第7話 これは珍しいものだ

 るんるん気分で外へ飛び出しあたりを見回す。ビル街じゃないから目の届く範囲、っていうのは結構広いのだ。まずは手近な草むらで生態調査してみよう!


「これは・・たんぽぽかな?こっちはくろーばーみたいな・・」

 結構見たことあるような草花なんだけど、タンポポモドキは花がたくさん分岐して生えてるし、クローバーはちょっと固い・・かな?こういう種類もあると言われればそうかと思う程度の違いだ。かと言えばぜんっぜん見たことないものもある。見たことないのを集めて後で聞いてみようかな!むしろ見たことあるヤツがなんて名前か聞いてみようか?ああ、図鑑とかあったら嬉しいなあ。


 次々と雑草を摘んでいたらちょっとした花束みたいになってしまった。小さな手にあまるようになったので、丈夫な枯れ草を拾って根元をしばり、腰のベルトに結わえておいた。花束か・・これは雑多な集まりになっちゃったけど、お花を窓辺に活けておいたら妖精さんが来ないかな?あ、マリーさんにも持って行ったら外出の許可が出るかもしれないな!


 ちっとも純粋じゃない動機でせっせと花束を作り始める。マリーさん用に・・白い花と小さなピンクの花を中心に集めたものを同じように腰に結わえて、あと妖精さんが好きそうなのは何だろうな・・ウロウロと歩いているとふわりとかすかな香りが鼻をかすめた。


フンフンと犬のように香りの元を探すと、木の根元にちっちゃな青い花・・花?うーん苔かな?苔から糸のような茎を出して5ミリくらいの青い花が咲いている。これは花瓶に入れられないけど・・妖精のサイズにピッタリだなぁ。持って帰りたいけど苔ごと持って帰れる入れ物がない・・・よーしここは山暮らしの本領発揮だ!

 香りを辿って林の近くまで来ていたので、ちょっと分け入って必要なモノを探す。林って言っても真ん中に村道が通ってるし、お散歩コースみたいなもんだ。割と豊富に材料があったので、ほどなく集めてさっきの木の根元に帰ってくると、さっそく作業に入る。ここなら夢中になってても村長宅から見える範囲なので、置いて行かれることはないだろう。

 幼児の手は不器用だけど、大分使い慣れたからな!小さい分生前より器用になったかもしれない。もくもくと作業していると、ふと手元が陰った。


「・・ねえねえ、なにしてるの?」


 かわいらしい声に顔を上げると、7歳くらいだろうか・・小さな子が3人、オレの手元を覗き込んでいた。

「ちょっと まっててね・・・・・・ホラ!できあがり!」

「わあ!これあなたが作ったの?」「すげー!」「すごーい!」


 にっこりして完成したお手製のカゴを見せてあげると、目をきらきらさせている。

 ふと、この間の妖精みたいだなと微笑ましくなった。多分村民なんだろう、ちょっとお姉さん風のハシバミ色の髪の女の子と、やや大人しそうなベージュ髪の女の子、くすんだ金髪の男の子だ。オレ謹製のカゴを物珍しそうにひっくり返しながら見ている。


「そういや、お前どこの子?」


 今やっと見かけない顔だと気付いたのか。お菓子あげるって言ったらほいほいついて行きそうな子達だ。


「おれは、りょうしゅさまのところで おせわになってる、ゆーたっていうんだよ。」


「・・・ユータいくつなの?キャロの弟と同じぐらいじゃないの?」

「違うよー、トトはまだちゃんとお話しできないもん。きっと身体が小さいだけなんだよ。」

 ふむ、ベージュの子はキャロで、トトっていう弟がいると。そしてなかなか失礼なことを言っている。オレの身長は2歳児の平均ぐらいだと思うぞ!


「オレは、にさい・・だよ。」

 多分だけどね。もう2歳っていうことにしとこうと思う。


「そんなわけないよ!2歳の子はそんな風にしゃべれないのよ?」

「えっ!うそだ~それだったらトトより小さいよ!」

「お前ちっこいからドワーフの仲間なんじゃね?」


 口々に好き勝手言われている。ドワーフとな?ほほう・・ドワーフが存在するのか!夢が広がるなあ・・とにかくオレはこの世界のことをもっと知らないといけないな。


 大きな人影が4人を覆った。

「おう、友達ができたのか?」

「「「領主さま!」」」


 ちびっ子がカロルス様に群がる。ひざまずいたりしないんだな・・領主としていいことなのかは微妙だけど好かれてるのはよく分かる。


「このぼうずはオレのとこに住んでるからな、これからよろしくな!」

「「「ぼうず・・?」」」

 ・・ユータって名前では男か女か分からないらしい。「オレ」って言ってるのに!きょとんと見つめる3対の目。村人に比べたら・・確かに肌は白いし髪は整ってるし・・そうだなぁ・・女の子に見えるのかなぁ。くぅっ・・・。


「・・オレは おとこだよ!!」

 早く大きくなって逞しい男になってやるからなー!!





