第97話 みんなで行こう

宿に連行されたオレたちは、すっかり畏縮している商人さんに無事な姿を見せた後、セデス兄さんを含めてたっぷりお叱りを受けた。

だって何事もなかったんだもの・・いちいち報告に戻るの面倒くさいでしょう?

今回のは事故みたいなもんだし不可抗力だよ、うん。

「お前、分かってるか?やらかしたこともマズイが、報告が遅いのが問題だっつってんだ。お前はいつも!報告が遅すぎんだよ!!」

・・そうでもなかったみたい。そっか、報連相(ホウレンソウ)は基本だもんね・・・そっちかぁ。


「えーと、そのことでもう1点。ほら、ユータ。」

「?」

きょとんとするオレ。なに?何を言えばいいの??

「・・キミは全くもうー!『収納』!!」

あっ!そっかそれも言わなきゃいけないんだった!セデス兄さんナイスだ!


「そう!あのね、言おうと思ってたの!チル爺に教えてもらって空間倉庫・・えっと、収納魔法できるようになったの!すごく便利なんだよ!」

にこにこしながら空間倉庫から今日の戦利品を取り出してみせる。


「・・・俺は何も見なかった。」

「・・・カロルス様、お気持ちは分かりますが現実逃避しないで下さい。」

瞬時に机の下に潜ってしまったカロルス様と、引っ張り出す執事さん。・・二人とも何やってるの・・?


ダダダダ!

バンッ!

「ユータちゃーん!会いたかった!セデスもいい子にしてたかしら?!」

そこへ凄い勢いで飛び込んできたのは・・エリーシャ様!オレとセデス兄さんをひとまとめにしてぎゅうっと抱きしめた。

「ちょ・・母上!恥ずかしいから!ユータだけにしてよ!!」

顔を赤くしたセデス兄さんが、細い腕から抜け出して距離を取る。

「ああっ・・セデスが大人になってしまう・・ユータちゃん!私寂しいわ・・。」

「いやいやとっくに大人だからね!いい加減子離れしてよ・・。」

エリーシャ様はちっとも聞いてないようでオレをすりすりしている。

「んーーー幼子のいい匂い!柔らかほっぺ!ああー抱き潰してしまいそう!」

えっ?!やめてよ?エリーシャ様が言うとそれ冗談じゃなくなるからね?!

ひとしきりすりすりして気が済んだのか、オレを抱っこして立ち上がったエリーシャ様。

「・・あら?あなた何してるの?さ、報告を頂戴。こっちは色々まとめてきたわよ。」

さっきまでのデレデレが嘘のようにきびきびして、蹲っていたカロルス様を急かす。

「あーそれがよ、こっちは全然まとまらねえわ。そいつが次々厄介ごとを積み上げてくるんだわ。」

心外な・・それにオレ、役に立つ物持ってきたからね!

「ねえ、エリーシャ様!オレいいものみつけたの。見てくれる?」

下ろして貰ったら、さっきの戦利品の中から呪いのグッズを取り出した。

「これ・・お皿?軽い呪いがかかったやつよね?」

「そう!これね、置いた料理が凍るお皿なの!遠くに料理を運ぶときにね、フライだったら揚げる前に凍らせて、凍ったまま運べたらはなれた場所でもおいしく食べられるよ!これがあったらまほうつかいじゃなくても凍らせることができるんでしょう?あとは断熱できるものがあれば・・ぐぅっ!」

「ユータちゃんっ!すごいわ!これがあれば大分コストを抑えられるし遠くへの輸送もできるわ!ありがとう!!」

興奮したエリーシャ様の柔らかい体にぎゅうぎゅう押しつけられて、オレは息の根が止まりそう・・・。

「絞めるなっ!ったく・・こいつは厄介ごとを運びやがるが、幸運も運んで来るからなぁ・・困ったやつだ。」

救出してくれたカロルス様の首にしっかりとしがみつく。結局ここが一番安全な気がするよ。

その後、エリーシャ様にも呪いの話と収納魔法を披露して、やっぱり心配されたけど・・頭を撫でて褒めてくれたんだ。

「ユータちゃん、こんな難しい魔法使えるようになったのね!すごいわ!」

「うん!オレ、この魔法つかいたくてがんばったの!!」

嬉しくなってにっこりすると、エリーシャ様もとろける笑顔を向けてくれた。




翌日はオレのお願いもあって、みんなでお出かけすることになった。貴族はあんまり歩いて移動しないらしいんだけど、馬車に乗ってたらつまらないのでみんなで商店街を歩く。エリーシャ様とセデス兄さんにそれぞれ手を繋いでもらって歩いていたら、それはもう目立つ目立つ。美男美女に黒髪の子ども・・うわぁ、オレなんだか恥ずかしいな!背後のカロルス様と執事さんが、なんとなく殺気を放っているような気が・・こちらを見た人が慌てて目をそらすのが面白い。

