第180話 モモの戦闘
予約ボードの並ぶ訓練施設内は結構賑わっていて、どこか冒険者ギルドを思わせた。
「登録はできたけど、二人は対戦希望出したの?」
「うーんどうしよかな?戦闘経験積みたいけどさ、怪我して実地訓練行けなくなったら困るんだよな。対戦相手選びが難しいよな。」
「僕は戦闘はゆっくりでいいかな~もう少し自信ついてからにするよ。」
「ラキは魔法使いだからなあ…チーム戦にならないと難しいよな。」
「どうして?」
「あのな、普通の魔法使いってヤツは後衛なんだよ!お前みたいに一人で前出て突っ込んで行くヤツはいねーんだよ!後ろで守ってもらいながら呪文唱えるのが当たり前!」
「そ、そうなんだ…でもそしたら一人じゃ戦えないし、不意打ちされたら…そうか、シールドを常に張っていればいいのかな。」
「そんな魔力の無駄使いできるヤツがいるか!そもそもシールドは誰もが使える魔法じゃねえの!」
「魔法使いはパーティの大切な飛び道具だからね~切り札にもなるし、守りながら戦うんだよ~。一人で戦闘する魔法使いはいないかな~?魔法をかじってる剣士、とかなら結構いるけど。」
そうなんだ…前衛さんは大変だね…。守ると言っても魔法使いは戦闘員だからある程度任せられるんだろうけど、例えば非戦闘員の…コックさんとかいたら大変だね。
「じゃあさ、俺モモと戦おうかな!危なくないだろ?それで慣れたら他の魔物と戦ってみようかな。モモはシールドあるから、オレが怪我させちゃうこともない…よな?」
『うふふ、いくら柔らかボディでもタクトに傷つけられるほどやわじゃないわ。』
「えっと、大丈夫だって!でも、それなら地下室で訓練したらいいのに。」
「確かに!次からは毎日地下室で特訓しようぜ!」
「オレとも訓練しようよ!」
「嫌だね!お前としたって対人訓練にならねえし!お前はもうちょっと人として動けるようになってから言ってくれ。」
「ひどいよ!」
「ユータはハンデつけてここで訓練するのがいいんじゃない~?」
「ハンデ?」
「うん、強い上級生とかはここじゃ物足りなくなるから、そうやって訓練してるよ。利き腕使わないとか~、得意魔法は封印するとか。ストイックな人は依頼受けて疲れて帰ってからとか。」
へえ、それはなかなか実践的でいい考えだね。武器を持ってない時に襲われたり、魔力がない時への対応とか色々なパターンがあるもんね。
「とにかく、俺は一旦モモと戦うから、早く行こうぜ!」
「え?オレも行くの?」
「当たり前だよ~召喚士なんでしょ?」
オレ…行って立ってるだけになるんだけど…召喚士ってそんなもんなのかな。
「よぉーし!行くぜ!」
へえ…こんな風になってるんだ。訓練施設は、予約ボードのある受付部分と、戦闘を行う内部設備があるのだけど、大小の室内闘技場から、庭のように土がむき出しの場所など色んな所がある。完全に屋外もあるようで、大型の魔物がいた場合はそちらでの対応となるみたいだね。
「やあっ!はっ!!」
オレ達がいるのは小さな室内闘技場。どの設備も見学は自由にできるようになっているので、一番近いところでラキが観戦している。
「うっ!えいっ!いてっ!」
「ねえ、魔法こんな所で使ったら大変じゃないの?それに従魔に当たったら怪我するよね?」
トコトコと側まで行くと、一段高い所にいる彼に話しかける。
「魔法使うときは、従魔にも人にも専用の装備をつけるからある程度大丈夫なんだよ~!あんまり危険な魔法は禁止だしね。召喚獣は、可哀想なんだけど送還すればいいってなってるんだよ~。」
「てっ!くそっ!あたっ!」
「そうなんだ!召喚獣は回復薬も回復魔法も使わないの?」
「うん、それが従魔と召喚獣の違いだからね~。でも、僕たちはあんまりお金がないから、僕たち自身も回復薬なんて使うことはほとんどないよ。回復魔法だってわざわざ受けに行ったりしないよ~お金かかるし~。」
そうなのか…でも確かにオレだって風邪引いたくらいで病院行くのは勿体ないし面倒だと思ってたから、そういうものかな?魔法って便利だけど、一般市民からするとそんなに恩恵のあるものではないのかもしれないね。
「す、スゲえ…どうなってんだ?!」
「スライムが…?変わった色だし特殊な個体なのか?!」
「術者がいねえじゃん?!どうなってんの?」
「いや、見ろよ!あそこで後ろ向いてるちっこいやつ!あいつじゃね?」
「全然参加してねえじゃん!!」
なんだかざわざわしてきたと思ったら、妙に見物客が増えている。新入りの様子を見に来たってところだろうか?
