第129話 入学

うわあ…子どもがいっぱいだ。

当たり前のことだけど、村には子どもが少なかったから、こんなにたくさん子どもが集まっているのが不思議に思える。入学したての小さな子から、上の学年であろう大きな子までが入り乱れて圧倒される。


ええと…オレはどこに行けばいいのかな?タクト…タクトいないかな?この人混みの中でタクトを探すのはなかなか至難の技だと知りつつ、つい知った顔を探してしまう。新入生らしき不安そうにキョロキョロしている子や、泣いちゃっている子もいるのを見て、みんな不安なんだなと思うと少し落ち着いた。オレがしっかりしなきゃ!

ティアとラピスに飛んでもらって人の集まる場所を確認、そちらへ向かうと大人が数人慌ただしく走りまわっている。どうやら案内看板があったのにふざけて壊した生徒がいたらしく、叱る先生と項垂れた生徒に出くわした。先生、叱るのは後にして案内を先にしてほしいです。

とりあえず走り回る大人を捕まえて集合場所を確認したら、右往左往する門付近の子たちを案内しよう。

「こっちに集まるんだよ!一緒に行こう。」

「みんなで行こうね、こっちだよ!」

とりあえず泣いてる小さな子は一年生だろうと声をかけてまわる。すぐにはぐれてしまうので、次々と手を繋いで数珠つなぎの長い列を形成すると、目立つようなるべくぐるりと門付近を歩いてから集合場所へ向かった。


手を繋いで安心したのか、順番に肩に乗ってあげたティアのおかげか、泣いていた子達もちょっと楽しそうだ。

「一年生はこっちだよー!」

他の子たちも積極的に声をかけ始め、チビッ子の列はどんどん長くなりながら集合場所へ到着した。

「なっ何々?!この行列は何なの?」

集合場所で人の整理をしていた若い先生が突如現れたチビッ子行列に仰天している。

「先生こんにちは!看板がなくてみんな迷子になりそうだったので、お手て繋いで来ました!」

「えっ?君が??」

そうか、明らかにオレの方が小さいもんな。オレが連れてきてもらったことにしよう。しかしオレが口を開くより早く、手を繋ぐ子たちが話し出してしまった。

「この子が連れてきてくれた!なんで先生たちがいないの!パパは先生がいるからって言ったのに!」

「この子がみんな引っ張って来たのよ!大人がいなくて怖かったんだから!」

ここぞとばかりにブーイングの嵐だ。怖かった分、安心したらどこかにぶつけたくなったんだね。

「えっ?えっ?ご、ごめんね?大きな案内看板があったでしょう?ツィーツィーが案内担当だったはずなんだけど…。」

「なかった!」

「大人はいなかったよ!」


「先生、ところで集合はここでいいですか?並んで待ってたらいいの?」

担当でもないのに、チビッ子たちに責められてたじたじする先生に助け船を出す。

「う、うん!ここでひとかたまりになって離れないようにしていてね!もうすぐお話に来るからね!」

「はーい!」

そそくさと離れた先生を見送って、振り返った。



「わあー!」

「かわいい!」

「はい、今その鳥さんがとまった人から後ろはおとなりだよー!」

先生がいなくなってしまったので、仕方なくみんなを整列させていく。チビッ子に大人気のティアに協力してもらえば、あら簡単!

先頭からチョンチョンと肩を辿って20人目でピタリと止まると、後ろの列は自ら素早く隣へ移動する。なぜなら…

「来た来た!」

「うふふ、やった!」

きちんと並ぶと、再び先頭に戻ったティアが隣の列へ移動してくるからだ。こうして瞬く間に20人の列と余り5名で5列が形成された。きっとまだいるんだろうけど大体100人ぐらいなんだな。多いと思うけど、各地から集まってきていると思えば少ないぐらいなのかな?




