第184話 秘密の共有
「こいつ、スゲーかわいいな!ははっ!よせよせ!」
さっきからタクトはシロと全身でじゃれあっている。シロ、いい遊び相手ができて良かったね…。
召喚してしまえば魔力消費は大したことがない…少なくともオレにとっては。突然巨大な狼が幼児から飛び出してきたら驚くではすまないだろうから、基本的にシロは姿を現わした状態にして、身体から出てくる時は人がいない時限定、ってことにした。
「さらさらだね~綺麗な毛並み。ところでユータ、いつの間に召喚したの?先生の予約枠埋まってたんじゃないの~?」
「う、うん。オレ個人的についてくれる人がいたから!ほ、ホラ、オレ一応貴族だし!」
「……ふーん?」
ラキの「うっすら分かってるけど聞かないであげるよ」って視線から目をそらす。
ともかく二人とも仲良くできそうで良かった…一緒にパーティを組むんだもの、シロの念話のこと、二人には言っておこうと思うんだ…チュー助もいるから、そんなに驚かせないだろうし。
「あのね、今から言うのはナイショのお話なんだけど……いい?」
「秘密の話か!おうっ誰にも言わねーぜ!」
「すっごく嫌な予感だけど…聞くしかないかなぁ~。大丈夫、人には言わないよ~。」
「ありがとう。あのね…シロは普通の魔物じゃなくて、チュー助みたいに人とおはなしできるんだ。でも、他の人には怖がられると困るから、言わないでいてくれる…?」
「「おはなし…??」」
『うんっ!ぼく、おはなしできるの!タクト、ラキ、こんにちは!』
にこっ!!
シロの満面の笑みと共に、タクトたちがのけ反った。
「しゃ…しゃべった!?」
「えっ…念話~?!」
「うん、シロはその念話っていうのができるみたいなんだ。」
『ぼく、みんなとおしゃべりしたかったから!』
「そ、そういうものなの~?」
「しゃべる魔物なんてカッコイイな!いいぜ!3人の秘密だな!ティアにチュー助とモモ、そんでシロもオレ達『希望の光』のメンバーだな!!」
ピクリ、とラピスが反応した気配。
そ、そうだよね、ラピスたちだけ仲間はずれはダメだよね…。
ええい、この際みんな紹介しておこう!秘密基地なら人目を気にしなくて良いし。
「ごめん、あともうひとつ……。ラピス。」
覚悟を決めたオレは、ラピスたちを喚ぶ。
ぽんっ!ぽぽぽぽっ!
秘密基地内に次々現われる管狐たち…ラキたちが目を剥いた。
「…あのね、ずっと言ってなかったんだけど、これがオレの従魔たち。ナイショにしてね?白いのがラピス、こっちからアリス、イリス……オリスで……あれ?」
「「きゅっ!」」
「え、えっとカリスとキリスだよ。」
ふ……増えてるーー!!??
―他にも聖域にまだいるの。ユータ、魔力増えてるからまだまだ増えると思うの。
なんと……ラピス部隊、一体何匹になるつもりか…。
基本的にアリスたち以外は聖域で『しゅぎょう』するらしい。ラピス隊長の課す修行…なかなか厳しそうだ。みんな…頑張ってね。
「ユータ…お前…何者…??こんなにたくさん従魔が…このちっこいの、戦えるのか?」
「この子達は魔法が使えるから、戦えるよ!でも、なるべく人目につかせたくないんだ。いつもオレの側に居るのはこのラピスだけだよ。」
「いつも…いたの~?」
「うん。見つかりにくくする魔法をかけて、いつもいるよ。」
「じゃあこれからはラピスもオレ達と一緒に特訓できるな!よろしくなー!」
あ……タクト…!?
オレの肩で、キラリと目を光らせた鬼教官が嬉しげに飛び跳ねる。オレはそっとタクトから目をそらした。タクト…強く生きてね…。
「他にはもういない~?」
「うん!でもこれからまだ召喚獣は増えると思うよ。」
「なんかユータ一人でスゲー戦力だな!オレ、いくら従魔でもゴブリンとかあんまり仲良くできそうにないし、かわいいのばっかりで良かったぜ!」
「えっと……ユータ一人で召喚士と従魔術士と魔法使いと近接戦闘員を兼ねられるってこと?うわぁ~…。僕たちは助かるけど…規格外の本領発揮だね…。」
良かった…なんだかんだ言いつつ二人とも受け入れてくれた…。どうやら管狐って存在は知らないみたいだけど、そこは敢えて言わなくてもいいだろう。魔法が使えるちっこい獣、でいいじゃないか。
それにしても、最近ラピスが聖域に帰る時間が増えているのは、管狐が増えているせいもあったんだね。てっきりオレの実力がついてきたからかなと嬉しく思っていたんだけど。
―うん、ユータは大分強くなったから、街の中なら大丈夫だと想うの。モモもティアもいるし、これからはシロがいるなら安心なの!でもユータもラピスたちも経験が少ないの。『いっくら能力あっても戦場経験のないヒヨッコが勝てるかよぉ!』ってヒトが言ってたの。だから、ラピスも経験を積まないといけないの。
ラピス…いつもどこの軍隊覗いてるの?なんでそんなヒャッハーな感じなの…?
