第9話 イメージは大切


オレは天啓を得た気がした。努力でなんとかなる方法、これしかないよね?


「ちるじいっ!!しょうかんまほう おしえて!!」

突然召喚魔法に食いついたオレに、不思議そうにしながらチル爺は答えた。

「うーむ、召喚魔法はのぅ・・妖精が使える魔法とちいと違うからの、残念ながらワシが教えることはできんのじゃ。それはヒトから教わるのが良かろう。」


勢い込んでいたオレは思わずずっこけた。うう・・・ここまで来てお預けをくらうとは・・・。


「じゃが、いずれにせよ召喚魔法はそこそこ難しいのでな、今はワシらと基礎を固めておくと、結果的に召喚術の習得に役に立つと思うぞ。」


急がば回れ、だな。うん、来たるべき日のために、焦らずに今できることをやっていこう。


落ち着いたところで、授業再開だ。


「さて・・まずは、魔法を使う準備からじゃ。ぬしは魔素や魔力を感じ取れるかの?」

「まそ・・?まりょくをかんじる・・??」


はいっ先生!全然分かりません!!

「・・・その顔は分からんようじゃな。まぁヒトはそんなもんかの?うーむ、ワシらが見える時点で目に魔力を纏っているのじゃが・・分からんかの?ワシらが光って見えるのも、魔力が漏れているからじゃ。」


「ひとのこ、これがまりょくだよ!」

全然分からん!と思っていたら、妖精さんが一人胸元に飛び込んできて、オレの腕を掴むと全身の輝きを増した。わ、なんだろ・・涼やかな感じがする。ミントの清涼感みたいなものが、掴まれた腕からすうっと広がって、オレの身体の中に浸透していく。

「ああ!つかれたー!」

心地いいな、と思っていると、妖精さんはすぐに腕を放した。どうやら結構疲れるらしい。

目を閉じて今のミントを身体の中から探そうとする。うーん、オレの中にミントはないけど、ミントを吸収したあったかいものはある。あ・・この感覚・・・最期のときに、腹から溢れていたであろう血液に似てる。なかなか嫌なことを思い出したけど、おかげでイメージが的確につかめた。

「・・・わかったかの?ぬしの中にある魔力、他の者がもつ魔力、そして大気に溢れる、誰のものでもない魔力を魔素と言うんじゃ。」


わあ・・・意識して見ると面白い。魔力や魔素があちこちにあるのが分かる。とりわけ・・妖精涙滴フェリティアの周囲は魔素が濃い。鼻に届くいい香りも、さっきまでより強くなった気がする。

不思議に思ってじっと見つめていると、

「気付いたかの?ぬしは五感に魔力を載せるのが相当上手いようじゃ。見えるじゃろ?妖精涙滴フェリティアはかなり魔力の豊富な植物で、自ら魔素を放出する特性もあるんじゃ。これを使った酒はの・・・神酒に勝るとも劣らぬ素晴らしい効能を示し、馥郁たる味わいはドワーフの宝石とも言われ・・」

「チル爺、またおさけのはなしー!」「リル婆にいいつけるー!」「おさけおいしくないよー!」


何か琴線に触れたらしく、蕩々とうとうと語り出そうとしたチル爺だったが、妖精トリオに見事にインターセプトされていた。チル爺、お酒好きだったのね・・とりあえず長くなりそうだったので、妖精トリオ、グッジョブだ。

「オホン・・・で、その魔力を様々な形で放つのが魔法というワケじゃ。とりあえず、やってみようかの。まず・・光を灯すあたりからじゃの。を、指先に集めて光らせてみよ。・・こんな風にの。」

チル爺がスッと杖を上げると、杖の先にふわっと明かりが灯った。うわ~便利!災害にあっても懐中電灯の備えがいらないね!