「……何ぞこれは。」

「あ、あれぇ?どうなってるの?」

「スゲーっすね!誰が整列させたんスか?」


あ、メリーメリー先生だ!オレたちが整列してしばらくすると、数名の先生らしき人たちがやってきた。オレは素早く余り列の一番後ろへ並ぶ。

「あ、あのさ、君たち一年生だよね?!どうしてこんなお利口さんに並んでるの?いつもみんなぐちゃぐちゃでわんわん泣く子もいるし、先生たちスッゴく苦労してたんだ!」

「鳥さんが来てくれるから並んだの!」

「ちゃんと並んでたから俺のとこ、3回も来たんだぜ!」

にこにこと口々にティアのことを伝えようとする子どもたちに、先生は困惑気味だ。

「とり、さん……??」

「先生ー!これからどうするんですかー?」

目立ちたくないオレは声をかけようかスルーした方がいいのか悩んだ結果、群衆の声その1を装って声をかける。

「はいはいっ!そうね、ここで立ってても仕方ないもんね。せっかくこんな場が整っているうちに!さあ校長!長い話を!!」

「誰が長い話しか!」

メリーメリー先生……本音が出ちゃってるよ。咳払いしながら進み出てきたのは背の高いすらりとした女性。すっごく綺麗な人だ。お耳が長くてカロルス様より淡い色の金髪、白い肌。校長…?せいぜい25歳程度にしか見えないけれど、若い校長だろうか?


「1年生諸君、まずは入学おめでとう。わしが校長のヴィートリルデリアス・ススメリアーナ。ふむ、覚えられぬと思ったのじゃろう?今はヴィー先生でよいぞ。卒業までには名前を覚えてくれると有り難いの。見ての通りエルフ族じゃから、お主らの、そうさの……何百倍生きておるのじゃろう。あれは知っておるか?トートリアス平原に黒オーガが沸いた事件。…知らんと?では悪徳ギルテアの事件の頃には生まれておったか?おや、それも知らぬか。」

あ、これ長い。のんびりした口調で着地点の分からないお話がズルズルと続いていく……立っているから寝ることもできず段々と消耗してくる6歳児たち。一応えらい人の話だと分かるのか、それともまだ友達がいないからなのか、私語はないものの列はもうぐだぐだになってしまっている。なんで今この人に話しさせたの…抗議を込めてメリーメリー先生を見ると……寝てる!難しい顔を保って腕組みして目を閉じてるけど、あれは確実に寝てる!!ずるいぞ!先生だけ寝るなんて!


『ティア、ちょっと先生起こしてきて!』

「ピピッ!」

こそっと飛び立ったティアが先生の肩にそっととまると、こちらを向いた。よし、配置完了…標的はこの後の悲劇も知らずにおねんねだ……!さあティア、今だ!GO!

オレの手信号に従って、ティアが標的を攻撃する!!


「ほひゃあああ!?!?」


耳の穴に小さなくちばしを突っ込まれたメリーメリー先生が、面白いぐらい飛び上がった。

素早く離脱したティアがそっとオレの肩に戻る。よし、ティア隊員よくやった!任務完了!こそっとティアとハイタッチだ。


一方メリーメリー先生は校長先生の長いお話をぶった切ったことに気付かず、何事?と見つめる視線を勘違いしたようだ。

「へっ?あ、はいっ!!以上、校長先生のお話でした!拍手っ!!」

メリーメリー先生!ファインプレーだ!!わーっと拍手する1年生。


「はいはいちびっ子たち!こっちへ着いてきて欲しいっス!ちなみに自分は3組担当のマッシュって先生っス!あっちのちっこい緑の先生は5組担当のメリーメリー先生ッス!」

「はーい!私がメリーメリー先生ですよ!みんな先生より後ろに行ってはダメですよ~ちゃーんと見てますからね~!」

これ幸いと便乗して事を進めるマッシュ先生。なぜか下っ端口調のマッシュ先生についてぞろぞろと建物内に進んでいくと、ぽつねんと残ったのは校長先生。置いていって良かったの…?


「わし……まだ名前しか言っとらんのに……。」


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