第3話 領主さまとごはん
かみさま・・?オレ、幼児なんですけど・・無一文で放り出されてこれからどうしたらいいんでしょうか・・。
おじさんの肩で揺られることしばし、階段を下りたら大きな広間になっていた。なかなか素敵な造りだ。ホテルじゃないよね・・・きっと。なかばやけっぱちな思考で周囲を観察していると、通りかかったメイドさんが駆け寄ってくる。
おー・・メイドさん!!本物だ!・・・けど、なんだろう、リアルメイド服ってあんまり魅力的な服じゃないんだな・・黒っぽい丈の長いスカートにやや汚れた白いエプロン。フリルはないし、ザ・作業着!って感じでちょっとよれた雰囲気が泣ける。
人知れずがっかりしてるうちに、何やら話が終わったようで・・オレはメイドさんに預けられる。おじさんよ、オレはカバンじゃないぞ!片手で持つんじゃない!
「おなかすいたでしょう?お食事にしましょうね。」
オレを抱っこしたメイドさんがにっこりした。おお・・素晴らしい。柔らかい腕、柔らかい身体、優しい笑顔。さっきの固いおじさんと全然違う・・癒やされる・・。さすがメイドさん、さっきはがっかりしてごめん!!
癒やしをもらったオレは、彼女の負担にならないように申し出る。
「あいあとーござましゅ、らいじょーぶれす、あうけます。」
あ・・不覚・・・幼児のおくちは上手く話せないんだった・・羞恥に赤くなるオレ。
「まあ、礼儀正しいお話ができるのね。えらいわ。」
メイドさんはきらきらした目と紅潮した頬でオレを褒めてくれた。でも下ろしてくれない・・小さな声でかわいい、と呟いてぎゅうっと抱きしめられる。子ども好きのメイドさんでしたか。とっても柔らかくていい香りでありがとうございます。
結局メイドさんに抱っこのまま連れられて、大きなテーブルのある一室へ到着する。食事どきではないのか、他の人はいないし食事も一人分の用意だけだ。
大きな椅子にたくさんクッションを積んで座らせてもらった。うん、王子様になった気分だな・・実際は幼児様だけどね!
「さあ、どうぞ。お腹がびっくりするから、ゆっくりと食べるのよ?」
腹の虫が限界なオレはさっそく手を合わせた。
「いたらきます!」
あむっ!あむっ!
不器用なちっこい手でさじを掴んで必死にむさぼる。幼児だからか寝込んでいたからか、用意されていたのはほどよく冷ました雑炊のようなもの。刻んだ野菜っぽいものとお肉っぽいものが入ってる。
ん~~五臓六腑に染み渡る!
お腹がすいていた割に、幼児の許容量は少ないらしくあっという間に満たされていく。と、同時に身体がぽかぽか、頭がふわふわ・・・・こっくり・・こっくり・・・。
「うふふ、おねむになっちゃったのね。お部屋に戻りましょうか。」
優しい声と手がオレの口をそっと拭ってふわりと抱き上げてくれた。
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「おわよーござましゅ…」
・・・くっ、夢じゃなかった幼児語。
これはとても恥ずかしい・・ちょっと練習が必要だな・・慣れればいけるはずだ。
「お、は、よ、ご、ざ、あ、ま、す」
惜しい!
いや、独り言じゃないぞ!俺の前にはちゃんと・・・ヘビがいる。
うん、昨日の桃色のファンシーヘビさんだ。瞳はエメラルドグリーンで、ちょこんと生えた小さな角は白。グレープフルーツぐらいある頭をコテンとかしげてこちらを見つめている。
うん、ふわふわしてて結構かわいいな。そもそもオレは別にヘビが苦手じゃないからな!害がないなら何ら問題なしだ。
まぁ起きたらベッドサイドで見守られてた時はビックリしたけども。
「おえは、ゆーた。へびさんのおままえは?」
なるべく滑舌よく、幼児語克服のためにとりあえず目の前のファンシーへびさんに話しかける。ヘビ相手なら恥ずかしくないからな!まぁへびさんは不思議そうに今度は反対側にコテンと首をかしげてるけども。
「きえいないろだね、さあってもいい?」
そうっと近づくと、ちょっと首を引いたけどすぐに寄ってきた。
・・おお!産毛は短いけど柔らかくてふわふわする!ヘビだけどあったかい!なんていいモフモフなんだ!
