第5話 小さな出会い
「では、私はもう少しお仕事がありますのでお部屋でいい子にしていて下さいね。」
キィパタン・・ガチャリ。不吉な音がしたが、とりあえず思考の隅に追いやって自分を落ち着かせる。
なんてことだ・・・ここは魔法のある世界!オレ・・オレも魔法が使えるかも知れない?!
そこでオレはハッとする。もしかして、努力次第でみんなと会えるってコレのことじゃないだろうか?魔法でなんとかできるんじゃないだろうか・・?
見当もつかなかったことが、少しずつ現実味を帯びていく。まだ、分からない・・けど、今努力できることはしておかないと!そうと決まればさっそく魔法について教えてもらわないと!そうだ、書庫にも魔法の本があるかもしれない!
ガチャガチャ!
あ・・あれ?部屋を飛び出そうとしたオレを、無情にも分厚いドアが阻んだ。ああっ!マリーさんさっき鍵かけていったな!!く・・・くそぅ。
敢えなく軟禁されたオレは、すごすごとベッドでふて寝するのだった。
「ダメです!」
メッ!と視線を厳しくしたマリーさん。
翌日、魔法を教えて!と飛び込んだオレを抱き留めて、厳しく告げられた。
「魔法の習得は早くても6歳からと決まっています。文字が読めるようになっても、ユータ様くらいの年では難しい言葉が分からないでしょう?魔法書をしっかり読めるようになって、辛い修行に耐えられるようになってからでないと、コントロールできずに魔力が暴発や逆流したら、大変なことになりますよ!」
「・・大変なことって?」
「・・・色々です。暴発したら、手元で爆弾が破裂したのと同じようなことになりますし、逆流したら、魔法の効果が自身に取り込まれて・・・氷漬けになった人や、身体が岩になってしまった人がいるんですよ。」
え・・なにそれ、こわっ!魔法、コワイ。
怯えた様子をみたマリーさんは、少し表情をやわらげた。
「まぁ、それは極端な例ですが・・・。それに、今は魔力量が少ないですから練習もうまくできません。すぐに枯渇して酷い目に遭いますよ。今はまだ、健やかに成長していただくことが何より大切なことですよ。」
ぐ・・それはそうだ。オレはまだ2歳(多分)、無理が効く年齢ではないのだ。早めに魔法を習得したせいで成長に影響が出るなんてことになったら目も当てられない。
シュンとしているのを見かねたマリーさんが、魔法のことが描かれた絵本を持ってきてあげます、と譲歩(?)してくれた。
文字の勉強の後、マリーさんが仕事に戻りますので、と絵本を何冊か渡してくれた。相変わらず出て行くときにガチャリとカギをかけられたけども・・くそぅ。
窓の外には抜けるような青空が広がっている。外に・・行きたいー!いつまでこの軟禁生活は続くのか・・・。ため息をついて窓を全開にすると、気持ちのいい空気をいっぱいに吸い込み、仕方なくマリーさんのもってきた絵本を読む。このあたりならもう大分スムーズに読めるぞ。『まほうつかいとドラゴン』『まほうつかいとまよいのもり』『まほうつかいとようせいおう』・・・うん、今度は魔法使いシリーズらしい・・意外と面白そうだ。
『きれいね』『うんうん、きれいだね』『おそとであそばないのかな』
読み始めたら結構夢中になってたみたいだ。誰かの声で顔をあげる。
『あ、ひとみもしっこくだ。』『ほんとだね』『きれいないろだね』
近いような遠いような・・小さなささやき声が、確かに聞こえる・・と思うのだけど。村の子どもかと思ったが、ここは2階だし見える範囲に誰もいない。
ふいっと何かが視界をかすめた気がしてじっと目をこらす。もしかしてファンタジー世界ではしゃべる虫とかいるかもしれないし・・・・イヤだな、しゃべる虫。
んん?なにか・・・なにか見える気がするんだけど・・なんかピントが合わないというか・・3Dアートを見るときみたいな感覚だ。
『あれ・・』『わかるのかな?』『きこえるのかな?』
ちょっと息をのんだような声が、さっきよりハッキリと聞こえた。間違いない、何かいる!声はかわいいが、オレはもうだまされない!桃色ヘビ・・プリメラでしっかり学習したからな!!しっかりと気を引き締めて、目の前にいるであろうモノにしっかりとピントを合わせる意識をする。3Dアートで鍛えた目をなめるんじゃない!
