第98話 そぞろ歩き

本屋さんに入った途端にバラけるロクサレン家面々。みんな本が好きなんだね・・と思いきやカロルス様はカウンターにどかっと腰掛けてオヤジとおしゃべりで、執事さんはひっそりとドアの近くで佇んでいた。そっか、これもお仕事中なんだもんね・・・プロだなぁ。

オレも掘り出し物を見つけようと、目を皿のようにして本棚を眺めた。

うーん、物語もいいけど今は実用書が欲しい・・従魔術師とか召喚術師の本とかあればいいな。あ、料理の本なんてあるんだ!パラパラめくると見たことない食材が色々載っていて、どんな味かとても想像できないけれど見ていて面白い。ああ、魔物の素材について載っている本も発見!こっちは捌き方がイラストと共に載っていてなかなか・・・強烈な本だ。お魚を捌くのと同じと思えば・・・できるだろうか?今後、魔物を倒しはしたけど捌けませんでは奪った命にも申し訳ないだろう・・素材を取るにも捌く技術が必要だ。オレも覚悟を決めて頑張らないといけないな・・・。

うーん既に購入候補が2冊・・見れば見るほど欲しい本が出てくるなぁ。


「あ、ユータ、図鑑があるよ。」

奥の方で呼ばれて行ってみると、そこは小さな一画だけど念願の図鑑が色々!

「わあ!セデス兄さんありがとう!!」

う・・やっぱりお値段はするなぁ・・何冊もは買えそうにないよ。でもまた学校に来るようになってから買えばいいもんね!となると今欲しいのは薬草とか植物の図鑑かな?ルーの所で遊んでいる時にまわりの植物とか調べたいなって思ったんだ。村に生えてる植物も知りたいしね。

「あ!あった!・・・・『金(カネ)になる植物』?」

何そのどストレートなタイトル・・。買い辛いんですけど・・。パラパラとめくると内容はいたって真面目な図鑑だ。多分冒険者用なんだろうな・・金にならない植物を知ってもしょうがないってことか。採取方法とかも丁寧に書いてあるので便利だけど・・オレは金にならない植物も知りたいよ。


結局悩んだ末に『金になる植物』1冊を選んでカウンターに持っていく。これ1冊で3万レルだ・・図鑑の中では真ん中レベルだけど、やっぱりお高い・・図鑑じゃなければ数冊買えたけど、そんなにお金使い込んでも良くないと思って自制した。


「もういいのですかな?」

「うん!欲しいのはたくさんあるけど・・またこんどにするよ!」

「けっ、出来のいい坊ちゃんだなぁおい!お前に似なくて良かったな!」

「はっはー羨ましいか!そうだろう!学校行きだしたらこいつ目立つからな、頼むぜ?」

店主さんとカロルス様はケンカしてるみたいに話すけど、仲はいい・・・んだよね?

執事さんに預けたお金を出してもらって、店主さんに本を渡す。

「毎度あり。・・・ん?お前金に困ってねぇだろう?ま、俺はこれ売れなくて困ってたからいいんだけどよ!」

「どうして売れないの?お金になるって書いてるのに?あ、オレはお金じゃなくて植物のずかんがほしいんだ。」

「そりゃお前、薬草なんてはした金だろ?この本屋来て図鑑買えるようなヤツが薬草なんかちまちま集めるかってんだ。そもそも冒険者は教養ないのが多いから本なんか読まねえよ!」

「ああ、そっか!なんだかもったいないね。」

「まあ、てめ・・ぼっちゃんが読むならいいんじゃねえか?うん?そういや・・・。」

急に奥の階段を上っていった親父さんがごそごそしている。

「お前!植物図鑑がいいっつったな!ちょっと待て!」

そんな叫ばなくても聞こえてるよ・・・なんだか埃がこっちまで舞ってきてるんだけど何してるんだろ。

「ほら!こいつが姉妹本であったんだよ!絶対売れないから並べてなかったわ。どうしてもセットで買い取れってうるさくてな。買い叩いたけどな!」

親父さんが持ってきてくれたのは・・『金にならない植物』!!うわあ、あったんだ!しかもまたどストレートにいったね!なんかそう書かれたら売れないでしょ・・価値がないように思えちゃうよ。

