第2話 「よそ」へ…
「おい!・・・おい!!しっかりしろ!」
すごく乱暴に揺すられて目が覚めた。痛い、痛いって。
・・・あれ?現世に戻ってきた??あの時みたいにすごく、寒い・・!
「・・・う・・」
身じろぎすると、なんとか手足が動いてざりざり、と手に湿った冷たい砂が触れる。びしゃびしゃ、と足下に冷たい水をかけられた気がする。
「おい!生きてるぞ!」
「先生呼んでこい!そっと運べよ!」
何人も人がいるみたい。
ザザー、びしゃびしゃ、とまた水がかかる。起き上がろうと頑張ってみるけど、ゆるゆると手足は動くものの、起き上がれるほど力を入れるのは難しい。諦めて周囲の声に耳を傾けると、どうやら医者の所まで運んでくれるみたいなので、ちょっとお任せしようかな・・。もがくのをやめると、ちょっと楽になった。
ザザーびしゃびしゃ、断続的に足下に水がかかる。あ、これって・・思うと同時に懐かしいような香りが鼻をつく・・・・潮の香り、だ。
・・オレ、山にいたんだけど。やっぱり現世じゃないってことだろうか・・。
「もうちっと頑張れよ!」
温かい強い手がオレをぐいっと持ち上げた。(・・あったかい・・)なんとなく安心してしまったオレの意識は、また深く潜ってしまったみたいだ。
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腹が減った・・ひもじい思いで目が覚めた・・と同時にぐうっとお腹が鳴る。
腹の虫と一緒に目覚めたオレは、とりあえずそろそろと腹を撫でる。土手っ腹に穴は開いてないみたいで、とりあえずホッとした。泥だらけでもないし、手も足もちゃんと動くし、目も見えている・・・あー良かった。
それはそうと、ここはどこだろう?
でっかいキングサイズ?みたいなベッド、普通のかべ、窓際に机とか置いてある。ちょっといいホテルの一室って感じかな。建築様式なんて知らないよ!あ、テレビとか生活用品がないなぁ。
うーーんと伸びをして、やたら高さのあるベッドからそっと下りて・・うん・・大丈夫だな!ちょっとふらふらするけど歩けそうだ。
よし、と顔を上げてぎょっとする。
なんか・・・・熊の家に迷い込んだ女の子の童話があったよね?そんな感じで・・・なんか、家具が大きい・・!全体的に大きいからパッと見分からなかったけど、でかい!もしかしてベッドもこれ、シングルなんじゃ?
ええと・・オレはかみさまの所でよそへ行くって言われて・・・それでどうなったんだっけ?!
窓の方からふわっと爽やかな風が吹いてきて、
絶賛混乱中のオレの背後から妙な鳴き声が聞こえる。
「ピピ~」
思わずビクッとしたけど、大丈夫、かわいい声だ・・そうっと振り返った。
「ピ、ピピ」
半分開いた窓からのぞいてるのは、淡い桃色の・・・・・
・・・なんか、でかい・・・ヘビ?
「う・・わああああ~~!!」
だまされたーーなんだよピピって!かわいい声出せばいいってもんじゃないぞ!
ヘビのデカさに硬直していると、ヤツはしゅるしゅると窓枠を乗り越えて近づいてきた。
や、ヤバイヤバイ!!
ガクガクしながら後ずさると、ズボンの裾を踏んで尻餅をついた。くそー誰のパジャマだよ!足長いな!!焦るオレ、近づくでかいヘビ。
「どうしたっ?!」
オレのピンチに、ばぁん!と音をたててドアを開けたのは見知らぬイケオジ。
いやいやおじさん、危ないから!でかいヘビいるから!なんとか立ち上がったオレは決死の覚悟で見知らぬおじさんの前に立つ。
おじさん相手なのが残念だが、今こそ使うとき!カッコイイ台詞を・・・
「おいさん、にえて!」
・・・
・・・・何これ。舌っ足らずにもほどがあるんじゃない?もしかして知らぬ間にヘビの毒が?俺、麻痺してるの?
本日2回目の絶賛混乱中、背後からのんきに頭を撫でられる。見上げるほどの巨体・・確かにここの家具サイズだな。
・・ってヘビは?!
「おう、起きたか。えらいなー俺を守ろうとしてくれたのか。」
わしわし、とオレを撫でるおじさんの左手にはさっきのヘビが巻き付いて肩にアゴを乗せちゃったりなんかしてる。・・何それ、ペットなの?放し飼いなの?
なんて人騒がせな・・・ホッとしてへなへなと座り込んだ。
「こいつを見るのは初めてだったか?結構人気あるんだがなぁ・・ちょっと大きいから怖かったか?」
言いながらひょいっと・・・・オレを持ち上げた。
ええ、ええ、気付いていましたとも、先ほどから・・・・
「ぼうず、丸一日寝てたんだ、腹減ったろう。」
オレは・・・ちっちゃな手でおじさんにしがみついて頷いた。
そう・・・オレは正しく「ぼうず」だった。
片手で抱き上げられて運ばれながら、窓に写る姿をまじまじと見つめる。
うん、誰がどう見ても子どもだ。むしろ幼児だ。2,3歳くらいじゃなかろうか・・どうりで足下がふらつくはずだ。歩き立てホヤホヤのお年頃だよこれ・・・。
呆然とするオレの頭に、かみさまの言葉がよみがえる。
元々直接聞いてはいなかったんだけど、意識のない間に記憶を入れられた感じかな?ええと、魂の損傷が大きいから無事な部分を寄せ集めて修復したらこの年齢になるんだって。
えっ・・・てことは・・寿命、2年分しか残ってなかったのか・・・つうっと冷や汗が伝う。あっぶな・・・もうちょっとでオレ居なくなってたとこだよ・・・。
みんな、ありがとね・・・。
おじさんは俺を右肩に抱き上げてずんずん廊下を歩いていく。金色の髪、金色の無精ひげ。ガッツリ引き締まった身体、なんか、映画で見たような立派な服・・ちょっと現実逃避してたけど、オレはかみさまの言っていた「よそ」の意味をうすうす感じつつある。
・・だって、おじさんの左肩に巻き付いてるヤツがすごく主張してるんだよ。薄桃色でふわふわの産毛と、ちっちゃいツノの生えたでかいヘビが。・・なんか、ファンタジーだろ?ってすごく主張してるんだよ・・・。
オレ、魂修復のために「よそ」の世界へ来ちゃったみたい。
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