第186話 草原の歩き方
「へ~、それでユータは一応召喚士だけど魔法と剣もちょっと使えんの?すごいじゃん。」
「つまりはどれも中途半端ってことだろ!お前、まだ小さいからいいかもしれねえけどさ、ちゃんと絞って訓練しねーと後々困るんだぞ!…って先生が言ってた。」
ずんぐりさんと赤毛くんは意外と色々と話しかけてくれる。リーダーさんは前を、剣士ちゃんは後ろを警戒しながら歩き、中央にオレ、左右に赤毛くんとずんぐりさん。なんか、完全に護衛体勢…オレ、戦えるんだけど。
1年生の実地訓練も、さすがに仮登録が近くなると多少の戦闘をすることもあるし、小物しかいない草原で魔物避けは使わない。前を行くリーダーさんはかなり緊張してピリピリした雰囲気だ。
「ね、召喚士って、ユータもう召喚できるの?何を召喚するの?」
「えっとね、スライムと大きな犬だよ!」
「…そ、そう。えっと……かわいい、ね…?」
剣士ちゃんが困った顔で褒めてくれる。
「お前…それで召喚士名乗るって…犬とスライムでどうするってんだ…。」
赤毛くんの呆れた声と、リーダーさんの冷たい視線。失礼な!すっごく役に立つんだから。
「あ……。」
その時、レーダーに小物の反応が引っかかる。獲物だ!
「どうしたの?」
「あそこ、獲物だよっ!お昼ご飯!」
「はあ?」
「え、獲物…?!」
「もう!逃げちゃうよ!!そこ射て!あの木の根元、草が揺れてるところ!」
赤毛くんは弓使いだ。早く早くと急かして、射られた矢をそっと風でサポート。
ギャッと小さな悲鳴が上がって、みんなが顔を見合わせる。
「な…なんかに当たった…。」
よしっ!まずは第一昼ご飯確保!
恐る恐る近づいたリーダーが持ち帰ってきた獲物は、クロウラビット。ホーンマウスの方が好きだけど、この際贅沢は言えないね。
「オレ…魔物倒しちゃった…。」
呆然とする赤毛くんに首を傾げる。
「魔物倒さないとごはんが食べられないよね?いつもどうしてるの?」
「何言ってんだ…??実地訓練の食事は保存食だろう。」
「それは主食でしょう?おかずは?」
「お…おかず???」
「な、なあもしかして…前の合同訓練で5組だけ美味そうなの食ってたのって…もしかして…全部自分たちで獲ってきたもの…??」
「もちろん!このあたりだとホーンマウスが一番美味しいんだ!でもたくさん集めるのが大変で…。クロウラビットは蒸し料理が美味しいよ!」
ぽかんとする面々。
「まさかとは思うが…お前達のクラス、魔物を狩りに行ってないか…?」
キョトンとするオレ。
「行ってるよ…?実地訓練だもの…現地調達でしょう?」
マジで?!っていうどん引きの視線…いやいや、それが実地訓練の目的じゃなかったっけ・・・?
「いやいやいや!オレら一年よ?魔物見たら逃げろって、先生に報告って言われたでしょ?!現地調達は採取メインだから!」
そうだっけ…?メリーメリー先生も喜んでホーンマウス追いかけてた気がするけど…。これは私の唐揚げだからーって…。
「そうなの…?でもごはんは美味しい方がいいよね?オレ魔物見つけるの得意だから、美味しいの食べよう!あ、そこの香草採ってくれる?」
「お前…聞いてた?俺らの話…。俺たち魔物と戦ったりしないよ?何その危険な実地訓練…。」
「じゃあオレが狩ってこようか?」
「はあ?お前が!?バカ言うな!お前は後ろで引っ込んでろ!」
怒られた…。そうは言ってもこのままじゃ獲物はうさぎ一匹…足りないとは言えないけど、もう少しバリエーションが欲しいものだ。仕方なくせっせと野草類の採取を頑張る。
「…なんでそんな簡単に野草見分けられるの?全部雑草に見えるけど…。」
不思議そうな剣士ちゃんに、食べられる野草を教えながら歩く。
「慣れたら分かるよ!毎回お料理に使ってると絶対覚えるしね。」
あ、そうこうしてるうちに獲物発見…。でも追いかけていったら怒られるし………よし!
「あーっと…転んじゃった-!」
ぽーんと横っ飛びに列を外れると、サクッと仕留める。
「おっとぉ…危ない!魔物がいたみたい。」
グリーンサーペント。見た目はまるまるとした緑の蛇だけど、一応魔物の一種。毒は無いし、肉団子にしてスープに入れると美味しいんだ!
