第40話 2歳って難しい


「あ・・・あるくの、すき!でも、ちゅかれたね。」


焦ったのが功を奏していい感じに幼児語なまりが出た。そうそう、幼児語ってこんな感じだったな。ちょっとコツを掴んだかもしれない。

それにしても、確かにちょっとおかしいくらい疲れが少ないように思う。森から草原に変わったからだと思ったけど、それにしても随分と楽だ。


「そっ・・そうかー。歩くの好きなんだな。はは・・。」

「最近の幼児はすごいのね・・。」

「そう・・私は歩くの嫌いだから仕方ないの。」


ご・・誤魔化せたかな・・・なかなか幼児のふりをするのって難しいんだな。

うん、気を引き締めて行こう!


「ここらで休憩するか!」

「賛成。」

「じゃあごはんにしようー!」


ごはん?!あぶなーい・・いそいそとフェリティアを出しかけたオレはピタリと動きを止めた。人間は魔力吸収しないんだった!・・・いやオレも人間なんだけど。しかもこのフェリティアってかなりレアなものだったよね。人前で出さない方がいいか。


「ほら、ユータも・・・って、幼児がこんなの食えんのか?」

ニースに差し出された物を受け取ったものの・・・

「・・これ、なあに?」

「あちゃー、やっぱダメかぁ。しかもお貴族様だしなぁ。保存食、見たことないよな。」


オレはしげしげと手の中の食料?を見る。

枯れた葉っぱみたいなものに包まれた、黒い板と・・もう一つは粒々した黄色っぽいものが固まった板。打ち鳴らすとコンコンと音がする。・・・食べ物?


「こっちはミルズの干し肉で・・こっちは干しオーツの保存食だ。オレ達はこのままガシガシやってると食えるんだけど・・・・」

こうやってな、とニースが板を口に入れるとバキリと囓り取ってしがむように口の中でガシガシやっている。うわーこの世界の人ってアゴが丈夫!

「最初は固いけど、唾液で少しずつ柔らかくなる。」

リリアナがもむもむと口を動かしながら言う。


そうは言っても・・。カシ・・と口に入れてみるが、歯が立ちそうにない。黒い板の方はなめるとしょっぱい味がした。

唾液で柔らかくなるなら、煮たら食べられそうだな。


「おみず・・ない?」

「喉が渇いたの?そういえば水筒渡してなかったわね・・ごめんごめん、はいどうぞ!これ、あなたが使っていい分ね!」

ルッコはそう言って荷物入れの中から空の水袋を取り出すと袋の口を開き、もそもそと何か呟いた。と、袋の上に水球が浮かび、ぱちゃんと袋に入る。

「わあ・・魔法?」

人の魔法だ!回復魔法以外初めて見た!

「ふふ、そうよ!あたしは細剣使いだけど、初級の魔法ならちょっと使えるのよ!」

ルッコは得意そうに言った。

妖精魔法と発動自体はそんなに変わらない気がするけど、確かに魔素を集めていない。自分の魔力だけしか使えないと、魔力がすぐになくなっちゃいそうだ。妖精魔法も、周囲の魔素を集めるために自分の魔力を使うけど、発動に必要な魔力とは必要量が全然違う。


妖精魔法も人に見せてはいけない、とオレは心のメモ帳に書いておいた。

それはそうと、お水があれば・・あとは火さえ起こせたらいいかな。火・・魔法は使えないとなると・・あ、魔石!


「まだ、休憩?」

「ん?そうだな、昼休憩だからしばらく休むぞ!ユータもしっかり休んでろ。途中でなんか食えそうなもんがあったらいいんだけどな・・」

申し訳なさそうなニースに大丈夫、と言うと、オレはその辺の枯れ草をかき集めてしゃがみこんだ。大きめの石をこう積んで・・・超簡易かまどの完成!

さて、ここに取り出したるは土魔法性の小鍋!もちろん今作った。なんとかかばんに入るくらいの大きさに調整してある。


「な・・なんで鍋持ってんだ・・??」

「おでかけ用。」

困惑顔のニースを適当に誤魔化して、小鍋に粒々の板と水を入れると火に掛けた。


「えっ?なんで火が?」

「これ、もらったの。」

火の魔法を込めた魔石を見せる。ラピスに魔法を見せてもらって、大体の魔法の取っかかりぐらいはできるようになったんだよ。火をつけるぐらいなら大丈夫。


「おお・・着火の魔道具ってやつか?すげーんだな、貴族様って・・・。」

うん、上手く騙されてくれた。

枯れ草はすぐに燃えてしまうので、次々とくべながら干し肉を準備する。くつくつと少し煮立ってきたら、オレの小さなナイフで少しずつ干し肉を削って鍋に入れていく。


「上手いもんだな・・。」

さっきからしきりとニースが手元を覗き込んでくるから下手なことはできない。火力が強いのでこっそり魔法で調整したけどバレてないだろうか。

しばらくそのまま煮て、粒々がほどけて膨らみ、干し肉が柔らかくなったら出来上がり!味付けなんて干し肉だけだから美味しいものではないだろうけど、こうしないと食べられないんだから仕方ない。

