第177話 パーティ名

「いってきまーす!また帰ってくるね!」

「おう、気をつけろよ。やり過ぎんなよ!」

「もっとマメに戻っておいでね、いや、僕がそっちに遊びにいこうかな。」

「ううっ…ユータ様ぁ~お気をつけてえぇぇ~!!」

「ユータ様、道中くれぐれもお気をつけて。何か問題がありましたら、いつでも頼って下さいね。」


みんなに見送られながら、今回はロクサレン家の馬車でハイカリクまで。エリーシャ様はオレを抱っこしたがったけど、タクトがいるから恥ずかしいよ!だから隣に座ることでガマンしてもらった。

タクトも休みを満喫したらしく、毎日の朝から晩までの行動を事細かに語ってくれる。

「そんで、お前は何してたんだ?」

「オレ…?オレは…色々。お料理したり、兵士さんと試合したりアリと戦ったり…色々だよ。」

あとは魔石を作ったり神獣に会いに行ったり、そうそう妖精さんとも遊んだね。

「兵士とアリ…??どうすればそんな事になるんだよ…。」

呆れた顔をするタクトは、最初こそ領主の奥さんと貴族の馬車に居心地悪そうにしていたけど、今はすっかり寛いでクッキーをかじっている。

乗合馬車ではないので、途中の休憩をはさみつつ今日は一直線にハイカリクへ向かうんだ。


「貴族の馬車って速いんだな!飛ばせ飛ばせー!」

ひゃっほう!と身を乗り出すタクトを引っ張りつつ、ふとエリーシャ様に尋ねる。

「そう言えばアリの退治ってどうやってするの?何か吹っ飛ばす魔道具とかあるの?」

「ないこともないけど、素材が勿体ないから冒険者たちはやりたがらないと思うわ。人海戦術でちまちま倒していくのよ。今回はアリだけだから、慣れた冒険者には簡単な殲滅戦なの、応募者も多いでしょうし、大丈夫だと思うわよ。」

「え~あれ全部一匹ずつ倒していくの?!大変だよ…?!」

「そうね~、付近に拠点を築いて3日もあればなんとかなるんじゃないかしら?長くても5日ね!」

「1日じゃないんだ?!」

「当たり前じゃん!ユータってホントそういうとこポンコツだよな!魔物の巣を潰すのは普通数日がかりだろ。」

「ゴブリンの時は1日だったような…。」

「うふふ、あれは被害が出るから早急に事を進めなきゃいけなくてね、Aランクの魔法使いが頑張ったのよ。行ってたのはウチの兵だったし優秀なのよ?」

「早急な殲滅戦には大魔法使いがいなきゃ話にならないんだぞ!だからユータ、俺らがパーティ組んだらお前の魔法、頼りにしてるぜ!ど派手なやつ覚えてくれよな!殲滅の魔法使い!とか二つ名がついたりしてな!…そうだ、なあ、俺たちのパーティ名どうする?カッコイイやつにしようぜ!」

タクトと冒険者パーティ!ちゃんとオレを入れてパーティを組もうと考えてくれるタクトに、自然と笑顔が零れた。わくわくしてくるね!オレ達だけの冒険だよ!

「わくわく冒険団とか!」

「却っっっ下!!!」

「楽しいぼうけ…」

「却下!!!お前っカッコイイ名前だっつってるだろ!まじめに考えろって!」

「考えてるよ!うーんと…どんなのがカッコイイの?」

「有名なとこだと『疾風の槍』とか『白銀の魂』とか!意味は知らねえけど『ドラゴンスクリュー』とか『エンジェルホーン』とかもカッコイイだろ!?」

えーそうかなぁ。もっとはっきり意味の分かる言葉の方が良くない?難しそうな言葉を使うとウケがいいんだろうか。

「彷徨える魂、とか?」

「ダメじゃん!方向性は合ってきたけど!」

うーん、ニース達はたしか『草原の牙』でレンジさん所は『放浪の木』だったよね。分かったぞ、『○○の○』っていう法則に入れたらいいんだ!

「分かった!『街の壁』!!」

「ま・じ・め・に考えろ!!」

「いひゃい!いひゃい!!」

ぐいんと両ほっぺを引き延ばされて悲鳴を上げる。ひどいよ!まじめに考えたよ!街の人達を守る壁ってカッコイイじゃないか?!


