第179話 パーティ名2
学校に帰ると、さっそくタクトがオレたちの部屋にやってきた。どうやらパーティ名をラキにも考えてもらいたいらしい。まだ冒険者登録もしていないのに、随分と気の早いことだ。
「……それで、二人の出した一番いい案はどれなの~?」
「『学校の友達』!」
「『ドラゴンの覇者』!」
「………。」
ふうー。ラキは疲れた顔で額に手を当てた。
「…ダメ?」
「俺のはいいだろ?めちゃくちゃカッコイイと思うだろ?!」
「……それはさておき。これ、お土産だよ~!ウチの近所のばあちゃんが作るおだんご!美味しいんだ~!」
「わあ!ありがとう!美味しそうだね!」
「はいどうぞ~!」
「あー…んっ!……うん、美味しいよ!ふんわり優しい味だね!」
「そうでしょ~?ねえ、ユータはお休み何してたの~?」
「オレはね~……」
「ユーータ!!騙されるな!!そいつは今さりげなく俺達の話をスルーしたぞ!!」
「えっ?!」
慌ててラキの顔を見ると、サッと目をそらす。な…なんと?!ラキ…策士め~!!
「…だってもうどこから突っ込めばいいんだよ~…。」
「ダメだってのかよ!じゃあどんなのがいいんだよ!」
「まずどんなパーティにしたいの?みんなの目標とか…信条とか…そんなのから考えると思うんだけど。」
ほほう、なるほど。でもそうなると…
「強くてカッコイイパーティだ!」
「楽しく冒険するパーティ!」
「面白い素材をたくさん集めるパーティかな~!」
だよね~、そうなると思ったよ。こういう場合はどうするんですか!ラキ先生!
「信条がひとつじゃないことは多いから、あとは武器とか得意なものとか…でも僕たちまだそんなの分からないし、あとは好きなものとかパーティメンバーの特徴とか、かな?」
「じゃあ学校の友達、で良くない?」
「絶対嫌だからな!カッコ悪いだろ!」
「んーでも僕たち子ども3人だから、そういう目の付け方はいいかもね~。大人になっても使えるような、うっすらこどもをイメージするような言葉を色々出して行くといいかも。」
「卵、成長、未来、希望、ヒナ、芽、えーとえーと…。」
「イメージ…?小さい、命、輝く、展望、世界、照らす、光…」
ん?タクト、それどっかで聞いたことあるような…?
「タクト、それ読んでるだけじゃない~!」
「バレたか。でもそれっぽいだろ。」
タクトが読んでいたのは学校の訓示みたいなものの一部、『小さき命よ 輝く展望を抱き、学び舎から世界を照らす光となれ』ってやつだ。
「でもそれいいかもね、世界を照らす光、なんてカッコイイじゃない~!」
「じゃあ、世界の光?」
「なんか違うな。」
「んー、じゃあユータの選んだ言葉も使って…『未来の光』『希望の光』『光の芽』なんてのは~?」
「おっ!それっぽいじゃん!いいね!でも未来の光はなんか学校っぽくて嫌だな。」
「じゃあ二択だね~、せーので選んでみる?いくよ~せーの!」
「「「希望の光」」」
「おっ!決まったじゃん!カッコイイと思うぜ!街に迫るドラゴン、万事休す!そこに現われたるは希望の光!なんて演劇っぽくてさ!」
「子どもらしい感じもあるし、とりあえずそれでいいんじゃない~?」
「分かりやすいしね!でもパーティ名ってそんな適当に決めちゃっていいの?」
「だって有名なパーティじゃなければ大して意味をもたないし、登録に必要なだけだよ。名前決めてないパーティはリーダーの名前で呼ばれるね。」
「そうなんだ!そっか、リーダーも決めないといけないんだね。」
「リーダーは依頼主とやりとりしたり、代表の役目をするからな!しっかりして落ち着きのあるやつじゃないとな!」
「そうだね~。」
「冷静で視野が広くて、どっしり構えた人がいいよね!」
「うんうん、理想的だよね~。」
「……。」
「……。」
ラキをじっと見つめる二つの視線。はたと気付いたラキが慌てる。
「えっ?!僕??ちょっと、僕いやだよ~!?僕リーダーに向いてないじゃない~!」
「俺は交渉なんてできないぞ!聞いた話も結構忘れるから無理だな!落ち着きないし依頼主とトラブりそうだ!」
タクト、ちゃんと自覚あったんだ…。
「オレなんてまだ4歳だし!」
「お前は年齢よりも何よりも方々でトラブル起こしそうだからダメだ!」
