第20話 冒険者
煤けた背中を見せていたカロルス様を、なんとかなだめてお風呂に放りこむ。・・さすがに背中流すとこまではいいよね?
カロルス様の脱いだ服と、オレの下着類をまとめて袋にいれる。この袋に入れておいたら、宿で洗濯してくれるらしい。もちろんお金はかかるけど。
カロルス様のあとにお風呂に入って、片付けていると護衛の人が呼びに来た。夕食だ!
ロクサレン家以外のとこで食事するのは初めてなので、ちょっとわくわくしている。曲がりなりにもあそこは貴族家なので、宿の食事はそれよりも劣るんだろうけどね。
1階の食堂へ行くと、既に何組かの客が食事をしていた。手元の料理はそれぞれ違うモノのように見える。
子ども用の椅子を用意してもらい、席に着く。護衛の人は、カロルス様が食事中は護衛の仕事をして、後から食べるらしい。おもむろにメニューらしきものを広げたカロルス様。オレも習ってメニューを広げてみる。
「ユータ、何にする?」
どうやら夕食はこの中から選ぶらしい。でも・・
「カロルス様、よめません。」
「読めない・・?いやお前書庫の本でも読んでるじゃないか。」
首を傾げるカロルス様。そうだけど違うんだって!
「もじはよめます。でも、なにかがわかりません。」
アルクス焼き、ポルクの煮込み、このへんはまだ、何かを焼いてるんだなとか煮込んでるんだなって分かるけど・・・チキリのチチル風とか全くわからん。
「ああ!なるほどな。アルクスは魚だ!ポルクは・・よくウチでスープに入ってるだろう?あれの、こってりした方だ。チキリはそのあっさりした方で、こっちは・・」
ざっくりした説明だったけどなんとなく分かった。
カロルス様はポルクの煮込み、オレはチキリのチチル風に挑戦した。
・・うん、ポルクは豚、チキリは鶏だな。チチル風はよくわからないけどハーブっぽい何かの香りがした。ロクサレン家で食べるものより固くて筋張っているけど、不味くはなかったよ!
考えてみれば、ずっと館に軟禁状態なので、ロクサレン家にいる人たち以外の人を見る機会もほとんどない。だから、こんなに色んな人が食事しているのがとても面白い。本当に黒髪っていないんだな・・薄い茶色の髪が一番多いかな?金髪っぽいのはいるにはいるけど、カロルス様みたいなきれいな金髪はいない気がする。茶髪が濃くなれば赤系に行くみたいで、赤っぽい髪の人もちらほら。ここには荒くれっぽい人はいないようで、みんなそこそこ上品に食事をしている。
「ここではまず大丈夫だが、街であまり他人をじろじろ見るなよ?荒くれだと、難癖つけて狼藉をはたらくモノがいるからな。・・さて、腹もふくれたし今日は疲れたろう?寝るか!」
「ええー・・。」
せっかく街に来たのにもう寝るなんて・・ふくれてみたけど意にも介さず右肩に乗せられ、部屋まで連れていかれた。
「よし、ちゃんと寝たら明日朝一番で手紙を出して、昼までぶらぶらするか!」
「わかった!!」
オレは大喜びでベッドに飛び込んだ。さっきまで寝てたというのに、瞬く間にまぶたが落ちてくる。明日に期待を込めて、わくわくしながら眠りについた。
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翌日、パンとスープという簡単な朝食をすませたら、約束通り街に繰り出した。
まずは手紙を届けにギルドに行くんだって!冒険者ギルドっていうらしい。冒険ものの絵本には必ず出てくる定番、冒険者だ!勇者っていうのはこういう冒険者から出てくる者で、ドラゴンと戦ったりするんだ!
わくわくしながらカロルスに様にくっついてギルドに入る。
・・むわっ・・
・・・・ぐふぅ!なんか・・くさっ!くさいよ!汗臭いと言うのか生臭いと言うのか、とにかく生き物のニオイが強い。ここにいる生き物は・・ヒト。主にオス。これは勇者のニオイじゃない!絶対!!ニオイに慣れるまでしばらく悶えることになってしまった・・。カロルス様はああ見えてやっぱり貴族なんだな・・臭くないもんな。妙な所で貴族らしさを感じてしまうのだった。
それにしても、なんでだろう?結構朝早くからカロルス様をせかして来たのに、ギルド内は既にヒトでいっぱいだった。ギルド内の一画に、男ばかりが押し合いへし合いしている・・この異臭の原因たちだ。奥にはカウンターが並んでいて、ちょっとした市役所みたいな雰囲気だ。そっちは空いているのに。カロルス様は迷うことなく一番端のカウンターに行き、手紙を出していた。郵便局みたいなシステムだと思っていたら全然違って、いちいち冒険者に依頼を出して届けてもらうんだって!
で、依頼は大至急のもの以外はまとめて朝一番に掲載されるから、割のいい依頼にありつこうとして、ああやって朝早くから群がるらしい。
なんだかなぁ・・・絵本の冒険者は、もっと格好良かったんだけどなぁ・・。
ただの汚いゴロツキにしか見えないよ・・。
「ん?どうした?退屈だったか?」
オレがガッカリしていると、カロルス様が気付いて声をかけてくれる。
オレは首を振ってから答えた。
「ううん、ぼうけんしゃって、ゆうしゃ様みたいに、もっとカッコイイと思ってました。」
「ブッ!わははは!そうかそうか、残念だったな!」
素直に言うと、大爆笑された。
「そうだなぁ・・今いるヤツラは下のランクだからな・・身綺麗にできるほどの実入りはないだろうよ。A級あたりになれば、もうちっとすっきりしたカッコイイやつもいるぞ。ホレ、俺なんかどうだ?格好良かろう?」
ふふんとアゴを反らせて流し目をやり、髪をかき上げる仕草は、腹が立つけどカッコイイと言わざるを得ない。腹が立つけど。
「・・・・おひげを、そったら。」
せめてもの抵抗をすると、カロルス様はガクっとなった。
そこで、はたと気付く。
「カロルス様、ぼうけん者なの?」
「そうだ!今は領主だが昔は冒険者だ。A級だぞ?」
スゴかろう?と再びドヤ顔をしている。くっ・・悔しいがこれもスゴイとしか言えない。冒険者は登録するとFランク、そこから段々上がってAランクが一番上だ。でも・・
「ゆうしゃ様は Sランクだったよ。」
また小さな抵抗を試みる。
「おま・・お前~お話の勇者と比べることはないだろう?」
そう、ランクというか特別枠としてSランクっていうのがあるらしい。お話に出てくる勇者や英雄はみんなSランクだ。現実にもSランクはいるらしいが、人間国宝的な扱いになっているそうな。
でも、冒険者か・・オレがカロルス様の所を出て生活するなら、登録しておくといいかもしれないな。自給自足のつもりだけど、自給自足できる所まで持って行くには、結構な先立つものが必要なのだ。そもそも、一人でできる農業なんてたかが知れてるから、災害なんてあったら即アウトだ。その点冒険者なら必要なときに活動できるから、非常に向いている。
「カロルス様、オレもぼうけん者になりたい。」
オレはカロルス様を見上げて言った。
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