第50話 冒険者のお話



「うーん、すっごく色々あった気がするんですけど・・あとは大体昨日の説明に出てきたかなと思います。」


うんうん、彼らにはなるべく魔法とか見せないように気を付けたからね!


「あとは年齢がおかしいことぐらい。」

「そうね!しっかりしすぎよ!!こんなちっこい子が泣きもせずに一人てくてく外を歩いてるとかあり得ないし!」

「実際俺よりしっかりしてるかもなー、宿ではむしろ俺が世話してもらってたっす。」


「あーその辺は俺も経験済みだ。むしろ年相応の行動の方が少ないな。」


そうかなぁ・・確かにオレには地球にいたときの記憶があるから、精神年齢が2歳ではないんだけど、でも地球にいた時そのままでもないんだよな・・あくまで記憶や知識をもった2歳児みたいな感じで・・すぐ泣くし感情のコントロールは難しいし、結構幼いと思うけどな。


「お前がそこで不満そうな意味がわからん。」


ほら、こんなにも顔に出てしまう。


「オレはふつう、カロルス様とニースがダメなの!」


「うぐっ・・・。」

「あはは!確かにニースは2歳児レベルかもよー?」

「2歳児にお世話してもらう22歳児。」


ちょっとむくれて反撃すると、ニースに追撃が入った。へー、ニースは22歳だったんだね!じゃあ二人も20歳前後ってところか。


「うるせー!お前らだって2歳児に負けてたじゃねーか!」

「あれは2歳児じゃなくて貴族様に負けたの。」

「そうそう、あたし達冒険者だから!ちょっとおおらかなとこがあるのよ!」


すっかりいつもの調子でワイワイ騒がしい3人を、カロルス様はどこか懐かしげに見ていた。


「カロルス様も、冒険者のとき、こんな風?」

「うん?そうだな・・俺達は男が二人で女が一人だったけどな、似たようなもんだ。・・女はもっと怖かったけどな!」


最後はなぜか声を潜めている。解散してからも怯えるくらい怖い人って・・一体どんな人?!


「その人たち、今はどこ?」

「えっ?あー、その・・・」


「旦那様?・・おつぎしましょう。」

執事さんが声をかけるとカロルス様がビクリとする。

なぜだろう・・・黙ってワインを注ぐ執事さんから殺気が漂ってる気がするんだけど。


「ま、まぁあれだ!みんな楽しくやってるから過去に触れられたくなくてな、内緒にするように言われてんだ!」

「そうなんだ!オレも会えたらいいなぁ。」


Aランクの人たちは引退してからも大変なんだなぁ。きっと居場所がバレたら色々頼まれたりするんだろう。


「そうだ!領主様の話が聞きたいっす!冒険者の時の!!」

「あたし達はまだあの森の奥まで行けないレベルなんです。ええと・・その、失礼でなければアドバイスなんかいただけると・・。」


「お、そうだったな!お前らはDランクっつったか?わはは、まだまだ上を目指せる楽しい時だな!だが、上を目指すなら魔法使いはやはり必要になるぞ?あと森の奥や狭いダンジョンなんかでは弓が役に立ち辛いから、相当腕を磨くか、そういった時のために他の技術を身に付けるといい。」


「確かに・・。」

「なるほどー!俺達、今でいっぱいいっぱいで先に行った時のことなんて考えてなかったっす!」

「上を目指すならもっと先の見通しを立てていかないといけないのね・・」


わ~カロルス様先輩っぽい!そっか、仕事や勉強と一緒で、きちんと目標を立てて実践していくのが大事なんだね!命がけの職業だから、かえって日々が精一杯でそのへん疎かになりがちかもしれない。獲物も見つかりにくいって言ってたし、生活に余裕がなければ先の見通しをたてるのってすごく難しいもんね。


「・・・ちなみにここでお前が分かったような顔をしてるのもおかしいからな。」

うっ・・まずはポーカーフェイスを身につける必要があるな・・。


「カロルス様はあの森で、たたかった?」

「おう、随分前の話になるが、依頼で奥の方まで行ったことはあるぞ。ああ・・お前のいた辺りは行ったことないから、何か覚えてることがあれば聞かせてくれ。」


あーあの峡谷は普通下りていかないだろうし、多分カロルス様の言ってるのは峡谷の底のことだろう。

「あのあたりは、まものが少ないの。たぶん、まものも下りられないの。」

色々あったな・・どれが珍しいかわからないから覚えてること全部言う。目立った植物のこと、岩のこと、風景のこと。あの乗れるサイズの葉っぱ!ああ・・森林ラフティングは大変だったなぁ・・・。