「……そんなトラブル起こしそうな人しかいないパーティーのリーダーを僕に……?」
「「ラキしかいない!!」」
ラキはがっくりと項垂れた。
「まあまあ、ラキ元気出して!きっと楽しいパーティになるよ。ほら、これラキにお土産-!」
「うわ!どっから出したの?!すごい……本物の甲殻じゃない!もらっていいの?!やった~!」
「まだあるから必要なら言って!」
「お前これアーミーアントじゃん…アリと戦ったってこれかよ…。お前だけもう見習いじゃないよな…。いいなあ、俺も戦闘経験積みたいぜー!明日訓練小屋申請しよっかなー!」
「訓練小屋?訓練場じゃなくて?」
「お前、知らねえの?魔物と戦う訓練施設あるじゃん。申請しなきゃいけねえけどさ。」
「えっ?!校内に魔物がいるの?」
「魔物って言っても従魔と召喚獣だよ~?従魔術師と召喚士は、自分の魔物の訓練のために、他の生徒は魔物と戦う訓練のために、そういう施設があるよ~?」
そうなんだ!レーダーを広げると、確かに魔物と人が集まる場所はあるけど、あそこだろうか?うさぎ小屋みたいなものかと思っていたけど、戦うための魔物がいるのか。
「そこ、オレも行ってみたいな!」
「お、じゃあ今から申請行くか!」
「ユータはどっちで申請するの?」
そっか、オレは召喚士だもんね。召喚士として登録したら、モモを登録することになるのかな?でも、モモって戦えるんだろうか?ラピスたちを登録するわけにはいかないしね。
『わたしも登録したいわ!戦う練習だって必要だもの。』
「でも、相手は魔物だと思ってるから、辛かったり痛い思いをするかもしれないよ?」
『ふふん!そう簡単にいくもんですか!学校にいるチビちゃんたちに負けたりしないんだから!』
そうなの?確かにモモはシールドを張れるから、痛い思いをする確率は低いけど…攻撃だってできないだろうに。
「じゃあモモは召喚獣として登録するとして、オレはオレで訓練のために登録したいけどそういうのもアリなのかな?」
「自分の身体で戦う召喚士とか従魔術師なんて見たことないから知らないけど、別にいいんじゃないかな~?」
* * * * *
善は急げとさっそく登録に来たオレたち。二人はスムーズに登録して、残ったのはやっぱりと言うべきか…モモとオレ。
「うーん、そうは言ってもね…君、随分小さいし、召喚士なんだろう?強くなりたいって気持ちは分かるけど、無茶をするもんじゃないよ?スライムだって弱いから可哀想じゃないかな?」
『失礼ね!!私が弱いですって?!ちょっと、あなた出てきなさい!相手になってあげるわ!』
受付のお兄さんの台詞に憤慨して、激しく跳ねて抗議するモモ。
「モモ、落ち着いて!……えーっと、このスライムはちょっと普通とは違うので大丈夫です。オレも
結構戦えるので…。」
「そんなに言うなら、とりあえず登録の受け付けはしておいて、枠をひとつだけにしておくよ。もし大丈夫なら広げたらいいから。」
訓練施設に登録すると、レベルに応じた相手と模擬戦ができるのだけど、いつでも相手がいるわけではないので、希望する相手の予約ボードみたいなものに自分の札をかける仕組みのようだ。同様に対戦希望者がいれば、予約枠の範囲内で申し込みされる。当然ながら予約枠がたくさんあればたくさん予約が来るので、いくつ枠を設けるかはきちんと考えないといけないそうだ。
ずらりと並ぶボードを眺めれば、中には10ほどの札がかかっているボードもある。
「この従魔とか人気あるんだね!」
「あー、怪我しなさそうでレベル的にもちょうどいいんだろうな。」
「君たちまだ1年生だろう、登録は拒否できないけど、もう少し訓練してからじゃなきゃ魔物との戦闘は勧められないよ。いくら従魔や召喚獣だって言っても完全にコントロールできるわけじゃないし、魔物の方が力加減を間違うこともしばしばあるからね。慣れるまでは、それこそ君のスライムあたりが一番対戦相手にいいんじゃないかな。」
そうか、それも一理ある。モモはちゃんと手加減できるし、自分で考えてコントロールできるけど、普通の魔物だったらそうはいかないだろう。1年生の魔物との戦闘に、モモってすごくいいのかもしれない。
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