第41話 人の住む場所


魔物を見つけたら言っていいってことだったから、どんどん指さしていったけど3人が追いついていない。

なんだかすごく混乱してる。早く行かないと、みんな逃げちゃうよ・・


「え?え?マジで?・・オレちょっと行ってみよっかな。」

「う・・うん、こっから見えるからサポートOKよ。」

半信半疑で指示した場所に行くニース。と、そろそろと近づいていた歩みがダッと速くなり一瞬で背中の剣を振った。すごい!カッコイイ!!


「・・・・マジだった。」

片手で凶悪なうさぎみたいな生き物をぶら下げて戻ってきたニース。

「クロウラビット・・。」

「嘘でしょ?!な・・なんで?」


呆然とする3人に、オレはヤキモキする。あっ・・あっちのが逃げる!

「あのね、ほかのがにげちゃう・・みんな、ちいさいからすぐ逃げるの。」

「!そ・・そうか、まぁここから見える範囲に危険なヤツはいないし、散開して行ってみる・・か?」

「そ・・そうね・・・たまたまかもしれないし。」

「同感。」


ニースがオレの両脇に手を入れ、ひょいと抱き上げると大きな石の上に乗せた。

「見える範囲にデカイのはいないし、この辺りのちっこい魔物ならこの上にいたらまず大丈夫だろ。じっとしてろよ?」

大丈夫、オレのレーダーにも小さいのしか映ってないよ。オレはこの上で指揮だね!

行くよ~!


「ニース、3歩みぎ!」「リリアナ、とおりすぎた!」「ルッコ、その木のうえ!」

どんどん指示を出す。片言で言いにくいったらありゃしないが、なんとか誘導して1匹2匹と各自仕留めていく。すごいな・・素早そうな魔物なのにみんな逃がさない。


「あっ・・こいつ!!ちょ・・リリアナ来て!!」

ルッコが声をあげる。

リリアナが駆け寄るなり弓を引いて木の上を射た。ガサリと何か落ちてくる。


「いよっしゃーー!」

「ダブルホーン!!」

ルッコとリリアナが勝利の雄叫びをあげている。そっか、ダブルホーンいたんだね!良かった~。


「うっそだろ?マジかよー!なんだよコレ・・・オレ達の1日って・・。」

「こんな狭い範囲にこんなに魔物いたの・・・?」

「驚異。」


一旦集まって来た3人が、狩ってきた魔物6体を並べて呆然としている。うーん、結構なグロ映像・・幼児が見てはいけない光景だと思うけど、この世界では当たり前の光景なのかもね。そういえばお肉屋さんも結構丸ごとドンと置いてあったりしたし。

「しゅごーい!」

ぱちぱちと手を叩いて思い出したように幼児語なまりで話すオレ。


「「「すごいのはお前(あんた)だ!!!」」」


3人見事に揃って叫ばれビクっとする。

そ・・そう?2歳児、またやりすぎた?でも、結果オーライ・・だよね?


「お前、どうなってんだ・・?」

「恐るべし・・・・。」

「これから毎日ユータ連れて狩りに行きたいわ・・・。」


3人がなんでこんなにビックリしてるのかと思ったら、普段このあたりで狩りをしても中々獲物が見つからなくて、2,3匹捕れたらいい方なんだって・・・1日で。だから普段は森の方に行くらしいけど、そっちはそっちで危険なのも多くて困るらしい。

あちゃー・・索敵魔法って『森のうさぎ』が普通に使ってたから、珍しい物じゃないと思ってたよ。ちょっと感覚の鋭い子どもで通るかなって。将来は魔法使いね~うふふ、ぐらいですむと思ってたんだ。

索敵魔法はそこそこ高等魔法らしくって、しかも魔法使いがどのパーティにもいるわけじゃないから、かなり貴重みたい。将来有望だと3人のぎらつく目が怖い。


とりあえず3人が簡単に獲物の処理をすませて歩き出す。心持ち足取りも軽いようだ。

そしてオレはもうこれ以上何もしないと心に誓って歩き出す。

「獲物も十分だし、体力温存しなくてもいいだろ!走るかぁ?」

「断固拒否!」

「リリアナはもうちょい体力つけないとイザって時に困ると思うけど~!」


最初から賑やかだったけど、なんだかウキウキしてるな。ニースが乗れ!とオレをおんぶして走り出した。

追走するルッコ、そしてリリアナの悲鳴が聞こえる。せいぜい小走り程度だし、リリアナ頑張ってー!

