第178話 ナイスアイディア

「で、これがその天使の像だと…。」

「はい、いかが致しましょう?冒険者たちは聖堂を建てて奉るべきだと。」

「……あの野郎。」

「…で、ございますよね?」

「絶対だ。」


「ああ…なんて見事な彫像かしら。これは皆さんにも見ていただけるように美しく設置するべきよ!」

「母上は僕の描いた絵もロビーに飾ってたよね…。」

「あれも素晴らしい絵でしたわ!今でもちゃんとメイド部屋にありますので、こちらも聖堂に…」

「やめてねっ?!絶対にやめてね!?そもそも捨てたはずなんだけど!?今すぐ処分してくれる!?」

「うふふっ、セデス様ったらご冗談を。」


「…聖堂は作る方向になりそうだな…。」

「そうですね…確かにこれは美しい像ですから、見に来る者も増えるでしょう。領地にとってよいことではありますね。この像があれば冒険者の荒くれも大人しいそうですし。」

「しかし、なんでこんなものを…?」

「そうですねぇ…世間の目を逸らすため、でしょうか…?ほのかな魔力も感じます。何か意味があるのかもしれませんね。」

「ひとまず……アリス、あの野郎を喚びだしてくれるか?」

「きゅ!」



* * * * *


『あなたのいいアイディアは碌でもないことが多いのよねぇ。』

「そんなことないよ!この方法だったら魔石を盗って行かれたりしないし、不自然じゃないし、いいと思うんだ!」

『でも主ぃ、そんなのどうやって作んの?』

「適当に石を人っぽくすればいいんじゃない?昔のものって設定だしさ!」

『ふーん、それで天使に見えたらいいけど。とりあえず作ってみたら?』

よしきた!アリの巣にほど近い場所で小さな作業部屋を作ると、オレは収納から生命の魔石を取り出し、土魔法を使って周囲を石で覆っていく。石の塊ができた所で、ラキの加工を思い出しながら、思い描いた形に削り出していく。

「ほら、できたよ!」

『無理。全然ダメね!神秘的な感じがしないもの!』

ガックリ。そうかなぁ…結構うまくできたと思うけど。

オレの計画はこうだ!生命の魔石を入れた天使像を造って、あらかじめアリの巣に入れておく。すると討伐に来た冒険者たちが発見して、お地蔵さんみたいに村のあたりに設置しておいてくれるかなって寸法だ!盗って行かれたら困るから、そこそこの大きさが必要だね。

でもモモの美的感覚からすると、オレの作った天使像はアウトらしい。そんなこと言ったって…ラキに頼むわけにも行かないし…。




『そこはもっと滑らかに…そっちはもう少し削って!あと2㎝!こっちは足して、はい、そこから削り出す!もうちょいもうちょい…はいストップ!』

モモを肩に乗せて、まるで声で動くロボットのように操作されながら修正していく。うう…モモ細かいよ…眠いし目がショボショボするよ…もうこれで十分じゃない?

厳しいモモ鑑査の元、修正に修正を重ねた天使像は、もう立派なギリシャ彫刻のようだ。これ、むしろ悪目立ちしない?持って帰れないだろうと思うけど、美術的価値が出て盗まれてしまいそうだよ。

『そんな罰当たりなことはしないしさせないわ!エリスが見ていてくれるもの!』

「きゅっ!」

興味深げに作業を眺めていた管狐部隊からエリスが進み出る。どうやらエリスはこの彫像の出来と、纏う生命魔法にをお気に召したらしく、自分の担当にしたいそうだ。それはいいけど…退屈じゃないの?別についていなくてもいいから適当に遊んでてね?

エリスは大喜びで、彫像の翻った衣装のひだに入り込んだ。そんなに気に入ったの?それならエリスがちょうど入り込める場所を用意しておくよ!

