第83話 執事と領主のわるもの成敗


しっかりとレーダーに写った二人の存在に、心からホッとする。

『では、私は満足しましたのでこれで。』

マリーさんはどことなくキラキラした機嫌の良さそうな調子で言うと、ひらっと門を飛び越えて館内に戻っていった。


「ちくしょう!」

マリーさんがいなくなった途端に元気になる盗賊達。立ち直りの速さは見習うべき所かも知れない。

今度は背後から迫るカロルス様たちに相対する。

「あいつが領主だ!討て討て!!」


マリーさんよりカロルス様の方が怖くなかったのか、大分数を減らした盗賊が一塊となって襲いかかっていく。でも・・カロルス様が強いの知ってたからわざわざ遠くへおびき寄せたんでしょ・・?なんで挑みに行くのかな・・マリーさんの強さに感覚が麻痺しちゃったのかな。バラバラに逃げたら助かる可能性も・・・・・まぁ、オレが捕捉してるからないわけだけど。

鎧切りを減らして残った4人の男を中心に、カロルス様と執事さんを取り囲む。馬と他の兵たちは村の外にいるみたい・・トトがいるもんね。


『ふむ・・なんだお前ら?盗賊団か?』

『うるせえ!身に覚えがないとは言わせねぇぞ!てめえが支部をツブしたんだろうが!!』

『カロルス様、この者達おそらくハイカリクの闇ギルド員ですな。』

『・・・ああ!あれか!おう、潰した潰した!マリーを抑えるのが大変だったけどな!・・で?せっかく拾った命でてめぇらは何やってんだ?』

『・・・・。』


おそらく殺気を放ったのだろう、盗賊、いや元闇ギルド員だちが息をのんで後ずさった。

『闇ギルドの仕返しに村を襲いに来た、と。なんとも幼稚な・・・。』

『う・・うるせえ!!だ、大体てめえらはゴブリンを追っていったハズだろうが!!なんでここにいる!子どもを見捨てやがったのか!!』


『ゴブリンに攫わせといてその言いぐさはどうかと思いますが・・。心配なさらずともちゃんと保護しておりますよ。ウチにはちょっとした伝手がありますからね・・・何もかも把握しているのですよ。』

『なんだと・・!!くっそあいつら役に立たねえ!!・・・やれ!こいつらを討ち取れ!!』


地団駄を踏んだ男が声を上げると、周囲の男たちが大声をあげながら二人に向かう。

『面倒な・・こういうのはお前向きだな!』

『まあ、構いませんが。あちらの方々はどうです?おそらく残りますよ。』

『じゃあそっちだけ貰うわ。』

どうやらあの4人はカロルス様が担当、その他大勢が執事さん担当になったようだ。


『・・ファイアアロー!』

『ぐっ!これしきこの・・』『てめっ!!この程度で・・』

『・・・アイスアロー!』

『うごっ・・くそ、この俺が・・』『ぐあっ!?ヤロウ今度は・・』

『・・フローズンレイン!』

『ちょ・・』『まっ・・・』

『・・サンダースパーク!』

『・・』


『ふむ、片付きましたな。』

し・・執事さん・・・容赦ない~。何か言おうとしてた人もいたと思うんだけど、スパーンスパーンって広範囲の魔法放ってた・・ためらいがゼロだね・・いつもあんなに優しいのに・・。でも勉強になるな~!自分とラピス以外が魔法使う所なんて初めて見たから、まるで映画でも見てるみたいだ。

しゅごご!って炎の矢が飛んで、火の付いた盗賊が駆け回る前に、ズドドッて氷の矢が降って、みぞれが降ったり電気がバシバシィ!って走ったり。カッコイイ~!あっという間にその他大勢さんたちは地面に転がるハメになっている。

そんな修羅場の近くにカロルス様がいて大丈夫なのかと思ったけど、ちゃんとそっちは避けてるみたい・・コントロールも抜群だね~さすが几帳面な執事さんだ!!カロルス様が魔法使いだったら、間違いなくその辺り一体に魔法が降り注いでいるだろうね・・・ラピスみたいに。



一方そのカロルス様も強そうな4人と対峙している。

『へ・・へへ、あの女はいねーぜ?あんな隠し球があったとは油断したが・・これでてめーも終わりだ。』

『あの女・・?マリーのことか?ふーん、マリーの戦闘を見たのか。よく助かったな。』

『俺らはBランク相当だぜ?4人のBランクにてめえ一人で勝てるかな?』

『勝てるだろ。なんだよBランク「相当」って・・・。』

『・・うるせえ!!』


話しながらじりじりと詰め寄っていた2人。わずかに下がった2人。前の2人が息を合わせて飛びかかった!

