第21話 街の散策

「うん?そうかそうか・・まぁ、まずは鍛えることだな。頑張れば8歳でとりあえず登録はできるぞ。」

カロルス様は、自分に憧れたと勘違いしてくれたようだ。得意顔で機嫌良く答えてくれる。

8歳か・・遠いな。でも地球で考えたら・・小学校2~3年か。そんな年齢の子に一体なにを頼むんだろ?

「あー、8歳で登録しても冒険はできんぞ。街の掃除や、せいぜい近くの薬草とりだな。ああ、チラシ配ったりなんかもあるぞ。」

なんか・・普通のバイトっぽいな。それならできそうだ。大人の冒険者は、やっぱり心躍る冒険をしてるんだろうか?!

期待を込めてカロルス様を見つめる。


「カロルス様は、たからものを みつけたり、ドラゴンをたいじしたり したの?」

「お前なぁ・・ドラゴンがそうほいほいいてたまるかよ・・。まぁ俺はAランクだからな、倒したことはあるぞ。宝物って・・まぁダンジョンとかなら・・宝物っちゃあ宝物か?」


ダンジョン!わあ~夢が広がるな!やっぱりドラゴンもいるんだ!オレはそもそも魔物を見たのはプリメラとスープに入ってるお肉ぐらいだからなぁ・・・・。そうそう、ビックリしたけど魔物って普通に食べられるんだよ。

カロルス様、結構スゴイんだな・・だから辺境伯なのかな?オレの目が尊敬でキラキラしているのを見て、カロルス様は渾身のドヤ顔でご機嫌になった。



 ギルドで用事を済ませたら、あとは自由時間だ!ウキウキしながらカロルス様を引っ張っていく。オレはお金を持ってないので何も買えないけど、市場調査と異世界調査だ!

まずは目についていた露天の市場みたいな所へ!正直、目に写るモノ全てが珍しくて、オレのテンションは上限を振り切っている。ここはなに?これはなに?さっきからカロルス様を質問攻めにして困らせている。

露天では食料品を中心に、たまにナイフや革製品なんかも売られている。この際だから食料品の名前を片っ端から聞いてまわる。地球と似た食材が多いけど、びっくりするようなのも多い。緑色の皮なのに、中身が真っ青な色をしたリンゴみたいなもの、色の変わる魚、お肉屋さんは特に面白かった。お肉として売られている、でっかいネズミみたいなもの、今のオレの身長くらいある何かの足、巨大なトカゲのしっぽ・・・・。これ・・・魔物だ!プリメラとスープ肉以外の初魔物・・・あー・・これもお肉か。

それにしてもこの足・・こんな大きな足の持ち主がうろうろしてるなんて・・。村の外に行くときは白亜紀にでも迷い込んだつもりで行かないといけないな・・。冒険者ってこんなのとどうやって戦うんだろうな?大きすぎるから、たとえ銃があったって効きそうにないけどなぁ。


 ちなみにカロルス様の必要なものは商店街の方らしいので、あらかた露天を見たら商店街の方へ向かった。大分お疲れのご様子だったが、オレはまだまだ全開だ!スキップだってしちゃうぜ!・・うまくできなくて通りすがりのお姉さんに笑われたけど!

商店街は、露天とは違う洗練された雰囲気のお店も結構あって、高級店街って感じだ。ショーケースの中に宝石が入っていたり、いい香りが漂ってキラキラした瓶が並ぶお店だったり。カロルス様は、キラキラした瓶を三つ、小さなカバンを一つ買っていた。

この時点でお昼を過ぎたくらいだったので、喫茶店みたいな所へ入ることになった。当然ながら宿よりたくさんのメニューがあって、しかも分からない。いちいち聞くのも面倒なので、シェフのオススメ的なものにした。カロルス様はレッドバックブルのステーキだ。この人は肉ばっかり食べるな・・この世界の人は野菜を食べなくても大丈夫なんだろうか?


ちなみにオススメ料理は、ベーコンと角切りポルク、芋をミルクで煮たようなものだった。もっとこってりしてるかと思ったけど、ベーコンの塩気がミルクに溶け込んで、ほどよい甘みとのバランスだし、クリーム煮じゃないので案外すっきりといただけた。お芋も、味がしみしみして美味しかったです!ポルク入れなくてもいいんじゃないの?とは思ったけど。

カロルス様のステーキは・・・うん、『お前ら、これが肉だ!!』って主張している感じの・・肉塊だった。一口だけもらったら、固めの牛ステーキっぽくて美味しかったよ。ライオンぐらいじゃないと食べられないサイズなのが気になるけど。どうするのかと思ってたら、どうもしなかった・・もりもり減っていく肉塊に呆気にとられているうちに、全てカロルスライオンの胃袋に収まったようだ。・・ウソだ~容量的におかしいよ!カロルス様みたいになるには、あんな量が必要なのか・・・。これが、A級冒険者の実力・・。


ちょっとした敗北気分を味わいながら店を出ると、商店街を散策しながら馬車に向かう。


「ホラ、お前が好きそうな店だな?」

ニヤッとしながら指さしたのは・・・本屋さん!!カロルス様グッジョブー!ただちに吸い込まれていくと、中は薄暗くて思ったより狭かった。

「あんまり長居できないぞ。」

そう言いながら腕を組んでカウンターに寄りかかり、待ちの姿勢をとってくれるカロルス様。オレは目を皿のようにして良さそうな本を探す。あ!このあたりの植物図鑑がある!魔物の本も!物語は・・今はいいかな。うわー魔法の本があるよ!こっちは・・・ま・せ・き・・魔石、かな?おおっ?!この国について書かれた本!これも今読みたいやつだ!