 あの後、残り二人の名前も聞いてお別れした。お姉さん風の子はリリア、男の子はルッカスだって。リリアとルッカスは6歳、キャロは5歳、キャロの弟トトは3歳らしい。みんな年の割に大きく見えるな・・日本だとそのぐらいの年齢の子はもう少し小さいぞ?

そして、今度トトにも会わせてもらう約束をしたんだ!・・・後学のためにね。だって3歳児がどのくらいの言動なのか知っておかないと、あまりにも不自然な言動したらマズイかなって。こういう農村だと迷信深そうだから、悪魔憑きだーなんてなっても怖いし。






「どうだ、うまくやっていけそうか?」

 カッポカッポと行きと同じように揺られながら、ウトウトしかかっていたオレは、その物言いに笑いそうになる。そんな言い方2歳児にしても分からないんじゃないか?この人はぼうず、と言う割に大人に話すようにオレに声をかけるな。


「はい、むらは のどかだけど ちゃんとせいびされてて、かろるすさまは すごいとおもいました。こどもたちも せいけつな みなりで しんせつでした。」

「・・・・・どこの査察官だ、お前は。」


 ここぞとばかりに、外出させてくれたカロルス様を持ち上げておこうとしたら、呆れた目でため息をつかれた。大人を褒めるって難しい・・。


「で、気になってたんだが・・なんだそれは・・どこぞの蛮族みたいになってるが。」

「きになる しょくぶつを あつめてました!あと、まりーさんにも!」


 腰まわりは草だらけで、いっそ腰ミノみたいになっている。カゴを編んでる間は水たまりに浸けておいたから、花束はまだまだしゃっきりしてるぞ!せめてハンカチでもあれば水を含ませて使えたんだけどなあ。


「そのカゴは誰かからもらったのか?」

「あ、これは おれが つくりました!」

「なにっ・・?!」


 カロルス様は目を見開いてオレの腰に下げたカゴを手に取った。んー確かに2歳児が作ったとは思えないモノかな。四角く編んだ浅めのカゴに、かぶせるタイプのフタも作ったよ!両手を空けたかったので、ちゃんと即興の肩紐もついてる優れものです!荷物が多くなればフタ側もカゴとして使えるんだよ!あっ、カロルス様、開けてもいいけど中身落とさないでね?


「!!おま・・お前、これをどこで?」

「さっきの はやしのところ・・」


 中の苔を見た途端、目の色を変えたので、採ったらいけなかったかとちょっとビビって答える。


「・・これはな、妖精涙滴フェリティアっていう・・珍しいものだ。特別な薬の材料になる・・。採取が難しいハズだが・・萎れてないな。」

「とったら だめ・・?」


 おそるおそる尋ねたが、採ること自体に問題はないらしい。発見が難しく、採取難易度が高いからあまりお目にかかれない薬草なのだとか。カゴに土や水が漏れないような葉っぱを敷いて、周りの土ごと採取し、お水をかけたら、適度に影にしつつ風通しは得られるよう、上カゴをかぶせれば採取完了!次にいつ来れるかわからないから、丁寧に採っただけで別に難しいことはなかったよ?


「まぁ・・依頼を受けるものは荒くれだからなぁ、そんな繊細な手間をかけるハズがねえわな・・俺も世話できそうにないわ。お前が採ってきたんだ、必要な時があれば頼むが、今は別にいらんから・・育ててみるか?枯れても質は落ちるが、一応薬にはできるからな。」

 あー・・苔から生えてる花目当てだったから、苔を育てる気はなかったんだけど。貴重なものらしいから捨てるわけにもいかないし、頑張って育ててみるか。苔って乾燥に弱いから案外手間なんだよね・・。


 ちなみに帰ってマリーさんに花束を渡したら泣いて喜んでくれました・・ちょっと引いちゃうくらい滂沱の涙でした・・・。



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