第49話 晩餐会


 ちっこいオレに縋って子どものように泣くタジルさん。ずっと、辛かったんだろうな・・オレを助けられなかったと自分を責めていたに違いない・・申し訳なさに胸がキリキリした。生真面目な彼にとっては、生き残ったことも罰だったんだろう。

オレは、タジルさんの立場を全然考えていなかったね・・・。

小さな体では彼を包み込むこともできないけれど、せめて・・と頭を抱え込んで、オレがかみさまにしてもらったように、そっと背中を撫でた。

なんだか、過去のオレを見ているようで少し照れくさかった。



「おいおい、タジル、ぼっちゃんのお召し物が汚れてしまうぞ!」

いかついおじ・・お兄さん?に引きずるように持ち上げられて、タジルさんはオレから離れた。


「すみ・・すみ、ません・・!」

タジルさんは自分の状況に気付いたのか、涙でびしょびしょの顔で真っ赤になっている。

「ううん!オレ、タジルさんが無事で、ほんとによかった!」


もう一度ぎゅっ!としてから、じゃあね、と手を振る。


・・・ラピスは聞いていた。とてとて走って行く小さな姿を見送って、いかついお兄さんが「あれはかわいい。」と呟くのを。

そうなの、ユータはかわいいの。満足げな表情ですぐそばにあるほっぺたに頭をこすりつけた。




そっと部屋まで戻ると、誰もいない。良かった、バレなかったようだ。


「もういいよ!」

「きゅ!」


ラピスに声をかける。いつも部屋から出ようとしたら見つかっちゃうから、ラピスと相談して、道中は『見つかりにくくなる魔法』をかけてもらっていたんだ。これは便利だな!ついでにあちこちにフェアリーサークルを設置してきたから、ラピスがいれば部屋抜けも自由自在だ!ちなみにキノコは家の中でも生えてきたので引っこ抜いてきた。


部屋で一息ついたら、思わずベッドに突っ伏した。


「ああ~~よかったぁ・・・!!」


・・・オレのせいでタジルさんが死んじゃったかと思った。彼の姿を見られて、安堵と喜びで全身の力が抜ける。行って良かった・・・タジルさんがあんなに苦しんでいたなんて、考えもしなかった自分の浅はかさに腹が立つ。


ごろりと上を向くと、ふう、と息を吐いた。

目の前であんなことがあって・・この世界の怖さを知った。

オレも、戦わなくちゃいけないのかな・・。

今回、多少なりとも得ていた力があったことで切り抜けられた。オレに何の力もなかったら、攫われた子どもたちも、その家族も、そしてカロルス様たちも、どれほど辛い思いをしただろうか。


生き物を傷つけるのは嫌いだ。正義漢ぶるわけじゃなく単純に、オレが苦しくなるから。痛いだろうな、辛いだろうなと感じすぎてしまうこのやっかいな体質は、本当に困りものだ。けれど、今回そうも言っていられなかった・・野盗にあの人たちが殺されるのは、どうしても嫌だったから。たまたま魔法がうまくいったから良かったけれど、圧倒的な力があれば、誰の命も奪わずに生きていけるのかも知れないね。


