第39話 街に向かって
目的地が見えているっていいな!
この小さな足ではなかなか近づかないけど、それでも少しずつ大きくなってくる街の姿に心が踊る。同時に、ふとカロルス様が待ってくれていなかったらどうしようと不安が首をもたげてきた。もし、もし・・いなくなってホッとしていたら。
ズキリと胸が痛む。それならオレは見つからないように去らなくてはいけない。子どもを育てるのは膨大な時間とお金がかかるものだ、カロルス様が善良な人間なのは知っているけど、突然転がりこんだ拾い子がいなくなってホッとする気持ちがないとは言えない。
オレは思わず足を止めた。
あれ・・どうしよう?ちょっと怖くなってきた。
「きゅ?」
「ラピス・・オレ、帰って大丈夫かな?」
ーどうして?ラピスだってちゃんと帰ったよ!
・・そうだね・・そうだよ、オレは帰るって言ったんだからまずは帰らないと!迷惑になるなら独り立ちしたらいいんだよ。
そう考えて、カロルス様が怒りそうだとくすっとした。頼れって言ってくれていたな・・独り立ちなんて、させてくれそうにないよ。
カロルス様のニッと笑った顔と、わしわしと撫でる大きな手を思い出して、思わず頭に手をやった。
うん、そうだね・・帰ろう!オレが、あの人に会いたいから!!
オレはぐっと顔を前へ向けて、歩き出した。
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「・・・あたし、ちょっと寝ぼけてる?」
「はぁ?何言ってんだよ、ルッコはいつも寝ぼけてるよーなもんだろ。」
「確かに。」
「なにをー!」
ルッコと呼ばれた赤い短髪の女が、そばかす顔の男の頬をつねりあげる。
「いてーって!なんだよ!」
「あそこ!見てよ!ほら・・・なんか小さい子がいるように見えるんだけど。」
「商隊?小さい子を外に出すなんて危険。」
「違うの!一人!他に誰もいないのよ!」
「そんな馬鹿な・・」
「ゴブリン?」
人型の魔物は遠目からは人間のように見える。小柄ならゴブリンが出たかと、小柄なローブ姿の女が弓を構えた。
「ちがーう!見てよ!」
草原を行く3人組の冒険者たちは、揃ってルッコの指す方に目を凝らした。
「えーっ?!マジかよ・・男の子・・・だよな?」
「・・・確かに。ゴブリンでもコボルトでもない。」
「でしょー?!やっぱり寝ぼけてないじゃん!」
「寝ぼけてるって言ったのはお前だ!」
「えーそうだっけ?」
「あんな小さい子・・どうして?」
事情はともかく、一刻も早く子どもを保護しようと走り出す一行。草原にも魔物がいる・・いや、魔物でなくとも腹を減らした野犬でさえあんな小さな子なら食い殺すだろう。
「おーーい!そこのチビっこ!!」
「どーーしたのー!?おうちの人はー?!」
追いつく前から大声で叫ぶ賑やかな二人。少し遅れて走ってくるローブ姿。
ユータは良さそうな人たちだなと判断して、手を振ってみせた。
冒険者たちより早くにレーダーで彼らを発見していたユータは、彼らが近づくのを見て歩みを止めていた。どうせ走っても追いつかれるだろう・・。普通の冒険者ならいいが、また悪党だったら・・そう考えてやや緊張しつつ彼らを待っていたが、気の抜ける大声に安心する。ラピスを見咎められる可能性があるので、上空から見守ってもらうことにした。
「はっ・・はっ・・。うわーホントにちっこいな!どうしたんだよ?一体なんでこんなとこに一人で?」
「はあ・・はあ・・こんなとこ・・・一人でいたら・・はあ・・危ないんだから・・。」
息を切らしながらユータを心配する二人。やっと追いついたもう一人は声もなくぜえはあしている。
「えーと・・わるい人に連れて行かれて、逃げてきたの。」
「おっ・・?おう。随分しっかりしてんな!お前、いくつだ?」
「えーっ人攫いにあったの?よく逃げられたわね・・。」
「はあ・・ふう・・」