蛇を引きずってにこにこしながら戻ると、なんとも言えない視線を感じる。
「……お前……。」
「マジ…普通に魔物仕留めてるし……。」
「え?これが普通なの?俺達がおかしいの??」
「えっと…け、怪我はない?」
「大丈夫!あのね、オレも戦えるし実地訓練なんだから、守ってくれなくて大丈夫だよ!」
ここぞとばかりに主張してみる。何かを守りながら戦えるほど1年生は熟練していない。オレがいることがハンデになってはいけないだろう。
「フン…生意気に…じゃあお前が前歩いてみろよ!」
「ちょっと…小さな子相手に…。」
「いいの?ありがとう!」
リーダーさんが許可を出してくれた!言ってみるもんだね。
フンフ~ンと鼻歌交じりにオレは少し離れて先頭を歩く。良いお天気!雨だと獲物も減るし木が湿って火を付けるのが大変だし、やっぱり冒険はお天気の日に限るね!
「ちょ、ちょっと歩くの速いよ?もっと警戒して!」
剣士ちゃんは意外と慎重派のようだけど、そんなにガサガサと派手に駆け寄ってきたら…。
「うん…大丈夫。」
ぐいっと背の高い剣士ちゃんを引き寄せて屈ませると、肩越しに短剣で一薙ぎ。
ガッ!
「えっ?なに?!…うわ……グラススパイダー…。」
剣士ちゃんの首筋を狙って飛びついたのは、帽子くらいある蜘蛛。噛まれると麻痺しちゃうけど、一人で歩いていたのでなければ、痺れて痛いだけだ。
「あ…その、ありがとう…。」
「どういたしまして!…これは食べられないね。」
頭を抱き寄せるような形になった剣士ちゃんを、にっこり笑って解放する。
「お前っあんなチビが好みなのか?!そうなのか?!」
「なっ何言ってんのよ!!ちょ、ちょっと対応できなかったのが恥ずかしかっただけよ!!あんただってチビじゃない!」
ほっぺを赤くした剣士ちゃんがからかわれている。ふふ、大丈夫、次はきっと活躍できるよ!
フンフ~ン。
ガサガサわさわさ!
ちょうどいい棒を見つけたので草むらの中を振り回しながら歩く。
そこへ飛びついてきた蜘蛛!
「食べられなーい。」
キィッ!?
ていっと彼方へ蹴り飛ばす!
フンフーン~ガサガサー!
シャッと飛びついてきたグラスマウスを素早くキャッチ!
「食べられるー!……けど小さいね、逃がしてあげよう。」
チチィ!?
ぽーいと遠くへ放り投げる。
フンフーン~ガサガサー!
「食べられなーい。」
フンフーン~ワサワサー!
「食べられるー!」
「―な、なあ……草原って静かに目立たず息を潜めて通るんじゃなかったっけ…。」
「言うな。あいつが目立つおかげで俺らは被害受けねえんだし。」
「そんな!何かあったらあの子が被害に合うってことじゃない!…全然大丈夫そうだけど…。」
「…あれ、明らかにワザとじゃね?隊列にいるときは静かにしてたじゃん…。な、なあ…俺思うんだけど…もしかしてあれ…自分をエサに魔物探してんじゃね…??」
「そ…そんな…狩りに行くなって言ったからか…!?そ…そこまでして魔物と戦いたいのか!?」
「げっ?!蜘蛛とサンドバグ両方出てっ……一瞬…かよ…。」
お昼の休憩場所へ到着した頃には、獲物はそこそこ。これだけ騒がしく歩いてもクロウラビット二匹にホーンマウス二匹、グリーンサーペント一匹だ。一年生向けのこの草原では小物ばっかりで、こんな小さな魔物だとあまりヒトを襲ってはこないので、こちらから狩りに行かないとなかなか難しい。虫系の魔物は何も考えてないから結構飛び出してくるんだけど…食べたくはないし。
「じゃあごはん作ろっか?設営はいつもどうしてるの…?」
「「「「「……。」」」」」
何気なく振り返って、ビクッとする。…み、みんなが死んだお魚みたいな目をしている…。ご、ごめん…俺のペースで来たから…疲れちゃった?!次は後ろを歩くようにするよ……帰りは獲物いらないし。
「つ…疲れちゃった?オレごはんの用意するからそこ座ってて!」
バレないようにサッと土魔法で箱形ベンチを作って4人を座らせると、オレは調理にかかる。これだけ機会があったら、オレだって小物なら捌けるようになったんだよ。オレが奪った命だもの、責任持たなきゃね。
ササッと保存食を戻す傍ら、蛇肉を荒いミンチにし、香草で包んだうさぎ肉を蒸す。ホーンマウスはちょっと手間だけどやっぱり唐揚げ!あとはサラダ用の野草を洗浄魔法できれいにして…そうだ、さっきリモンハーブがあったんだ。これはスッキリ爽快でレモンとミントを合わせたような香りがする。疲労回復にいいらしいけど、子どもには甘みがある方がいいかな?スウィートラディスも合わせて、ちょっぴり生命魔法を流したお水に入れると、キンと冷やしておいた。
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