でも、オレたちに戦闘の経験が足りないのはその通りだね。だから、能力で勝っていても経験豊富な人や強い魔物には勝てないだろう。能力によるごり押しが効くのはある程度までだ。ラピスだって本気のカロルス様と戦ったら…どうだろうか?
鬼教官は自分にも厳しい。ラピスは己を鍛えるためにしばしばオレの元を離れることになりそうだ。喚べば一瞬で戻って来られるのだから、そんなに心配しなくてもと思うけど…。
オレも経験積まないといけないな…そのためにも早く冒険者として外へ出られるようになりたい。
冒険者仮登録まであと少し…1年生に求められるものはそう多くないけれど、仮登録するならば話は別だ。冒険者としての最低限ができるかどうか、そこに年齢は関係ない。
「よし…頑張るぞ!!」
オレは決意を新たに、訓練に励もうと誓った。
* * * * *
「今回集まってもらったのはのぅ、1年生の実地訓練についてなのじゃが…のう、何が問題なのじゃ?」
校長先生、あなたさっき説明受けてましたよね?全員の視線を華麗にスルーして首を傾げる美女。
「ですからぁ-!ウチのクラスの子達が優秀すぎて困っちゃうっ!って話なんですよ!」
「違うッスよね?!論点そこじゃなかったッスよね?!」
そう、1年5組…このクラスが異様に浮いていることについて、ついに先生達の議題にのぼることになったようだ。
「なんであんな戦闘能力上がってるッスか?!」
「魔法使いの子たちなんて独自魔法を使っちゃってるのよー!しかも全員、全属性使えるのよ!?素晴らしすぎちゃってもう~先生困っちゃう!……先生教えてないなーとか思わなくもないんだけど…。」
「いやいやこの間の合同訓練、あれなんですか?!5組だけなんで野外でレストランみたいな食事してるんです?!ウチのクラスの子が自分の保存食見て泣いちゃったじゃないですか!」
「そうですよ!すんごくいい匂いしてくるんですよ!私だって保存食ガシガシやってたのに!」
「それにっ!あのホーンマウスが来た時!私がクラスの生徒を素早く避難させていたというのに…『獲物キター!!』って殺到したの、5組の生徒でしたな?!どういうことです!?」
「うむ、ホーンマウスはあれで結構美味いでな。」
「校長先生は黙ってて下さい!」
しょぼんとする校長。わし、なんで呼ばれたんじゃろう…。
「オホン、とにかく…ですな。5組だけが突出している状況で、訓練内容がそぐわないのではないかということです。もっと先に進めて実験……んんっ、能力を伸ばしてやっても良いのでは?言わばクラス全体を特級として扱うようなものです。」
「いいッスね。体術的には全員特級で問題ないッス!あれは特別、ってした方が他のクラスの子が落ち込まなくてすむッス!」
「それと、他のクラスの子たちともっと交流をもってもらいたいの。他のクラスもそれで刺激を受けるかもしれないので。」
「それは良いサンプ…んんっ、良い経験になりますな。互いに切磋琢磨し合い成長する、それを見守ることができるのは教師としてこれ以上無い幸せでしょう。」
先生たちにも色々な思惑があるようだ…若干1名は個人的な興味が勝っている気もするが。
口々に意見を交わす中、概ね5組を特級扱いすることで話はまとまっていく。他クラスとの交流については、仮登録までに自分たちのクラスも底上げしたい先生と、仮登録までの期間が延びたら怒られる先生とで意見が割れていた。
「んー実地訓練じゃなくても授業を合同でやるのはどう?」
「やっぱり授業を一緒にやるより、実地訓練での動き方が参考になると思うの。だから合同でやる機会を増やしたいわ。」
「それって合同の実地訓練を増やすってことッスか?でも仮登録までの回数、もう決まってるッスよね?登録までの日数が伸びたらみんな怒るッスよ?」
「そうそう!すっごく楽しみにしてるもん。期間は延ばさずに詰められるだけ詰めちゃったら?みんな美味しいもの食べられるって、実地訓練好きだし!私も好きだし!」
「「「「だからそれは5組だけだっつってんの!!!」」」」
会議はまだまだ難航の様相を示していた…。
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