第185話 合同訓練

「ねえユータ、あなたどうやって魔法の威力を変えてるの?」

「どうって…込める魔力を増減したらいいんじゃないの?」

「嘘よ!さっきのあなたの魔法、ちょっと違うじゃない!」


今もちゃんと続いている、5組の魔法使いひみつ特訓。近日に控える実地訓練に向けて、今日は全員参加の熱の入りようだ。なんせ、あと数回の実地訓練をクリアすれば冒険者仮登録がもらえる…かも?しれないから!


参加メンバーのラキとオレ、それに熱血チェルシー、真面目なデージー、モテたいだけの男、マイケルはそれぞれ目標だった「実地訓練であっと言わせる」「他のクラスと差を付ける」を達成できたようだ。

チェルシーはお肉を焼く火加減に抜群の才能を見せ、レアからウェルダンまでどんな肉質でもお任せあれ!だ。デージーはフタをした鍋の中で水蒸気を操り、見えない中で蒸し料理をうまく仕上げる技術が最高だし、マイケルは食洗機として大活躍している。


「違うんだよ!僕の思ってたのと圧倒的に違うんだよ!!」


マイケルはなぜか納得いかないようだけど…。

彼らは実地訓練でクラス中に引っ張りだこだ。オレはタクトたちと固定班を組んでいるけど、魔法使い組を含め、他のみんなはまだその時次第でバラけていろんな人と班を組んでいるようだ。


そんなひみつ特訓中にオレが初級の「ファイア」を色んなパターンで使ってお試ししているところを、チェルシーが目ざとく見つけたようだ。

さっきの、と言われてもいろんなパターンを試していたからね…。

「ユータくん、あの小さなファイアのことじゃない?あれ簡単に的を貫通したでしょ?ファイアって的を燃やすことはあっても貫通しないのに…。」

「ああ、あれは圧縮したらどうなるかなって思ったんだよ。ぎゅうーって圧縮するとああなるよ。」

「圧縮する魔法ってどんな呪文なの?!私にも教えてよ!」

「何だって?新しい魔法?生活便利魔法じゃない系?僕も僕も!」

わらわらと寄ってくる面々。呪文なんてないからね~みんなはまだ呪文と魔法を切り離して考えられないので、何でも呪文を知りたがる。

「呪文はないよ~これはファイアだもん。」

「絶対違うから!」

「そう言われても…ファイアにも色々あるよ?見てね?」


ぽっと指先に小さな炎を出現させると、3人の視線が集まった。徐々に取り込む酸素を増やして効率を良くすると、炎はガス火のような安定した青に変わる。

「ほ…炎が……青い!!」

「ゆゆゆゆーたくんっこれなに?!」

「うおお!カッコイイ!これ教えてくれよ!!」

青い炎はあまり馴染みがないらしい。

「だから、これはファイアだよ?えーと…炎を良い感じに燃やすとこうなるの。」

「ぐおお~出たよ!分からねえ!!それじゃ分からねえんだよ!!」

「……つまりは無理魔法の系統ってわけね…。」

「ユータくん…お願いだからもう少し詳しく…。」

最近オレの魔法の系統に名前がついているらしい。「生活便利魔法」「無理魔法」とかね。

3人と比較するとラキはそろそろ呪文がなくても発動できるようになってきたし、特に加工の時は集中しすぎて呪文なしで自然と行っていることもある。職人だね…。



オレはオレで密かに転移の練習をしているんだけど、なかなかうまくいかない。でも、もうちょっとなんだ。どうもスモークさんの転移とラピス・ヴァンパイア組の転移は違う系統のようだというところまでたどり着いた。スモークさんの転移はコピー&ペーストみたいなイメージだけど、ラピスたちのは拡散と収束みたいな…。何度も経験しているラピス系統から攻めていこうと思ってはいるんだけど…。


魔法の修得は、たゆまぬ努力で少しずつ、と言うよりも、0か100かっていう極端なものだと思う。コツを掴めばできるようになるし、掴めないとできないんだ。

エルベル様の所にも行きたいし、早くなんとかしないとなぁ…。



* * * * *


「ええー!?」


突然のメリーメリー先生の発言に、クラスがどよめいた。なんと仮登録までの実地訓練が増えるというのだ…。


「じゃあ、仮登録できるのが先延ばしになっちゃうの?!やだよ!」

金銭的に切実な生徒もいる中、ブーイングの嵐だ。

「お、落ち着いて!そのあたりは大丈夫っ!今回の追加実地訓練は、『クラス間の交流を深めようの会』だからね、他の実地訓練の日程に変更はないの!参加できる子だけ参加してくれたらいいから!」