振り返ったら、タクトがまだ頑張っていた。
「それにしても、モモってすごいよね~。ユータが召喚するとスライムもおかしくなっちゃうんだから~。」
「ち、違うよ!あれは元々モモの能力だもん!オレ関係ないよ!」
1年生とは思えないほど、なかなか様になった動きを見せるタクト。このあたりはチュー助との特訓の成果だね!でも、モモはすごかった。シールドがあるので攻撃が当たらないとは思っていたけど、そもそもシールドに当てることすら難しい。
『たたたたんっ!見てこの機敏な動き!わたしはまるで妖精のようね!』
うーん残念ながら桃色のボールが弾んでるようにしか見えないけど、その動きは確かに機敏だ。
モモはあちこちにシールドを張って、自身の弾力ボディを活かし、まるでピンボール状態だ。狭い所で戦えば無類の強さを誇るのではないだろうか。惜しむらくは直線的な動きしかできないことだけど、予測不能な位置に瞬間的にシールドを出現させられるので、突然直角に曲がったりするのは脅威だ。
『はいっ!もういっちょはいっ!』
ただ、攻撃は加減しているため、やわらかボディアタックがメインだ。どこに当たっても大して痛くはないし怪我のしようがない。たまに進行方向に出現させたシールドにゴツン!とぶつかるのが一番痛い攻撃だろう。
「モモ、すごいね!」
「そうだね~。普通は召喚士が指示を出したことをするものなんだけどね…。だから召喚士は必死に戦闘中に指示を出すし、よそ見なんてできるわけないんだけど。」
「そうなんだ!オレ何もしてないよ、召喚士って楽ちんだな~。」
「そんなこと言ったら他の召喚士に怒られるよ~。」
「あーー疲れた!もう無理!なんだよーモモめっちゃ強いじゃん!」
『うふふっタクトはまだまだね、でも頑張ったわよ!』
ラキとおしゃべりしているうちに試合が終わったようだ。モモは楽しげに弾みながら戻ってきて、オレの胸に飛び込んだ。
「モモ、おつかれ!あんな風に戦えるなんて知らなかったよ!すごいね!」
『そうでしょ!わたし結構強いんだから!今はね、シールドを空中に出す練習をしてるのよ。そうすればもっと自在に動けるでしょう?』
なるほど…今でも地面と接地しているだけで、大きさは自在だから十分な気がするけれど。その戦い方はスピード命のオレにとってすごく参考になるよ。
「おい、ほら見ろよ、やっぱりあのチビが術者だぜ!」
「嘘だろ…あいつ何もしてなかったじゃん!俺もあの従魔ほしい!」
闘技場から出ると、オレの予約枠の前に人だかりができていた。どうやらみんなモモと戦ってみたいらしい。
「モモ人気だねぇ。」
『あらまあ、悪くない気分ね!』
「強くていい訓練になりそうだけど怪我はしそうにないってすごく魅力だもんね~。モモなら1年生の相手もできるんじゃない~?」
『もちろんよ、怪我なんてさせないように鍛えてあげるわよ!どんどん来なさい!』
お姉さんに任せて!と言わんばかりに胸を(?)張るモモ。それなら予約枠を広げておこうか?
「えっ?いきなりそんなに広げて大丈夫なの?スライムにだって無茶させるもんじゃないよ?」
先ほどの戦闘を見ていなかった受付さんは、非常に心配していたけど、モモのGOサインが出ているので大丈夫だ。
「あのね、1年生を優先にってできるの?」
「予約枠に制限を設ければいいよ。それはいい案だね!スライムにとっても1年生にとってもちょうどいい訓練だと思うよ。じゃあ1年生のみの枠にしておくよ!」
『あっそれじゃダメ!私だって強い人とも訓練したいもの。』
「あの、この子は強い人とも戦いたいみたいで。1枠…え、2枠?じゃあ2枠は制限なしでお願いできますか?」
「うーん、まあ……無理だと思えば減らせばいいけど…召喚獣だからって無理させたら、召喚に応じなくなるからね?」
よし、後でクラスの子に教えてあげよう!できたら友達が強くなってくれる方が良いもんね。
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