まずは周囲の魔素を集める・・集める・・?集まれ!と念じてみるけどちっとも集まらない。


「初めてじゃから、魔素の感じやすい場所でやるのがよいぞ。・・その妖精涙滴フェリティアのそばでやってみい。ああ、ヒトはワシらと違ってイメージするのに長けておる。なにかイメージしながらしてみるのじゃ。」

念じるだけじゃダメなのか。イメージ・・イメージか・・・集めると言えば掃除機?指先に吸入口があって魔素を吸い込むイメージをしてみる。


「おわっ!」

「!!ストップ!ストップじゃ!」


ぎゅううんと周囲の魔素が引っ張られてオレの指の中に吸収される。集まってるんじゃないよ!吸い込んじゃってるよこれ!なんか香かぐわしい香りと熱い奔流が流れ込んできて、慌ててスイッチを切るイメージで現象を止める。


「ふうー、・・これは・・既にドレインの魔法になっておるの・・。魔力が減ってもいないのにむやみに使うでないぞ。たまたま上手くいったようじゃが、ドレインはこれで繊細な魔法じゃからな、経験の浅い者が使うと良くないのじゃ。」


どうやら吸引力が強すぎたらしい。吸引力の変わらないあの掃除機を思い浮かべたせいかな。まわりの魔素を吸い込んじゃった影響か、身体がぽかぽかして絶好調な感じだ。


「どうして よくないの?」

「そうじゃな・・取り込みすぎて自分の魔力より勝ってしまい、コントロールできなくなったりの、取り込んだのが他人の魔力であったら、人格を維持できなくなったりするのじゃ。」


・・よい子はドレインをひとにつかってはいけません。オレ、覚えた。コントロールできないとかはまだしも、人格なくなるとか・・嫌すぎる。こんなにぽかぽかで気持ちいいのになぁ。


「・・・うん?魔素の吸収、ヒトってできたかのぅ・・?」

首をひねっているチル爺はおいといて、もう一度イメージする。吸い込んだらダメだから・・これだ!オレのイメージに伴い、再び魔素が指先へ集中する・・今度はきちんと指の周囲に留まっているのを確認して、ここで明かりをつける・・これはポチっと懐中電灯をつける感覚そのままでいけそうだな・・スイッチを入れる感覚と同時に、ぱあっと指先が明るく光った。


「やったー!ちるじい、できたよ!!」

「う・・うむ?!・・早いの。さすが人の子はイメージの力が強いのぅ・・。」


今回魔素を集めるのにイメージしたのは砂鉄と磁石だ。砂鉄が魔素、磁石が指としてイメージしたら上手くいった。なんだ、結構簡単じゃん!妖精トリオと喜びの舞をしていると・・


-コンコン。

軽いノックの音が響いた。

あっ?!ヤバイ!マリーさんだ!慌てて妖精たちの姿を隠そうとしたが・・


ガチャリ、キィ・・

マリーさんが入ってきてしまった!

オレが心臓をばっくんばっくんさせながら振り返ると-。

うげっ!


「ほーらね!」「みえないよー!」「きこえないよー!」

妖精トリオが面白そうにマリーさんの前を飛びながら騒いでいる!な・・なにやってんだー!!


「ユータ様、いい子にされていましたか?そろそろ夕餉の時間ですから、お片付けしていらっしゃって下さいね。」

「・・?!・・・・・はーい。」


目の前を飛んでいる妖精をチラリともせずに、扉は静かに閉じられた。

どっと汗が吹き出す。み・・見えないって本当に見えないんだな・・でも頼むからもうやらないで・・オレの精神力がごっそり削られるから。


「邪魔したのう、ワシらもそろそろ帰るのじゃ。ぬしはワシがいない間、周囲の魔素を感じたり、集める練習をしておくとよいぞ。明かりの練習もじゃ。」


ブーブー言う妖精トリオに構わず、チル爺が杖を振った。

「ではの。」


言うがはやいかふわっと霞のようにその姿が消える・・・す、すごい!

チル爺ってすごいな!でも、またねって言うこともできなかったな。


・・また、来てくれるだろうか・・明日からお酒をお供えしてみようかな?

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