「かあいいーやあわかいー!」
あ、気を抜くと滑舌が壊滅的...要練習だな。
パサリ、とかすかな音がして振り返ったら、プルプルして口元をおさえてるメイドさんと目が合った。足元にタオルが落ちてた。
「・・・・・」
「・・・・・・・」
硬直する俺。
「・・いちゅのまに・・・?」
「こちらでお目覚めをお待ちしておりましたから。」
俺は恥ずかしさのあまり頭から布団に突っ込んだ。
どうやら2歳児がかわいらしくヘビとおしゃべりする様子は、子ども好きそうなメイドさんのハートにダイレクトアタックしたらしい。
そう、2歳児だ。幼児の滑舌が悪かろうがヘビに向かって話しかけていようがそんなことは全く問題にはならないハズだ。うん。
「あのね、ここはろこ?おえは、ろうしてここにいうの?」
2歳児なんだから、と思うとちょっと気が楽になったのであまり滑舌を気にしすぎないことにして話しかける。言いやすい単語を、なるべく短く伝えることがコツだ!
「あなたは領地の海辺で倒れていたのですよ。お話はできますね?・・旦那様がお待ちです、一緒に参りましょう。そこで色々とお話してくださいますからね。」
近づいてきたメイドさんと一緒に行こうとしたけど、まずは顔を拭われ着せ替え人形になりあっという間に身支度を整えられた。さすがの手さばきです・・ちなみにパンツは死守した。
抱っこしようとするのを固辞し、残念そうな顔をするメイドさんと手をつないで部屋を出る。手はね・・つないでもらわないと足下が怪しいんだよ・・不便だわ、幼児の身体。頭の上に米袋載せて竹馬乗ってるみたいなもんだと思ってくれ。頭が重くてちょっとしたことですぐバランス崩すんだよ・・。
無駄に長いとしか言いようのない廊下を歩いて昨日の食堂らしき部屋へ案内される。テーブルにはあのおじさんが座って優雅に紅茶を飲んでた。ボサボサの髪とヒゲなのにイケオジなのでやたら様になっている。
「旦那様、お連れしました。」
「おお、ちっとはマシになったか?もう歩いて大丈夫か?」
こちらを視界に入れたおじさん・・いや、旦那様が破顔する。うん、「旦那様」ならこの屋敷で一番偉い人だな、きっと。
「あむないとここを たしゅけていたらき あいあとーござまいた。」
今のオレにできる精一杯の感謝を伝える。食事や泊めていただいたお礼も言いたいけど、このまわらない口で言ってもわからんだろう。
「・・驚いた、随分と厳しく躾けられたと見える。いや、礼には及ばんよ、子どもが倒れていたら普通は助けるものだ。さぁ、腹が減ったろう。話は食事の後でしよう。」
当然のようにオレの分の食事も用意していただいているようで、流れるように椅子に座らされ胸元と膝にナプキンを装着される。いい香りが漂っているが・・・オレの目の前に並べられた綺麗なカトラリーに挙動不審になってしまう。・・お偉いさんの前でマナーとか、大丈夫だろうか?ナイフは右手、フォークは左手・・いや、ファンタジーのマナーなんて知らないけど・・。
「・・ん?どうした?食べんのか?」
運ばれてくる食事をじっと見つめていたのがバレたらしい。
「・・しゅいません、まなーが、わかいません。」
オレは2歳児、2歳児だから許される・・と心の中で唱えながら正直に言ってみる。
「わははは!こんなぼうずがマナーだと!いや、ウチの息子に聞かせてやりたいもんだ。・・・そんなこと気にする必要があるか!好きに食え。」
豪快に笑って、わしっとパンを掴むとそのまま囓った。なんとなく、それはお偉いさんがするには行儀が悪いような気がする。
「・・・旦那様、旦那様はマナーをご存じなのですからお手本になっていただきませんと。」
案の定執事さん風の男性に怒られてる。
でも、本当に気にしていなさそうなおじさんの態度にホッとしてオレも食事に取りかかった。
ほんわりと温かい、黒ずんだフランスパンみたいなパン、生野菜のサラダ、やわらかいお肉の入ったスープ。シンプルであっさり目だけど美味しい!黒いフランスパンは幼児には固かったけど、メイドさんがちぎってスープに浸してくれた。
「さて、ぼうずのことだが・・・色々と聞いても大丈夫か?」
気遣わしげに尋ねるおじさんに、こっくりと頷く。オレも色々と聞きたいところだ。
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