それなら良し…と安堵して腰を落ち着ける面々。大体全員参加するだろうな…みんな実地訓練好きだから。

「先生、それって授業はどうなるの~?」

「そ…それが……。」

先生が悲壮な顔をする。

「わ…私の…私の授業が削られることに…!!…あとマッシュ先生。」

よよよ…と嘆く先生には悪いけど、オレ達はちょっとホッとする。正直、魔法使い組は授業内容を飛び越えちゃってるし、モモのせ……おかげでうちのクラスの体術レベルはなかなかのものだ。最近は通訳代わり兼戦闘指南のチュー助も交えて数人対モモの実践的な訓練を行っている…らしい。


「じゃあ授業がなくなって実地訓練が増えるだけか!いぇーい!ラッキー!!」

タクトがストレートに喜んで先生に追い打ちを掛ける。

ちなみに、他のクラスの授業はそれぞれ一番進んでいる所が削られる。と言ってもせいぜい1,2回で、やたらと実地訓練が増えたのはうちのクラスだけだ。他のクラスが順番にウチのクラスと合同訓練するという方針らしい……なんで??

「なんかウチのクラス、色々飛び抜けてきたもんね…誰のせいだろうね~。」

「へへっ!特訓の成果だな!うちのクラスが一番だぜ!」

へえ…うちのクラスは出来がいいんだな。ラキにしてもタクトにしても1年とは思えないし、魔法使い組も優秀だもんね!


* * * * *


「きゃーかわいい!ユータくん!こっちにおいで~!」

「ユータくーん!お姉ちゃんとこにおいで!」

「…えっと…。」


合同の実地訓練当日…なんだろう…なんだかオレ、すごく人気があるようだ。でも、ほーらほらと手を叩いて呼ばれる様は、まるで犬……。

「普通はこういう扱いになるよね~ウチのクラスはユータに慣れちゃったけど~。」

「そうだな!4歳児、フツーはただかわいいもんな。オレたちはユータが4歳児だって思ってないけど。」

ああ、そうか……オレ、幼児だもんね。マスコットみたいなものですか…そうですか……。



どうやら合同訓練では、5組のメンバーはみんなばらけて他クラスの班に入れられるようだ。


「あの、よろしくおねがいします…。」

「お前…男、なんだろ…?くそっ…かわいい子との交流の場が…。」

「まあまあ、ある意味可愛い子だし?よろしくねー!あたし他の子に恨まれちゃうな!」

オレが入った班は男子3名女子1名の班だ。あまり歓迎されていない雰囲気だけど、女の子ばっかりの班だともみくちゃになりそうだったのでホッとした。ここの女の子は剣士だろうか?ガッチリした体格で背も高い。

「それで?君は何ができんの?ひたすらお守りしなきゃいけないなんてカンベンしてくれよ。」

リーダーっぽい少し神経質そうな男の子が不満げにオレを見下ろした。そりゃそうだ、仮にも命がけの場で頼りないメンバーを入れられたら腹立たしいだろう。


「えーっと…色々できるよ?何をしたらいい?それに収納袋もあるよ。」

ヒュウ!と口笛を吹いたのはずんぐりした男の子。

「マジで!ラッキーじゃん。収納袋持ってるなら俺は歓迎だな!」

「でもさぁ、怪我したら俺達のせいになるんだぜ!見ろよ、あの女子たちの目…。せっかく5組のかわいい子と一緒に行けると思ったのに…。」

「あんたは一緒に行けてもモテないんだから結果はいっしょだって!」

なんだかマイケルみたいなことを言うのは背の低い赤毛の男の子。剣士の女の子に頭をぽんぽんされている。モテたいだなんて、おませさんだなぁ。


「収納袋があるなら…仕方ない、役にはたつんだ、面倒はみるから後ろにいろよ!」

「うん!それで、オレは何をしたらいいかな?」

「邪魔にならないようにしろ!それだけだ。」

色々できるって言ったのに…。でもパーティーメンバーの連携ってものがあるもんね。邪魔にならないようにサポートにまわろう。あまりにも目立つのでシロはオレの中でおやすみだ。召喚士として請われるなら呼び出そうかなと思ったけど…。

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