第168話 3人+αで遊ぼう

「―でね、みんなも先生もすごく美味しいって喜んでたんだよ!ホーンマウスって結構美味しいんだね!でもオレも捌けるようにならなきゃいけないなって思ったんだ!」

「ああ!そんなに嬉しそうなお顔をされて!マリーは耐えた甲斐がありました!」

「こんな天使の笑顔でお話しされちゃったら!いいの!いいのよ~ユータちゃんは思うようにすればいいの!それで何かあってもユータちゃんのせいじゃないもの!」

エリーシャ様がぎゅうっとオレを腕の中に抱きしめた。温かく柔らかい華奢な身体が、オレに大きな安心感を与えてくれる。

「…そうは言ってもなぁ。まあ、お前に目立つなって言っても不可能だろうし仕方ないのかもな…。」

「もう圧倒的に力をつけた方が話が早いかも知れないよね。とっとと冒険者になってAランクにでもなれば、そうそう変な輩に目を付けられたり……しないとも言えないかなぁ…なんせ年齢がねぇ…。」


まあ確かに唐揚げを作ったら目立つかも知れないけど、目立つのは料理人としてくらいでしょう?そのくらいなら大丈夫だと思ったんだけど……。

「どうして怒られるか分からないって顔だね。……さてユータ、質問です。冒険者の基本の野外食は何でしょう?」

「はいっ!保存食!」

「それはなぜですか?」

「はいっ!野外では危険な魔物がうろうろしていて、のんびりごはん食べたりできないから!」

「よろしい、ではホーンマウス狩りに行く適正ランクは?またその平均捕獲数は?」

「え、えーと……ランクはE~F?小型の魔物の捕獲数は…3匹くらい?」

「そうだね。では4歳の子どもがホーンマウスをたくさん捕獲して野外で雑炊と唐揚げを作っているのは?」

「………おかしい。」

セデス兄さんはにっこり笑って正解、と言った。

ガックリ……そうかー野外キッチンやってるのも本来おかしなことか…。でもあのまずい保存食を毎日食べて生活するなら冒険者にはなりたくない。野外キッチンは目立たないようにやろう。ホーンマウスをたくさん捕獲したのは不可抗力だし、みんなに証拠隠滅してもらったから、どのくらい倒したのかは分からないはず。うん、そう思えば唐揚げパーティも意味があったんじゃない?

「ユータ様は目立たないようにするのは無理そうですねぇ…。」

あれはあれで良かったんじゃないかな?なんて考えていたら、ため息をついた執事さんに言われた。だってやっぱり便利なものは使いたいし、楽をしたいし美味しいものも食べたいし。…なんかそう言うとオレがダメ人間みたいだ…。


「ユータちゃんだったらもう思いっきり目立ってもいいんじゃない?王様のお気に入りになればそれはそれで抑止力抜群なのよね、やっかみも多いけど。」

「あ、そのことでね!オレ良いこと思いついたんだよ!」

「あんまりイイコトな気はしねぇが…なんだ?」

「オレ、どうしても目立っちゃうみたいだからね、もういっそ他の人たちをオレより目立つようにしちゃったら、誤魔化せるんじゃないかなって!」

「ふうん…まあそうかもしれんが…どうやって他のヤツを目立たせるんだ?」

「今ね、タクトやラキたちとひみつの特訓しててね、まずはその二人でしょ、あと魔法使い組の子3人もひみつ特訓してるんだよ!おかげでこの間の実地訓練でも大活躍だったって言ってたよ!」

「えーとつまりユータはクラスの子たちを規格外に育てようってわけ?」

「そうなんだ!最終的にクラスみんなが普通の人よりデキるようになったら、オレなんて目立たなくなると思うんだ!」

「うーむ…そんなうまくいくとは思えんが…まあそれでどうなっても実力が上がればクラスのヤツラは喜ぶだろう。」

やって損はないってことだよね!よし、みんなの実力アップ、頑張ろう!



* * * * *


「う……重い、重いよ…。」

どしりと重量感のある巨体はふわふわと柔らかな手触りだ。

胸苦しさに目覚めたら、案の定どアップで視界を埋めた桃色へびさん。

「プリメラ、おはよう!また太っ……大きくなったんじゃない?」

鋭い視線に慌てて言葉を変える。ふう、危ない…プリメラ…そんなこと気にしてたの?心持ち普段より長くオレの上に居座っているのは気のせいだろうか?


コンコン


上品なノックの音…執事さんかな?