オレの足に合わせていたら日が暮れちゃうもんな。激しく揺れるニースの乗り心地は悪かったけど、おぶわれたまま歩いたり走ったり、随分と距離は稼げたみたいだ。

夕闇が近づく頃、街の門まであと10分って所まで来ていた。


「にーす、だいじょうぶ?重くない?」

「ばーか、お前が重かったらオレは剣を振れないわ。」

確かに、とオレと共に背中にある剣を見る。いかにも重そうな、オレの背丈より長い長剣だ・・カッコイイな。

「ニース、かっこいい。」

「ぶはっ?!」

素直に褒めたら、ニースは真っ赤になってあからさまに狼狽えた。なんて褒められ慣れてないヤツなんだ・・・気の毒に。

「ヨカッタネーに褒められて。」

「かわいいだもんねー。」


「ちくしょおぉーー!」

やたらと男の子を強調されている気がする。ニースはなぜか泣きながら走り出した。


ニースがダッシュするからあっという間に門についた。後ろの二人を待ってから街の門をくぐる。

どうやらここはハイカリクの街で合っているらしい。ルー、ありがとう!


「よ!」

「よぅ!なんだ、お前らこんなちっこいの連れて。」

「拾った。」

「ワケありみたいよー!一人だったの。」

3人は門番と親しいようで、軽い挨拶をしている。


「ふーん、まあ詰め所にでも連れてってやんな。あ、でも今は無理だな。お前ら知らんだろうが、今街で一斉摘発してんのよ。」

「はぁ?一斉摘発ぅ?なんのよ?」


「それがよ、闇ギルドの中にアイゼル帝国と繋がってたヤツがいたって話だ。そんで国から直々に通達が来たらしいぜ!ここの闇ギルドをつぶせってな。」

「物騒だなぁ・・ま、闇ギルドがつぶれんのは嬉しい限りだぜ!」

「おーよ、俺も仕事が楽になるぜ!」

がははと笑う門番さんに、じゃーなと手を振って街の中に入る。


「わぁ・・・・。」

人、人、人・・・。久しぶりの街は人で溢れていた。そんなに経っていないのに、すごく懐かしく感じる街並み。ああ・・オレ、人の住む所に帰ってきたよ。


「お前が攫われた街ってここで間違いないんだな?」

「うん、ここ。ありがとーござました。」

ぺこりと頭を下げたオレに、ちょっと慌てる3人。

「ちょっとちょっと!さすがにここでポイっとしないわよ!最後まで付き合うわ。」

「獲物の、お礼もある。」

獲物のお礼って・・狩ったのは3人なのに。

「お前ね、ほっといたらまた攫われること請け合いだぜ?」

そう言われてハッとする。そうだった・・・オレ、希少価値高いんだった。慌ててフードを深くかぶる。

「ま、そーゆうワケで、ギルド寄ってから相談しよーぜ。」

ニースは軽い調子で言うと、オレを片手で抱き上げて歩き出した。



以前カロルス様とくぐった入り口を、ニース達とくぐる。

今日は異臭がマシな気がする・・・ギルド内には女性の姿も結構あるせいか。

「アイリちゃーん!見てくれよ!俺すごくねー?」

ニースが急にデレッとして受け付けの女性に話しかけた。ああ・・・こういうとこがモテないのね。

「はい、『草原の牙』の皆さんお帰りなさい。どうやらいい成果があったみたいですね。」

一切動じないアイリちゃんは淡々と営業スマイルを浮かべて対応してくれる。この鉄壁スマイルに突撃するニース・・ツワモノだな。

「これは・・依頼のダブルホーン、もう達成されたのですね。あとは買い取りですか・・クロウラビット2,アースモール1、ホーンマウスのシングルが2、グラスリザード1、ですね・・アースモールなんてよく見つかりましたね。」

「このラッキーボーイのおかげなのよ。」

「索敵の素質がある。」

ルッコがオレの頭を撫でた。アースモールって土に潜ってたやつだな。

「この子が・・?」

アイリちゃんは不思議そうな顔でオレを見たが、ジョークの類いだと受け取ったようだ。

「依頼達成おめでとうございます。こちら依頼料と買い取り分合わせまして金貨5枚と銀貨1枚になります。」

「「「いぇ~~~い!」」」


3人はほくほく顔でハイタッチした。



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