「うふふ・・楽しいわ・・なんていい日かしら。」

「うん!楽しいね~!」

「母上、顔が崩れてるよ?」

キラキラしい人達なので露店には行けず、商店街の方を歩いて巡る。カロルス様はどの店にも大して興味なさそうだったけど、エリーシャ様はオレと同じぐらいはしゃいであちこちのお店をのぞいていた。


「きゃーこれ似合うわ!どうどう?!素敵よね!」

「そう?でもこれ・・おんなのこの服に見えるよ?」

服飾屋さんに入ると、自分のものはそっちのけでオレにいろんな服をあてがっては喜んでいる。・・・でもそれ着ないよ?買わないでね??どうしてもかわいらしいものがいいようで、お人形さんの服みたいなのばっかり持ってくるんだもの・・。オレはもっと冒険者風のカッコイイやつがいいよ。

「ま、まぁそれもいいかもしれんが、もうすぐ学校なんだから実用的なやつをいくつか選んでおかなきゃならんだろ。制服もいるしこの機会に仕立てておくか!」

おお・・制服があるんだ!どうやら入学が決まったら、それぞれこの街の服飾屋さんで学校の制服をあつらえてくるらしい。オレ、入学決まってないけど・・。

「いやお前は入学できるだろ!相手は6歳だぜ?!6歳にできる問題が解けないワケないだろ。魔法適正も身体能力も問題ないしな。」

そう言われると確かに。6歳児のテストで落第したら、ちょっと人間やめたくなるかもしれない。まあオレ3歳だけど。

そうと決まれば採寸が必要ってことで、お店の人がメジャーみたいなものでささっと簡単に測ってくれた。こんなざっくりでいいの?ものすごくアバウトな感じだったけど・・。

「制服はね、子どもがどんどん大きくなるからそれに合わせてサイズが変わる、特殊な付与魔法で加工をしてあるんだよ。だから高価なんだけど、1着あれば卒業まで買い換えなくて大丈夫なんだ。あらかじめ成長を見越した大きめの大人サイズで作ってから、魔法で縮めてあるんだよ。だからあんまり太ったりすると布地が足りなくなってサイズ合わなくなっちゃったりするんだけどね。」

なるほど・・便利な魔法だけど上限があって自由自在ってわけじゃないんだな・・太らないようにしないとね。店員さん、オレ大きくなると思うから布地はたっぷり使ってね!

お金は足りないだろうけどオレのお財布の分も使ってもらって、と思ったけど断られちゃった・・学校で使う物は気にするなって。


制服は後日の受け取りなので、再び商店街に繰り出すと、見覚えのあるお店だ。

「あ、あそこ!前にカロルス様と行った本屋さん!」

「おう、あのオヤジのとこだな!」

「ユータちゃんは本が好きですものねぇ。行ってみましょうか。」

嬉しい!今回はお金持ってるから自分で本が買えるよ!ただ、何万レルもしたもんなぁ・・・。ルーのブラシで使っちゃったから・・ん?でもまだ5万レルぐらい残ってない?食材は安かったし。少なくとも1冊は買えそうだ!


「よぅ!」

「らっしゃー・・・お前かよ・・。げ、あのガキもいるじゃねえか。」

相変わらずぞんざいな口調の親父さんだ。オレのことも覚えていたらしい。

「いやーあん時は助かったぜ!また頼むわ!」

「うるせぇ!で、お前ちゃんと読んだんだろうな?!」

「うん!とっても役に立ったしおもしろかったよ!ありがとう!」

「・・・まぁ読んだならいい。もう賭けはやらんぞ!」

ごめんねおじさん!あの本は今も大切に読んでるよ。これからはちゃんと買うからね!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る