第84話 たたかいの合間に
『ふ・・ふざけやがってぇぇ!!!』
突然置いてけぼりにされて呆然としていた元闇ギルド員たち・・。
我に返ると怒り心頭のご様子。瞬間沸騰できるっていうのは悪者の特徴なのかもしれない。
『もういいか?』
『まあまた聞けばいいでしょう。』
恐らく必殺の一撃と思われるそれを、ぬるっといつものように受け流すと、剣の柄で後頭部を一撃。繰り返すこと3回。なんだかな・・・多分闇ギルドでそこそこの立場にいたであろう実力者だと思うんだけど・・ただのチンピラ扱いにちょっと気の毒に思ってしまう。いとも簡単に殲滅完了した2人は、兵達を迎えに一旦村の外へ出て行った。
・・・思えば領主が突撃して兵が待機してるって・・すごく変な話だ。
「トト!」
もう行ってもいいよね?セデス兄さんの意外と力強い腕から解放されたオレは、バルコニーから飛び降りながらフェアリーサークルを発動。
「ユー・・・」
セデス兄さんの声を置き去りにして、一気に村の門まで飛んだ。
「カロルス様!トトは?!」
「うおっ?!お前、また・・!ここはまだ危ないから来るなって。トトはほら、無事だから。」
「ユータ?」
兵士さんの前に乗せてもらってきょとりと首を傾げるトト。ああ、かわいい・・じゃなくて!
「無事だったんだね!よかったー!!」
ぴょんぴょんするオレの首根っこを、強い腕が掴んで馬上へ引き上げる・・・カロルス様、オレ猫じゃないんですけど!!
「トト、たいへんだったね!」
「たいへん?トト、ずっとねてたよ?」
「・・・そっか!ねる前はなにしてたの?」
「うーんと・・商人のおじさんに、おかしもらった!あまくておいしかった!」
「そのあと、寝ちゃったの?」
「そのあと・・あと?わかんない・・おいしいなってかんがえてたの。」
「おじさんは知ってるひと?」
「ううん!しらないひと。」
ふむふむ、つまり直接さらったのはゴブリンじゃなくて賊の方ってことだね。お菓子に薬でも仕込んだかな?どうりでレーダーで気付かなかったはずだ。
「そっか・・トト、知らないひとにお菓子をもらったり、ついていったらダメだよ?」
「うん・・でも・・でもおいしいおかしだったら?」
「おいしいお菓子でもダメだよ?そのお菓子のせいでママやパパ、お姉ちゃんに会えなくなったら嫌でしょう?」
「・・・・・うん。」
大分不安のある間を空けて頷いたトト。こりゃダメだな・・もっとおいしいお菓子を出されたら、またついていくこと請け合いだ。
「うーん・・・じゃあこのお菓子、クッキーって言うの。どうぞ?」
「うわあ!おいしそう!!ありがと!」
目を輝かせて受けとるトト。あーこうやってたべちゃったんだな・・まあ怖い目に合わなくて良かったかもしれないけど。
トトはしばらくうっとりと香りを楽しんだら、少しずつかじり始めた。そ・・そんなに大事に食べてくれるとちょっと申し訳ない気がするよ。ちなみにクッキーは空間倉庫に入れてあって、他にも厨房借りた時に色々作ってストックしてある。空間倉庫には雑菌がいないし時の流れを調整できるからとっても便利な収納なんだ。
クッキーの粉までキレイに舐め終ったトトが、ほう・・と息をついた。
「・・おいしい・・・トト、これいちばんすき。」
「そっか!良かった。今度トトのところに知らない人が来たら、何ももらわずに知らせに来て。そしたら代わりにオレがクッキーとか、おいしいお菓子をたくさんあげられるからね!」
「ホント?!うん!!トト、ぜったいしらないひとにもらわない!!」
うむうむ、素直でよろしい。えらいね、ともう一枚クッキーを渡すと、トトは頬ずりせんばかりに喜んでにこにこした。かわいいな・・・。
「お前、なに年上風吹かしてんだよ。トトの方が年上だからな・・?見習えよ、あれが3歳だ。」