それは、ただただ辛い思いをしたくないオレの自己中心的な考え。鶏肉を食べるくせに、自分で絞めることがどうしてもできなかったオレの・・。




「・・ユータ様、そろそろお時間ですよ。」

そっと声がかけられ目を覚ます。どうやらあのまま寝ちゃってたみたいだ。

ごしごし目をこすると、乱れた衣服を整えてベッドから降りる。


「もう行ってもいい?」

「うふふ、ちょっとお待ち下さいね。・・・・はい、大丈夫ですよ。」

メイドさんは櫛を取り出してオレの髪を整えてくれた。


晩餐会のフロアに行くと、大きなテーブルはすっかりおめかしされた装いになっていた。きれいなカトラリーにテーブルクロス、美しい装飾の燭台にチロチロと揺れるろうそく。

「わあ~!」


すごい!パーティーだ!!一気にワクワク感が高まって、駆け回りたい衝動にかられる。


「おっ!ユータ、めかし込んでんな!・・うおっ!これすげーな。」

「ひえー!ここホントに私たちいて大丈夫なの!?」

「・・でもごはんは食べたい。」


3人が入ってきた。どうやら衣装を借りたらしく、女性陣は軽装のドレス姿、ニースはなんとも着せられた感漂う貴族服だった。

「わあ!ドレスだ!リリアナ、ルッコ、すごくきれい!」


「あらあら~分かってるわね!」

「いい子!」

二人は嬉しそうだ。普段は動きやすさ重視の服装だから、ドレスを着られるのが嬉しかったようで、スカートをつまんでみたり、くるくる回ったりしている。うん、二人とも無邪気に笑う姿が本当に美しいと思う。・・落ち着かない様子で服をいじっているニースは相変わらずだけど。


その後入室した執事さんに促されるままに席に着くと、ほどなくしてカロルス様が現われた。

どかりと中央の席につくと、すかさず料理が運ばれてくる。


「よーし、ではユータの帰還とお主らの功績に!」

グラスを上げて乾杯みたいなしぐさをすると、もう食べてもいいらしい。


「わはは!しっかり食えよ!ここにはオレ達しかおらんからな!マナーなぞどうでもいいぞ!食いもんを粗末にしなければ好きに食え!気になるヤツは後で習え!!」


カロルス様の大らかな雰囲気に、3人もホッとして食べ始める。

カロルス様らしい豪快な肉料理がズラリと並び、大きな塊のローストビーフみたいなものをジフが切り分けて、色とりどりの野菜が添えられる。具だくさんのスープに・・あ、カルボナーラ!


「これ、オレの国のお料理!珍しいでしょう?」

にこにこしながらカルボナーラを勧めてみる。


「こうやって上手にフォークで巻いて食べるんだよ!」

四苦八苦しながら巻き巻きする3人にお構いなしにフォークで掻っ込むカロルス様。もう!やり方教えたのに~!


「う・・うまっ!なんだこれ・・食ったことない味だ!」

「めちゃくちゃおいしーよ!ユータいつもこんなの食べてたの?!」

「(もくもくもく・・)」


「オレの国は、ちっちゃいけど、ごはんは美味しいの!」

最高のドヤ顔で胸を張ると、カロルス様が思案気な顔でこちらを見つめていた・・・が、ほっぺたはリスみたいになっている。その状態でしゃべっちゃダメだよ!メイドさんか執事さんにお盆で殴られるよ?

仕方ないので聞かれる前に答えておく。


「カロルス様、オレ、もどりたいと思わない。ここがいいの!」

満面の笑みに、虚を突かれたような顔をするカロルス様。


「そう・・か。」

ホッとしたような、少し照れた横顔が少し嬉しそうで、それを見たオレも嬉しくなる。


「仲、いいんだな。そういうとこ見てると普通の子どもみてーだよな。」

ニースがニヤっとしながら言う。


「おう、そうだ、お前らこいつはちょっと普通じゃないが、道中どんなことがあった?今回は無差別の人攫いだったが、こいつの特殊性が知られたら狙われることもあり得るだろう。気付いたことを教えてくれるか?」

「あっ・・そうっすね!えっと、まず草原で休憩してるときにですね、保存食を料理してました。」

「は?保存食を料理??」

「そうなんですよ!あの、すみません、私たち保存食しか持ってなかったので・・とりあえず渡してはみたんですがやっぱり食べづらかったみたいで、いきなりカバンから鍋と火を付ける魔道具を出して・・」

「オーツと干し肉少しを煮て、美味しく食べられるようにした・・です。」


「カバンから鍋・・・?魔道具・・?」

胡乱げな目でオレを見るカロルス様。

待って待って、そこナイショのとこだから!必死にカロルス様に「しぃーっ!」とジェスチャーする。


「貴族様って子どもでも魔道具持ってんですね!やっぱ庶民とは違うんすね!」

きらきらした目で信じているニースには悪いけど、あんまりオレが魔法使えることとかばらさない方がいいだろうし。


「・・・・ま、まぁ・・・そうだな。」

嘘の下手なカロルス様が目をそらしながら言う。どうやらジェスチャーが通じたようだ・・。

ふう、と額の汗を拭うオレ。


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