『・・Bランクには届かんと思うぞ。』

カロルス様がいつの間にか抜いていた剣で何かを弾くような動作をすると、迫る2人の前でヒュっと無造作に剣を振った。

『ぐああぁっ!』『ぐうぅう!』

剣は当たってないのに2人が吹っ飛んだ!後ろにいた1人が避けきれずに下敷きになる。

でっかい男だからなぁ・・痛そうだ。

『く・・・うるせぇ!!Bランクになるハズだったんだ!てめえらのせいで評価が下がっただけだ!』

『ゴホっ・・てめえらのせいでウチのギルド員の評価が下がったんだ!俺ほどの腕があればどこでもやっていけるはずだったんだ!!』

ふらふらと立ち上がった男たちが唾を飛ばして激高している。

なんだかな・・・完全に逆恨み?俺たちのギルドの仇討ちだ!ってわけでもないんだ・・。


『・・で、その元闇ギルドのBランク相当さんたちは就職難に陥って逆恨みしたってわけだ?まあ、なんだ・・俺らとお前の就職難は関係ないと思うぜ・・どう考えてもBランクにはなれねぇよ?』


言いながらまた何かを払うように剣を振る。

チ、チィン!

微かな金属音がラピスの耳を通してオレにも聞こえた。なんだろう・・?

チィン!チチチィン!

ひゅひゅっとカロルス様の剣が風を切る。カロルス様の剣は恐ろしく速い・・オレにはまだアレを避けるのは無理だ。剣の動きすら碌に見えないが、何か飛来物を切ったり落としたりしているようだ。

『ええい・・鬱陶しい。』

『な・・ぐああ・・。』

呟いたカロルス様がスッと低くなったかと思うと・・いなくなった。同時に聞こえる悲鳴。どさりと音がした方を見ると、農具用の倉庫裏で男が倒れ伏すところだった。でもカロルス様はいない・・?

『ごあっ?!』


そう思った矢先に再び響いた悲鳴。慌てて視線を戻すと4人組の後ろにいた2人のうち1人が倒れていた。カロルス様は・・元の場所に佇んでいる。

『て・・てめえ!いつから気付いて・・!』

『俺は大して周り気にしてねえけど・・さすがに攻撃受けたら気付くぞ?』


倒れた人達の手には何か器具が備わっていた。あれが魔道具ってやつかな・・?鉄砲みたいな飛び道具?普通気付く前にやられちゃうよ・・4人だけだと思ったらもう1人隠れてたんだね。ただのお馬鹿な人達かと思ったけど、一応ゴブリン使ったり隠れたり・・努力したところは認めようじゃないか。


『・・で、だ。あのゴブリンはなんだ?・・ああそうか!お前ら働き口がなくてゴブリンの仲間になったのか?』

ふふん、と鼻で笑って挑発するカロルス様。

男は顔を真っ赤にして歯ぎしりしたかと思うと、ニヤリと嫌な顔で笑った。安い挑発で簡単に激高する男達・・やっぱりお馬鹿なのかな。

『クソ野郎が・・いい気になるなよ・・!!・・ちゃんと金は払ったんだ!あの大群が村を襲ってみろ!どうなると思う・・?俺たちならあいつらを・・』

『まあ、あいつらがここを襲ったらゴブリンの魔石が豊作になるだけだな。臭ぇからな・・村に入るまでに処分した方がいいな。』


『ふっ・・ふざけんな!あの大群が襲ってきたらこの領地だけで守れるわけねぇだろ!!兵の数だって調べ上げてあんだぜ?このあたり一帯荒らし回ってやる・・!ロクサレン地方なんて反吐が出る名前、二度と使われなくなるようにな!!』

『ふむ、ではヤクス村以外にもゴブリンが行く可能性が出てきましたね。配置はどうします?』

『まあ・・ゴブリンが集落から出る前にやっちまえばいいと思うけどな。』

『万一に備えるも領主の役目ですよ?特にバスコは兵がいないので危険でしょう。』

『じゃあ・・・領主命令ー!グレイ、配置を考えてくれ。』

『・・・またそうやって・・私が天に召されたらどうするのです?』

『いやお前は天には召されないだろ!・・うおっ?!』

『おっと失礼・・くしゃみのはずみで手が滑ったようです。』

『危ねーくしゃみだな?!』


突然放置された男達がぽかんとしている。情報収集のために相手されていたことに気付かなかったらしい。

哀れな・・。






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