第167話 おうちごはん
「ふうむ…これがお前の言っていた『わしょく』か?地味で野菜中心な料理だと言っていたが…すごく旨そうじゃないか!」
「うーん本来の和食ではないと思うよ!カロルス様たちが食べやすそうなのを用意したの!…これなんかが和食って言えるのかも。」
「………そうか。それは後でいただくとして。」
お肉盛りだくさんに喜ぶカロルス様は、差し出されたカボチャの煮付けをそっと奥に追いやった。もう!野菜もちゃんと食べてね!今回はごはん片手におかずを食べて欲しかったので親子丼は次の機会ってことにして、麦飯、お味噌汁、照り焼き2種、唐揚げ、サラダ、かぼちゃ(?)の煮付けを並べてみた。
「オレの国の料理にはお醤油を使うことが多いんだよ!それで、こっちがお味噌汁。これは具材を変えて毎食出てくるぐらい定番の…スープみたいなもの?お吸い物より家庭的で具だくさんな感じかな。」
「へえ~僕お吸い物好きだから楽しみだな!」
「確かにお吸い物の方がきれいで高級な印象がするわね。でもこちらもおだしのいい香りがするわ!」
「よし!とりあえず食おう!話はそれからだ!」
ガマンできなくなってきたカロルス様が急かす。じゃあ…和食と言えばこれをしなきゃね!
「ね、オレがいつもやってるやつしよう?」
「あのお祈りか?なるほど、そちらの作法に従おう。で、なんて言ってるんだ?」
「確か、『イラーキマス』みたいなのじゃなかった?」
セデス兄さん、何その呪文?そっか、普段も一応サッと手を合わせて食べているのだけど、お祈りみたいに見えるんだね!確かにそうかも。
「いただきます、だよ。お祈りじゃなくてね、オレの国でお食事の前に言う、作ってくれた人たちに感謝を込めた…挨拶みたいなものかなあ?」
「お前が作ってても言ってると思うが。」
「料理したのはオレだけど、お野菜を作った人やお肉をとってきた人、そうそう、それ以外にも命をいただくことへの感謝だよ。お肉もお野菜も、生きていたものをいただくでしょ?本当はオレも詳しくは知らないけど、そういうことだと思って言っているよ?」
「そう…とても素敵なことね。あなたが育った国だって気がするわ。」
エリーシャ様がとても優しい顔でオレを撫でてくれた。
「「「「いただきます!」」」」
カロルス様は真っ先にてりてりに輝く鳥の照り焼きにかぶりついた。ナイフを入れると溢れる肉汁に、うまく焼けたとホッとする。実はみりんが見つからないので少し物足りないし照りも足りないのかも知れないけど。
「んんっ!うま!これは鳥肉か?焼いた鳥肉は普段物足りないと思うが…これは美味いぞ!これなら鳥肉も肉と認めよう!」
「おおっ本当だ!このたれが絶妙なんだね!甘くてこっくりしてる。こっちの麦も意外と食べられるもんだね。一緒にたれを絡めて食べるとすごく美味いよ!」
「まあ!これはお魚?こんなにしっかりした味のお魚なんて初めて。ホントね、このたれが麦とよく合うわ~!パンとも合いそうね。」
「うん、パンともすごく相性がいいんだよ。こっちのサラダと一緒にパンに挟むとすごく美味しいんだ!」
「よし、じゃあ明日の朝飯はそれにしてくれ!」
「このたれを使った料理出したら、またすごいことになりそうだね~。」
それを聞いてハッと道中で聞いたことを思い出す。
「ね、ねえ…途中で聞いたんだけど、ここに来たら寿命が延びるって…天使の加護があるって…。」
おそるおそる問いかけると、ああ、と微妙な顔をしたカロルス様。
「聞いちまったか。そうとも、この辺りには天使の加護があるって噂があってな…特に冒険者中心に広まったみたいだな…まあ間違いなくお前だな。あとは飯が美味いって話も広まってなぁ。急に人が増えてきちまって、村の規模を変えなきゃいけなくなりそうだ。」
「そんな顔するとユータちゃんが誤解するじゃないの。これは本来領主として大喜びこそすれ、こんな微妙な顔をする必要はないことなのよ。領地が潤って喜ばない領主は居ないわ!」
「そ、そう?ごめんなさい、オレのせいで色々大変になっちゃって…。」
「あ、悪い。潤うのは嬉しいんだぞ、村のヤツらもいい暮らしができるからな!こんな辺境で村を潤すなんてお前の功績は計り知れないぞ!ただなぁ…それが俺の功績になるのがなぁ…公表できないのが残念でたまらん。お前の功績で俺がいい思いをするのはおかしいだろう。」
「全然!全然おかしくないから!そう思ってくれるなら尚更頑張ってカロルス様の功績ってことにして!オレはイヤだよ!」
まったく、まだ納得してなかったのか…。オレもその恩恵を受けてお世話になっているんだから、それでいいじゃないかと思うんだけど。
「うっわ!これ美味い!ユータ、これ何?!めちゃくちゃ美味いよ?!」
セデス兄さんが大皿に盛った唐揚げをせっせと自分の皿に移している。
「それはお醤油ベースの唐揚げだよ!この間学校でホーンマウスの唐揚げ作った時も大人気だったよ。その時はお醤油とかなかったからシンプルな味だったけど。」
「ふぇっ?あっこうれそんあのいううくるの?」
なんだって??そんなに唐揚げ詰め込んだお口で話しても全く分かりません!