ぐいっと耳元に顔を寄せたカロルス様が低い声で言う。確かにね・・これが3歳クオリティ!!何していてもかわいいよ・・もう存在してるだけで貴重な気がするこのふくふくしたほっぺ!あどけなさ!過剰に潤っているお口!ああ・・・オレには到底無理な気がするよ・・。
「お前、孫を見るじじいみたいな顔してるぞ。・・お前だって見た目は同じだからな?いや、お前の方がちっこいからな?」
なんと・・・!?両手でほっぺを触ってみる。確かにふわふわのふにふにだ。そしてまじまじと見つめたこの両手の小さいこと!握って、開いて・・・フレミングの左手。ちまちました指が思う通りに動くのが面白い。
「ユータ!!!父上!!」
オレが自分の手を見つめて遊んでいると、館の方から息を切らせて走ってきたセデス兄さんが、肩で息をして立ち止まった。馬上から手を振ると、恨みがましく睨まれてしまう。
「ユータ・・戦闘が終わったんなら一言声をかけてから行ってくれる・・?もう何回肝を冷やしたらいいかわかんないよ・・・。まあ父上がいるから大丈夫とは思ったけども・・。」
「あ・・ごめんなさい・・。」
そうだった!オレは遠くの状況をラピスの実況にレーダーと声で判断できるけど、セデス兄さんは目で見える情報しか分からないもんね・・いや申し訳ない。
「おう!ご苦労だったな!助かったぜ!!」
わしわしっとされた金茶の髪がぼさぼさになって、セデス兄さんは迷惑そうな顔をしている。
「いえ・・トトは無事だったようで何よりです。こっちはユータとマリーさんが活躍してくれたので大丈夫です。鎧切りがいたので・・・。」
「あー・・・いたのか。悪かったな、暴走するヤツ2人面倒みてもらったな。」
「賊はともかく・・・大変でしたよ・・・。」
なんだかやつれた表情のセデス兄さん。大変だったもんね・・後で点滴魔法してあげようかな・・。
「まあ、こいつがいなかったらトトは集落に連れ込まれちまって無事じゃなかったろうし、村も被害があったろうからな・・。強くは言えんところだな・・。」
頭を肘でぐりぐり、とされて結構痛い・・ちっこい手でぺちぺち大きな腕を叩いて退けておく。
「ねえ、あのおおきなゴブリン村はどうするの?」
「あれなぁ・・早急に叩く必要があるんだが・・・数が多いから散らばると面倒だ。こっちも数を揃えた方が確実だな。ハイカリクで募集してすぐに集まるかどうか・・。あー面倒くせぇ・・・別にゴブリンぐらい俺達だけでいいか?」
「父上・・ダメです。とりあえず見張りをたてておくのはウチだけでもいいですが・・ウチにそんな戦力があると対外的にバレるのはよくありません。」
執事さんがうんうんと頷きながら布きれで涙を拭っている・・良かったね・・ロクサレン家の将来は大丈夫そうだよ。
「みはりは管狐たちにお願いする?」
「ユータ・・うーん・・ユータにお願いするのはちょっと・・。」
「オレじゃないよ、管狐たちだよ?」
「そうだけど・・・。」
「ウチから2人ほど見張りを出して、念のために管狐もいてくれたら助かるがなぁ・・なんせ連絡ができるのがでかい。」
「そうですな・・・今回もその迅速な連絡のおかげで助かったようなものですから。」
「うーん・・・ユータ、絶対に1人で行動したりしないって約束してよ?・・・まぁ・・・僕らがお願いしたってしなくたって同じ事か・・・なら把握していた方がマシかな。」
おぅ・・セデス兄さんよくわかってらっしゃる・・!うん、オレ頼まれても頼まれなくても管狐は派遣するよ。
ちなみに今はアリスが見張りをしていて、異常なしだ。残りの管狐は聖域に帰っている。
「じゃあ周辺の領主にも使いを出しといてくれ。冒険者ギルドに依頼するか・・報酬とかややこしいところは任せる!」
バシッと背中を叩かれた執事さんがため息をついた。
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