に配達やさんしたらいいよ!ぼく、探し物も得意だから、ちゃんとお手伝いできるよ!一緒にやろう?ね?』
「ううっ…シロ…お前だけだぁー!!」
「くぅーん!」
シロに慰めてもらっているタクトは放っておいて、さっそくこなすべきノルマ…もとい依頼をリストアップしてもらった。
「うーんと、こんなもんね!タクトくんは、あとこういう系の依頼を指定の数こなせば、ランクアップできるわ。」
やたらとファンシーな表には、わかりやすく依頼のリストアップがされていて…横のイラストはなんだろう?
「ジョージさん、これなあに?」
「あっ、これはね、ユータちゃんたちにも必要なものの目印よ!」
なんと!ジョージさん…さすがサブギルドマスター!!なんてできる人なんだ…!頼んだこと以上の仕事ができるおと…女?
「それって…こっちの羽のマークがユータで、宝石マークが僕~?」
「そう!かわいいでしょ?」
かわいいけど…これ持つの男3人なんですけど…。甘々ファンシーな表を受け取ると、復活してきたタクトと本日の依頼を検討する。
「うう…外に出る依頼がひとつもない…」
「そりゃそうだよ~元々薬草ぐらいしかないのに、あれだけ達成しちゃったら、もう不要でしょ~!」
「街の依頼も楽しいよ!あちこち知らなかった場所も発見できるんだよ!」
不満そうなタクトを連れて、とりあえずオレたち3人に共通して必要な項目から片付けていくことに決まった。
「じゃあ、今日はお掃除デーだね!」
本日のお仕事は、売家のお掃除!売りに出すから家一軒丸ごと綺麗にしてくれってことらしい。期限は1週間!パーティ向けの依頼だね。
「掃除かあ……気分のらねえなぁ…。」
「タクトは外の依頼以外どれもノってないじゃない~。」
依頼を受けたおうちは、日本の一般住宅くらいの大きさで、小さな庭もついていた。
「そんなに汚れてないな…これならいけそうだ。」
「僕とタクトは中を掃除するから、ユータはお外をしてくれる?中でユータが暴れたら危ない気がするから。」
「暴れないよ!」
どうだか…そんな胡乱げな視線を向けられて、オレは頬を膨らませる。いいですよー!ちゃーんとお外ピカピカにして、ビックリさせるんだから!
オレは、おうちの前でやる気をみなぎらせて腕組みをする。…ふむ…。売り物になるんだもんね、まずは外壁も綺麗にしなきゃ!まずは見た目が綺麗じゃないと買おうって気にならないもんね!
んー外壁を綺麗にするなら、やっぱり高圧洗浄だよね!これは水魔法の応用だから簡単だ。
「よーし!お掃除を簡単楽ちんに!高圧洗浄~!」
ホースを持っているつもりで伸ばした手から、勢いよく水が噴出する!
ドドドドォーーボコォ!
「あわわわっ?!」
マズイ!強すぎる水圧は、この世界の建物にはまだ早かったようだ…。見事に穴の空いた壁を見つめて途方に暮れる。
「穴開けちゃった…怒られるよね…」
しょんぼりするオレを見かねて、モモがぽむぽむ肩で跳ねた。
『まったくもう…加減ってものがあるでしょう…。反省するのよ?で、あなたは土魔法が得意なんでしょう?この壁は見たところ…』
そうか!この外壁は土と石でできている…!それならオレの土魔法で再現できるじゃないか!
「モモ、ありがとう~!」
いそいそと壁に手を当てて穴を塞ぐ。問題なく塞げたけど…うーん…なんだかここだけぴかぴかの壁になって不自然。よーし!せっかくだから丈夫な外壁にしてあげよう!だってお掃除するよりそっちの方が早いもん!
外壁を綺麗にしたら、次はお庭かな!伸び放題の草を刈って、崩れた花壇や敷石を整えたらいいかな。
『お庭の草刈り、ぼくできる!魔法で草刈りおてつだいする!』
手伝いたくてうずうずしていたシロがぴょんぴょん跳ねて立候補する。で…でも…。
『あなた、まだ魔法使い慣れないでしょう?塀や家を壊しそうだわ…。』
『ぼく…できると思うんだけど…。』
そう言いつつ、ふさふさしっぽがしょーん…と垂れて、自信なさげに揺れる。
『仕方ないわねぇ…最近のモモ姉さんの秘密兵器を披露しちゃおうかしら?』
珍しく得意げなモモがシールドを展開する。
「あっ…わあ!モモ、シールドの形変えられるようになったんだ!」
『うふふふ~そう!そうなの!モモ姉さんもしっかり努力しているのよ?』
まふまふと嬉しげに揺れるモモ。そのシールドは、塀と家屋に沿うようにぴたりと張りついていた。
「これならシロが魔法使っても大丈夫だね!」
『ええ…でも、フェンリルの魔法がどこまで止められるか分からないわ。シロ、直接シールドに魔法ぶつけたりしたら承知しないから!』
『ええー、うん…がんばるよ!』
さて、草刈りは任せて、オレは乱れた花壇の崩れかけた石を魔法で新調して、敷石も…所々割れたのもあるし、面倒だ!新調しちゃえ!
「ユータ、そっちはど……」
楽しくなってきて、次第に夢中になっていたら、ラキが出てきていた。
「あ、こっちは大体終わりだよー!キレイになったでしょう?」
ラキは、しばし硬直した後、ふーっと深いため息をついた。
「ユータ、お掃除ってさ…そこにあるものを綺麗にするってことなんだ~。」
「うん、そうだね?」
「…で。質問何だけど…ユータ、僕らが来たときにあったものは?僕、見覚えあるものはひとつもないなぁ。」
「あ……えっと…その……土…とか?」
あれ?もしかして…オレ、お掃除してない?
え、えへへ…笑って誤魔化すオレに、ラキはじっとりとした視線を突き刺した。
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