さあ食べよう!と思ったらスプーンがなかったので、こっそり土魔法で作ってかばんから取り出したように装った。

ふうふうと冷ましてぱくりとひと口。うん、思ったより食べられる味だ・・そう言えばさらわれた日から初めての食事だ!なんだって美味しく感じる気がするよ。

干し肉は結構塩がきついらしく、固かったからそんなに入れられなかったのに十分な塩気が出ていた。米がない雑穀のお粥みたいな感じだ。お肉の風味があるから雑炊に近いかもしれない。

正直、朝にフェリティアで魔力補給したからおなかは空いてないけど、食事することが嬉しくてさじを進める。


「すげーな、なんかうまそう・・」

「どーじょ。」

「おっ・・・おぅ・・。」

あーんとさじを差し出すと、少し照れながらぱくっとした。


「なーにちっちゃな子相手にデレデレしちゃって!」

「モテない男は辛い・・」


「うっ・・うるせー!・・・お?これうまいぞ??」


ニースさんはモテないのか・・・爽やか好青年だと思うけどな。

どうやら保存食のおかゆ?はお口に合ったみたいだ。正直水で戻すと量が多かったので、みなさんに食べてもらおう。


「もうおなか、いっぱい。あげる。」

「おっ?もういいのか?やったぜ!」

「ちょっと!私も味見したい!」

「同じく。」


結局3人で奪い合・・・分け合って食べたみたいだ。そんなに美味しい物とも思えなかったけど、あのままかじるよりは美味しかったんだろう。


「ちょっとコレすごいじゃない!今度から私も鍋持って行こう!小さいのならそんな重くないし。」

「だな!」

「じゃあ3人分の大きさの鍋にしてニースが持てばいい。」


「おっそうか!一人ずつ鍋持つより効率いいな!・・ってなんでオレが持つんだよ!」

「一番力がある。」

「頼りになるわあ~!強い男って素敵!」


「てめーらこんな時だけ・・・。」


ニースはブツブツ言ってるけどちょっと嬉しそうだ。

モテないって・・・・ツラい。

オレはそっと目をそらした。





しばしの休憩をとったら、再出発だ!

ところで、彼らは何か依頼を受けていたんじゃないんだろうか?オレを連れて街まで戻って大丈夫なのかな?

「きょうは、おしごと?ろうしてここにいるの?」

「んっ?仕事?・・・ああ、今日も依頼を受けてきたぜ!お仕事だ。」

「どんなこと?」

「今日はなぁ・・ダブルホーン探してたんだけど見つかんなくてよぉ。シングルはそこそこいたんだけどな。」

「だぶるほーん?」

「おう、ツノの生えた・・でかいネズミみてーなヤツだ!」

「ホーンマウスの亜種よ。普通は1本ツノなんだけどね、たまに2本ツノがいるのよ~!そこまでレアってワケじゃないのに、探したらいないものね・・。」


「えと・・おれと 一緒・・ダメ。」

「えっ?どうして?」


「おしごと・・できなくなる。」

「あー、お前連れて帰るからって気使ってんのか?ませたガキだよほんと!いーんだよ、見つかんねーもん。また明日探そうって言ってたんだよ。」

「きっと今日は寝てて出てこない。ルッコみたいに。」

「いちいちあたしを引き合いに出すな!」


そっか・・ありがたいな。でも今日一日つぶしちゃうことになるし・・なんとか役に立てたらいいんだけど。・・レーダーに魔物は映ってる。でも・・それが何かは分からない。

「オレ、まものみちゅけるのとくい!」

はいっと手を挙げて言ってみる。

「おーおー、そうか、じゃあ帰りに見つけられるかもしれねーな!」

「・・・見つけるのが得意?エサとして見つかるのは得意そう・・・。」


「まもの、みちゅけたら、言っていい?」

「おーいいぞ!ダブルホーンじゃなくても素材売れるしな。」


そうなのか・・じゃあどんどん言っていこう。

「あそこ、きいろのおはなの した。」「そっち、みっついしがならんだところ」「あの木から、みぎに5歩ぐらい。」「そっちの・・」


「・・・・え?は??」

「ちょ・・ちょちょ待って!」

「・・・・本当??」


3人は面白いぐらい混乱した。



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