第96話 露店めぐり2

「・・・・・話はゆーっくり聞かせてもらおうかな・・?」

じっとりした視線を受けてオレの冷や汗は止まらない。・・あれぇ・・おかしいな・・言わなきゃって思ってたのに・・・。

―惜しかったね!ちゃんと言おうと思ってたのにね!―

ラピスの励ましが耳に痛い・・それ、ちっちゃい子の言い訳みたいじゃないか・・・。

「全く・・やっぱりユータには座学よりも社会に出て、違いを学ぶ方がためになりそうだね・・何がどう常識外れなのかまだ分かってなさそうだから。」

う・・そうですね。どこまでが大丈夫の範囲なのかは今ひとつ分かってないかも知れない。だって魔法なんて不思議なものがあって、それを日常的に使うなんて初めての経験ですし。



ひと通り怒られて、気を取り直して歩き出したはずだけれど、まだくどくどとお説教を受けている。

収納魔法ができることがバレないように、万が一使う時はカバンから取り出した風を装うこと・・貴族だったら収納カバンを持っていても珍しくはないので、カバンを狙われることはあってもオレ自身を狙ったりはしないだろうって。収納魔法っていうより妖精魔法の空間倉庫なんだけど、どっちでもいいか。でも、収納袋やカバンの容量は一般的に販売されているもので畳1枚~せいぜい3枚分ぐらいらしくて、容量が大きいものはダンジョンからの『出土品』で高価なのでこれまた要注意だ。何か突っ込まれても3歳児特権で『知らない、カロルス様からもらった』で通すといいらしい・・・冒険者の頃のお宝だろうって納得してくれるそうだ・・なるほど、これは便利な言い訳だな。

まだ色々とお説教は尽きないようだけれど、オレは周囲の露店が気になってしょうがない・・うんうんと右から左に流していたらデコピンをもらってしまった。



「あ!見て見て!あのお店にいろんなしょくざいがあるよ!行ってみよう?!」

「・・・反省してる?ちっとも堪えないんだから・・・。」

セデス兄さんを引っ張って八百屋みたいな露店に向かう。おお・・見たことないもの、見たことありそうな物、いっぱいあってわくわくする!

「あ!あった!麦・・これ麦だよね?」

雑穀が並ぶ一画で見つけた!よし、まずは麦を一袋確保して、あとは面白そうな食材ないかな?調味料のバリエーションもあれば嬉しい。

「ユータは変わってるよね・・料理人になりたいわけじゃないのに料理はするんだ・・。」

「お料理つくるのたのしいよ?でもおしごとでするのはいや!」

あくまで好きなときに好きな物を作るから楽しいんだ。毎日食事を作っていた時だって、日々の食事を作るのは楽しいと思わないけど、時間があるときに作るおやつとかちょっと凝った物とか・・そういうものは作ってて楽しいんだよね。

そうこうしている間にオレの手持ちカゴの中は試してみたい食材でいっぱいだ・・見た目では何だか分からない物も多いから、とりあえず買って味見したくて色んな種類を少しずつ入れている。食材はとても安いし、一応計算しながら買っているけど、こんなに買って大丈夫かな?消費税がないから計算しやすくてとても楽だね。

「お?これトマト?!やった!いいのみつけたよ!」

ちょっと高めだったけどトマトはガラっと味を変えられるいい食材だよね!ふーんと興味なさそうなセデス兄さんは、まるで彼女の買い物に付き合わされている彼氏のようだ。

「ねえねえ!これとこれ、どっちの方が美味しそう?!」

「・・・どっちでもいいよ・・。僕食材見てもおいしそうかどうかなんて分かんないよ・・。」

両方買えばいいじゃない、だなんて・・まったく・・役にたたないんだから!こうやって目利きしながら選ぶのが楽しいんじゃないか。

ふんふんと上機嫌なオレはしばらく食材店に居座ったのだった。


「えー・・と半銅貨と・・銅貨と・・・合わせて・・?」

ああ・・オレがいろんな種類を買ったせいでお会計が大混乱だ。しまったな・・この世界の人は計算が苦手で計算機もレジスターもないもんね。中々計算できない様子にじりじりする・・オレ、他にも見て回りたいのに・・・。どの食材も計算しやすいようにだろう、半端な値段のものはなかったからわかりやすいと思うのだけど・・。