「学校でそんなのいつ作るの?って言ったんだよ。作る機会ないでしょ?」
「ああ、実地訓練のとき…」
「ちょっと!セデス取り過ぎよ!もうダメ!」
「うおお…出遅れちまった…めちゃくちゃ美味いじゃねえか!!くそっ…見た目に騙されたぜ…!」
一人勝ち状態のセデス兄さんの皿にはてんこ盛りの唐揚げ。欲張りすぎだから!次いでエリーシャ様で、カロルス様が悔しがっている。そうか、見た目で何か分からなかったから後回しにしたんだね…以前の揚げ物はお魚だったもんね。よく食べるだろうと大皿に山盛りに盛っていた唐揚げはもうひとつも残っていない。
…ん?オレの分は?
「サクッとカリッと!そしてこの溢れるジューシーな肉汁!ぷりっとした柔らかなお肉!これは美味いよ!この食欲をそそる香りがおしょーゆなの?たまらないね!!」
「美味しいわ…淡泊な鳥肉がこんなに味わい深くって美味しいなんて。」
「くっ…ユータ、今度はもっと作ってくれるか?これも肉だな!肉と認めよう!!美味いぞ!そして外側の茶色いものも美味い!突き出た部分が特に美味いぞ。」
カロルス様は唐揚げの衣がお気に召したようだ。美味しいよね、カリッとしていて。
「あらっ?これ…不思議ね、美味しいじゃない…。」
「ホントだ、なかなかイケるよ!しっかり食べた感があるし、野菜って感じはしないね。結構好きだな。」
「味がしっかりしてるな。肉よりは劣るがこれなら食えるぞ。」
小鉢に上品に盛り付けたかぼちゃの煮付け。これだけは一般人の食べる量だ。ここの人達は野菜をあまり食べないからね…。一通りお肉を食べて満足したらしいエリーシャ様が最初に口に運び、美味いと聞いた二人も続いた。こっくりとした甘み、ほこほこした食感。うん、これこれ…ホッと安心するこの味。オレにとっては懐かしい味、カロルス様たちにも受け入れてもらえたようで良かった。
最後にお味噌汁に手を伸ばした面々に、少し可笑しく思う。日本のマナーを知るはずも無いので味噌汁が先だ!なんて言うつもりはないけど、みんな食いしん坊だな…。とりあえずガツンとくるものを食べたかったみたい。だって貴族のマナーでもスープは先だったと思うんだ。
お味噌汁を飲んで、一様に「ほぅ」と息をつく3人。
「やっぱりお吸い物と似てるね、ホッとする味だよ。」
「そうね、洗練されたおだしの味とは違うけれど、これは変わった風味がして美味しいわ…温まるわね。」
「うむ、美味い。しみじみ味わい深いな。」
一通り堪能して満足げな3人に、作ったオレも満足だ…唐揚げは食べられなかったけどね。
「ところでさ、さっきなんて言ってたの?」
「さっき??」
「いつ唐揚げ作ったのって聞いたとき。」
「あ、あれは実地訓練のときに作ったんだよ。鳥肉がなかったから、いっぱい出てきたホーンマウスで作ったんだけど、大好評だったんだ!」
「……実地訓練で?」
「ホーンマウスがたくさん…?」
「………お前…詳しく聞かせて貰おうか…。」
えっ…?言ってなかったっけ…?
そう言えば…あの時の説明はチュー助にしておいて貰っただけだったかも。
でも、魔寄せで魔物が出たことは先にチュー助が報告してたと思うし、唐揚げを作るのは悪いことじゃないよね!
オレはにこにこしながら実地訓練の話を始めた。
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