第130話 入学2

「ほい、ここッス。ここが大教室ッスね!説明するから適当に座って欲しいッス。」

「前から順番に座ってねー!いい子にして静かにしないとー雷が落ちますよー!」

メリーメリー先生が短い杖を振ると、嵌まった石の周囲にスパークが走ってバヂィっと音がした。先生……6歳児が怯えてます。ついでに横のマッシュ先生も。


メリーメリー先生のおかげで(?)とてもスムーズに着席すると、後ろからちょんちょんとつつかれた。

「(ユータ!)」

「(タクト!!)」

振り返ると、少し不安げな面持ちだったタクトがにかっと笑った。

「(よかった、お前いないのかと思ったぜ。)」

「(オレもタクトさがしてたの!)」

ひそひそと喜びを分かち合っていると、大教室に誰か入ってきたようだ。


「はいはいっ!みんな静かにしますよー!こちらが今年君たち1年生のクラスを担当する先生たちになります!こっちから順番に~1組メメルー先生、2組ツィーツィー先生、3組マッシュ先生、4組ロロ先生、そして5組が私、メリーメリー先生!みんな仲良くして下さいね~!」


メリーメリー先生は子どもみたいな見た目だけど、もしや古株なんだろうか?小さな体でちょこまかと走り回りながら進行役を務め、先生の紹介をしてくれている。

先生達の紹介が終わったら、授業のシステムや学校のルール、設備などが説明される。なんせ聞いているのが6歳児なものだから、説明はどれもざっくりだ。

授業については日本で言うと大学に近い印象だ。色んな教科があって、自由にそれらを選択して授業を受けられるようだ。ただ、1、2年生はほぼ必須授業。必須授業を受けていれば他の授業は好きに受けていいようだ。生徒数の少ない授業だと他の学年と合同になることも多いらしい。

まだ6歳だと向き不向きも分からないので、必須授業で広く浅く大体の授業を網羅する形になるみたい。それは助かる!


「じゃあこれからみんなのクラスを発表しまーす!楽しみだね-!順番に先生の前に来てね!クラスを伝えたらそれぞれの担当先生のまわりに集まること!」


のろのろ進む列にドキドキそわそわしながら先生の前へ行くと、名前を告げる。

「お、ユータ君!試験満点だったよ~さすが飛び級だね!ユータ君はなんと、私のクラスなんだよ!先生と一緒に頑張ろうね!!」

さすがにオレよりは大きいメリーメリー先生が、小さな手で頭をぽんぽんとした。良かった、オレは5組、先生が担当なんだ!

スキップるんるんな気分で先生の後ろへ並ぶと、ほどなくしてタクトもやってきた。

「一緒だな!ラッキー!」

嬉しそうな顔をしてくれるタクトに、オレも嬉しくなってにっこりした。




「5組のみんなー!こんにちはっ!!担当のメリーメリー先生だよ!そしてここが5組の教室だから、ちゃんと覚えておくんだよ?みんな仲良くね?すぐには覚えられないと思うけど、自己紹介しようか!あとこれね、先生たちもお兄さんお姉さんたちもまだ名前覚えられないから、迷子になった君たちを送れるように1年生は名札をつけるんだよ。」

クラスのメンバーが揃ったところで各クラスごとに教室へ移動した。渡された名札はごくシンプルなもので、とりあえずはチューリップ名札じゃなくて良かったよ。オレもそんなすぐ名前を覚えられないから助かる制度だ。


「タクトです。父ちゃんとハイカリクに住んでます!将来は鍛冶か剣士になりたいです!」

なんだかこの緊張感、懐かしいな。タクトの自己紹介が終わって、次はオレかな?オレもこんな風に言えばいいのかな?

