第6話 初めての外出



 翌日、窓を全開にして妖精さんが来ないかとわくわくしていたのだが、一向に来ない。代わりにプリメラがぬるっと窓から入ってきた。

 プリメラは妖精蛇フェアリールーの一種らしい。妖精蛇フェアリールーっていうのはこんな風にふわふわの産毛が生えててきれいな色をしてるんだって!結構賢くて穏やかだから貴族たちに人気のペットなんだけど、大きくなったら2mを超えるから飼いきれなくなって捨てちゃう人がいるらしい・・・。

 

 プリメラも体長50㎝くらいのときに捨てられていたらしく、王都からの帰りにみつけて連れ帰ってきたそうな。

 優しい領主さんに見つけてもらえて良かったね~!今や体長2mを超え、胴回りは女性の腿くらいある。・・あ、食堂のおばちゃんの腿じゃなくてメイドさんの腿の方ね。このデカさだけど甘えん坊なのでしょっちゅうカロルス様の肩に巻き付いていて・・相応に重いハズなのだけど、カロルス様はいつも小鳥でも乗せてるかのような表情だ。

 プリメラの頭を抱えて小さなツノとツノの間をカリカリしてやると気持ちよさそうに目を細めた。ふわふわした産毛に指を埋め、ぎゅっと抱き寄せながらスリスリすると、もう~仕方ない子ね、とでも言わんばかりの瞳でされるがままになる。彼女の中でオレは弟ポジションらしい。


 心ゆくまでプリメラをもふもふしてたら、マリーさんが呼びに来た。


「ユータ様、午後から・・・あら、プリメラと遊んでいたのですね。カロルス様が午後から村長とお話しに行かれるのですが、ユータ様も同行されますか?」

「え!おれも いっていいの?!」


「ええ、カロルス様がたまにはよかろうとおっしゃっていますので・・。ただし、きちんと言いつけを守ってカロルス様のおそばから離れないようにして下さいね?」

「うん!!」


 お外に!村に行ける!オレはマリーさんの叱責も置き去りにして廊下に飛び出した。


 ちょうど執務室を出た廊下でカロルス様を発見!ちなみにここまで2回転んだ。

「かろるすさまー!!」


 満面の笑みで飛びつくと、カロルス様はやんわりと上手に受け止めて破顔した。

「おう、元気だな!ユータにも村を見せてやろうと思ってな!行くか?」

「いきましゅ・・いきます!!」


 久々に幼児語が出るほど興奮してカロルス様をぎゅっとすると、ひょいと持ち上げていつの間にか後ろにいたマリーさんに手渡された。プリメラを扱う時の手つきだな、これ。

「よーし、じゃあとっとと支度しちまえ!」

 えええ・・・オレは今来た道を逆行して連行されていった。




 案の定マリーさんに走って行ったことを怒られたけども、初めてのお出かけにわくわくが止まらないオレはすっかり上の空だ。あのまま出かけるつもり満々だったのだけど、お家用の服とお出かけ用の服は違うらしい・・パジャマじゃなければよくない?


「村長さんにはじめてお会いするでしょう?お外で遊ぶだけなら先ほどの服でも構いませんが、今日はこちらにしましょうね。」

 そう言ってちょっぴりよそ行きの服を着せてもらい、やや大きい靴を履いていざ行かん!!張り切って外へ出ると、ぬうっと目の前に大きな足・・・馬だ!多分・・地球と同じ雰囲気だと思う。ちょっと大きい気もするけどオレが小さいからかな?


「お、来たな。どれ・・」


 カロルス様はオレを抱き上げ、大きな黒い馬に乗せると、すぐに後ろへ飛び乗った。後ろから抱えるようにして支えてくれる強い腕、でっかい身体。なんかすっごい安心感だ。オレは父親のことを覚えていないけど、きっとこんな感じなんだろうな。オレもこんな包容力を身につけたいもんだ。


 パッカパッカと揺られながら村長の家へ向かう道すがら、オレは大興奮だ。馬に乗るのも初めてだし、この世界に来てからまともに景色を見るのも初めてだ。馬は思ったよりガックンガックン揺れるし、ビックリするぐらい視界が高いけど、しっかりと支えてもらってるのであんまり不安はなかった。


「わああ・・・」

「どうだ、なかなかいい所だろう?もっと王都に近いところに住めと言われるんだが、俺はここが好きだからなあ。」


 うん、オレも絶対王都よりこっちが好きだと思う!村道のまわりには畑が広がり、奥の方には農場が見える。今は正面に見える質素な雰囲気の家並みに向かっているところだ。土壁風に茅葺き?いや板張りに苔が乗ったみたいな?そんな簡素な家から石造りの家など、そこそこバリエーションがあるんだな。

 領主館から畑を挟んですぐの所に村長さんの家があった。石造りのなかなか立派な家だと思う。


「ロクサレン様、お待ちしておりました。」

 にこにこしたご老人に家の中まで案内され、応接間のソファーに腰掛ける。


「それで、そちらが・・?」

「おう、こいつがこないだ言ってたユータだ。俺の家で面倒をみることにしたからな、村長にも通しておこうと思ってな。」


「おはつに おめにかかります、ゆーたと もうします。いご おみしりおきください。」

「・・・・・」

「・・・・・」


 雰囲気を察して精一杯のよそ行きのご挨拶をした。幼児のお口でも大分上手く話せるようになったから、伝わったと思うのだけど・・・


「おま、お前・・そんな挨拶できたのかよ・・。やっぱりどこぞの王族か?」

 ぽかんとした村長に、呆れた口調のカロルス様。

「かろるすさまに ごあいさつしたときより、 だいぶ じょうずにおはなし できるように なったんです。」

 カロルス様をないがしろにしたワケじゃないんだからね、と慌てて追加する。


「なんと・・・異国の姫君でしたか・・?」


 ・・村長さん村長さん、姫君って言っちゃってるよ・・・?せめて王子にしてください。

「わはは!ガストーよ、それがなぁ・・・こいつ男、だぞ!」

 村長さん二度目のぽかん顔。してやったり、とニヤニヤ顔のカロルス様。


「・・・・・かろるす さま、おれ・・おんなのこに みえるの・・?」

 衝撃の事実です。いや・・まぁ幼児の性別なんて服装変えればわかんなくなることあるけどさ・・髪短いしオレが今着てるのって息子さんの服ですよね・・?


「い、いやその・・ええと、細っこいし肌も髪もきれいだったからな、そう、女のように綺麗な男前になれるってことだ!」

 汗をかきながら必死に下手な言い訳するのをじとーっと見つめていたら村長さんが復活してきた。


「いやはや、今日は色々と驚きました。ユータ様、洗練されたお姿にあの物言いでしょう、幼少の頃にそこまでできるのは普通は姫君なのですよ。なんとも失礼を致しました。」

 なるほどね、確かに幼い時は女の方が成長が早いからそうなるよな・・納得。


「(お前・・・言い訳が上手いな)」

「(ほっほっ・・年の功ですな)」


 こそこそする二人に目をやると、ゴホン、と咳払いしたカロルス様が本題に入る。

「・・で、ガストー、先日の件について目処は立ったと言いうことかな?」

「はい、双方の言い分とその他証言からしまして・・」


 こうなるとオレは暇になる。

「かろるすさま、おそとにいてもいい?」

「あ、おう・・あまり離れるなよ!」


 はーいといい返事をしてさっそく戸外へ飛び出す。メイドさん達と違ってカロルス様はオレの外出に反対したりしないのだ。この機会を逃してなるものか!


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