天使像を運び込むついでに、アリの巣に遺跡の痕跡っぽい崩れた石畳だとか塀の一部だとか小細工をしておいて戻ってきた。

この天使像作戦は我ながらすごくいいと思うんだ。これなら魔石が力を失ってきてもオレが定期的に補充できるし、ついでに遺跡から発見されたってことで天使伝説は昔からあった証拠になるから、オレへの疑いが消える!ついでに天使像をオレから離れた姿にしておけば…と思ったんだけど、モモの美的感覚に合わせたせいでそこは大きく外せなかったな…グラマラスな女性にしても良かったと思うんだけど。

それでも、口元以外は隠れていてオレよりずっと年上だから、同一視されることはないだろう。立派でカッコイイ天使さん、どうかみんなを守ってね。



* * * * *


「お前、なんであんなの作ったんだ?」

「なななななんのこと…?」

「天使像に決まってるだろうが!」

「そそそそそんなの知らないよ…?」

先日帰ったばっかりなのになんで呼び出されたのかと思ったら…。どうしてオレが作ったってバレたんだろう…。


「はー…ったく、別に害になるもんじゃなし、構わねえが…聖堂を建てて奉るってよ。」

「えっ?えええ?!なんでそんな大がかりに!?」

「知らねえよ、冒険者たちはすっかり天使教の信者になっちまってるぞ。」

「て、天使教?!」

いつの間にやら宗教になってる?!何のご利益もないと思うけど…?!どうしてこう物事が大きく大きくなっていくのだろうか…。ま、まあいいや、そうなればもうオレとは関わりなくなってくるし。

「心正しく、弱きを助けて命を慈しむ天使だそうだぞ。いや~荒くれが減って助かるわ。」

なんと!?荒くれが減るってご利益があるなら天使教も意味があるのかもしれないね。心正しく行動してたら、きっといいこともあると思うよ。

「アーミーアント討伐に参加した冒険者、めちゃくちゃ多かったからな…天使教、スゲー広がってるぜ。お前、下手に行動すんなよ?」

「う、うん……でも、天使とオレとは結びつかないでしょ?」

「どうだかなぁ。お前がここに来た時期と天使の噂が出だした時期が重なるからなぁ。もっと天使像をガチムチなヤツにすれば良かったじゃねえか。なんかあれ、お前っぽいぞ。お前がいるような雰囲気がするぞ。」

カロルス様、さすが野生!そりゃあオレの雰囲気がするでしょうよ、オレの魔力だもの。魔力が分からないはずなのに、感じ取っているなんて…さすが、Aランクは人外!

「だってモモが…それに逞しい像にしたら、オレが大きくなったときに似てるかもしれないでしょ?」

「………。」

カロルス様が可哀想な子を見るような目でオレを見た。

「…まあいい。聖堂は村の外、北の街道近くに作るぞ?よそ者があまり村内に大勢押しかけても面倒だからな。」

「うん、それで大丈夫だと思うよ!」


どんな聖堂がいいかとか細かい事も聞かれたけど、オレは道ばたに置いておけばいいと思ってたぐらいだ。何でも良いから負担にならない方が嬉しい。でも、今ロクサレンはカニ事業に天使騒動でとても潤っているそうだ。天使像も観光の目玉になりそうだということで、ささやかな小屋で…という案は却下されてしまいそうだ。

一通り話が進んだら、エリーシャ様とセデス兄さんとお話しして、勧められるままに夕食をとってから学校に帰った。どうやら野菜ジュース計画も持ち上がっているようで…ますますここの人達の健康に貢献できそうだね。


そっと帰ってきて粗末なベッドに寝転がると、モモが少し呆れた声で尋ねてきた。

『ねえ、あなた天使像は自分が作ったってこと、秘密にしておくんじゃなかったの?』

「えっ…。ああっ?!」

いつの間にかオレが作ったと確定して話が進んでいる?!オレ作ったって言わなかったのに!!

がくっと項垂れるオレ。…カロルス様に…負けた……。

「カロルス様…そんな話術を持っていたなんて…。」

『主ぃ、あれは主が単純すぎるってトコだぜ!…いや、俺様褒めてんのよ?!』


チュー助…それはどう頑張っても褒めてないよ…。







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