第69話 海蜘蛛
よーし!・・と意気込んだものの、美味しいカニは何もしなくたって美味しい。ボイルと焼きガニで十分だ。お醤油もカニ酢もないのが残念でならないけど・・。
うむ・・とりあえず魔法を使うから人目をはばからなくてはならない。どう?オレも賢くなったもんだ・・これも常識を知る教育の賜かな?
ガナおじさんからカニをもらったら、人気の無い浜で調理開始!ちなみにガナおじさんはやることがあると言ってそそくさと逃げていった。
大きな石を積んで簡易かまどを二つ作ったら、一方には借りてきた浜焼き用の網を乗せ、もう一方には大きな鍋を乗せる。
「待って待って?ここ浜辺なんだけど・・・どこからその大きい石出てきたのかな?・・その大きな鍋も一体どこから?なんで鍋にすでに水が入ってるのかな?かまどって火をおこして使うものだと思うんだけど?一体それ何が燃えているのかな?!?」
矢継ぎ早に来る質問をスルーしてテキパキと調理に掛かる。薪を集める時間が面倒だったのでラピスが火魔法を使ってオレが火力調整している。便利な即席コンロだ!
大きなカニをよいしょっと鍋に入れたら、焼きガニの準備だ。
一本一本足を外して、殻を削がなくてはいけない。こういう時はルーの加護が便利だ。幼児の力では足を外すのも苦労するだろう。
「ねえラピス、この殻の上側の部分だけ削げる?」
うーん、やってみる!
シュパッ!
オレが持っていた4本分の足が上半分の殻を削がれてぱらりと落ちた。ひいぃ・・いっぺんにやらなくていいから・・・オレの腕も削がれなくて良かった・・。
炭はないから普通に火であぶるしかないなあ・・。
とりあえずオレとセデス兄さんの分を炙っていく。んー香ばしい香り!ああ、お醤油がほしい!
「火が通ったら赤くなるんだ・・・バラされてる方なら・・・ちょっと食べ物に見えなくもないかな・・。」
セデス兄さんがこわごわと鍋を覗き込んでいる。
そうこうしているうちにぷっくりとしてきた焼きガニ。うわあ・・堪らない!!ボイルの方もゆであがったかな?
「セデス兄さん!できたよ!」
即席のテーブルにカニをずらりと並べて椅子を勧める。
「・・・・・・・・。」
テーブルセットを見つめてセデス兄さんがどこか呆然としている。
そんなにイヤ?まあ好き嫌いあるから無理には勧めないけど、食べたら美味しいと思うよ~!
とりあえずオレがガマンできない!さっそく焼きガニからいただこう!
「あちっあち!・・・・・んん~!!!甘い!」
とろける・・・至福、だ。とろりと甘く濃厚なカニの風味・・・焼き目の香ばしさ・・ああ・・この世界、最高・・!!
いや、まだとろけるのは早い!ボイルが残っている!関節部分をパキパキと折ってゆっくり引くと、するりと赤と白の魅惑の中身が取り出せる。おおお・・・!持ち上げた下からぱくりっと思い切ってかぶりつく!
「ふぁ~・・・。」
焼きガニの濃厚さとはまた違った、すっきりとした甘みと旨味・・弾むような食感。思わず両手で頬を押えてうっとりとした。ああ・・五臓六腑に染み渡る・・。
「・・・え?本気でそんなに美味しいの?マジな顔?」
ごくり、と喉を鳴らしたセデス兄さんがカニの足を手に取る。オレのやり方を見よう見まねで、ほんのちょっぴり口に運ぶ。
「・・・!!こ・・これが・・・海蜘蛛?!」
目を見開いたセデス兄さん。どうかね?これを君たちは肥料にするとな??