「お前はダメだな。ラキと相談しよう。」

むくれてほっぺをさするオレを横目に、ため息をつくタクト。

「じゃあタクトだって考えてよ!カッコイイヤツ!」

「そうだなー『ドラゴンキラーの英雄』!とかどうよ?」

「できないこと言っちゃだめでしょ!自分で英雄とかやだよ!」

「それはまあ、今後の目標ってことで。」

こいつはダメだ…オレ達はお互いにやれやれと首をすくめた。

「ねえ、カロルス様はなんてパーティだったの?」

「そうねえ、あの人達はAランクで活躍したから、王様から賜った名前があるのよ。『竜を越えし者』っていうやつよ。あの人は嫌がって嫌がって可笑しいったら。」

オレ達のやりとりを楽しそうに見守っていたエリーシャ様は、そう言ってころころと上品に笑った。

「すっげ!!カッコイイー!!カロルス様、なんでいやがったの……ですの?」

タクト、敬語間違ってるよ…。

「ふふっ、あからさまで嫌らしいわ。もっと分かりにくくて目立たないのがいいんだって。元は確か、『大樹の影』だったかしら?地味な方がカッコイイと思うみたいよ?」

いいじゃないか、大樹の影。どんなものにも等しく休む場所を作り出せる大樹の影、いかにも懐の広いカロルス様らしいと思ったよ。


結局何一ついい案が出ないままにハイカリクの街へ到着した。『学校の友達』いいと思ったんだけどな…。

「ユータちゃん…寂しいわ。またすぐに戻って来てね…?」

さっきからエリーシャ様がオレを抱きしめて動かなくなってしまった。柔らかな優しい腕は、とても心地良いけど……でも、オレそろそろ恥ずかしいよ…。大通りの一画で子どもを抱きしめて動かない貴族。目立ってる…目立ってるよ…!

「あらあら?!天使ちゃん!エリーシャ様!」

低い声にピクリと反応したエリーシャ様が、神速でオレを背中へ隠した。同時に迫ってきた美人さんの顔をガシリと掴む。

「ちょっとエリーシャ様ぁ!ご挨拶のハグぐらい…いいじゃないのぉ!」

ジョージさん…目をぎらぎらさせていなければ、美人さんなのに…。

「な、なあ、あの声の低い女の人、誰?なんか怖いんだけど。」

「あれはサブギルドマスターだよ。ジョージさんって言うの。」

怯えたタクトにこそっと耳打ちする。大丈夫、変な人だけどアヤシイ人じゃないから。


「ああっ!見知らぬ少年と天使ちゃんが!でもそれはそれでいいわ!グッドよ!!」

顔を掴まれたまま、ぐっと親指を上げるジョージさん。

「あなたを視界に入れると子どもに悪影響があるの。ギルドに用事があるのよ、さ、行きましょう。」

「あ、ちょっと…エリーシャ様!待って…天使ちゃんにワンハグ!いえっせめてひと撫でさせてぇ!」

問答無用で首根っこを掴んでぶら下げられたジョージさん。エリーシャ様はスタスタと歩きながら、振り返ってにっこりと微笑むと、手を振った。

大きく手を振り返したら、さあ、オレ達も学校へ帰ろう。


「…あれがサブギルドマスター…ハイカリクの…?毎日あそこ行かなきゃいけねえの…?」

タクトのバラ色冒険者生活に早くも暗雲がたち始めたようだ。




* * * * *


「天使様の土地にアーミーアントだと?!俺は行くぜ!」

「加護が得られるかもな…。」

「そんな無粋な考えのヤツは天使に嫌われるんだぞ!」

くだんの依頼には辺境のアーミーアント討伐にあるまじき人数が殺到し、なんとボランティアで参加する者まで出る始末。


「すごいもんですなぁ…天使様の効果は。」

「全く…彼らも縋るものが欲しかったんでしょうね、命がけの日々ですから。」

今回も指揮を執るのはアルプロイさん。私は念のために引率として来ておりますが、この人数にこの士気の高さなら大魔法に頼る必要はなさそうです。



「アルプロイさん!ちょっと来てくれますか?冒険者が何やら興奮してわめいておりますが…。」

「なんだ?」

トラブルでしょうか、ほぼほぼ殲滅を終えたアリの巣は、まるでお祭り会場のような人だかり。中でも真ん中の塔の中で異変があったようです。

「天使だ!ここは天使の遺跡だ!!」

「本当にあったんだ!」

「俺たちは天使の聖地を魔物から奪い返したんだ!!」

私たちが向かった先では、うおおお、と騒ぐ冒険者たちで、辺りには異様な熱気が立ちこめていました。

「何を騒いでいる?」

「あっ…これです!見てください!!天使様の伝説は本当にあったんだ!!俺達天使様の像を見つけたんだよ!」

「何…?」

黒山の人だかりをかき分けて進むと、はたしてそこには土に半ば埋もれるようにしてのぞく彫像。

…これは一体…?せっせと掘り出すのに任せ、ほどなく全身を現わしたその彫像。

布のようなものを纏い、目元まで隠された整った顔だち、その背には大きな翼。男にも女にも見える不思議なその姿は、見事な技術でもって表現されておりました。…これが、天使…?

魔物の巣の中で、確かに感じる神聖な気配に、次々と冒険者が跪いていく…。

「…グレイ殿。」

「……ええ。」


……ユータ様?

私たちは顔を見合わせて頷き合ったのでした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る