第8話 出張魔法教室

昨日は初めての外出でかなり疲れてたみたいで、とりあえず妖精涙滴フェリティアを窓の近くに置いたら、ストンと眠ってしまったみたいだ。朝になって水をやりながら環境を整えると、ふわっといい香りが漂った。育てるつもりはさらさらなかったけど、なかなかいい拾いもの(?)だったかもしれない。

今日は昨日採ってきた植物を調べる日です!マリーさんには植物の本をたくさん持ってきてもらっている。『植物図鑑』みたいなものはなかったけど、領地の草花が載っている本や、簡単な薬草の載っている本があったので、せっせと見比べていく。


「これは・・たんぽぽ・・じゃなくってタポポン?ややこしいな。えーとこれは・・」

「これは『くろすりーふ』だよ!」


聞き覚えのある、弾むような声に顔を上げると、この間の妖精がいた。

「わあ!こんにちは。また きてくれたの?」

「もちろん!チル爺をつれてきたんだよ!」

チル爺?そう言えばチル爺に聞いてみようと言っていたけど、まさか連れてくるとは。


「これ、すごくいいかおりー!」

妖精さんが妖精涙滴フェリティアのそばでうっとりとしている。なんだか纏っている光が強くなっているように見える。


「ミルミル!さきにいっちゃだめー!」「チル爺おそいんだからー!」

窓の外には、2人の妖精に引っ張られるようにして近づいてくる、白ひげのおじいさん妖精がいた。もみくちゃにされて、ローブみたいな衣装が随分ヨレている。


「ちるじいさま? おはつにおめにかかります。ゆーた ともうします。」

「ほほっ!・・これはこれは。確かに見えておる!それに、なんと美しいことよ。」

「いったでしょう!」「ねー!」「きれいー!」


キレイ、のニュアンスが顔や姿を指していない気がして首をかしげていると、

「ぬしの光は非常に美しいよ。そうそうないことじゃ。」

チル爺が説明してくれた。妖精から見たら人って光ってるの?オレから見たら妖精は光ってるけど・・


「うむ、人も光っておるよ。ぬしほどの光は見たことがないけどのう。」

そこで、ふとかみさまから言われた言葉を思い出す。『きれいな魂の迷い子』、あのときは必死でそれどころじゃなかったけど、かみさまはオレのことをそんな風に言っていた。もしかしたら、妖精たちも魂の光を見てるのかもしれないな・・魂の光がキレイだと言われても、見えないオレにはなんとも・・まぁ、汚いよりはいいだろうし・・ありがとうございます?


「チル爺は、まほうのししょーなんだよ!」

「いっしょにおしえてもらうの!」

「ひとのこ、まほうつかいたいんでしょ?」


なんと!チル爺様!!オレにも魔法教えてくれるんでしょうか?!期待を込めた視線を向ける。

「そうじゃのう、まぁ・・その光の持ち主なら教えてもよいかのぅ。」


うおおお!!魔法!魔法が使えると?!興奮しすぎて鼻血を吹きそうになりながら、チル爺に詰め寄る。

「ぜひっ!!ししょー!おねがいしまう!!」


若干幼児語になったが気にしない。

「ま、まあそれだけやる気があれば、なんとかなるじゃろ。・・ところでな、その・・アレはいただくことはできんかの・・?」

チル爺が何やら女子高生のような動きで、モジモジしながら杖で窓の方を指す。あ・・もしかして。


「あの妖精涙滴フェリティアのことですか?」

「そう、そうじゃ。あの花は大変貴重でのぅ・・。」



どうやら妖精達の中でも貴重なものらしい。でもどうやら使うのは花の部分だけみたいなので、オレとしては全く問題ないし、そもそも妖精さんが気に入ってくれるかなって採ってきたものだからね。どうぞ、と言うとチル爺はいそいそと折り取って・・フッと手元から花が消えた。もしかして・・・魔法?!


「チルじいさま!いまの、まほう?」

「チル爺でよいよ。そうじゃ、空間倉庫にしまったんじゃよ。基礎ができたら、ぬしも使えるじゃろう。・・・多分。」


最後が不安なんだけど!言い切ってよ!