どれもこれも興味深くてたまらない。お金が手に入ったら絶対にここに来よう!お値段は・・・うわ!高っ!地球でも専門書は高かったけど・・ここではさらに高くて何万レルもする。コツコツ貯めなきゃなぁ・・ロクサレン家の書庫を使わせてもらえてるって本当にありがたいことだなぁ。


「お前はどんなものに興味があるんだ?」

カロルス様がいつの間にか後ろに立って、上から覗き込んでいた。

「いまは、やくにたつ じつようしょが いいなと。カロルス様、みて!ぼうけん者のこころえ っていうほんもあるんですよ!」

にこにこしながら説明する。

「・・それは2歳が言う台詞じゃないぞ。」

そう言いながらニヤニヤしてカウンターに声をかける。

「どうだ、オヤジ!オレの勝ちだろう!」

「はあ~嘘だろ、騙されんぞ!おい、ガ・・ぼっちゃん、ちょっとこっち来い!」

カウンターでこちらを見ていた怖そうなおっさんに呼ばれる。なんだろうと近づくと、2冊の本を出してきた。

『どらごんとゆうしゃ』『魔石の実際と効果について』

きょとんとして店のオヤジの顔を眺めると、

「お前、この本どっちかやるっつったらどっち選ぶ?」

そんなことを聞いてくる。オレは迷いなく魔石の方を選ぶ。当然だよね・・。


「なっ・・お前、こんな本読めないだろ!何に使うんだ。何が書いてあるかわからんだろ!?」

「わかりますー!ませきがどんなもので、どんなじじつがあるのかと、およぼす こうかについて です!」

むっとして答えると、なぜか頭を抱えた。隣でカロルス様が豪快に笑っている。

「くっそー!なんなんだよこのガ・・・ぼっちゃんは!」

もうガキでいいですよ・・なんでそこだけこだわるの。


「はっはー!そうだろそうだろ!おかしいんだ!コイツ!!で、俺の勝ちだな!じゃ、遠慮無く。」

失礼なことを言いながらいくつか本を見繕ってカウンターに持って行く。なんか賭けをしてたみたいだ。恨めしげな視線を感じながら店を出ると、ほくほく顔のカロルス様に聞いてみた。

「ん?お前が難しい本が好きだって話をしたら、嘘つくなって言われたからな、嘘だったら2倍の値段で5冊本を買う、本当だったら半額で本を買えるって賭けてたんだよ。ま、気の毒だから5冊買うだけでカンベンしてやったけどな。」

本は価値が下がらないらしく、値下げをすることがまずないらしい。半額で売るなんて破格にもほどがあるんだって・・ごめんね、店主さん・・オレが大きくなったらちゃんと買いに来るからね・・・。ちなみに、なんか乱暴な口調の店主さんだと思ったら、昔からの知り合いで、元冒険者らしい。



そうこうしているうちに、商店街の端まで来てしまった。奥の方には大きな建物が見える・・お城かと思ったけど、王様はここにはいないだろうし上よりも横に広いこの建物は、オレの知るお城とは違う。


「カロルス様、あのたてものは 何?」

「んー?あれは学校だ。」

おおっ!・・学校があるんだ!なんだかファンタジーと学校って意外な組み合わせだ。


「ああ、お前も6歳になったら行くだろ?」

「・・えっ?」

こともなげに言われた言葉に、思わず仰天してカロルス様を見つめる。


「・・なんだよ、面倒みるって言ったろ?俺が学校行かさねえと思ったのか?」

ちょっと憮然とした様子で言うが、普通はそうじゃないの?!いや、学校あることも知らなかったけど・・だって・・お金かかるでしょう?見るからに高そうな建物だし、学のない人がいるんだからまさか義務教育じゃあるまいに。ただでさえ何もせずに食っちゃ寝してる居候なのに・・。


いいです、と遠慮しようとしたオレを、カロルス様は何か言いたげに見つめる。ああ、ここで遠慮するのは・・ダメだな・・オレが断ったって学校に行かせようとしてくれるのだろう。遠慮よりも喜んで行ってくれる方が、オレなら嬉しい。


「・・カロルス様、ありがとう・・ございます。すごく・・うれしいです。」

オレはただ、素直に感謝を込めて伝えた。


「おう。」

カロルス様はニッと笑ってわしわしっと頭を撫でた。


「あのな、お前はまだ2歳なんだぞ・・もう少し、大人を頼れ。」


・・その言葉は、なぜか温かいものでオレの胸をいっぱいにした。

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