「へへ、どうだ?これもつけてやろう・・まけて5万レルだ!」

「・・・買い叩いたんでしょ?3万2千!」

「うぐぅ!馬鹿言うな!じゃ、じゃあ4万2千だ!」

「もともとこれだけ買うつもりだっだし・・オレまだ小さいからこんなに大きな本1冊でいいなあ。ほこりかぶってた本だし・・・。」

「この野郎~!くそ、3万8千だ!」

「えっと、3万5千ならしかたないし買おうかな?・・・売れなかったらゼロだよ?」

「・・・・毎度ありぃ。」


植物図鑑が2冊も買えてほくほく顔のオレ。本は執事さんが持っている『本物の』収納袋にいれてもらった。

「お前・・・容赦ないな。」

「ユータちゃん交渉上手ね!今度一緒にお買い物行きましょうか!」

売れなかった本が売れたんだから本屋さんにも損はないはずだよ?相応のお値段かなって思ったけどな・・前の賭けよりは大分マシだとおもうけど。

「うわ~母上とユータに来られた店、かわいそう・・・・それはやめときなよ・・。」

失礼な!無茶な値引き要求はしないから!お店の人だって生活があるもんね。



商店街を端まで歩いたら、あの建物が見えてくる。学校・・見ていると胸が高鳴るよ。

「・・もうすぐここに来られるんだね!楽しみ!」

「もうすぐユータちゃんと離れないといけないなんて・・ねえ、やっぱりこっちで住みましょうか!」

「まぁ・・・住居借りるのもいいかもしれんな。」

「それはいいけど、ユータは寮に入らないの?寮住みだったらこっちに住んでても会えないんじゃないの?」

「でも!近くにいたいじゃない!」

学校って寮なのか!そうか、この街以外から来る子も多いからそうなるよね。うわーオレ寮なんて初めてだ・・でも6歳児の寮って・・・幼稚園みたいにならないんだろうか?厳しい世界だからか、子どもでもしっかりした子が多い印象ではあるけども。あ、寮だったら常に人の目があるからフェアリーサークルを気軽に発動させにくいかもしれないね。

カロルス様たちがこっちに来てくれたら安心するけど、何せ領主様だからね・・他領に居座るのはどうなんだろうか。


そのままぶらぶらと門の近くの広場まで来たら、ちょうどお昼時で屋台からいい香りが漂ってきた。

「おいしそうなにおい!ねえ、屋台のごはんたべよう!」

「おう、いいな。久々だ。」

「うーん食べるのは賛成なんだけど・・・ここではねぇ。そうだ、お外で食べちゃいましょうか!」

「お外って門の外?!ピクニック?わーい!!」

「あ、ユータ、冒険者はともかくお外で食べるのって普通じゃないからね、これは『普通じゃないこと』って覚えておくんだよ!」

「どうして?お天気がいい日にお外で食べたりしないの?」

「それは街の中ですることですな。外は魔物が来ますから用心しながら手早くすませるのが普通です。」

「今日はいいの?」

「あはは、この面子だからねぇ。魔物の方が逃げていくよ。」

確かに。深く納得だ・・思えばオレ、Aランク相当の人達に守られてるんだなぁ・・なんて贅沢な。

「じゃあ屋台で何か買ってきましょうか!」

エリーシャ様が行くの・・?屋台の人、恐縮しそう。

「エリーシャ様はきれいだから行っちゃだめ!えーと・・・オレとカロルス様でいくよ!」

「お前・・・それどういう意味だよ・・。」

カロルス様の貴族風な見た目もちょっとキラキラ度を抑えなくては。不服そうな台詞をスルーしてお願いする。

「ねえ、カロルス様、こう・・髪をぐしゃってして!」

「はあ・・?こうか?」

右手で髪をかき上げるようにして乱すと、だだ漏れる男の色気フェロモン。・・・なんで!?納得いかない気持ちを抑えて手を伸ばしたら、ひょいと肩へ乗せてくれる。

「じゃあまっててね!なにかほしいのある?」

「私がユータちゃんと行きたかったな・・・なんでもいいわよ~!」

「僕お肉!くし焼きとか食べたかったんだ!」

「まぁ適当に見繕ってくるわ。」

のしのし歩くカロルス様の肩でゆられていると、今まで見えなかった道行く人の頭のてっぺんまで見える。屋台の屋根の上でひなたぼっこする小鳥や虫まで見えて楽しい。

「よーしまずは肉だな!」

・・・カロルス様に任せたら肉しか買わなさそうだ。



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