「・・あのね、こっちが半銅貨、これが銅貨。ね?合ってるでしょ、だからぜんぶ合わせたら1020レルだね?」

計算しやすいよう値段ごとに分けて置いてあげて、銀貨一枚と半銅貨2枚を出して店員さんを見上げる。どうやらかけ算ができないようで一生懸命足し算で頑張っている・・たくさんあるからね・・ファイト。

「あ・・ホントだ。は、はい!ありがとうございます!貴族のおぼっちゃんって凄いんですね・・!!」

かなり時間をかけて計算したまだ若い店員さん、尊敬の眼差しが痛い。

「ふぁ~あ。やっと終わった?またたくさん買い込んだねぇ・・それ3歳児が持って歩いてたらおかしいよ。『収納』しておこうか。」

セデス兄さんにオレが手を添えて、カバンの中に入れる風を装って空間倉庫に入れる。うん、バッチリだ。やっぱり便利だよね!怒られたけどこれは覚えておいてよかったよ。


ウロウロしているうちに日が暮れそうだったので、ぼちぼちと宿へ向かう。あちこちでいい匂いが漂って、ニース達と屋台で食べた串焼きを思い出した。

「あのね、まえに冒険者のひとたちと屋台でくし焼きを食べたんだ!とってもおいしかったよ。こんどみんなで行けたらいいねえ。」

「うーんお店の人がビックリしないといいけど・・。」

「みんなふつうの服をきたら大丈夫じゃない?」

そうは言ったものの、セデス兄さんをはじめエリーシャ様やカロルス様・・うーん・・・ちょっとキラキラしいかもしれない。カロルス様はぼさぼさの髪にして冒険者の格好をすればいけるかもしれないけど・・。

「でもユータも学校に行きだしたら街に馴染む格好をした方がいいね。一人で行動するなら貴族の子って分からない方がいいかもしれない。うーんでもユータは見た目がなぁ・・平民だって狙われるだろうし・・・それなら貴族って分かる方が抑止力になるのかなぁ。」

確かにオレの見た目は珍しいもんね。

「髪の毛の色を変えるものってないの?茶色だったら目立たないよね?」

「・・・そういう問題じゃないよ。色が全部普通でも目立つよ?ほら、見てご覧・・人目をひいているだろう?」

そう言ってオレを抱き上げたセデス兄さん。

「・・・それはセデス兄さんが目立つからだよ。」

「何言ってるんだよ!ユータ、天使って言われたの忘れたの?目立つに決まってるじゃない。」

天使って・・あの怒られた時のやつでしょ?それは光ってたからじゃないか・・。

「お二人が揃うと大変に人目を引きますよ。見目麗しい兄弟ですからね。」

後ろから声をかけたのは執事さん。そっか、指輪があるから居場所が分かるんだね。迎えに来てくれたのかな?


「・・・宿に商人が来ておりますよ。ええ、なんでもユータ様が呪具を身につけてしまったとか?」

「「あっ・・・・。」」

「おかしいですな。我ら何も連絡を受けておりませんで・・・アリス殿がリラックスされていますから、問題ないと伝えて誤魔化しておりますが。」

アリスは最近執務室を気に入ってるし、カロルス様にも好意的なので、いざという時の連絡係として、いつもカロルス様たちのそばにいるんだ。アリスおいといて良かった・・血相変えて駆けつけられる所だったよね。


「・・で、どういうことですかな?」

にこりとした執事さんからぴりぴりしたお怒りの雰囲気が伝わってくる。

オレとセデス兄さんは背中に汗をかきながら顔を見合わせた。


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