「ユータです!ヤクス村のカロルス様のところでお世話になってます。将来は冒険者になりたいです!」

言い終えて座ろうとした所で教室がざわつく。

「それだけっ?!」「ちっちゃい!」「いやもっと他に言うことあるでしょ!」

えっ……?きょとんとするオレにタクトが耳打ちした。

「お前、明らかにオレ達より小さいだろ!その辺みんな聞きたいと思うぜ。あとその鳥!」

あ、そうか。みんなティアのこと知ってるもんね…ティアが見つかりにくくなってたって居るの知っていたら意味ないね。

促されて再び立ち上がる。

「えっと、オレは4歳です!飛びきゅう入学しました!こっちは小鳥のティアです。よろしく!」

ぺこりと頭を下げてにっこりすると、4歳!?4歳だって!と再びざわついた。

「はいはい、上手に自己紹介できたねー!そう、ユータくんは飛び級入学した4歳なので、みんなお兄さんお姉さんだよ?ちゃんと面倒みてあげてね?さあ次の子、続いていこうか!」

ざわつくみんなをうまく静めて次を促す先生。

再開された自己紹介を聞きながら、クラスのメンバーを確認する。当たり前だけど、みんな6歳なんだな…飛び級入学したのはやっぱりオレだけみたい。

うちのクラスは19人、男女とも半々ぐらいで、学校に来て驚いたんだけど、普通の人じゃない人達(?)も結構いるんだね。校長先生にしてもエルフ族って言ってたし、なんとなく見た目の違う人達や、この辺りでは見かけないビックリするような髪色の人達もいる。セデス兄さんたちとの勉強で、色んなタイプの人達がいるのは知っていたけど、今まで会ったのは海人のナギさんぐらいだ。ヤクス村はど田舎だから同じ種族の人しかいないし、髪色にしても土着の人々が茶~金色の珍しくない色だったので違和感なかったんだけど、ハイカリクまで来るといろんな人がいて面白い。基本は茶~金色系統が多いけれど、メリーメリー先生の緑だったり、白や水色の髪の人もいる。黒の人はいないけど、これだけ色んな色があればそこまで目立つってことはなさそうだ。


「さて、みんなが気になってることを伝えていくね!明日から学校が始まるわけですが、寮に入る人、はーい!」

ざっとほとんどの手が上がる。やっぱり大体の子は寮なんだな!残念ながらタクトは借家がハイカリクにあるから、そっちから通うみたいだ。

「この街にお家がない子は大体寮に入るから、みんな仲良くね!寮ではお兄さんお姉さんと一緒の生活になります。ちゃーんと言うことを聞いていい子にしてね?困ったことがあったり、お兄さんお姉さんがイジワルしたりする場合は、ちゃんと先生に言うんですよー!」

おや、寮の部屋は上の学年と同室になるのかな?確かに6歳だけだとかなり不安があるもんね、上の学年の教育にもいいシステムかもしれない。

なぜか一番るんるんしている先生を先頭に、さっそく寮に案内してくれるらしい。寮!寮だよ!?うわあドキドキする!!早く行きたくて行きたくて先生のすぐ後ろを歩いていたら、笑いを堪えたタクトに引っ張られた。

「お前、落ち着けって!先生の影じゃないんだから。」

どうやらオレは先生の背中にぴったりくっついて進んでいたようだ。「ユータくんってば先生のこと好きすぎなんだから!」なんて先生にからかわれて赤面する。




ここの寮は女子寮と男子寮に分かれているようで、先に男子寮の方へまわる。普通入ることはないであろう男子寮に、女生徒は興味津々のご様子だ。


「はい、このお部屋はミッチくんとニコスくん、部屋長さんがいるからお話を聞いて仲良くね!」

廊下に並んだドアの前で、先生がせっせと生徒を振り分けている。各部屋のドアがちょびっと開いて、中から様子をうかがっているらしいのが微笑ましい。

どうやら1年生2人に上の学年1人、部屋長と呼ばれる5年生以上の学年が1人で構成された4人部屋がメインみたいだ。

「さ、ユータくんはここ、ラキくんと一緒ね!」

扉の前にオレと共に呼ばれたのはラキくん。おっとりした雰囲気の背が高めの子だ。

「ラキくん、よろしくね!」

「うん、ユータちゃん、よろしくね~?僕、ラキでいいよ?」

にこっとしたオレに微笑み返したラキくん、優しそうでホッとした。

「そう?じゃあオレもユータって呼んでね?」

ラキが子どもの割に大きめだったので、つい大人といる感覚で手を繋いで、ちょっと驚かせてしまった。

「あ、ごめんね!」

「うふふ、大丈夫、僕お兄さんだもんね!」

照れた顔で嬉しそうに笑うラキは、オレより少し大きな手できゅっと握り返して胸を張った。


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