「あと、まものは、岩のところに大きいトカゲがいたのと、黄色い熊にあったけど、他はなるべく避けたの。あとはラピスがいると近づいてこなくなったの。」


「!!お前・・今無事ってことは大丈夫だったんだろうが・・よく逃げられたな・・。」

「うん!トカゲの時は・・・・・ごまかして森に逃げられたの。黄色い熊はラピスがやつけたよ。」

「きゅう!」


「えっ・・黄色い熊って・・アレだよな?」

「ティガーグリズリー・・?」

「え・・ラピスちゃん・・・倒したの??」


聞かなきゃ良かった、という顔でカロルス様がオレを見る。

「お前・・・あの森にいる黄色い熊なんてティガーグリズリーしかおらんぞ。そこらの魔物と格が違う・・アレを倒せたらもうC級名乗れるぞ。・・まあ普通C級は単独で挑まんが。」


「そ、そうなの・・大きくてこわかったよ。」

「・・はっ!お前の方が怖いわ。」


カロルス様に鼻で笑われた。実際怖かったのに~!

でもラピス一撃だったもんなぁ・・・本当に強いんだな。


「ちっこいのに・・・・管狐ってホント凄いんだな・・・。」

「こんなにかわいいのに・・」

「もしかして護衛されてたのってあたし達だったり・・。」


3人が驚愕の眼差しでラピスを見つめている。そうだよ、ちゃんと守ってあげてたでしょ、ってラピスが言ってるのはナイショにしておこう。


「まぁ・・お前には聞きたいことがまだ山ほど残ってるからな・・。」

じろり、と横目で睨まれる。うーん・・魔法のこととかまだ詳しく話してないもんね・・。


冒険者のアドバイスなど聞きつつ、そろそろと満腹になったころ、デザートと紅茶が運ばれてくる。きれいに盛り付けられたフルーツに燭台の明かりがきらきらと反射して、とても美味しそうだ。ケーキとかお菓子類がないのが残念だな・・オレの知ってることを教えたら、もしかしてジフが再現できないかな。


色とりどりのフルーツはきれいだけど、どれも見たことがないものだ。

目の前の赤くて丸い実を手に取ってみる。巨峰くらいの小さな実だけど、小さく囓るとシャクっとした感触に、洋梨のような芳醇な香りが漂った。りんごのようにカットされた緑色のフルーツは、桃を煮詰めたようにすっごく甘くてねっとりした濃厚な風味。

お肉と違ってどれがどんな味がするのか想像がつかなくて、ひとくちひとくちがドキドキだ。赤くて甘そうな小さいフルーツが、実は酸っぱかった時は口がきゅうっとなったけど、久々に食べるフルーツは、どれもみずみずしくてとても美味しかった。



3人が心配していた晩餐会は滞りなく終了し、今日はここで泊まって明日帰るらしい。

そっか、帰っちゃうのか・・でも、お仕事もあるもんね・・。


「3人は、ハイカリクの街にいる?」

「ん~~それなんだけどなぁ・・オレらたまたま滞在してただけで、元々はここからもっと西の方にいたんだよ。ガッターって町、知ってるか?」

「元々そっちの生まれだからさ、ここまで来たんだし・・って言ってもまあハイカリクからヤクスまでとそう変わらないんだけど、ついでにそっちに寄って行こうかなって。」

「まだ拠点は決まってないから。」


冒険者って得意の狩り場がない限りはあちこち転々として自分の拠点を探すものみたい。ギルドがある場所ならどこに行っても身ひとつで仕事ができる強みだね。

まあ、そうは言ってもギルドがどこにでもあるわけじゃないし、物資も結構必要な職業だから、実際は大きな街かその周辺に集まることが多いんだって。


「いいなぁ。オレもあちこち行きたい!ぜったい冒険者になる!」

「ははっ!じゃあ俺らは先輩になるんだから頑張っとかなきゃな!」

「今の時点で相当頑張る必要がある・・。」

「少なくともティガークリズリー単独撃破かぁ・・・・。」


3人は肩を落とした。

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