「・・・だれ?」
うっすらと何か見えた、と思った瞬間、バチっと何かがハマった感覚がした。そして目と鼻の先にオレを覗き込む3対の瞳。うおっ!近っ!!思わずのけぞってひっくり返ると、小さな瞳が驚きに見開かれた。
『みえたよ!みえたんだよね?』『うわあ、ほんとにみえる?』『こっちも、こっちもみてみて!』
手のひらほどの大きさの人形みたいなものが3つ、オレの部屋を狂喜乱舞して飛び回っている。さっきまでのささやき声はなんだったんだと言いたいくらいに騒がしい。
「しぃっ!だめ!しずかにしないと、まりーさんに おこられるよ!」
今度はきっと軟禁じゃすまなくなってしまう!部屋で妖精と騒いだなんて知れたら!!
・・うん、妖精。さっきまで読んでた『まほうつかいとようせいおう』に出てくるし、きっとファンタジーには普通にいるんだろう。桃色ヘビと違い、至ってフツウの妖精だ。背中に翅が生えてて手のひらサイズの人形みたいなのが3匹・・3人?でも、思ったより地味な衣装だな・・なんていうか村人っぽくて全然ヒラヒラしてない。
慌てるオレとは裏腹に、妖精たちは楽しげだ。
『くすくす』『だいじょうぶよ、かわいいひとのこ。』『ぼくらをわかるひとなんていないんだよ。』
あ・・そっか、オレもさっきまでは声もほとんど聞こえなかったし姿も見えなかったな。
「よーせーさん、なの?」
『うん!そうなの!』『ひとのこはなにしてるの?』『よーせーさんなのー!』
「えっとね、まほうのおべんきょう・・。」
『ぼくもまほうがんばってるよ!』『いっしょにおべんきょうしよ!』『ひとのこはどんなまほうつかうの?』
「ううん、おれは まだまほうつかえないの。」
『どうして?』『いっしょにやろ!』『どうしてまほうつかわないの?』
「あぶないからダメなの。」
『あぶなくないよ!』『どうしてあぶないの?』『なにがあぶないの?』
「えっと、ばくはつしたりするから。」
『ばくはつ、しないよ?』『どうしてばくはつするの?』『チル爺に聞いてみようよ!』
「チル爺?」
行こう行こう、と妖精たちはあっという間に窓から飛び出していった。・・・正しく嵐のような一時だったな・・妖精って騒がしいとオレは学んだ。・・でも、外に出られないこの状態でこんな面白いことはない!今日から窓は常にフルオープンだ!!
「・・・え?妖精、ですか?」
「そう!あのね、きょう ようせいさんに あったんだよ!」
夕食を知らせに来たマリーさんに、さっそく今日の出来事を話す。マリーさんはチラリとベッドに積まれた絵本を見た。
「うふふ、絵本の妖精さんが出てきてくれましたか?」
うわ、あからさまに信じてない顔だ!絵本で見たから妄想が爆発しちゃったのねーうふふ、かわいらしい。そんな思考がダダ漏れだ!!
「ちがうの!ほんとに きたんだから!」
「そうですね~妖精さんに会えてよかったですね~。」
むっすぅーとむくれるけれど、愛しげな視線ではいはいとばかりにあしらうマリーさん。ちくしょう、妖精さんを夢見るオトメ男子になってしまったじゃないか。ファンタジーだけど妖精はそんなに人と触れ合ってはいないのか・・・あれかな?子どもの頃だけ見えるト○ロ的な?大人には見えないものなのかもしれない。
いや、でも本当に来てるのがバレたらまた禁止されるかもしれない・・うん、どうせ見えないって言ってたし、妖精さんのことはナイショにしておこう。
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