あれってきっとモノを収納できる魔法だよね・・幼児の体では、何を持ち運ぶのも不便すぎるから、これはぜひとも覚えたい!!

鼻息荒く、チル爺に教えを請うていると、3人の妖精たちも集まって来た。


「きょうはなにするのー?」「かんたんなやつー!」「ミツのでるまほうがいい!」

そんなのあるのか・・?

「お主らは昨日の復習じゃ。精進するのじゃ。」

「ひとのこはー?」「いっしょにするの!」「ひとのこ と、やるの!」


「無茶言うでないわ。ユータは今日が初めてじゃぞ。」

「えー!」「つまんない!」「じゃあゆーたが れんしゅうするの みてる!」


駄々をこねるチビ妖精たちは、とりあえずオレの見学をするようだ。

「ちるじい!よろしくおねがいします!」

溢れんばかりのやる気を漲らせて、チル爺の出張魔法教室は始まった。



「まずは、ぬしの適正を見ようか。」

「てきせい・・てきせいが なかったら まほうつかえないの?」

ちょっと怖じ気づいて言うと、


「いや、ワシらが見えるのじゃから、魔法の適性は十分じゃ。これから見るのは、何が得意かというところかの。」

そう言いながら、チル爺は仙人の杖みたいな木の棒をオレにかざして、空中になにやら書いた。すると、ふわっと杖から優しい光が溢れて、霧のようにオレを包んでいった。


「・・おお!?これはすごいの。いずれもヒトの平均以上にはできるじゃろう。中でも得意なのは・・これまた珍しいわい!生命魔法関連じゃな。」

「おれ、いっぱいまほう つかえるの?!やったー!」

万歳三唱!!とはしゃぐオレ。なんだかわかってないけど、ノってくれる妖精たち。


「・・そういうレベルじゃないんじゃが・・まあよいわ。」

ばんざーーい!とやっていると、呆れた目でチル爺が詳しく教えてくれた。ヒトは適正が偏ってることがほとんどで、まんべんなく使えるのはかなり珍しいんだって。あと、生命魔法っていうのはもの凄く適正に左右される魔法なので、適性がないとまず使えないし、生命魔法全般に適正があることは、まずないらしい。


「チルじい、せいめいまほうってなに?」


オレの浅いファンタジー知識では、魔法っていうのは火とか水みたいに、もっとわかりやすいものだったんだけど。

「うむ、生命魔法はその名の通り、生命に関連するもの全てじゃよ。ヒトの魔法で言うと・・回復だとか・・ああ、ゴーレム制作や従魔にも関連するのぅ。」

ええ?!なんかスゴイ雑多なように思うんだけど・・絵本『ゆうしゃのぼうけん』では、回復魔法は回復術師とか神官が使ってて、ゴーレムは錬金術師だったかな?従魔はもちろん従魔術師だ。それがひとまとめなの??

「かいふくは、かいふくじゅつしとか せいなるまほうじゃないの?」


「それはヒトが勝手に分けたのじゃ。本来は生命を扱う魔法のくくりじゃからの。適正の大きい魔法じゃから、生命魔法の中でも回復しかできん者やゴーレムしか作れん者、という風に分かれるから、別の形態になったのじゃろう。ああ、召喚魔法なんかもそうじゃな。ヒトの分類からすると、召喚術師や従魔術師は、魔法使いのくくりですらないからのぅ。」


なんと・・・オレ、結構な重大事項聞いてるよね?そっか、絵本で出てきた回復術師は、なんで回復ばっかりで攻撃しないのかと思ったら、そういうことなんだなぁ。同じ魔法なのに職業としてバラバラに分類されちゃってるんだね。


「じゃあ、しょうかんしも ふつうに まほうがつかえ・・る・・・?・・・しょうかんし?」


オレは目を見開いた。召喚士、と口の中で繰り返すと、ビリっと頭の中を電気が走ったような気がした。


・・・こ・・・これだーー!!!


みんなを呼ぶための魔法!!これだよ!!召喚魔法!


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