あっ・・しまった。オレ、2歳児。もうちょっと2歳児っぽくしないと怪しまれるかもしれない。人と話すときは気をつけよう。せっかく幼児語を矯正できてきていたのになぁ。
「えっと・・おれ、にさい。」
「!!」
「2歳ぃ~?!よく無事だったな!」
「ちょっとちょっと・・泣かずにえらいわねぇ~!」
ルッコがユータの頭をよしよしと撫でた。
「よーし、もう大丈夫だからね!この『草原の牙』が、ちゃーんとあなたを街まで送り届けてあげるからね!」
「そうげんの きば?」
「おおよ!オレ達はDランクパーティの『草原の牙』って言うんだ!ぼうず、Dランクって分かるか?なかなかのもんだろ!大船に乗ったつもりでいろよ!」
「・・ニースが言うと泥船みたいに聞こえる。」
「リリアナ!なんで今そーゆうこと言うかな!」
やっと息を整えたローブの女に辛辣な言葉をくらったそばかす男・・ニースはがっくりとうなだれている。ローブの女がリリアナのようだ。
くすくす、と笑うユータを見て、3人はドキリとする。
「・・・あー・・こりゃ、攫われるわけだわ。」
「あ・・あれ?女の子?ごめんね、男の子の服だったからてっきり・・」
「・・・かわいい。」
ユータは、そういえばオレ女の子に間違えられるんだったと思い出す。
「ううん、おれ ゆーた。おとこのこです。」
「そっ・・そうか!ユータ、えーと・・オレはニース!街まで守ってやるからな!」
「男の子・・・うそーこんなかわいいのに!・・あっ、あたしはルッコよ!強いんだから!」
「・・リリアナ。これで、男の子・・ルッコよりかわいい。」
「ちょっと!なんであたしと比べるのよ!自分と比べなさいよ!」
「私は子どもじゃないから比べられない。」
「あたしだって子どもじゃないわよ!!」
「ルッコは子どもの枠に入ってる。」
「どーーでもいいって!うるせーよ!ユータが怖がるだろうが!」
人に会うのは久しぶりで、こんな賑やかな人たちを見るのは前世を合わせても、ものすごく久しぶりかもしれない。仲がいいんだな・・楽しそうなパーティだとユータは少しまぶしく思った。
「・・こほんっ。で、ユータはどこから来たの?えっと・・おうちはどこか分かるかな?」
「あのね、はいかりくの街でさらわれたの。おうちは・・ろくされんの、やくす村。」
「・・・なんてしっかりした子・・やっぱりルッコより上・・。」
「それはいいって!・・いやしかしその年で大したもんだよ。2歳ってこんなもんだっけか?いいとこのぼっちゃんか?」
「あらー貴族の子?街まで結構あるけど・・大丈夫かしら?」
「だいじょーぶ!」
ユータはなるべく幼児語を話しているつもりだが、まだダメらしい。どの程度なら大丈夫なのか分からず、極力口数を減らすことにする。村に帰ったら幼児を見て勉強しておこうと考えるのだった。
(ラピス、いい人たちみたいだから大丈夫。街まで送ってもらうよ。ラピスも帰っとく?)
(・・きゅ。)
心で念じてラピスと会話する。ラピスはまた、呼んでね、何かあってもなくてもすぐ呼んでね。と言い置いてぽんっと消えた。
「うーん、まぁ疲れたらお姉さんがおんぶしてあげるから、ちゃんと言うのよ?」
「うん!」
優しい冒険者に護衛してもらいながら、ユータは再び草原を歩き始める。
彼は言葉に気を取られるあまり、幼児の体力と気力を考えることをすっかり忘れていた。
「・・・・・えー・・と、ユータくん?」
「なーに?」
「そのぅ・・あのローブのおチビさんがちょーっと疲れてるかなって。」
「ユータ・・朝からずっと飯も食わずに歩いてんだけど・・・お前、大丈夫なの?」
「・・・・・おかしい・・私が・・幼児に・・負ける・・?」
ハッとするユータ。しまった・・・オレは2歳児。黙々と何時間も歩けるわけなかった!
恐る恐る振り返ると、若干引いた冒険者たちと目が合った。
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