「はーい?」

「ユータ様、伝言を預かっております。タクト様たちが、本日は一緒に遊びたいと。」

「ほんと!?ありがとう!すぐに用意して行くよ!」

プリメラに下りてもらうと、大急ぎで支度して朝食を食べる。もちろん朝食は照り焼きサンド!パンは固めだったけどとっても美味しかったよ!カロルス様なんて朝からどんだけ食べるの…って量を頬ばっていた。


「…で、俺らにもちゃーんと情報寄越すんだろうな?」

そして当然ながら料理長のジフたちに絡まれて、レシピを教える羽目になったよ。まあ照り焼きは簡単だし、そもそもお醤油がなければ作れないからね。また今度エルベル様のところへ行ったらお醤油たくさん分けてもらえないか聞いてみよう!


「あっ!タクトー!エリちゃーん!」

「おう、ユータ思ったより早いな!」

「おはよう!えっと、ユータ様?」

そっか、エリちゃんとはあの時以来なのでほぼ話したことはなかったね。

「ユータでいいよ!エリちゃん、元気だった?ママさんは?」

「ユータちゃん、ありがとう!私もママも元気よ!ママね、あれからすごく調子が良くなったの。今まで良いときも悪いときもあったんだけど、今はずっと良いときなのよ!すごく怖かったけど、パパの身体も治ったしママも良くなったし、ここに来て本当に良かった!」

「そ、そう…それは良かった!ここは良いところだもんね。」

ちょっぴり冷や汗を流しながら笑顔を向ける。ママさんに使った回復薬は普通よりちょびっと効果のあるヤツだから…そのせいもあるかもね。


「ユータ昨日は何してたんだ?俺エリの案内であちこち連れ回されてたんだけどさ、向こうに湖があるんだろ?そこ行ってみねえ?」

「行く行く~!水浴びする?まだちょっと寒いかな?」

連れ回されただなんて言われて、エリちゃんがプンプンしている。二人は仲良いなぁ。

「遊んでたらきっと暑くなるって!でもさ、あそこは魔物が出ることもあるから、大人と一緒じゃなきゃダメって言われたんだ。ユータのとこ、誰か着いてきてくれる人いねえ?」

「いると思うよ!じゃあ準備してまた集合でいい?タオルとか持っていった方が良いよね?お弁当も持ってくるよ!」

「お、マジで?よっしゃー!お前が作ったら保存食だって美味かったもんな!頼むぜ!」

「ユータちゃん、いいの?」

「うん、昨日作ったものもあるからすぐに持ってこられるよ!」

「じゃ、準備できたらここ集合なー!」

「了解!」



一緒に行ってくれる人は、とりあえずマリーさんがいいかな?一応オレのメイドさんってことになっているし。さて、どこにいるかな?

「マリーさーん!」

「はいっ!なんでしょう?!」

早っ!?

とりあえず呼んでみたら、残像が残る勢いでシュパッと現われたマリーさん。それ絶対近くにいたんじゃないよね?!メイドさんってすごい…。


「えっとね、タクトたちと遊ぶんだけど、湖の方に行きたくて。大人が一緒じゃないとダメなんだって。」

「そ…それでマリーを…マリーを選んで下さったのですね!?嬉しゅうございます!!行きましょう!今すぐ行きましょう!!」

オレを引っつかんで行こうとするマリーさんを引き留め、なんとか準備をすませて待ち合わせ場所へ。

「あれ…ユータ、大人ってそのお姉さん?魔物が出るかもしれないからって言われたけど…大丈夫なのか?」

「うふふ、大丈夫ですよ。このマリー、命に代えても皆さんを守りますからね!」

ちびっ子に囲まれて嬉しそうなマリーさん。いやいやマリーさんが命がけで守る事態って……。


最強のメイドさんに護衛されているとも知らず、油断なく警戒しながら歩くタクト。オレとマリーさん、タクトとエリちゃんがそれぞれ手をつないで歩いた。


「おおー結構でっかい湖なんだな!きれいじゃん!」

ほどなくして、到着した湖に歓声をあげるタクト。ルーの湖ほどではないけど、ここも静かで凜とした雰囲気のある、オレの好きな場所だ。

「ここ、エビビ離してもいいかな?でもこの水から出したらすぐに消えちゃうかな…」

タクトは首から下げた移動用エビビホームを持ち上げてみせる。じゃあこの湖に生命魔法飽和水放り込んだらいいんじゃない?って思って取り出そうとしたら、モモにむにっと小突かれた。

『そんなことしたら滅茶苦茶よ!おバカさん!こうして…水を入れてあげればいいんじゃない?』

エビビをシールドで包むモモ。なるほど…お水を通さないシールドを張れば透明球体の水槽が出来上がりだ。エビビ用のお水を注いでシールドを閉じると、タクトはそっと湖に浮かべた。

「エビビ、良かったな!いっぱい遊んできて良いぞ!」

エビビが楽しそうなのかどうなのかはサッパリ分からないけど、とりあえずタクトは満足そうだ。


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