無言で始まったカニ祭り。夢中で口に運ぶオレとセデス兄さん。
「・・・お・・お前は~~!!何やらかしてんだ・・・!」
「あら、二人とも何食べてるの?」
「・・父上、母上・・僕には無理です・・・・止められません。」
ハッとしたセデス兄さんがカニの身をほっぺたに付けながらがっくりと項垂れる。
「はあぁ~まぁそうだろうがよ。中々止められねぇんだ・・・。で、これ何だ?なんでこんなとこにオープンキッチンができてんだよ・・。テーブルセットまで出しやがって・・・。」
「カロルス様!カニ!めちゃくちゃおいしいよ!!」
そんなことはどうでもいいのです!はいっと差し出したカニに目を白黒させるカロルス様。
「・・・お前・・コレ・・・・もしかして虫・・・・?海蜘蛛・・・?」
「カロルス様、これ、こうきゅうしょくざいなんだよ!食べないなんて・・・もったいなさすぎるよ!!」
うげっと顔をしかめる様子に心外だと抗議する。
「・・・!!何コレ!信じられないわっ!これが・・海蜘蛛っ?!・・狩りましょう!狩りつくしましょう!!」
カニを頬ばってわなわなと立ち上がったエリーシャ様が怖いことを言っている。
「・・・げ、お前も食ったのか・・・。これを食うのか~?おえ・・。」
元々魚もあんまり好きじゃないカロルス様にはハードルが高いようだ。
「つべこべ言わずに食べてみてちょうだい!」
「うぶっ!」
シュッ!と目にもとまらぬ速さでカロルス様の口にカニが突っ込まれた。
「あっち!くそ・・・・・・あ・・うっま・・!!おい!待て俺にも寄越せ!!」
良かった、カロルス様もカニは大丈夫だったようだ。途端に始まるカニ取り合戦。
そんなに奪い合わなくても・・・まだあるし捨てられる運命だったんでしょう・・?
「かー!美味かった・・・。まさか虫がこんなにうめぇとは・・・どうやったらこんな美味くなるんだ?」
「虫じゃないよ!カニだよ!何にもしてないよ?焼いただけと茹でただけ。」
「嘘つけ~またなんかやったんだろ?」
「父上、それがホントにそれだけなんだよ・・・それ以外のトコにおかしなことは多々あったけど調理法だけはそのままだったんだ・・・。」
「それ本当!?それなら・・・誰だってこんな美味しく料理できるってことよね・・?これ、フライに次ぐ大発見じゃない・・・?王様にさえ献上できるわよ・・。」
「海蜘蛛は王様に食わせられんだろ・・・。でも、そうだな・・食えば美味いからそれが広まればあるいは・・。」
よーし・・使命は果たしたぞ・・カニの名誉挽回成功だ。・・まぁカニにとっては迷惑きわまりないと思うけど。狩り尽くされないよう頑張って生きて!
新たな名物のアイディアになりそうなのか、真剣な話が始まった。オレは邪魔しないように3人にお水を出しておくと、ちょっと離れた。
さくさくと砂浜を歩きながら、ついでに魔石のカケラ拾いをする。
・・・・ん?
ふとレーダーの反応が気になった。魔物・・・いや、人かな・・?
なんであんな所に?浜から少し離れた海の中に人の反応がある・・・反応のあるあたりをよく見ると漁師の目印だろうか、大きいブイみたいなものが浮いている。まさか、誰かおぼれてるとかじゃないよね?
見てきてあげる!と飛び出したラピスがすぐに戻ってきた。
「きゅきゅ。」
あのね、海の人がケガしたみたい。
・・海の人?
海の人は、海の人!足が魚の人が多いの。
それって人魚だ!いや、もしくは半魚人?凄いな、人魚の人もいるんだね~!ケガってどの程度だろう?こっちに村があるのにわざわざ海にいるぐらいだから、大したことは無いのかな?
ううん、ほっといたら死んじゃうかも。
「ええっ?!」
ら、ラピス!そういうことは早く言ってよ~!慌てたオレはとにかくそっちに行こうと画策する。そこまで深くないから海底を飛び石みたいに盛り上げたらいいかな・・。岩場をまわってなるべく近づいたら、即席の飛び石をぴょんぴょんと渡りながら人魚さんのいるところへ・・・。
そこには、ブイに半身をもたせかけてぐったりとした人がいた。長い深緑の髪が水中で広がり、ゆらゆらと海藻のように揺れている。わあ・・本当に腰から下がお魚みたいになってる!
・・・でも、その腹部から尾にかけて、ザックリと数本の深い傷跡が走り、今も流れ出す血で周囲が赤く染まっている。サメとかいなくて良かった・・・。
きっと深いところだと魔物が来るから、わざわざここまで来たんだよ。
ラピスが教えてくれる。そうか、サメはいなくても魔物がいるもんね。この傷でここまで逃げてくるの、相当大変だったろう・・。大丈夫、治してあげられると思うよ。
手をかざして集中すると、海の人は相当危険な状態だったようだ。傷もそうだが出血が続いてかなり内臓の機能も弱っている。急速に傷を治しながら『点滴』でゆっくりと体調も整える。病気ではないようだし・・・これで大丈夫じゃないかな?
閉じていた瞳を開けると、淡い水色の瞳と目が合った。
おや・・人魚さんはいつの間にか目を覚ましていたようだ。
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